マミゾウの妹分が幻想入りしたそうです   作:札幌9/8番

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 掃除は住人にとって大事な事です。

 修行は門徒にとって大事なことです。

 なら、掃除の修行の意味を考えるのは、寺の者には最重要なんでしょうね。


掃除と意味とブレインストーミング

 

 「しかし、白蓮殿よ」

 

 澄んだ空気に心地よい線香の香が漂う命蓮寺の廊下の一角。廊下からは、部屋で座禅を組む者、読書する者、遊ぶ者と銘々各々が自分のしたいことを、しなければならないことをやっていた。

 

 そんな中、ラウと聖はお互い箒だけを持って掃除をしていた。

 

 「呼び捨てで構いませんよ。ラウさん」

 

 「なら失礼して――白蓮はなぜぬえ助に仏の文言を唱えさせたんだい?」

 

 塵を払わん、垢を除かん――ぬえが掃除しながら呟いていた言葉。これは釈迦仏が弟子の1人である周利槃特に授けた文言だ。

 

 「あら、簡単な事ですよ。ただ、ぬえに、もっと広い視野を持ってほしかったのです」

 

 「広い視野?ただの掃除じゃぁ、ボーっと姿鏡を見せられているのと同じじゃぁないかい?」

 

 周利槃特やぬえが行った文言を唱えながら掃除をする修行は、自身の心の汚れを気づかせる修行だ。

 その気づいた心の汚れを掃除することが悟りへと近づく一歩となる。そんな教えだとラウは記憶している。

 

 自身の内面なぞ、外面が主体の人間ならまだしも、内面(精神)を主体とする妖にとっては、見飽きた姿を見せようとする行為だ。

 

 「ええ、肉体に重きを置く人間が悟りを開くための教えを、妖怪が人間と同じ考えで行うとおかしなことになりますね……でも、この修行は妖怪にとってはもう1つ意味の方が重要なんですよ」

 

 「別の意味……その言い方だと、妖の悟りは別の意味合いで導けるのかい?」

 

 先ほどまでせっせと箒を掃く手を止めなかった聖がピタリと動きを止める。箒の先には、貯まった埃が山を築いている。

 

 「ええ、私は妖と人間。種を超えた平等の元で真の悟り――真の幸福が得られると思っています。そして、あの修行は、気付きを得ることができます」

 

 「気付き?それが白蓮の目的にも繋がるのかい?」

 

 聖は顔を上げ、空を見上げる。そんな姿を見て、ラウも箒の手を止める。

 

 快晴の空に、ただ子供たちの遊ぶ歓声が響く。

 

 「ええ、繋がります――埃を掃くとき、箒だけでは埃をすくうことはできません。塵取りを持つべきです」

 

 そんな絵画にすれば平和と題がつきそうな光景を背景に、聖は腰をかがめ、どこからか取り出した塵取りで塵の山を回収する。

 しかしながら、埃は完全には取り除かれず、小さな埃が堤防として立ちはだかったり、舞ったりしていた。

 

 「でも、これだけでは、完全には完了とは言えません。だから――」

 

 聖はさらにテープを取り出し、塵の堤防に貼りつける。テープをはがすと、塵の堤防はなく、完全に塵は取り除かれた。

 

 「自身が工夫すればそれすら絡めとることができる」

 

 「……ふむ、要はぬえ助の能力だけでなく、自身を取り巻く環境すら工夫し使えばいいと?」

 

 「ええ、彼女の行いは目的だけを見れば、善い行いです……では、なぜ、 怒られる結果になったのでしょうか?」

 

 聖は剥がしたテープを塵取りに乗せた後に、ラウの方を見ながら、塵取りをラウの方に向ける。そんな聖の目を見ながら、ラウは自分の築いた塵の山を塵取りに入れる。

 

 「……ぬえ助は過程を間違った。自身の能力に頼りきりだった」

 

 「はい。私は考えております。目的のために、その身1つで挑むのではなく、自身、自身を取り巻くモノを全てを使ってでも目的を達成する。それが最善です」

 

 「……お前さん、尼の癖に相当腹に欲を抱え込んでないかい?目的のために何がなんでもの思想は、強欲の1歩じゃぁないかい?」

 

 「ふふ、私、強欲ですよ?死ぬのが惜しくって魔法使いになったのですから」

 

 微笑みながら聖はラウの築いた塵の堤防に指を付ける。

 瞬間、塵は火が付き、塵は跡形も無く消失した。そんな人間の成せるわけのない技と、僧らしからぬ告白を聞き、ラウは目を丸くした。

 

 「驚いた。お前さん、こちら側だったんだね」

 

 「ええ、そして、こうなったから強く思うのです。人も妖怪も神も仏も全て同じと」

 

 「おぉ、大きく出たねぇ」

 

 「あら、貴方も同じ考えなのでしょ?」

 

 ラウの言葉を聞き、聖は不服そうな顔でズイとラウの方に立ち上がり、近づく。

 

 「貴方のお話はマミゾウさんからよく聞いています。マミゾウさんに拾われ、共に佐渡の国に住み、人と妖怪の楽園を望んだ」

 

 「……だから大きく出たって言ったんだよ。結局無理だった。わっちらと人とは大きな壁がある。結局、わっちらは体のいい道具なのさ」

 

 「外の世界ではそうでも、ここでは違うかもですよ?」

 

 「……でも。わっちには無理な話さ。やる気も、思いも、全て水に流れたしね」

 

 「……意味はまだ聞かない方がいいですかね……でも、ここは命蓮寺。全てに手を伸ばします。悩みでも、アドバイスでも、なんなら遊びでもいつでも大歓迎です」

 

 「考えておくよ。どうせ、姉さんに会いに何度か顔を出す事にはなるだろうしさ」

 

 「ええ、ぜひご一考してください――さ、ここらへんはもういいでしょう。本堂に戻りましょうか」

 

 「そうだねぇ、そろそろ。姉さんの口添えのおかげで、ぬえ助もそろそろ気づく頃だろうね」

 

 多少悲観的だった顔をいつもの顔に戻し、ラウは聖と共に本堂へと向かった。

 

◆◆◆

 

 「――ちりをー払わーんー、あかをー除かーん……ふわぁ……」

 

ラウと聖が廊下を掃除している中、マミゾとぬえは言いつけ通り、本堂を掃除していた。

 

 「おや、欠伸などしよってからに、はよせんと呑みにすらいけんぞ」

 

 「えーでもつまんだいもーん」

 

 「妖精みたいなことを言うのお」

 

 「マミゾーウ、なんかこーう、チャチャッて終わる妖術ってないのー?」

 

 マミゾウの白い目をよそに、伸びをするぬえの問いに、マミゾウは顎に手を当て、答えを出す。

 

 「そんなもの無いが……ふむ、少し会議をしてみようか」

 

 「会議?」

 

 面倒だ、と顔に出ているぬえと目を合わせ、マミゾウは腰に常備している筆記帖を取り出す。

 

 「おう、もし、だれも見ていない中、手早く、完璧に掃除するのなら、ぬえはどう掃除する?」

 

 「うーん……あ!埃を正体不明にして無かったことにする!」

 

 「それは誤魔化しじゃが、良いあいであじゃの。他には?」

 

 「他?うーん……風で吹き飛ばす?」

 

 「ほう、すす払いでも団扇を使って埃を追い出すしの。良い考えじゃ」

 

 「ふふーん、あ、マミゾウならどうする?」

 

 先ほどまで面倒な顔をしていたにも拘わらず、ポンポンと出てきたぬえの意見をマミゾウは筆記帖に記しながら、ぬえの問いへの答えを考える。

 

 「儂?そうじゃのう……月並みじゃが、部下を使って人海戦術かの」

 

 「おお、マミゾウらしい答え。でもなー全部今使えないじゃん。埃を正体不明にしても聖に怒られるし、風は強すぎたら部屋がグチャグチャになっちゃう」

 

 「……お主、もしや、それぞれで叱られたの?」

 

 「う゛……」

 

 「はぁ……でも、実体験でもそのりすくは良い着眼点じゃ……では、今までの案を合わせて実行してみようかね」

 

 「合体……?」

 

 まあ聞くがよいと、マミゾウの耳打ちのおかげで、頭に疑問符が浮かぶぬえの顔は瞬く間に面白そうと目に輝きを宿した。

 

◆◆◆

 

 「ふぅ……姉さん、ぬえ助。こっちは終わりました」

 

 「あ、お帰り!こっちはもう全部終わったよ?」

 

 「もうですか?結構な広さですけど」

 

 驚きを隠せない聖が周囲を見回すと、本堂は誤魔化しも何もなく、文字通り塵1つない環境だった。

 そんな目を丸くしている聖と言う中々見ない表情を見て、ぬえは鼻を鳴らしながら、胸を張る。

 

 「ふっふっふ……このぬえ様にかかれば造作もないってことよ!物は工夫して使えばこうよ!」

 

 「あらあら、まあまあ――」

 

 「……で?姉さん、一体どういうカラクリで?」

 

 喜び勇んでいるぬえとその姿に喜んでいる聖を背景に、ラウはマミゾウに耳打ちをする。

 

 「何、ちょいとぶれいんすとーみんぐをしたまでじゃ」

 

 「ふむ、ブレインストーミング」

 

 マミゾウとラウはぬえと聖に視線を向けたまま、2人に声の届かないであろう声量で話す。

 

 「ぬえに正体不明の種をばらまかせ、埃のみを正体不明にする。だだっ広いお堂の中でもその違和感(正体不明)は目立つ。その違和感に儂が風を当て、舞った埃はぬえが部屋全体に弱く風で集め、あとは回収するまでじゃ」

 

 「ふむ、良い案ですね。ぬえ助はおおざっぱの癖がある。細かいところは姉さん。全体はぬえ助がですか」

 

 「ぬえは目的のために使う道具……いや能力もあるから手法か――まぁ、その手法が1つのみで欠点をないがしろにして失敗する。なら、複数案をあげさせ、合体させる訓練が一番じゃろ。これで聖のお望みもかなえられるんじゃ」

 

 「ええ、あの表情を見た限り、完璧ですよ」

 

 二ツ岩姉妹をよそに、子供のようにはしゃぐぬえと、それを母のように褒める聖。2人の表情は掃除した本堂の空気感もあって、輝いて見えた。

 

 「よーし!これでもう外にいいんだよね」

 

 「ええ、でも、お酒はダメですよ」

 

 クルっとこちらに振り返ったぬえの言葉に、聖は頬を可愛く膨らませながら窘める。そんな姿を見て、マミゾウは柔らかく笑う。

 

 「ふぉっふぉっ――安心せい。ちゃーんと般若湯を頂くよ」

 

 「もう!まったく」

 

 「じゃぁ、聖の許可も得たし、行くとするかね」

 

 「うん!」

 

 喜び、浮足立つぬえを加え、二ツ岩姉妹は命蓮寺を後にした。

 

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