【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
「みんなはじめまして、B小町に新しく加入する事になった『りーな』です!」
『りーな』のファンへのお披露目当日、つまりは彼女のデビュー日当日。
あの後髪飾りの動物とイメージカラーを決める事となり、動物はリス、イメージカラーは白になった。
白単色と言うのは相当に思い切った事であり、壱護も毎度お馴染みの頭を悩ませる結果となったがコンセプトが『嘘も秘密も無い』という清廉潔白が合うものであった事から許可が降りた。
そしてりーな自体だがメンバーへのお披露目後公式から事前にビジュアル、コンセプトが公開されていただけありファン内では色々な声が上がっていた。
『ここまでロリっぽい子は初めて』『こってりしたオタクが付きそう』『可愛い』『コンセプトが不穏』『嘘も秘密も存在しないアイドルって成立するの?』『これはとんでもない嵐の予感』『時と場合によってはとてつもないアンチが付きかねない暴露が初手にありそう』『そもそもイメージカラー白ってどうなのよ、振り切りすぎじゃない?』等々。
既にコンセプトからして嗅覚の良いB小町ファンは何かしら嫌な予感を感じ取っているという勘の良さを発揮していた。
そしてそれは幸か不幸か当たってしまっているのであり。
「コンセプトは『嘘も秘密も無い最強のアイドル』です!なのでまずは私から話さないとならない事があります」
観客席は事前に予想していた歴戦のオタクが多いだけあり一瞬で静寂に包まれる。
果たして何がこの口から飛び出すのか……最前列にいたアイ最推しの例の男以外は全員固唾を飲んで見守るしか無かった。
なおそのアイ最推しの男ことリョースケは偶然にも色々と知ってしまっていただけあり既に苦笑いだった事を追記しておく。
「私、りーなは……アイドルになる前に既に結婚していたんです」
一拍二拍三拍……と置いて、客席が絶叫に包まれる。
当たり前だ、アイドルというものはその処女性、所謂体裁上身の清らかさをアピールしてその荒波を生き残っていく職業だ。
それを初手で破綻させるという行為には誰も遭遇した事が無かったのか全員が全員絶句していた。
同じくステージ上のメンバーはと言えば、アイはいつも通り、仲の良い芽依とカナンは苦笑い、ありぴゃんは手で額を抑えながら呆れるしか無かった。
ところ戻って客席は相変わらず騒然としていたがこれはステージ前のマイクだ、この奇行新人娘は無視してとにかく自分の推しを応援せねば……とそれぞれ担当のサイリウムを取り出す。
この時点でりーなの立ち位置は『アイドルならざる者』『存在を認識してはいけない何か』『アイドルを冒涜してるヤベー奴』という凡そアイドルが貰ってはならない称号だらけであった。
「それじゃ今日も頑張っていくから応援ヨロシクね〜☆」
アイが全く動揺していない声色でステージへと移行させる。
最初の曲は定番の『サインはB』だ、ファン達は先程のトンデモ娘は一旦頭から追い出し……追い出す事が出来なかった。
「なんなんだあれは……」
一人がサイリウムを振る事すら忘れ、りーなに釘付けとなる。
一人、また一人とりーなに圧倒されていく。
『それ』に気付いたファンは幸か不幸か、少なかった。
だが歴戦のアイドルオタクである一握りは少なくとも彼女の異質さに即座に気付いた……それはいつぞやの彼、リョースケも含め。
「アイドル……オーラ……?いや違う……なんだ……この、飲み込まれそうなくらいのオーラは……」
彼女は輝きを放っていた。
オーディションの時とは違い、アイや他のメンバーの輝きもあり新人のりーなは目立ちきってはいなかったが確実に新人らしからぬ異常性を見出されていた。
だが、彼らは彼女のバックストーリーを知らない。
だから何が原因でここまでの異様な雰囲気を放っているのか分からなかった。
……一人を除いては。
彼は彼女の境遇を吾郎から聞かされていた……というよりは院内の噂で耳にしていたのを質問し、99%が100%になっていたのだ。
だが口には出さなかった。
これはセンシティブな問題であり、おいそれと口に出す話題ではないと知っていたからだ。
それに加えいつか何処からか漏れるか話が出るかするだろうとは思っているが、その補正無しでも客を魅了していたという事実をここにいる何人かとここで目に焼き付けておきたかったのもあった。
アイドルオタクとして、それ以上に一人の人間として、これ以上無い奇跡を目撃している事実を逃す訳にはいかなかった。
「すげーなりーな……めちゃくちゃぶっ飛び過ぎだろ……!」
そして彼のアイドルオタクとしての本能が、彼女を推しにしろと轟き叫んでいるのをどうあったとしても止められる訳が無かったというのは、また別の話である。
曰く、人の噂も七十五日ということわざがある。
意味合いは『世間がいろいろと噂をするのも一時のこと。 2、3ヶ月もすれば忘れて話題にしなくなる』という意味であり一つの話題に付いてそこまで騒がれる期間は無いという意味だ。
だが、ここ宮崎県高千穂町にある某高校にあるとある話題は一年間尽きる事を知らない。
この放課後に5人の男が空き教室で一堂に会しているのが、その象徴の最たるものである。
「雨宮さりな改めりーな校内非公式ファンクラブ一年生代表、安土」
「同じく二年代表、堂島」
「同じく三年代表、一条」
「OB代表、志田」
「そしてファンクラブ顧問兼会頭、体育の小田島」
この高校には勝手に雨宮さりな、ひいてはりーなの非公式ファンクラブが設立されていた。
構成員は同校現役の男子100%と女子の30%程、昨年度卒業生OB男子100%、そして現役男性教師と昨年度転勤男性教師の全員である。
「この問題、どう見ますか会頭」
二年代表堂島は中でも発言権が高い。
というのもこのファンクラブ設立の立役者……という名の告白の犠牲者だからだ。
堂島はネットニュースの印刷を会頭、ひいては全員に提示する。
『B小町新メンバー《りーな》は既婚者!?アイドル界に激震走る!プロ意識の欠片も無いと手厳しい意見も散見か』
昨日のりーなの発言は界隈に激震を走らせた、と同時に同界隈からはやはりと言うべきか厳しい意見が飛び交っていた。
この会議はそのニュースを一早く見た堂島により招集されていたのだ。
「ふむ、これは由々しき事態だね。我々は声を上げるべきだろう。彼女としてもいつ吾郎さんとのエピソードを話すかはタイミングが難しいはずだ、だとすれば我々からタイミングをこじ開けてしまえば良い」
「流石小田島さん、考えがパワー的だ」
「私が地元の新聞社とコンタクトを取ろう。何あそこには私の幼馴染もいる、特ダネになるなら取り扱ってくれるさ。そっちには一条君と私が行くから安土君、堂島君、志田君はそれぞれインターネットでの『工作』を。あくまでもどちらも噂として処理する様に」
「との事ですが、異論のある者はいますか?」
新聞社とインターネット、二方向からエピソードをあくまでも『噂』として流す作戦だ。
そしてそれを嗅ぎ付けた週刊誌の記者は……そういった『噂』に弱い。
つまりは記者の方から動かしてしまえばりーながタイミングを図る必要も無いという結論である。
これに異論のある者は……いなかった。
「では、各自……散ッ!」
あくまでも派手には動かない、ヌルリと裏から動き回り騒がずに迷惑にならずに、援護射撃を行う。
雨宮さりな、撒いた種は盛大に自分の味方になっている事をまだ知らない。
りーな校内非公式ファンクラブ
各学年とOBと教師に代表が存在する非公式ファンクラブ
本人に存在を悟られる事無く活動する為連絡はメール、会合は週末
りーなに特攻してフラれゴローの話題を広げた堂島(2話で出てきたモブ男子)が生徒総代である