【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
「……ああ、今日も不幸だぁ」
「アンタまた言ってるのね……」
めいめいこと高峯愛衣亜はネガティブな性格だ。
元は違って明るかったが訳あってこんな捻り曲がったネガティブをしている……という訳ではなく、小さい頃からずっと不幸体質であった。
雪の降った翌日出歩けば凍った路面に足を取られ腰を強打し活動を休止しなければいけなくなり。
穏やかな気候の日に公園で一人メロンパンを食べていたらトンビに丸ごと持っていかれたり。
準備運動も完璧で運動神経も悪くないのに海で足がつって溺れかけたり。
ゲーセンで麻雀ゲームをしたら対戦相手に天和国士無双のダブル役満をされて5秒で1コイン溶かしたり、割とちゃんと不運であった。
しかしそんな彼女も幸運な事にこの芸能界という荒波を生き残ってきている実力はある。
ただ、アイドルになった時点でその隣にアイがいたのが原因で自分の魅力を何一つ最大限に理解出来てはいなかった。
「アイちゃんには何一つ勝てるところが無いし、新人のりーなちゃんも既婚者で鋼メンタルだし……うぅ……ゲボ吐きそう……もうやだ……お家帰る……」
「アイドルがゲボとか言わない。あと割と家遠いからそんな気軽に帰れないでしょメイアは」
「そうだけどさあ……はぁ……」
ブツブツとその後も何かうわ言の様に呟くめいめいに対し、ありぴゃんこと渡辺有咲は仕方ないと言わんばかりにそっとしておく。
彼女達結成メンバーの付き合いは長い、皮肉にもきゅんぱん、ありぴゃん、めいめいの三人の絆というものはそこそこありお互いの性格はかなり知っているのだ。
「メイアだってダンスはB小町の中で一番上手いじゃない」
「うぅ……そうであってほしいと思ってたのももう遙か昔……」
「もう〜、ほんとにこの子は……」
きゅんぱんは元来接しやすい性格をしている。
人の努力をしっかりと見て認めたり褒めたり、本来はそう言うグループ内でも一番空気感を和らげる担当だ。
だがこのメンバーもまた、アイの理不尽なまでの輝きに全てを壊され擦れてしまっていた。
努力は知っている、それ故に認めている気持ちと憎悪が交差して一番内面がぐちゃぐちゃになっていた。
……ところで、だ。
「あ、先輩方〜!今日の『週間文堂』、りーなのこの前の取材分載ってるみたいですけど見ますか〜!ちなみに私はもう見ました!めっちゃびっくりしました!」
この芽依が言った様に、アイ以外のメンバーはりーなの過去を何一つ知らずにこれまでを過ごしていた。
敢えて自ら話す事は無いと、仲の良い芽依、カナンにも詳細は伏せて話していたのだ。
吾郎と直接会い医者と聞き多少『もしかしたら』と考えたこの後期組二人ならまだしも、それすら情報の無い状態の他メンバーでは知る余地が全くもって無い。
よって、この記事によって四人は揃って絶句していた。
「……まさか、あの子にここまでの事があったとは……ね」
「さりな……あの子……」
「…………流石に少し、言い過ぎたかも知れないわね」
そして、この記事で一番変化が見られたのはめいめいだった。
「こんなネガティブで冴えない私の事が、支えだった……?ある……のかな、そんな事が……」
彼女自身、自分にもファンがいるのは知っていた。
知らなければここまでアイドルを続けている事も無かった、だが『天童寺さりな』は草創期のB小町を見てそれを生きる糧に必死に完治を目指した、いつかB小町と同じステージに立てる日を夢見て。
それは即ち、アイだけではなく同じく初期メンバーの三人の事も同じ様に生きる希望にしていたという事だ。
「自分如きが誰かの生きる希望になる事なんて出来るのか」
彼女は半信半疑だった。
だが、半信半疑だったからこそ四人の中で一番早く行動を起こす事が出来た。
「……あれ、高峯さん?」
「あ……その、今……大丈夫?」
「もちろんですよ!」
雨宮さりなは公私を混同しない。
たとえ画面の前では今でも
「めいめい可愛いよ〜!!」
と言っていたとしても、B小町の先輩後輩として接する時はその辺を弁えて言動に気を付けている。
なのでめいめいとしては「B小町に憧れていた」と聞いてもアイにだけ、若しくはリップサービスの類いだと思っていた。
尤もそれも、件の記事で分からなくなってしまった――と感じているのだが。
「……あ、あの記事、見たよ」
「えへへ、お恥ずかしい限りで」
「私の事、そ、そんなに好きでいてくれたの……?」
「……そうですね。今は先輩後輩じゃなくて、めいめいの1ファンとして話しても大丈夫ですか?そうしたらきっと、沢山伝えられる事があると思うんです」
「は、話してほしい……私、自分に自信が持てなくて……頼りない先輩だけど……」
「分かりました」
『りーな』は上述の通りアイドルの事が大好きながらもそれをあまり表に出さずに活動をしてきた。
公私混同をしてアイドルの立場を利用してしまったと思いたくなかった為だった。
元はオタクであるからこそ、他のファン目線からして抜け駆けしたとは思われたくない気持ちが強かったのだ。
だが『雨宮さりな』は重度のアイドルオタクだ。
一度喋る事へのタガを自らで外せばそこから先に存在するのは間違いなくあの日B小町を夢見ていた小さな少女の姿だった。
「……だってめいめい、自分はネガティブだって言うけどそれだけ人の頑張りを見られてる証拠だしめいめいのネガティブはファンの人を想っての事が多いじゃん!
あの人は歌上手い子が好きだから自分の歌じゃ満足させられないかも、とか、今日は上手く笑えていたかな、とか、怪我してファンを悲しませちゃった、とか!それはとっても優しいネガティブだよ!ネガティブだって悪い事ばっかじゃないよ!
それにダンスはB小町で一番上手いし、ありぴゃんとのバラエティ出演だってめちゃくちゃウケる!だから大丈夫だよ!」
「りーな……そんなに想っててくれてたんだ……」
少し喋り過ぎたかと思ったさりなだが、それとは裏腹にめいめいは少し目を潤ませていた。
かつて、難病で完治どころか明日を生きる事さえいつまで出来るか分からず難しいと言われた少女の糧に、自分はなれていたのだと感じる事が出来たからだった。
「そうだよ、だからあの四人は本当の意味で生きる希望だったんだよ」
「そ、そっか……私が……」
少しだけ自分に自信が持てる様になったかも知れない、とめいめいは朧気ながら感じていた。
そして何より、壱護からアイドルをしてみないかと誘われ四人で頑張っていこうと誓い合ったあの日を思い返していた。
「わ、私……たまにはアイちゃんともまた話してみようかな……」
それは、僅かな雪解けだったのかも知れない。
だがそれは間違いなく、大きな一歩で。
「きっとアイも待ってると思いますよ」
「そうだと嬉しいな。……あ、そ、それとっ」
「どうしました?」
「わ、私相手にも敬語はもうしなくて良いからねっ。そっちの方が……嬉しい」
「……!ありがとうめいめい!」
彼女の笑顔はやっぱり綺麗だったと、りーなは思うのだった。
めいめい/高峯愛衣亜
実は一番アイへの負の感情が少ない初期メン
ネガティブなだけで実力は高くダンスの才能はピカイチ
ちびっ子人気はアイより上でナンバーワン、しかし気付いていない
ステージに上がれば割と勢いと度胸というタイプである