【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
――みんなは、退形成性星細胞腫という病気を知っているだろうか。
脳内に高悪性度星細胞腫……つまりは悪性腫瘍が出来る、20万人に一人の難病中の難病であり5年内の生存確率は20%、平均余命2.5年。
手の施し用もほぼ無い様な医者からしても絶望的な病気だ。
そんな病に、僕の大切な人は3年前まで罹っていた。
「せんせ、おはよっ」
「おはよう、さりなちゃん」
だが彼女は苦難の末に完治を果たした。
要因は分かっていない、だがここに事実として彼女が生きている……僕にとってはそれだけで充分なくらい幸せだった、そんな緩やかな日曜日の午前。
だが、それ以上の出来事が存在していた。
「せんせ、私来月で16歳になるよ」
「そうだね、誕生日プレゼント買いに行かないと」
「むぅ……誕生日プレゼントも良いけれど!私としてはせんせとの結婚指輪!欲しいなあ~チラッチラッ」
「チラッチラッって自分で言うか普通……」
「良いじゃん、かわいいでしょ?」
「それは否定出来ない」
その子が僕の恋人になった。
元々入院中も散々アプローチを受けてきて、16歳まで生きられたら結婚を考えてやるって言ったのが始まりだったが……そう思うとそれが現実になると言うのは何とも感慨深い。
実のところ断る事も考えていたが、一時期娘を見放してしまっていた罪悪感に苛まれていた天童寺家からも
「先生になら我々以上に娘を任せられます。考えてあげてくれませんか?」
と言われてしまって、真面目に向き合った結果年齢差を度外視して自分の心はさりなちゃんにしか向いていない事が分かったのでこうして付き合って……というか同棲をしている。
「ね、誕生日に指輪買いに行こ?あと婚姻届も」
「……ま、今更『僕で本当に良かったのか?』なんて聞いたところで君の気持ちは変わらないもんな」
「当たり前じゃん!年齢差なんてカンケー無くせんせの事が大好きなんだもんっ」
「うん、そうだね。それじゃ僕も覚悟決めなくちゃな」
キッカケや年齢差がどうあれ、好きなものは好き。
こればかりは揺るぎ無い事実なのだから仕方ない、お互い好き合って相手の親からも全幅の信頼を得ているなら大手を振ってこの甘美な幸福を享受しようじゃないか。
「嬉しいっ、それじゃ誕生日迎えたら呼び方も変えるね!」
「おっ、何にしてくれるんだ?」
「あなた……は最初からは恥ずかしいから……ゴローくんで!どうどう?」
「年下から呼ばれるには少し小っ恥ずかしいけど、さりなちゃんがそう呼びたいなら受け入れるさ。嫌じゃないしな」
「わーい!せんせ大好き!」
「はは、愛いやつめ」
しかし、こうしているとふとした拍子に『本当に僕はこの子に救われたんだな』と感じてしまう。
母親は自分を産んだと同時に他界、父親はそのせいで俺とはずっと険悪、祖父母とも微妙な関係だった。
その祖父母が他界した時にも涙を流す事は出来なかった。
だが、さりなちゃんが完治したと、その現実を突き付けられた時僕は流す涙を抑える事が出来なかった。
肩を震わせ彼女を目一杯に抱き締めながら声を上げて泣いた。
生まれて初めて、あんなに泣いた、泣く事が出来た。
思えばその時にはもうすっかりさりなちゃん無しで生きていく事なんて出来なかったのだろう。
……そう。僕はこの子に『人に愛される』という事を教えられたんだ。
誰にも愛されず、愛を知りたくて色んな女性に惚れられては手を出しては答えは得られず、女遊びの激しさだけ増していって。
でもそんな事はもうおしまいだ、俺にはこの子だけいれば良い。
愛を教えてくれるたった一人の最愛の人だけいればそれで良い。
「……ね、せんせ」
「どうした?」
「私ね、今とっても幸せだよ」
「そうか」
その顔はどこか、幸せを噛み締めてる以外にも色んな想いが込み上げているのか少し瞳が潤んでいる。
16歳という節目、女性の結婚出来る年齢。
本当に叶うと、あの時さりなちゃんはどれだけ感じていただろう。
僕ですら……考えたくはなくても希望は薄いと心苦しくなっていた時期が殆どだったのだから。
「……病気してた頃ね、せんせに良くプロポーズしてたよね」
「ああ、16歳になったら考えてやるって言うのがお決まりだったな」
「あのね、私ね……プロポーズする度、あとどれだけ生きられるんだろうって考えてたんだ。本当は16歳まで生きられない事も分かってたし、だからせんせがプロポーズ受ける度少し悲しそうな顔するのも知ってた。でも……それでも私にとっては
「良いよ、それでも。僕だってさりなちゃんから愛を貰って、初めて誰かに愛される事、誰かを愛する事を知れたんだから。だからワガママでも何でもいい。今こうして生きていて僕の隣にいてくれればそれで……それ以上を望まない」
薄々分かってはいた、彼女は昔から小学生の子どもらしからぬ察しの良さがあった。
だとすれば自分の病気が治る事がほぼ不可能、それどころかあと何年、何ヶ月生きられるのかという状況にあったと察する事も不可能では無いはずだ。
だがそれを本人から聞いたのはこれが初めてだった。
ギュッと胸が締め付けられる感覚がした、やっぱりこの子は知っていて言っていたんだと思うとどうしようもなく泣きそうになってくる。
だが、ここで大人の自分が泣くのは流石に少し違うかな。
僕は……色んな感情でぐちゃぐちゃになりながら胸の中で涙を零すさりなちゃんの頭を静かに撫でる。
愛おしい人を、そっと大切に触れる様に。
「ありがと……愛してるよ、せんせ……」
「うん。僕も愛してるよ、さりなちゃん」
そう、この言葉は絶対嘘じゃない。
これからは本当の言葉だけで、二人で幸せになろう。
これは、奇跡の物語では無い。
その先にある、幸せのお話――
どうしても書きたい話があるからそこまでは不定期で更新し続ける
みんなも純正ゴロさり、すころう!