【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
現在ネットは《りーな》の事でそこそこ騒ぎになっている。
苺プロは最初にこうなる覚悟を持って獲得していた為事前に事務所の電話線は全て切っていた。
代わりに主要な連絡相手は全員ケータイにも連絡先を入れているので切っていても無問題なのであった。
ところで彼女の住んでいる高千穂はどうなのか、という疑問が仲の良いメンバーから上がった。
「え?じゃあ来る?」
彼女は相変わらずの満面の笑みでそう言ってきたのでスケジュールの空いていた芽依、カナンは二つ返事でりーなの住む高千穂へと来ていた。
「それで、メンバーを家まで連れてきちゃったと」
「うん」
「僕の心臓保つかなあ……うわ本物の芽依とカナンだ……ステージで見る姿も良いけど間近で見るとやっぱり美少女……!って違う違う、いや違わないけど!ゴホン!い、いらっしゃい!」
「開口一番で褒められると照れちゃうなあ〜」
「この人が吾郎さん……確かにりーなの言う通り優しそうでカッコイイ!それに年齢より絶対若い顔付き……!」
そしてそこに来ているとなれば必然と自宅へ招く事となる。
それつまり吾郎との対面である。
さりなが浮かれ気分で連絡を直前まで入れ忘れていた為に彼も慌てて身嗜みを整え、自らがやれる最大限の爽やかな笑みを浮かべ……られなかった。
何せ彼は生粋のB小町オタク、比較的最近加入したとはいえ中期に加入したメンツが地獄の様相を呈してユウキ以外消えていった時期を考えると芽依とカナンの性格の良さは彼にとっては安住の地となっていた。
そんな癒しの対象を前にニヤける顔を抑えられるオタクは存在しない、それは彼も同じなのだ。
「そ、そうかい……?若く見える?」
「うんうんっ、温厚カッコイイお兄さんって感じ!」
「多分リアルだと一番モテるタイプ。それでいて医者とあのエピソード付き……間違いなく男として一番魅力的……!」
「め、メンバーに褒められるとそこはかとない多幸感を覚える……!」
「……むぅ」
だが、妻であるさりなからしたら複雑な気持ち……面白くない比重が高い、があるものである。
生で、間近で見るメンバー……今はさりなの友人という関係で来ているだけという妙な距離感が彼女をふくれっ面にさせていたのだ。
「あ……いやっ、そのっ、女の子として好意を抱いてるのはさりなにだけだからね!?そこは僕の特別だから!」
「……んふふ〜、じゃあ許す〜」
日頃の行いがものを言うとは正にこの事というべきか常にさりなに対しては一切の曇りの無い誠実である彼は一瞬で信頼を取り戻していた。
「あら〜りーなが猫みたいになっちゃった」
「正に小動物……これぞ萌えだね……!」
一方後期組の二人はさりなの話が本当だという事を目の当たりにして『これが夫婦か』と興味津々であった。
二人ともアイドルと言えどうら若き乙女、男女の話に関心を持つのは必然の流れなのは当然か。
「あ、そうだゴローくん!」
「ん?どうしたの?」
「あのねあのね、二人が『高千穂でりーなの扱いってどうなってるの?』って聞いてきたから連れてきたのは言ったと思うんだけど、早速色んなところに連れ回したいの!いーい?」
「僕としても芽依ちゃんとカナンちゃんがそれで喜んでくれるなら気合い入れちゃおうかな」
「わーい!」
「都会育ちだからゆったりとした場所に憧れがあって……」
「アイドル引退した後芸能界残るかここに住むかの二択になる可能性も……?」
そして都会育ちにとって高千穂の様なゆったりと羽を伸ばせる地域というのは憧れだ。
何も無いと嘆く田舎育ちが都会のネオンに憧れる様に、眩し過ぎて疲れたと嘆く都会育ちがネオンの無い澄んだ夜空に憧れる。
アイドルとしても、強烈なオーラを纏うりーなに芽依とカナンが憧れる様に、歌と体力に難のあるりーなは基礎能力の高い芽依とカナンに憧れている。
丁度対比になる関係性は、寧ろ良い相乗効果を産んでいるのかも知れないと吾郎はこっそり感じていた。
高千穂の町で吾郎とさりなの二人は人気者だ。
出身地が不明とされているりーなが何故不明のまま特定に至らないのかは、大抵が町と二人との関係性を崩したくないという気持ちが町全体の意志として自然と現れているからだろう。
それに他所の人間が数人言ったところで「東京でアイドルやってるのにそんな田舎にいる訳ねーよ」で済まされるのもあるからだが。
なお、自然や必要に応じてバレる分には問題無いとも思っているので割と臨機応変である。
「やあおばちゃん」
「あらー可愛い子達!さりなちゃんのお友達?」
「うんっ、アイドルの先輩で最初に仲良くしてくれた二人なんだ」
「あらあらそうなの?これからも仲良くしてあげてね」
初対面の自分達にも朗らかに接してくる町の様子に、最初は両者共に少し戸惑いがあった。
東京ではこうした初対面の人間とのここまで近い触れ合いを経験する事は無かったからだ。
都会が殺伐としている、優しくない、そういった訳ではなかった。
東京は日本の中心であり標準、ともあれば標準的な日本の優しさがあるのもまた必然。
ただ、人の数が多くて一人一人にここまで密接に接する事が無いだけだ。
「あ、おじちゃーん!腰の調子どう?」
「おう、すっかり絶好調だぜ!そっちは……テレビで観た事あるな、さりなちゃんとおんなじとこのアイドルさんだったかな?」
「芽依って言います!」
「カナンです」
ただそこは若者、順応性が高い。
繰り返している内にこの町の性質を掴めたのか少し経てばすっかり馴染みきっていた。
「~で、お土産としては……が良いかもな。帰りに寄ってってな!」
「ほぇー、ありがとうございます!」
「帰り、寄らせていただきますね」
「……良いな、こういう光景」
「二人とも楽しそうで良かった〜」
芽依もカナンもここには定期的に遊びに来ようと決心するにはあまりにも決定的なものが多過ぎる、と嬉しい悲鳴を上げていたのは言うまでもないだろう。
「はぁ~楽しかったね、カナン」
「そうだね」
帰りの飛行機、両手に大量の土産物を持ち乗るのは東京に帰る後期組。
良かったら泊まっていっても良い……という言葉をやんわりと断ってまで早く戻りたかったのには理由があった。
「……ファンの人とももっと話したいって思ったから、それが活力になりそうなんだよね」
「分かる。私も人との触れ合いがこんなに温かいものだって知れたから……良いパフォーマンスが出来そう、というかやりたい」
揃ってモチベーションが上がっていた。
両者はどちらもアイドルをする事、歌って踊るのが好きという理由でアイドルを続けていた。
だが、その二人にアイドルをしたい理由が増えた。
もっとファンに喜んでもらいたい、喜んでもらう為に出来る事を探したい、そう言った事だった。
――B小町に少しずつ変革が起きてくる。
これは、そんな始まりを告げる二人の変化であった。