【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
とあるアイドルグループは一人の女の子の生きる希望となり
一人の女の子は病気に打ち勝ち、そして誰にでも誠実で天真爛漫な態度を取る素晴らしい人間となり
その誠実さや魅力に感銘を受けた人々はまた誠実なファンとなり
そんなファンを見て諦めかけていたメンバー達も諦める事無く努力を続け、そしてそれはやがて実を結び
それでも尚苦しんでいるメンバーにもまた、その因果は巡り来る。
確かに彼女らはアイに対し負の感情を持っていた、嫌ってもいた。
だが決してイジメを行う事は無かった、彼女が悲しむ事を行わなかった、それは彼女達のプライド故。
自らの負の感情に押し潰される事無く必死に続けてきたアイドル、ともすれば何処かに因果が巡り巡ってくるのが人生というものである。
それが今すぐであるか、それとも遠い未来での話かは分からない――本来は。
彼女達もまた、さりなという一人の少女を救ったメンバーだった。
それが、因果をこのタイミングで引き寄せたのは必然だろう。
「ま、まさかりーなと握手出来る日が来るとは……!ありがとう……!この瞬間に感謝を……!」
「こちらこそ、いつも応援してくれてありがとー!これからもよろしくね!」
「は、はいぃ!!勿論です!!」
「あ、来てくれたんだ〜」
「アイ最推しだからな!あったりまえよ!」
「一番星の写真ありがとね、すっごく綺麗だったよ〜」
りーな、アイを筆頭に握手会は順調に進んでいた。
自分が人気なのか内心不安がっていたメンバーにも相当数のファンの列が出来ていたのも相俟って予想以上の出来栄えだとそっと眺めている壱護も満足そうに頷く程だ。
芽衣は自分の方から制限時間を超えるまで話していたり、カナンは来るのがオタクだけあり同じオタク同士の話に花を咲かせる事も多々あった。
ユウキやメイアは表情が柔らかくなったと言われたり笑顔が増えたと言われたりとこちらも良い方向に転がっている。
そして、ありぴゃんときゅんぱんにも、運は巡り巡ってくる。
「あ、ありぴゃん!いつもバラエティで笑わせてくれたりいつでも自信のある堂々とした発言に勇気付けられてます!これからも頑張ってください!」
「そ、そうなの?ありがと……そんなにアタシの事好きなの?」
「そりゃもう!B小町初めて見た時からありぴゃんが最推しですよ!」
「え……?あ、アイとかりーなとかいる中で?アタシ?」
「確かにアイもりーなも凄く可愛いですし好きですけど!俺にとって心を支えてくれたのはありぴゃんなので!ありぴゃんがナンバーワンです!」
「私が……ナンバーワン……」
ありぴゃんはその一人のファンの言葉を素直に受け止めきれずにいた、否正確には唐突且つ膨大な愛を抱えきれずどうしたものかと思考が右往左往してしまっていたのだ。
何せ彼女は自分の事『も』好きな人にはちょくちょく出会えど、自分の事『を』一番に見てくれる人には出会った事が無かったのだから。
だから彼女は、そのいきなりなラブコールにどう対応して良いか分からず口を開いたり閉じたりしていた。
だが、次第に言葉を決めたのか一度深呼吸をして気を納め、残された時間で言い切れるよう、それでいて気持ちが伝わるようファンを見つめる。
「……正直、アタシの事一番って思ってくれる人が居るなんて思わなかった。アイには勝てっこ無いって思ってたし、りーなにもすぐ追い抜かれた感じになっちゃったし。でも、そっか……アタシの事、一番好きって言ってくれる人ちゃんといたんだ。……ごめんね、そしてありがとう。これからも……良かったら応援してね」
『ごめんね』は今まで信じてあげられなくて、その存在を無いものとして見ていた事に対して。
『ありがとう』はこんな自分でも誰かの光になれるという現実に気付かせてくれた事に対して。
そんな彼女は、言い終わる頃には瞼に熱いものが込み上げるのを感じていた。
「勿論です!これから、いつかB小町を卒業した後も、もしも芸能界では無い何処かに行ったとしても!俺はずっとずっと応援してますから!」
彼女はずっとずっと嫉妬していた。
アイという最強の存在に、全てを奪っていく存在に。
だが、それは違っていたと気付かされて。
『――最初はB小町辞めたら芸能界も一緒に引退しよう、そう思ってたんです。でも……ファンの言葉に気付かされたんです、私の事を一番好きだと言ってくれたファンの言葉に。私の歌や演技、バラエティに出てる姿で救える人がいるんじゃないかって。……ふふ、それは誰の言葉かって?……それを言ってくれたのは貴方でしょう?――専属記者さん?』
引用・初代B小町の軌跡~原点にして頂点と言われるメンバー達~出版記念特別インタビュー・渡辺有咲編
――どうせファンの言葉も他人の言葉に過ぎない。信じるに値する言葉なんて存在する訳が無い。
きゅんぱんは全てにおいて諦観していた。
この世は理不尽の塊であると、この世は勝ち得ない存在がいるのだと。
そしてそれでも立場に縋り付く自分がどこまでも嫌いだった。
「きゅんぱん!僕はきゅんぱんの事を世界一愛している!!」
「……そう?ありがとう」
だから、そんな安っぽい言葉に溜め息を吐きかけ……笑顔で堪える。
腐っても自分は人気グループのメンバー、いくらお飾りの不人気メンバーと言えどプロ意識は忘れてはいけない。
たとえそれが不人気メンバーだからお近付きになれるだろうという魂胆の元行われているとしても……ときゅんぱんが思い込んでいたとしても。
「……まあその、とは言っても。好きになったのはりーな加入後に学校で話題になってたからなんだけどね。あ、でもでも好きなのは本当でっ!きゅんぱんのソロCDもコンプリートしたんだ!」
「へ〜そうなんだ〜」
彼女は内心「そんな訳無いだろう」と溜め息を付きたくなる気持ちを抑え込む。
――彼女にはとある黒歴史がある。
デビュー直後に、その時だけ一番人気だったきゅんぱんが出したソロ曲があった。
まだプロとしては完成から程遠い歌唱力。売れる訳が無かった。
全くもって売れず文字通り在庫がお蔵入りし、その存在ごと抹消した曲……それを持ってして彼女のソロ曲は『コンプリート』と言える。
だからそんな見え透いた新参の嘘にどうせ……とタカを括っていた。
「勿論!きゅんぱんがデビュー直後に出した『うらら桜道』もあるよ!じゃーん!」
「え……!?」
しかしその目論見は外れた、新参が知る由もないその曲を、CDを、そのファンは見せてきたのだから。
「ネットでデビューから追ってるファンの人と繋がりを持った時に存在を教えてもらったんだ!それで直接事務所に在庫がまだあるか手紙を送ったらあるって言われたから買ったんだよ!いや〜まさか買えるとは思わなかったよ」
「……か、買ったの?私の『うらら桜道』?その……あんなに下手なのに……その、幻滅したりとか……」
きゅんぱんは、否一人の人間の『二宮由紀』として心配だった。
そこまでしてくれたという事実にすら驚いたのに、そんなプロとして失格とまで言えるものを買った事に。
幻滅していないかと。
「下手かどうか、それは僕には分からない。僕はそういうの素人だから。でも魂が伝わってきたんだ、歌が、アイドルが、大好きだーって!だからもっと好きになった!きゅんぱんの事が!」
「あ、りが……とう……」
自然と涙が零れていた。
「私……こんな自分が好きじゃなかった。何をやっても中途半端で、無かった事にしようとしてしまう、弱い自分が」
「……アイドルだって人間すよ。そうやって弱いと思ってる自分と向き合って生きていこうとする姿、俺は尊敬します。一生、貴方を追い掛けますよ僕は。これからの人生、きゅんぱんがいなきゃダメだーって思ってたけど益々いないとダメになりそうだからね!」
その姿はまるで。
彼女にはキラキラの王子様の様に見えて。
『久々の表舞台に緊張しているか?無いわね、やっぱり何年越しに帰ってきてもこの景色は変わらず私の人生の一部だと言える。……初代メンバーの中で一番芸能界に拘りそうだった私がB小町引退と共に芸能界を去ったのは意外だった?
うーん、そうね――敢えて言葉にするなら「これからの人生、あの人がいなきゃダメだ」そう感じたからかしら。私も中身はただの女の子だった、って事よ』
引用・初代B小町の軌跡~原点にして頂点と言われるメンバー達~出版記念特別インタビュー・二宮由紀編
――これは果たして奇跡か、必然か。
それは誰にも分からない。
ただ分かるのは『彼女達の雪は溶けた』事であった。
渡辺有咲 アフターストーリー設定
握手会であったファンはいつしか記者として芸能界の道を叩きマルチタレントとして活躍する有咲の輝く姿を彼女の専属記者という世界一近い場所から発信する立場となっていた
だが専属記者になった後もその関係性はいつまでも変わらぬものだったという
二宮由紀 アフターストーリー設定
握手会であったファンに一目惚れしいつしか事務所公認で付き合う事に
世間から隠して付き合っていたが、B小町引退と共に芸能界を辞め結婚
本来芸能界を続ける算段だったが、世界一大事な人が自分の良さを知ってくれればそれで良かったのだと気付かされ心変わりした
その関係性は大きく変わるも、いつまでもいつまでも幸せな夫婦だったという