【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
「センセ!久しぶりにまともに話せるね〜」
「って言っても良く電話掛けてくるしそこまで久しぶりな感覚無いけどね」
「それはそれこれはこれだよ、センセ。乙女心ってやつ?かも?」
「分からないのに言うんじゃありません」
「ぶーぶー、良いじゃーん。これでもちょっとくらいは理解してるつもりだよー?」
翌日の朝、ホテルを出ると吾郎は何故か目の前にいたアイ――変装はしていたが、に手を引かれてカフェに連れていかれた。
さりなと結婚してからと言うものの、東京に行く事がただでさえ少なかったのに行く機会も無くなりこれが数年振りの東京旅行とありアイと知り合ってからも初の東京であった。
そんな訳もあってかアイとしては心を許せる、そして諦めたとはいえ一度は恋をした吾郎へのなつき度合いは相当なものであった。
「あー!ダメだよーゴローくんに会いに行くならちゃんと私にも言ってくれなきゃー!」
「ごめんごめん、つい浮かれてて」
「私の旦那サマだし!私がいない間に会うのはずーるーいー!私も会うのー!」
そこに全速力でやってきたのはさりな、なお当然ではあるがアイは完全に連絡を忘れていてすっぽかしてしまっていたので誰も何も情報を彼女に与えてはいない。
そう、さりなはノーヒントでここまで迷う事無く走ってきたのだ。
明らかに何かがおかしいがツッコミを入れてはならない。
「さりな、良くここが分かったね」
「ゴローくんの匂いと気配を辿ってきたの!」
「そっかそっか、さりなは凄いなあ」
「匂い……?気配……?」
そして吾郎も吾郎で全く動じていなかった。
付き合いたても付き合いたての中学1年生の頃はノーヒントで見つけられて何があったと困惑していた吾郎も
「何か良く分からないけどさりなは凄い子なんだろうなあ」
という謎の結論に至った為今ではこうなっている。
この男もこの男で愛情への信頼度が天元突破している事を本人だけが知らないでいたのはまた別の話である。
そして普段一番変人扱いを受けているアイだけがこの空間で唯一まともな感性を持っていた、後にある程度常識を自ら身に付けようとするキッカケの瞬間であった。
「センセとさりなの行動が常識なのかどうか気になって勉強してたらなんか身に付いちゃって。え?二人の行動は結局常識だったのか?……うん、まあ……うん……」
引用・初代B小町の軌跡~原点にして頂点と言われるメンバー達~出版記念特別インタビュー・アイ編より
「せっかく三人でお出かけ出来るんだしカフェの後もどっか三人でお出かけしようよ!ね、良いでしょ吾郎くん?」
「ううーん……まあ、僕なら二人の保護者って名目も出来るしある程度は大丈夫……だと信じたいなあ……」
「だいじょーぶ!センセならなんとかなるなる!」
「ねー」
「ねー」
すっかり双子の様だ……とさりなとアイを最初に表現したのは濃厚な関係性オタクのカナンであった。
息が合うこの二人はいつしか全く似ていないのに凄く似ていると言われる事が増えていた。
根本は全く違う感性でありながらそっくり……というのは今やファンの間でも話題になっており、人気にブーストを掛けつつあるのは吾郎でも知るところである。
それはさておき、吾郎としては変装してるとはいえバレでもしたら自分がどうにかなるのは別としても二人に危害が及ぶのは避けたい……と考えたところで、寧ろ夫が妻とのデートを断ったという形でバレたらそれはそれで殺られかねないというかそちらの方が色々とまずいのでは無いかとなり結局のところ断れなかった。
「分かったよ。でもライブ前だからあんまりはしゃぎ過ぎない様にね」
「はーい」
「はーい」
はしゃぎ過ぎるな……と吾郎は言ったもののまだうら若き10代の彼女らの体力は無尽蔵だ。
スタミナ不足が懸念されていたさりなも、B小町の中では未だに体力ぶっちぎり最下位ではあるが目立たないくらいには動ける様になっていた。
なお、歌唱力は中々成長していない。
閑話休題、そんな訳で30過ぎの吾郎はあっちにこっちにと振り回されたり話を聞かされたりと忙しい時間を過ごしていた。
その中で彼が気になったのはやはりというべきか「アイとその他の初期メンバーの仲」だった。
「この前めいめいとは仲直り出来たんだけど、他の子とは中々……」
「そうか……アイとしてはやっぱり仲直りしたい?」
「そりゃそうだよ!だって……めいめいに久しぶりに話し掛けられた時、凄く嬉しかったのと同じくらい『寂しかったんだ』って自覚してさ。やっぱりB小町始める時4人で頑張ってこって言って楽しかった時期思い出しちゃって……でも今更どうやって話し掛ければ良いのかも分かんなくて」
アイは少しずつ周りに対して仮面を被るのを辞めていた。
少なくとも壱護、ミヤコ、さりな、吾郎以外に今まで仲良くしてくれていた芽依、カナンとそれにまたあの頃の様に接してくれる様になった愛衣亜にも心を開いてきていた。
だからこそ、他のメンバーに対しても仮面を被らず、偽らずに仲良くしたいという感情がアイの中に芽生えた。
「うーん……そうだなあ。何とかしてその気持ちそのまま伝えられる機会があれば良いんだろうけれど」
「って言ってもそこまでにありぴゃんときゅんぱんの心に少しでも余裕を持たせないとダメかも……」
「なるほど、そうかぁ……」
「……あ、そうだ」
そこでどうするかと三人でうんうんと唸っていた時、さりなの方が何かを閃いた様な表情になった。
「お、何か閃いた?」
「閃いたって程じゃないけど……私の高校、B小町のファン多くてね。ありぴゃんときゅんぱんのファンも多いから、もしもみんなを握手会に連れてったら……なんて。良くないよねー贔屓しちゃうのは」
「……!じゃあじゃあ!『B小町の方から会いに行けば問題無い』んじゃない!?」
「アイ、それ名案過ぎる!町のみんなにもいつか恩返ししたいと思ってたし、B小町とコラボしたいって言ってたし!」
昨今『会いに行けるアイドル』というものが流行っている。
アイドルという文化を神格化からより馴染みやすいものへとコンバートしていく戦略として行われている。
それに対してこれは表に出すかどうかはさておき『アイドルがファンに会いに行く』構図となる。
「それは確かに実現したら面白そうだし大歓迎だけど難しいんじゃないか……?」
「センセ、こういうのはやってみなきゃ分かんないよ!」
「そーだよゴローくん!社長って案外面白い人だし乗ってくれるかも!」
「そうかなぁ……」
なお、これが本当に実現して吾郎が絶句する事になるのだがそれはもう少し後の話である。