マミゾウの妹分が幻想入りしたそうです   作:札幌9/8番

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 「やぁ!久しぶり!

  え?誰だって?なんだ、酷いじゃないか!わっちだよ!わっち!

  今日は博麗の巫女様のお守りを肴に呑むって誘ってくれたじゃぁないか!

  時間がないから1杯だけで申し訳ないけど、ここに参上ってわけさ。

  さ、夜は長く、そして会は短い

  上がっていいかい?」

  


呑み会と交換と仮面

 

 人里には鯢呑亭を始め、様々な呑み屋が点在している。しかし、里の人々全員が毎日呑み屋で飲み歩いているわけではない。

 

 「では、博麗の巫女様のお守りに感謝して――乾杯!」

 

 「「かんぱーい!」」

 

 夜でも残る残暑を感じながら、家で夫婦と質素な会――そんな珍しくも何ともない会をある里の農民は開いていた。夫と妻はお互いに盃を持ち、酒を煽る。今回は博麗の巫女が売っていた豊作のお守りの話題と妻が作った焼き鳥を肴に乾杯だ。

 

 「プハァー!いやぁー、博麗の巫女様のおかげで今年は豊作間違いなしだな!」

 

 「もう、お前さんったら。いくら巫女様のお祈りがあるとはいえ、サボってばっかりじゃだめだからね。今年は慢心して不作でしたーだなんて穣子様に顔向けできなくなるわ」

 

 「ガッハッハ!」

 

 妻は夫の冗談をいなし、お互いの笑い声が家中に響く。

 

 今年も収穫後に穣子が豊作祝いをする予定だ。今年は油断したと、虫食いだらけの作物を献上しては神様が拗ねて来年は凶作間違いなしだ。

 

 「そうそう。毎日コツコツとが大事なんだから」

 

 「はいはい。わぁーってるよ」

 

 隣に座り、酒を飲みながら諭す少女を小突き、夫は酒を更に煽る。

 

 自分も農業で飯の種を得ている者だ。お守りの有無だけが畑の良し悪しを決めるものではない。いや、お守り自体はただの気休めでしかないことは重々承知だ。いくら神に祈っても季節外れの大雨や冷夏で作物がダメになる事なんてたまにある。結局は独力とその時の運だ。博麗の巫女様からお守りを頂いたからと言って、サボるつもりはない。

 

 「そうだ。そのお守り見せてよ。わっちも巫女様のご加護にあやかりたいの」

 

 「ん?いいぞ。ほらこれだ。壊すなよ?」

 

 夫は自分の懐からお守りを取り出す。布でできているそれを少女はギュッと固く、されども優しく両手で握り、願いを呟き始める。

 

 「ありがと……どうか無事に過ごせますように――っと」

 

 「おう、願いが雷神様に届くといいな」

 

 少女は微笑む夫にお守りを返す。その後、ハッと窓の外の景色に驚き、ポンと手を叩く。

 

 「あら、もうこんな時間。1杯だけとは言ったものの、これは長居しすぎだねぇ。さ、わっちはそろそろ、お暇させていただくとするよ。夫婦水入らず会に邪魔しちゃってすまなかったよ」

 

 「ん?もうそんな時間か。気ぃつけろよ!田舎でも妖怪や幽霊が出るかもだぞ!」

 

 「ふふ、ご心配助ありがと。お前さん達も気を付けてね。いい嫁さんだ。大事にしないと男が廃るよ」

 

 少女は立ち上がり、戸に手をかけ、夫婦はそれを見送る。心配そうな夫婦を横目に去り際の言葉を残し、去っていった。

 

 「……なぁ――あの娘、誰だっけ?」

 

 「……さぁ?」 

 

 少女は、小さな違和感と大きなお世話を残して去るのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 「ふぅ――夫婦水入らずの会に邪魔をするとは。馬に蹴られても文句は言えないねぇ」

 

 夜道の木の下。会を離れた少女は道祖神に見守られながら手巻き煙草に火を点け休憩していた。

 

 「さて、中身はっと――やはり、中身は同じだねぇ…危ない危ないっと」

 

 月明りとくわえ煙草の火を頼りにゴソリと裾から先ほど盗んだお守り(・・・・・・)を取り出し、袋を開ける。お守りの中身は電池にコードがぐるぐる巻きにされていた。

 

 「調子はどうだい?ラウ(・・)よ」

 

 そんなくわえ煙草で盗難品を分解している少女――村人装束のラウへとマミゾウは足を進め、話しかける。

 

 「上々ですよ。姉さんとその部下のおかげで情報もトントン拍子で集まりましたし」

 

 「おぉ。それはよかった。しかし、どういうカラクリで偽装しとるんじゃ?」

 

 「簡単です。ガワはそのままで中身の電池を偽装したした炭に置き換えただけです。危険なのは電池だけ。コードでぐるぐる巻きにされていれば簡単な塗り絵するだけで済みますから、姉さんからいただいたお守りのガワのおかげで、家の本物のお守りを適当なタイミングで交換して、外でゆっくりと本物を使って偽装できました」

 

 「ふむ。侵入はいつものぬうりひょんごっこで忍びこみかの?」

 

 「ええ。里の人相手にはこれが一番楽ですから。わっちの能力なら、手元なり神棚なりにあるお守りを偽物と交換するのも楽ですし」

 

 マミゾウはフウと紫煙を吹き、目を細める。ラウは昔からこの手の侵入法を好んでいた。里の住民の恰好をして、ラウ自身の能力で『どこに居ても不思議じゃない』という内面を得る。その後は堂々と家に侵入して会話なり食事なりにお邪魔し楽しむ。マミゾウはそれをぬうりひょんごっこと称していた。

 

 そんな懐かしみと言う、長年連れ添った姉分の特権を行使していると、ふと気になる事が思い浮かぶ。

 

 「そういえば、なぜに炭なんじゃ?電池の偽物なぞお前さんの能力で一瞬じゃろ」

 

 炭に電池の絵を。その様な加工をするのはいくら手先が器用なラウでも時間がかかる。妹分の能力は、形さえあれば、内面さえあれば大抵のごまかしは効く能力だ。

 

 試しにと、マミゾウはポンと手鏡を2つ投げ渡す。ラウは投げられた鏡を受け取り、鏡面の間に電池を映す。鏡には反射が反射を繰り返し、無限に電池が映し出される。

 

 「ええ、合わせ鏡さえあれば紛い物など一瞬です。合わせ鏡の鏡像を作る内面を外面に合わせればこのように。しかし――」

 

 一方の鏡に手を伸ばす。鏡は水面の様に手が沈む、そこから手を抜き出すと、そこには本物と寸分狂わぬ、しかし、左右反転した電池が手の中にあった。

 

 「能力を使っては物に妖気が残ってしまいまし、敬虔なるお守りに妖気なんて似合いませんよ」

 

 「そんなもんかの?儂の居候している命蓮寺は、不死者の僧侶が、信者の妖怪や人のためにお守り売っとったぞ」

 

 「……なんですか、その呪いのアイテムみたいなの――っと、話は後にして、次に移りましょうか。姉さん、次は?」

 

 「さっきので売られた分は仕舞じゃ。ふぅ……しかし、わざわざこんな面倒な事をしなくてもいいんじゃないかのぉ?」

 

 木にもたれかかり、キセルで紫煙を燻らせながら、マミゾウはラウの行動に疑問を投げかける。

 

 マミゾウの考えでは、ラウの無駄が多い。霊夢に電池の入ったお守りの危険性を伝えず、水面下で自分の能力のみで対処する。そんな時間の掛かることをせずとも、当の販売人(博麗霊夢)に文句を言えば済むだけの話だ。

 

 そんなマミゾウの問いに、ラウは手巻き煙草の紫煙と共に返す。

 

 「博麗の巫女様の霊験あらたかなお守りでリコール騒動だなんて、博麗の巫女様のお株が大変なことになるじゃないですか。ここ(幻想郷)は博麗の巫女様あってこそ、丁度良いバランスが成り立っているのでしょう?なら、巫女様は威厳あってこそですよ。間違いはわっちだけがなんとかすればいいんです。まぁ、姉さんにはお世話になりましたが」

 

 「あやつは威厳がどーとかそんな奴ではないと思うが……むしろ俗部的というか――まぁ、お前さんは霊夢に会ったことないし、会えばわかる話か」

 

 「ふふ――楽しみにしてます」

 

 あきれ顔のマミゾウにラウは微笑んで期待を募らせる。しかし、そんな期待でマミゾウはあることを思い出す。

 

 「そうじゃ、その機会は案外早くかもじゃぞ?ラウよ」 

 

 「ん?どうしました?」

 

 「残念なお知らせじゃが、来週、博麗神社で夏の締めの縁日があるのじゃ。霊夢め、どうやらそこで件のお守りを売る算段を立てているそうじゃ。今も完全手工業で健気に、在庫溜めをしとるじゃ」

 

 「……考え方を変えましょう。あとは大元の倉庫だけだと」

 

 ポロリと煙草の灰を落とし、落胆するラウを見て、マミゾウはケタケタと笑う。

 

 「ふぉっふぉっ――そう簡単に行くのかのぉ?相手はあの霊夢じゃぞ?」

 

 「そう。会ったこともありませんが、あの博麗の巫女です。だから少し本気で変装しましょうか」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 「あー!よく売れたわー外の世界様々ね」

 

 夜も更け、月が大地を照らす夜の博麗神社。そんな中、霊夢は今日の分のお守り作りを終え、就寝のために、廊下を歩んでいた。

 

 「――ん?」

 

 ガタンと奥の間で音が響いたのに霊夢は気づく。

 

 いつもならただの空耳、小動物のせいと気にすらしない異音だが、よりにもよって、お守りを保管していた部屋。今日だけは誰かがいる。そんな嫌な勘が働き、踵を返して、音の発生源の部屋の襖をバンと開く。

 

 「――誰!?」

 

 「おや、もう気づくとは、噂の巫女様は耳が良いんだねぇ」

 

 そこには仮面舞踏会用の仮面(マスカレイド)を着けた少女――ラウがお守りと電池を持ち、立っていた。

 

 「アンタは何者!?幽霊!?」

 

 不思議と仮面を付けた彼女の顔は認識できず、身体すらもぼやけているように見える。

 

 「おや酷い言い草じゃないか。ただ仮面を付けただけの妖だよ。仮面はその人の身を隠す物。わっちはその力を借りてるだけさ」

 

 「なんだかよく分からないけど、私の商品に手を出すとはいい度胸ね!」

 

 霊夢は手元から退魔の札を投げつける。紙で出来ているはずのそれは、不自然な程にラウに向けて鋭く刺しにかかる。しかし、ラウはそんなものものただの紙だと言わんばかりに、正面から受け止め、余裕しゃくしゃくに笑う。妖を滅するために作られた札は、仕事を終え、炭となった。

 

 「ふふ――怖い怖い。わっちはただ危険な電池のお守りの修正という名のおせっかいをしたというだけなのに」

 

 「――修正?」

 

 「ええ、電池は物を動かす物。そして、劣化していくもの。そんなものをお守りなんぞにしようとすれば」

 

 ポトリと電池を落とす。電池はたちまち腐り始め、煙を吹き出しながら地面の畳ごと溶ける。その異様な光景を見て霊夢は血の気を引き、顔が青ざめる。

 

 「いずれかは、浸食し、害を与える物となる。決して。そう、決して雷神様の加護が中身に入っている物じゃぁない」

 

 「……あんたはなぜこんな事を?」

 

 霊夢は手に持っていた残りのお札をおろし、問う。ラウはその問に服の裾で口元を隠しながら答える。

 

 「簡単な事さ。人の汚染は土地の汚染。土地の汚染は思想の汚染。思想の汚染は我々の汚染に繋がる。ただ、それを防ぎたいだけ」

 

 「……」

 

 「さあ、話は以上だよ。あぁ、お前さんがすでに販売した分もすでに中身を抜き取ってあるから安心しな――それでは、またこの姿で会うことがないこと願っているよ」

 

 「待って!」

 

 煙を足元から吹き出し、去ろうとするラウを呼び止め、部屋の納戸の戸を開く。

 

 中には、大きな袋の中に無造作に入れられた電池が入っていた。霊夢はその袋を取り出し、ラウへ突き出す。ラウは顎に手を当て、ふむと眉をひそめる。

 

 「これ!残りの電池!適切に処理できるなら、アンタが持ってなさい!」

 

 「ふむ?いいのかい?」

 

 「良いって言ってるの!アンタが使えるなら使いなさい!もうこりごり!」

 

 「なら、ありがたく。礼と言っては難だけど――」

 

 ラウはすり替えで使ってた電池の偽物の在庫を落とす。今度は腐食したりせず、偽電池の山が築かれる。

 

 「これは?」

 

 「炭と電線を巻きつけたものだよ。知っているかい?電池の中身は実は炭なんだよ?これが原料なら、安心安全なお守りの完成さ――まぁ、さっき受け取った追加分を考えるといささか不足しているけど、そこは大目に見ておくれ」

 

 「あ……ありがと」

 

 「じゃあ、今度こそさようなら」

 

 少女は足元の煙が全身を覆う。覆われた煙が晴れた頃には、すでにラウの姿はなかった。

 

 「……怪しいし、掴めない奴……」

 

 霊夢は落とされた偽物の電池を拾い上げ、よく調べる。

 

 「……妖気はない。お守りは作れる――か」

 

 胡乱な存在の放った妙に甘い香を残し、博麗神社の夜は更けていった。

 

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