【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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この作品最大のターニングポイントにして恐らく本作品で一番賛否両論出ると思われる話


生きる価値

「ふぅ……この二日間凄く楽しかったなあ」

 

 ライブ終わり、吾郎はスッキリとした気分で散策をしていた。

 この後二時間程さりなは苺プロから抜け出せないらしく、帰りの便が一本ズレた事で時間が余ってしまっていた彼は行き場も無く、かと言ってつまらなさそうでもなく歩いていた。

 この熱を昇華するには丁度良いクールタイムと彼自身満足していたのも大きかった。

 

「それに……良い出会いもあったしな」

 

 上原清十郎、確かに彼は決して世間的に見て出来た人間では無かったのかも知れない、もっと言えばダメな人間だと断定出来る様な人間だったのだろう。

 だが、彼はやり直そうと立ち上がった。

 どんな人間にも必ずどこかに救いはある、吾郎は綺麗事と分かっていても自らの様な価値の無いと思っていた人間がさりなに救われた事でそういった自論を持つ様になっていた。

 

 だから、だろうか。

 

「……おや?」

 

 公園に一人佇む少年の事が何となく気になってしまったのは。

 

「クソッ……なんで上手く行かなかった……?僕の作戦は完璧だったはずだ、なのに……」

 

「……どうかしたのかい?なんだか辛そうな顔をしているけど」

 

「え……あ、いや。なんでもないですよ、申し訳ないこんな醜態をどこの誰とも分からない人に晒してしまうとは」

 

「僕の方こそ、勝手に話し掛けてしまって済まない。同年代の知り合いがいてついついお節介をしてしまったかな」

 

 金髪で細身の身体をしていた少年はさりなやアイと同年代前後だろうか、まだどことなくあどけなさの残る、それでいて見る者が見れば一瞬でその美貌に惹き込まれそうな顔立ちをしていた。

 その少年は溜め息を一つ吐き出しベンチに腰掛ける。

 こちらの事にはほぼ無関心の様で顔も殆どこちらに向けていないが、知らない男に話し掛けられているのだからその辺は仕方ないだろうと割り切る。

 

「いえ、今時知らない人間相手に軽々しくお節介を掛けてくる人間なんて珍しいですからね。その優しさは是非とも貴方の美徳として活かして生きてもらいたいくらいですよ」

 

「はは、そうかい?ありがとう」

 

「……まあ、尤も申し訳ないですが僕には必要ありませんがね」

 

 少年は吾郎の事を褒めながらも突き放す様な言動をする。

 それはまるで、世の中の人間を誰一人信用していないかの様に。

 

「そうだね、必要無いって言ってる人にしつこく言うのもありがた迷惑だろうし。うん、僕はこれで」

 

 そっと立ち上がる。

 少し心配ではあるがいつまでも言い寄って名も知らない人間のプライベートに足を入れるのは礼儀として流石に無いだろうと、気にはなるものの割り切る。

 

 ――ふと少年と目が合う。

 

「…………お前、雨宮吾郎……!?」

 

 少年はサッと『言っては不味かった』と言わんばかりに口を抑えるが時既に遅く。

 

「え……?」

 

「あ、あははいやはや急に申し訳ない。流石に他人の空似……」

 

「いや、本人だけど……」

 

「……」

 

「どこかで僕と会った事あったかな……?だとしたらごめん、どうにも思い出せなくて」

 

 不思議そうに顔を少し遠目から覗き込む吾郎に対し、少年は諦めた様に息を深く吐き出してから、雰囲気をガラッと変えた。

 その目からは少年らしさは失われ、猟奇的且つ無機質なものを宿していた。

 

「……アイの主治医」

 

「なっ……!?」

 

「アンタそうなんだろう?アイツが妊娠した時の、な」

 

「キミが何故それを知っているんだ?どのルートで知った?」

 

 彼は久々に本格的な恐怖を感じた。

 少年の目からは光が失われ、まるで感情を無くしたかの様に無表情でこちらを見つめそう問いかけてきていた。

 

「何故?どのルート?全くつまらない問い掛けですね。こうは思わなかったんですか?『アイを孕ませた張本人』とね」

 

「……それは事実か?」

 

 吾郎はそれでも努めて冷静に問い掛ける。

 飲まれてはならない、そして真実を知るべきだ、と。

 

「ええ、事実ですよ。リョースケをけしかけたのも僕です。ただ殺せとは言ってなかったのでヒヤヒヤしましたが」

 

「どうして、そんな事を?」

 

「どうして?……どうして、でしょうかね。……もう僕は失敗してしまった人間だから別に良いか。満たされるんですよ、一度でも自分を愛してくれた、世間的に人気のある人間に害を与えると。だって当人は絶望した様な顔を見せてくれるし、世間はその人間が害を与えられたと知って悲しむ。そう、その人間にとって僕は価値のある人間だし世間にとってその人間は価値のある人間だ。

空っぽで無価値な自分という容器に、自分は価値ある人間だと自覚出来る事で価値という水が溜まっていく。……だと言うのにアイはドンドン輝いて……一時期は同類とまで思って?身体すらも重ねたのに?」

 

「有り得ない。アイが輝く度僕の命の価値は無くなるんだ。僕の上位互換にアレが存在しているだけで何故僕が生きているのか分からなくなる。だから僕がアイを消すか僕が消えるかの二択しか無い。下位互換に生きる価値は無いのだから」

 

 少年は語った、自分は価値の無い人間であると。

 そしてその虚無を埋める為に『価値ある人間を自分に惚れさせて害を与える』という何とも歪な方法で自分への価値を見出していると。

 だからこそアイを狙ったのだと、かつて同類として見ていたはずの存在が自分の手の届かない位置に行ってしまい自分の完全上位互換として輝いている事が自分の生きる価値を無くしているのだと。

 だから消すか消されるかしか無いのだと。

 

 吾郎は感じた、この少年もまた誰かに愛される事無く育ってきたのだろうと、境遇はアイと、自分と、似ているのだろうと。

 そして、だからこそ彼は少年の中にあるどこまでも暗く、誰かに助けを求めたくても求める手段を知らない孤独を感じた。

 

 ……こんなに深々と話をされたのだ、こちらもある程度は踏み込んだ話をしたとて良いだろう、と。

 

「……人に上位互換、下位互換なんて存在しないさ」

 

「綺麗事なら誰でも、いくらでも言えます。価値の無い言葉だ」

 

「時に。キミは……話し振りからして役者かい?」

 

「まあ、そうでも無いとアイと出会う事なんて無いでしょう。それが答えですよ」

 

「そうか。なら尚更、キミはアイの下位互換なんかでは無いよ」

 

 吾郎はそう断言した、下位互換ではないと。

 それは即ち『生きる価値は元々あった』のだと、そう示すかの様に。

 

「は?……それはそれは面白い事を言いますね、僕の事を何も知らない人間が。どうやら僕も相当嘗められてしまったらしい」

 

 少年は明らかに小馬鹿にする調子でその言葉を一蹴した。

 ここまでの言葉なら誰でも言える上に散々上辺の言葉で言われてきたからだ、彼には誰かを信用する事などとうの昔に諦めていた。

 

 だが。

 

「言えるものなら言ってくださいよ。僕が納得するだけの理由を」

 

「……分かった」

 

 この男だけは違うという事を、この後嫌という程知る事となるのだった。




割と本編は終盤に差し掛かっていたりするのは恐らくこの話を見て察した人はいると思う
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