【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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少しずつ変わっていく中で

「あ、アイちゃん……その、今度駅前に美味しいパフェのお店出来るんだけど……そ、その……一緒にどうかな……」

 

「……?……!うんっいこいこ〜☆」

 

 人というものは一度踏み出してしまえば後は割と勢い任せに行ってもなんとかなるものである。

 ここ二年近くまともにアイと喋ってすらいなかった初期メンの一人、めいめいは中でも肝心なところでの勢い任せが良い意味で目立つメンバーだ。

 その最たる面が、一度決めたら本当に躊躇しない点である。

 

 そう、今の会話はその二年近く越しで話したまともな初会話なのである。

 

 その為アイも一瞬脳みそがバグを起こし思考停止してしまったがすぐに意図を察し、花が咲く様な笑顔でそれを肯定した。

 

「りーなと話したら……アイちゃんとの思い出がね。そ、その、あの時は楽しかったから……ま、また仲良く出来たら良いなって……」

 

「勿論だよ〜☆めいめいありがとー!ぎゅー!」

 

「ピェッ……あ、アイちゃんのぎゅーはかかか火力が高過ぎぃ……ふへへでも幸せ……」

 

 アイは元来メンバーとは一定の距離を置いて接する事を心掛けていた、体裁上は明るく仲良くでも、ここまでのスキンシップはまず有り得なかった。とはいえ仲良くは実際あったのだが。

 だが彼女もまた十代の乙女、結成当初は売れてもいなかったし仕事もほぼ無かった彼女達だったがそれでも四人集まって話す時間がとても楽しかったのはアイも同じだった。

 その時を思い出しては流石に、感情のコントロールも出来なかった……アイとしてはそんな事考えてすらいないだろうが。

 

「え、急に何があったのよメイアは……」

 

「……まあ、メイアはメイア私達は私達。そこに違いは無いわ。でも本当に何があったのかしら……気になるわね」

 

 他の初期メンは急なめいめいのアイへのアピールに困惑していた、もう二年近く完全な冷戦状態が続いていたのだこれも当然の反応だろう。

 

「……それだけじゃないね。最近のB小町は、何かが少しずつ変わってきている」

 

 それを聞いていたユウキは、ちらりと視線をアイとめいめいに向け視線を戻す。

 視線の先にはネットニュースが載っていた。

 

『B小町にいるだけ、じゃなくて自分達がB小町を誇れるグループにしたい――B小町 芽依・カナン後発組の想い』

 

 最近、この二人は動きも表情も格段に良くなった、とユウキはこっそりと感じていた。

 それも前の休暇以来だ、何をきっかけに変わったのか彼女としては非常に気になるところであった。

 

 このネットニュースには『りーなに色々と教えてもらって、もっと頑張りたいと、自分の限界を超えたいと思える様になった』とあった。 

 だからこそ、ユウキは更に気になっていた。

 あの新人が一体二人の何を根本から変えたのか、どうして変えたのか……そしてこれが彼女が『様子見』を辞めたその瞬間であった。

 

「私だって……変わりたいんだよ。その為に、この愛称にしたんだ……もう、逃げたくないから」

 

 その言葉は誰に聞かれるでもなく、それでも彼女を決心させるには充分過ぎる言葉であった。

 

 

 

 

 

 

 善は急げという言葉がある。

 良い方向に転がる可能性の高い事柄は躊躇わず率先して行うべきという意味合いを持つ。

 ユウキはその言葉通りに早速芽依とカナンと話していた。

 

「え?私達が最近クオリティ上がってきてる理由ですか?」

 

「うん、そうなんだ。芽依、カナン君達は最近凄く調子が良さそうでパフォーマンスクオリティも上がっている。それもこれまでに無いくらいに。だから、何が要因で君達がここまで変われたのか気になるんだ。……私も、変わりたいと思うから。このままじゃダメだって思ったからね」

 

「先輩……」

 

 彼女は普段寡黙で表情を表にあまり出さない様な性格をしている。

 それがクールさを与えており、一定の人気を保っていた。

 だがそれとは裏腹に彼女はアイドルへの熱量は人一倍あった。

 心に持つ炎はたとえアイへの諦めがあったとしても、人気が無くても最後までB小町として活動し続けて行くというどこまでも貪欲な執念の炎だった。

 

「……カナン、これは言った方が良いんじゃない?」

 

「だね。これでB小町全体が良くなるなら、これは言うべき」

 

 そしてその想いは少なくとも二人には届いていた。

 普段無口でそこまで表情を出さない、その彼女がどうしても知りたいと真剣な眼差しで熱意を口にした。

 人には人のやり方がある、押しつけになりかねないと二人は敢えて吾郎の事を口にする真似をしなかったが知りたいと言われてしまっては断る理由など存在する訳も無かった。

 

「実は私達、この前の休暇でりーなの地元に行ってたんです」

 

「高千穂観光次いでにりーなの旦那さんにも会って来たんですけど……私達としては、りーなの地元で色んな人達と関わって。あの子のひたむきで一本筋な性格とか、人懐っこい性格とか、色んなものの要因を知れました。それで、私達も『人と関わる事がこんなに温かいものだったんだ』と知れて」

 

「じゃあまだまだもっとアイドルでもやれる事があるんじゃって考えて、それで今頑張ってるんです」

 

「……成程。人との関わり方か、都会だけじゃ知れない事は確かにあるかも知れないね」

 

 ユウキ自身、人との関わり方云々についてはそこまで興味が湧かなかった――とはいえ、それが二人を変えたのなら相当良い場所だと推察する事は出来た上に素直に二人の成長を嬉しく思う気持ちはあったが。

 彼女が気になったのはそういった点では無かった。

 

「彼女の不思議なオーラの要因……これは、りーなの地元に行くのも……いや、その旦那さんに会うのも良いかも知れないね」

 

「純粋に場所としても凄くリラックス出来るのでオススメですよ〜」

 

「私、芸能界引退したら高千穂に住むんだ……」

 

 りーなの放つ異質なオーラに、アイ以外で真っ先に気付いて正体と要因を探っていたのは他でも無いユウキだった。

 普通のアイドルでは明らかに出せない――いや、これはアイにすら出す事は不可能な輝きだと、これを自分も習得出来ればアイに肉薄出来るのでは無いかと死に物狂いで要因を探していた。

 

 その元となった要素は、目の前に転がっていた。

 

 りーなの旦那――彼女は息を飲む、ほんの少しでも自分にも『それ』が出来るならどんな事でも、それこそ身体を男に売る事だって厭わないある種の狂った覚悟。

 

 ユウキは、全てを捨てる覚悟で手を握りしめていた。

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