【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
ところでガッツリ年下の女の子からくん付けで呼ばれるのって謎の背徳感覚えるんですよね
「天童寺さん!俺、天童寺さんの事が好きなんだ!付き合ってくれ!」
「そうなんだ、ありがとうね」
「……そ、そのお返事の方は」
「うーんとね、それはごめんっ私……」
「あー……好きな人いるとか――」
「旦那サマいるの!」
「?????????」
その日さりなの通う高校は激震に包まれた。
それは一年生どころか全校女子生徒中筆頭一番人気女子である天童寺さりなに歴史上初めて告白した男子が出た事ではない。
てへぺろ、と「実はどっかのタイミングでみんなにも言おうと思ってたんだけどね……ごめんねっ」と謝ってきた天童寺さりなその人の発した『旦那サマいるの!』発言だった。
更に言えば――
「私の旦那サマカッコイイんだよ!お医者さんでちょっと歳は離れてるけどちゃんと一人の女の子として愛してくれてるし!」
「ま、待って待って待って天童寺さん!?え!?旦那!?結婚してんの!?」
「え、うん」
「……そ、その御年齢とか」
「えーっと、私とは17歳差だから……33!」
「33!?ダブルスコアどころの話でもない!?」
その年齢差がとんでもない事になっていたからだ。
33の医者と結婚――明らかに怪しい、とその男子生徒は感じた。
当たり前だろう、何せこの男子生徒目線ではどこでどう出会ったかも分からないオッサンに引っ掛けられたとしか思えないからだ。
……どうするべきか、と考え幸運にも学年でも上位の知能を持っていた彼は一度頭ごなしに否定するのは良くないと冷静に立ち返る。
まずは何はさておいても話を聞くべきだろう、と頭の中を整理する。
「ん?どうしたの?」
「あー、いや。出来れば天童寺さんとその旦那さんとの出会いやエピソードを聞きたいと思って。どうやって出会ったのかとか、気になってね」
あくまでも平静を装う。
先程で既に崩壊しているがそんな事気にしている暇等この男子には無かった、是が非でも粗を探してやると得意の知能で意中の女子をオッサンの毒牙から救おうと躍起になっていたからだ。
「あ、それなら折角だし私の友達も呼んで良い?ゴローくんの事一人にだけ話すのは勿体ないと思って」
「あ、はい」
そんな男子の燃え盛る炎とは裏腹に彼女はデレモード全開だった。
今まで浮ついた話の一つも無い――彼女の友人から聞いた、この全校一番人気女子が今や打って変わってフルパワーの乙女をしているという事実は彼を過呼吸にするにはあまりにも過剰火力だった。
「それじゃ呼んでくるからちょっと待っててね〜。あ、別にこれ誰にバレても問題無い事だから安心して!それじゃ!」
鼻歌交じりにとてとてと走り去る彼女を横目に、放心状態になっていた彼は一拍二拍置いて正気を取り戻す。
こうしている場合では無い、自分が無惨に散った事が知れ渡るリスクよりこの衝撃を共有せねばと複数人の友人へとメールを打ち込む。
あまりの衝撃に数分内にメールが返ってきたり、支離滅裂な文字が並んだ断末魔の様な文が返ってきたり恐らく打ってる途中で絶命しただろう文が返ってきていたりした。
勿論だがこんなものは序の口であり、本番はここからである――
「……で、急に呼び出されたんだけどこれなに?」
「何でもこの人結婚してるらしいんですよ」
「?????????」
「ほらね、そうなるでしょ?」
「え待ってもしかしてさりな……中学の頃言ってた『大きくなったらせんせと結婚するの!』ってやつガチだったの!?」
「私はいつだって本気だよ?ほらこれ、いつもは隠してるけどネックレスにしてる結婚指輪ー!」
「ま、マジのやつだこれ……」
「さりなってめちゃくちゃ行動力高いのね……」
呼んで来られた女子は彼女の友人の中でも一番親しい女子だった。
ゴローと結婚するという宣言をした友人は中学時代初めて仲良くなった彼女以外にしていないくらいには親しい……が、その当人は冗談だと思っていたらしい。
「うーん、まずどこから話そうか……」
「こ、こうなったら馴れ初めから……!」
「あ、そうねアタシも聞きたいかも。大雑把には聞いた事あるけど」
「おっけー!それじゃ話すけど……」
開いた口が塞がらない、とは正にこの男子生徒へ向けた言葉であると言えるだろう……それくらいには彼はこの話に終始愕然とする他無かった。
まず彼女が20万人に一人の超難病に罹っていたところから信じ難い話であるが、そこから担当医でも無いのに毎日気に掛けてくれて見舞いに来て、一緒に話をしたり同じ趣味を持ったり辛い時は我が子の事の様に共に分かち合ってくれたり……そして、彼女がそれを完治させ、その日にゴローが人目も憚らず大泣きして抱きしめてくれた事まで。
何より『16歳まで生きられたら結婚してほしい』と願ったそれを実際叶えたその雨宮吾郎に対し男子生徒はガックリと膝を付く。
彼は持ち前の知能と男の本能で悟ったのだ……彼はあまりにも強過ぎると。
医者としてのスペックだけでは無い、まるで御伽噺に出てくる白馬の王子の如くさりなの心まで救った彼に対して唯一出てきたダブルスコア以上の年齢差という欠点等ゴミクズに等しかった。
最早勝ち負けどころの話では無い、元から同じステージに1ミリも掠っていなかったのだと敗北を感じざるを得なかった。
「ゴローさん漢気あり過ぎじゃない!というかほんと、凄い話ね……」
「でしょー?」
「……天童寺さん」
「なにかな?」
だとすれば自分に出来る行いは一つしか無いだろう、聡明な彼は人の恋路に割り込む程愚かな人間ではなかった。
尤も、割り込む隙すら無いのが正解であるが。
男子生徒は一拍置き放つ。
「し゛あ゛わ゛せ゛に゛な゛っ゛て゛く゛れ゛よ゛て゛ん゛ど゛う゛じ゛さ゛ん゛!゛!゛お゛れ゛に゛は゛お゛う゛え゛ん゛す゛る゛こ゛と゛し゛か゛で゛き゛な゛い゛け゛れ゛ど゛、゛お゛う゛え゛ん゛な゛ら゛い゛く゛ら゛で゛も゛す゛る゛か゛ら゛!゛!゛」
男泣きであった。
悔しさよりも、今こうして彼女が太陽の様な笑顔を振りまけるくらい心を救ってくれた雨宮吾郎への感謝の念と、それまでにさりなに降り掛かった地獄の様な苦難を想い彼はひたすらに慟哭した。
「わー!?泣かないでー!?ど、どうしよう明日香ちゃん!!」
「……気にしないで良いんじゃない?感動して泣いてるだけっぽいし。それより幸せになんなさいよ、そんな話聞かされたらアタシだってちょっと涙腺に来ちゃうんだから」
「うん。絶対幸せになる」
そんな彼を尻目に、さりなは改めて幸せになる事を誓うのだった。
その後この話がこの高校の伝説として語り継がれるのは言うまでも無いだろう。
「みたいな話をしたの」
「ま、まあ入学時に先生達に話は通してあるから良いけれど……良く認めてくれたよね」
「なんで?ゴローくんカッコイイし当たり前だよ?」
「そうかな……?」
「そーだよ〜ごろにゃ〜ん」
「全く大きな猫さんだな……ま良いけど」
※短編日間6位ありがとうございました