【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
曰く、人は唯一無二という存在に絶望しやすいものである。
絶対的なナンバーワン、誰も影すら踏めない程の圧倒感、それはいつしか見ている人間に神格化されていく、良い意味でも悪い意味でも。
その世界で共に頑張ろうとスタートを共にした仲間は同じスタートラインから『神』になったかつての同期、仲間に深い諦めと嫉妬と羨望と絶望感を覚えた。
神格化すらしなかったメンバーは手軽に蹴落とせるとイジメを行い、反対に自らが蹴落とされていった。
最初から神格化していた状態で加入したメンバーは『神』の傍にいられるだけでもと食らいつく事を最初からする選択肢から外していた。
では、それに追い縋ろうとするメンバーが現れたら?
もしも、万が一にでも、唯一無二が唯一無二でなくなり『ただの天才』になり下がったら?
「加入から1ヶ月、界隈にもB小町ファン内にもアンチが多いけど良く頑張ってるよなりーな」
「ああ……それに何だか最近目が離せなくなってきた」
「多分だけど人妻って言う色眼鏡無しに見れる連中ならこの子の凄さにはすぐに気付けるはずだ。この、飲み込まれるような、灼き尽くされるような輝きに気付けないはずが無い」
「歌は下手、体力も無いって自分で言ってたけど……輝きたいって魂が叫んでる気がするんだよね」
「分かる」
りーなはこの1ヶ月でB小町の知名度を上げていた、無論理由はデビューステージでの爆弾発言が発端だが。
そこを火種としてメディアでは日夜『現役女子高生人妻アイドルという倫理観の欠片も無い存在をこのままのさばらせるべきなのか』『最初から言うのは潔くて興味が湧く存在』『そんな事より彼女のパフォーマンスを見ろ』と言うように様々な意見がぶつかり合い論争が激化していた。
さてそんな件のりーなだが、彼女は頃合いを見計らって自分の過去を話す場を作ろうと画策していた。
その場で言ったとしても説得力の欠片も無い、ならばまずはパフォーマンスである程度味方を作ってから言った方が良いだろうとなっていた為だ。
「……って考えてたんだけどなあ」
だが人と言うものは完璧では無い。
たとえ全て最初から計画して進行していたものであっても予想外の方角から飛んでくるものも存在している。
「いや嬉しくはあるけどね?」
地元、宮崎の新聞に
『りーなの同級生の知り合いからのタレコミ!?りーなは昔難病だった!?』
『当時唯一寄り添っていたのは当時研修医だった現在の夫という噂も!?』
と載せられていたからだ。
これが全国的に広がっていないのはあくまでも地方新聞社且つどことなく信ぴょう性が低かったからだろうが、ここ最近はネット掲示板にもチラホラと出処の分からない噂が散見されるようになった。
曰く
『りーなは生存確率がめちゃくちゃ低い難病に罹ってた』
『その時傍にいたのが当時研修医だった夫さん』
『その男は「もしも16歳まで生きられたら先生と結婚したい」というりーなの願いを叶えた』
『スカウトされたのはその後』
『あの新聞の話も本当の事しか載ってない』
等々。
勢いで学校で喋り散らかしたのがここに来て良いのか悪いのか噂として、主にネットを中心として都市伝説の如く流れていたのだ。
「本当はもう少し様子見るつもりだったんだけどなあ」
実際のところ他事務所アイドルやニノから冷ややかな目で見られるのは割と辛いところがあるのは事実だが、それはそれとして0どころかマイナスから始まったアイドル生活を実力だけでどこまでファン獲得に至れるか試してみたい。
彼女は真剣にそこでどれだけ通用するのか測ってみたい気持ちはあった。
とはいえ、だ。
これで少しでも自分の肩の荷が降りるならそれはそれでも結果オーライと思うのが雨宮さりなという女だった。
「それならそれで都合良いし……社長に掛け合ってみよっかな」
少し前倒しにはなるけれど……と付け加え、今週末にやる事を決めていくのだった。
芸能界や政界、スポーツ界には『番記者』と呼ばれる記者が存在している。
特定の政治家や芸能人、アスリートに密着取材し続ける特別な記者の総称であり下手に憶測で記事を書かれるのを防いだり書かれても番記者が真実を書けば記事の価値が無くなったりと取材対象からしたら都合の良い存在でもある。
B小町にも番記者は存在する。
と言ってもそこまで頻繁に記事を書いてる訳では無く多方面の記事を出している記者だが。
「いつ僕にお呼びが掛かるかと思いましたがようやくですか」
「他出版社も騒ぎ始めてそろそろ頃合いだと思いましてね。後は……どうする?俺も一緒にいてやる事も出来るが」
「私一人で大丈夫ですよー。信頼出来る記者さんだと聞いていますから」
「分かった。それじゃあ言い間違いや語弊の無い様に気を付けるんだぞ。……ああミヤコ、今日の胃薬は3倍に……うん、頼むわ……」
某非公式ファンクラブの撒いた種は盛大に芽吹いていた。
宮崎の新聞社が真偽不明ながら『こういう話を聞いたという人間がいる』と出せばネットではその記事を話題に肯定する人間が数名程見られ、都市伝説化しネットの海で話題は広がりそれに食いつく出版社の記者達が騒ぎ立て始めたのだ。
何故こうなったのか、りーなとしては分かる様な分からない様な曖昧な気分ではあるがどうせ近々話す事だったとこの場が設けられた。
「では早速取材を始めても?」
「良いですよー」
「分かりました。まず、宮崎の新聞社とネットで出回っている事に関して何か思う事は?」
「何も無いですよ?」
「ふむ……では次に、貴方が過去退形成性星細胞腫という難病に罹っていたという事実はありますか?」
「はい。……というか、ネットにも新聞にも病気の名前は無かったと思いますけど?」
「特徴から合致する病気を調べ上げました」
「なるほどー、お疲れ様です」
この記者は若いながらにして人気アイドルグループの番記者を勤める程のエリートだ。
そうでありながら一切驕らず自分の持ち得る知識、人脈、閃き、話術全てを駆使し細かなところまで徹底している。
そう言った真面目さが買われ、色々な噂が勝手に飛び交うB小町にも信頼を置かれている。
「それで、事実だと」
「そうですね。何回も死にかけましたよ」
「……その時、現在の夫である当時研修医だった方と出会ったと」
「B小町とその人は、私の数少ない生きる希望でした。いつ死ぬかも分からない中でせんせと見るB小町は、私に生きたいと、そう思わせてくれる幸せな時間でした」
「では、新聞やネットに上がっている噂は全て真実だと」
「16歳まで生きられたら結婚してほしいって願いを叶えてくれたところまで含めて、ですけどね」
しかしそんな真面目な記者でも、ここまで奇想天外で波乱万丈な人生を送ってきた人物の取材は初めてだった。
まるで御伽噺だと、しかし真実だと息を飲む。
「……ありがとうございました。これで貴方と旦那さんの名誉は守られるでしょう。これからのご活躍、期待していますよ」
「記者さんも良かったら観に来てくださいよ!私のアイドルとしてのステージ、いつか記事にしてほしいんです!」
「……善処しておきます」
そしてこの記者もまた後に『りーな』の輝きに脳みそを灼く事となるのだが、この時はまだ誰も知る由は無かったのだった。