【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
「こ、ここが高千穂かぁ……」
「久々の高千穂だぁ!」
「お忍びでちょくちょく来てたけどね。ふふ、アイドルと言えばお忍び……あの背徳感は何度体感しても堪らない……ブツブツ……」
「……よっぽど気に入ってんのね2人共」
桜舞う季節。
さりなは高校三年生となり、卒業後の進路に付いても本来なら決めるべき時期だが進路相談時に明確に
「アイドルを続けて、卒業後には東京に引っ越してマルチタレントになる」
と告げ、元より彼女のアイドル活動を陰ながら応援してきた教師陣は彼女の本気度合いを知っていた為了承、何の憂いも無く高千穂とのコラボステージに立てる。
そもそもこのステージはあの日さりな、アイが考案したものを壱護と話し合い
「アイドルの地元とコラボは良い着眼点だ、成立するかはさておき交渉してみる価値はあるだろうな」
と、案をしっかりしたものにした後に高千穂町に提案。
いくらさりなの地元とは言え難しいかと思っていたもののあっさり了承され、コラボは無事当日を迎える事が出来た。
「たまにはこうして落ち着く場所に来るのも悪くはないわね……」
いつもはピリピリしているきゅんぱん/二宮由紀も最近は徐々にりーなへの態度を改めて頑張りを認めたりプライベートな会話を交わすくらいの仲になっていた。
それでもありぴゃん/渡辺有咲と二宮のアイへの態度だけは相変わらずであり、この2年弱で相当空気が変わりその影響でパフォーマンスも向上、人気も上がってきたB小町の数少ない残された懸念点だった。
とはいえ、りーなとアイの思惑はこの2人のそれを少しでも溶かす事が出来れば、という事。
その為に気が抜けない一日となる。
「……ここは確かに良さそうな場所だ。吾郎さんがああいった方だったのも頷ける」
「そう思いますよね!」
「うんうん、りーなの地元は居心地良いからね!」
「さあ話してる時間は無いぞ、まずは商店街でロケだからな」
高千穂とのコラボ内容は朝から昼前まで商店街をぶらり巡る生放送番組を地元テレビ局協力の元撮影、アイドルステージ+握手会を昼過ぎから夕方過ぎまで高千穂町総合公園野球場で行い宮崎県内で生放送し後日全国放映と言った形となる。
キツいスケジュールにはなったが念願の高千穂コラボとあり、特にりーな、アイ、芽依、カナンの士気は上がっていた。
「宮崎はウナギやコイが有名なんだよ!今の時期ウナギは養殖だけど、それでも美味しいんだから!ね、おじさん?」
「おうよ!ちょっと食ってみるかい?B小町のみんなになら特別に鯉のあらいも作ってあげるよ!」
「あ、あらい……って、その……な、なんですか……?」
「あらいはな、その場で魚を〆て作る刺身みてえなもんだよ。特に鯉はすぐ鮮度が落ちちまうから滅多に食べられない珍味だぜ?」
「おお……美味しそう……じゅるり☆」
「珍味……その言葉だけでもとても魅力的……オタクは珍しいモノに釣られがち……魚だけに……」
「カナン今日は絶好調だね〜」
最初に立ち寄った魚料理の店に始まり、宮崎特産品のマンゴー、チキン南蛮、それに高千穂特産品の高千穂牛、きんかん、釜いり茶、椎茸もりーなが先導して解説を入れたり店員に振ったりとスムーズ且つ地元民ならではの知り合いへのフリが出来たりメンバーも和やかな空気に心癒され、魅力的な飲食物に舌鼓を打ち仕事という事を半ば忘れる程のリラックス効果を得ていた。
「それじゃあ一人ずつ感想、貰えるかな?」
「いつ食べてもやっぱり地元が最高!」
「わ、私は鯉のあらい……一番良かった……かも」
「私もめいめい先輩と同じですかね、オタクの興味本位でしたけどアレは癖になりそうです」
「私もお魚が良かったかも☆特にウナギ!」
「私は……お茶かな。心が落ち着いて良いよね」
「私もお茶かしら」
「私はマンゴーね」
こっそりとりーなとアイはアイコンタクトを取る。
渡辺と二宮の表情がいつもより柔らかいのを確認するとホッと胸を撫で下ろし、2人の為にもここまでは無事成功出来たのだと確信した。
しかしコラボのメインはここからだ、まだまだ気が抜けないと引き締め直すのだった。
「まさか我が高千穂でりーなを拝めるとは……高校卒業までは叶わぬ夢だと思っていたけれど……」
「堂島君……私もだよ。教師という仕事柄上東京遠征と言うものなど終ぞ不可能だと思っていた……」
「俺、りーなの噂聞いてこの高校入って良かった……」
「先生、志田さん、僕進路決めました。東京行きます」
「一条、高千穂は俺に任せろ。ここは俺達現OBが守っていく」
「君の決断、しかと受け取りましたよ」
ステージではB小町が燦然と輝いていた。
1年程前りーなが加入した頃と比べてもすっかり成長していたのは彼らファン目線からしても明らかであった。
総代堂島は、声を無くしたかの様に感嘆としていた。
一年代表安土は唯一あの日をリアルタイムで知る事が出来なかった。
それでも彼は、一番行動的だった。
ギリギリまで進路を迷っていたところで入ってきた噂、それに飛び付いて入ってきた彼に後悔など寸分も無かった。
三年代表一条はこれまで進路を決めあぐねていた。
というのも、慣れ親しんだ地元でOB代表志田のいる職場へ就職して安定を得るか、B小町を、今のメンバーが卒業しても全員を応援していく為に東京に出るかで悩んでいたからだ。
だが、彼はこのパフォーマンスを生で観て決断を下した。
どうしても彼女達を応援したい、いや何としてでも間近で応援していくのだと。
東京どころか宮崎から出たのは学校行事以外で無い彼の決断を、志田も小田島も穏やかな顔付きで、まるでそうある事を事前に察していたかの様に頷いた。
「……僕、りーなに振られて良かった。そうでなければ彼女の良さを真の髄まで受け取る事は出来なかった。吾郎さんとのエピソードが聞けて良かった」
「君が居なければファンクラブは生まれなかったでしょう。誇りなさい、君は負けたのでは無い。あの日君は英雄になったのですから」
一方、このファンクラブを設立する発端となった堂島はあの日を噛み締めていた。
告白をしようと思わなければ、そして彼女の話を素直に聞いてみようと思わなければこうして素晴らしいパフォーマンスを観る事は叶わなかったかも知れない。
何よりも吾郎とのエピソードを知っているからこそ感じられる味わい深さは何ものにも変え難い想いであった。
そして数百人以上をファンクラブへと誘った彼の功績は文字通り『英雄』そう言って差し支え無いだろう。
それは彼らにとってだけでなく、自動的に数百人の新規ファンを手に入れる事になったB小町からしてもそうだった。
宮崎にいるとはいえグッズの取り寄せは出来る、暖かい言葉を手紙にしたためる事が出来る。
それは存外にも彼女らのやる気を後押ししていたのだから。
「さあ、このパフォーマンスを脳に焼き付けましょう。この後の握手会での感動を増幅させる為にも……」
彼らはただ、今は一人一人へ抱く気持ちを歓声へとぶつけるのだった。