【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
エミュが難しかったけど、まだ高校生と同じ年齢ならワンチャンこういう展開もいけると思って特攻した、後悔は無い
「言えるものなら言ってくださいよ。僕が納得するだけの理由を」
「……分かった」
少年はたかを括っていた、所詮誰も彼も似た様な事しか言わない、上辺の薄っぺらい言葉でしか説得なんて出来ないのだと。
だから吾郎のそれにも何一つ動揺せず、寧ろ冷ややかに何を言うのか、言ったらどう馬鹿にしてやろうかと考えていた。
だから、だろうか。
彼が余計に不意打ちを喰らってしまった様な顔になったのは。
「キミのその瞳だよ。その猟奇的な目、それをアイと同年代でそうして宿せる人間なんて見た事が無い。もしかしたら僕が芸能界に疎いだけでそうした人間は沢山いるのかも知れない、けれど間違いなく『その目』はアイには出来ない。それを演技で活かす事が出来れば間違いなくキミはアイとは別の輝きを手に入れられるさ」
「は……?」
少年はそれ以上何を言えば良いのか分からなかった。
人は全員、この猟奇的な目線に怯えていた。
誰も彼もが「この人間はどこか狂っている」と、避けてきたし本人としてもそうやって避けてもらった方が楽だと、そして自分は壊れているのだと自覚して使ってきていたから。
だと言うのに彼は『それを肯定してきた』。
だから少年は、それ以上何を言えば良いのか分からなかった。
「それに、価値の無い人間なんていないさ。今までそういう価値観で生きてきたからもしかしたらすぐには変えられないかも知れないけど、僕は……僕も、数年前まではそうやって生きてきたから。……僕は生まれてきたと同時に母親を亡くした。家族は『お前が生まれてきたから死んでしまったんだ』と僕を酷く恨んでね……仕方ないよ、僕だって同じ事を思って生きてきたんだから」
「だからキミと同じ……かは、想像でしか無いけど愛を知らずに、自分に価値なんて無いものだって思って生きてきた。今では本気で愛してくれた人を見つけられたから何とかなったけどね」
「……何が言いたいんですか?」
絞り出した言葉は、僅かばかりの抵抗であった。
まさかこんな近くに似た境遇の人間がいたなんて、と内心は動揺しつつも自らがそれを表に出すと自分の感情がぐちゃぐちゃになっておかしくなってしまう、と必死にそれを否定していた。
「キミはまだ若いだろ?17……くらいか?」
「……16です」
「そうか。ならまだまだ僕の半分も生きてないな。……知ってるかい?『人に元々生きる理由や価値は存在していない、死ぬ時に思い返せるだけの人生を歩めたらその時初めてその人生に理由と価値が付く。だから人生というのは死ぬまで何処までも続く終わりの無い長い旅でしか無い』。何処かの本の受け売りだけどね、僕もやっとその意味が分かった気がするんだ。キミも探してみないか?『長い旅の果てにある答え』を」
「フン……僕は元よりアイに危害を加えようとした悪党だ、そしてこれからもまた自分の欲求を満たす為に止まる事は無いと思っていたところですよ?更に言えば僕の周りに味方なんて誰もいなかった、だから……」
「だったら僕がキミの味方になろう、理解者になろう。大人とは子どもを守る為に存在している、そして僕とキミの境遇は似ているんだ。ならばどれだけでも寄りかかって来なさい。生憎と僕は宮崎住みだから会える頻度は少ないかも知れないが、連絡先を交換しよう。いくらでも相談して来なさい。どれだけ的確なアドバイスをあげられるかは分からないけれど、いくらでも話を聞くから」
「……ッな、何なんですか貴方は……僕の事なんて放っておけば良いのに……馬鹿馬鹿しいな、まさかこんな大人がいるとは思いませんでしたよ」
さりなが『誰も彼もを魅了する太陽』とするなら吾郎は『静かに見守りながらそっと照らす月』だった。
間違った道に進み掛けていた、それでいて初対面の少年に対して拒絶されようともそれでも手を差し伸べたのは正にそう言わしめる理由になるだろう。
初対面にも関わらず、彼は『いくらでも守るから
そして少年は動揺しながらも、少しずつその手を掴んで良いのかと思う様になっていた。
心の奥底では本当は誰かに愛されたかったのだと、無意識に感じていたのかも知れないと。
だが彼は誰かに頼るという事を知らなかった、頼り方を知らなかった、だから意地を張って小馬鹿にする発言を繰り返す。
「僕は……まあ、しがない産婦人科医かな。……人は間違いながら生きていく。これは昨日他の人にも話した事だけれど、引き返せる程度の間違いならいくらでも反省して戻ってこれば良いさ。だからストレートに『助けてほしい』そう言ってくれればいつでも、いくらでも、僕はキミの味方になる」
「……大人なんてきっと誰しもが裏切る。僕も裏切られましたからね、嫌でもそう思うんですよ……でも、もしも僕が貴方に頼れば完全に狂う前に真人間に戻れると、そう言うのであれば……最後に一度だけ試してあげても良いですよ、貴方の事」
少年は最後まで見下した物言いであったが、それでもその手を掴んだ。
言葉とは裏腹に、怖々と、誰も信用出来ない中で最後に信じようと、勇気を出した。
吾郎はそれを知ってか知らずか、穏やかに笑った。
「ありがとう。それじゃあ連絡先交換、しようか」
「はぁ……はいはい、本当に貴方はお節介な大人だ」
悪態をつきながらも交換していく様は、まるで反抗期の子どもを見ている様だとふと感じる。
さりなには少なくとも自分に対する反抗期なんてもの無かったからか、彼は新鮮に思えて微笑ましくなってしまう。
「あ、そろそろ時間だな……さりなも待ってるだろうし行かないとな」
「……神木輝」
「え?」
「僕の本名ですよ、芸名は読みが同じで片仮名。僕ら、自己紹介なんて一切しなかったじゃないですか」
「あ、それもそうだね!僕は雨宮吾郎、宮崎の高千穂ってところで産婦人科医を……って、輝くんは知っていたね。それじゃ『これからよろしく』ね!」
「……まぁ、精々裏切らないでくださいよ」
そうして、雨宮吾郎の数奇な二日間は幕を閉じた。
それが大きな運命を変えたと知る事は、恐らく誰も知る由もなく。
「……雨宮吾郎、か」
少年はすっかり暗くなった空の下で呟く。
お節介で奇妙な男の事を。
「そう言えば」
ふと、目を見開く。
「アイツと話している時は、何故だか誰かを傷付けるという思考にはならなかった……」
確かに、自分の今までの事を話してはいた。
だがそこに欲求があったかと言えば否だった。
何かを傷付けようと思う事は無かった。
「……はぁ、本当に……馬鹿馬鹿しい人だ」
「だが」
「だけれども」
「もしかしたら」
「僕も、ただの一人の人間として」
「そう。そうやって生きていって良いって。そう言われたかったのかも知れないな」
「……ま、それはこれから次第だけれど」
その顔は、どこか少しだけ晴れやかだった。
神木輝/カミキヒカル
原作の暫定ラスボス枠
もしかしたら吾郎が生き残った前提で且つアイのドーム前ならまだ改心可能なのでは無いかと考えた末に『本当は誰かに助けてもらいたかった』『誰かに自分を肯定してもらいたかった』『自分の価値を見出してもらいたかった』のではないかと捻り出した救済ルート
クソデカヘイトモンスターキャラなのでこの展開は賛否両論になる可能性も覚悟して書ききった
吾郎編ラスボス(と言うにはあまりにも綺麗すぎた)