【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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大晦日に滑り込み


大団円に向けて

「おはよ、アイ」

 

「ほらほら、髪の毛少し跳ねてるわよ。こっち来て、やってあげるから」

 

「2人ともおはよー、そして私は甘んじてブラッシングを受けます、キリッ」

 

「跳ねたまま言ってると少しアホっぽいわね」

 

「ふふっ、そうね」

 

「ええ!?」

 

 季節は移ろい8月。

 長年のアイと、その他の初期メンバーとの蟠りは徐々に、少しずつではあるが雪解けてきていた。

 あの握手会イベントを境に2人がアイへ僅かながら歩み寄り始めた、というのは壱護の談。

 最初はありぴゃん、きゅんぱん、そしてアイの方も久し振りにまともに顔を合わせて話すだけありしどろもどろで3人共どうして良いか分からずぎこちなく、ギクシャクしていたがそこは周り、特に同じ初期メンバーであるめいめいが仲を取り持ち4人で出掛けたり、話す時間を設けたりとあの頃の時間を取り戻すかのように初期メンバーだけで過ごす時間も増えていた。

 

 そうして次第に、次第に、溝が埋まり始めそして気が付けば結成当初のような、もしかするとそれ以上に、4人の絆は深まったのかも知れないと思わされるようになっていったのだ。

 

「おはよぉアイちゃ〜ん、ありさとゆきもおはよぉ……ふわぁ」

 

「珍しく眠そうだねえ〜、どうしたの?」

 

「いやあ間違えて夜にコーヒー飲んじゃって……」

 

「アンタのドジも筋金入りよね」

 

「じゃあせめて練習始まるまでは寝てなさい、コンディション悪いと大変なんだから」

 

「は〜い……むにゃむにゃ」

 

 アイはそんな光景を見て『こんなにも幸せな気持ちになるのか』と自分の心に染み渡る感情を噛み締めていた。

 少し前までなら『自分の努力で認められているだけだから周りからどう思われていても関係無い』そう思っていたのにと心の中で苦笑いを浮かべる。

 いや、それもそもそもただの寂しがりな自分を隠す為の強がりに過ぎなかったのか――締め切っていた心の蓋を開けてみれば『本当は仲良くしたかった』『仲直りしたかった』というただの年相応の少女の感情がそこにはあった。

 

「うーん」

 

「どうかしたの?」

 

「えーっとね、この4人でまた色々遊べるようになったのって結局のところキッカケはりーなのお陰である訳じゃん?」

 

「確かにそうねぇ……私もあの子の事勘違いしていたところはあったけど実際はとても芯が強くて真っ直ぐな子だった」

 

「うんうん、そうでしょ?でね、そんなりーなに何も恩返ししないって言うのはなんか違うなーって思ったから!3人の知恵も借りて何が良いか案を出し合いたいって思ったんだ〜!」

 

「良いわね、後輩にばかり助けられてばかりじゃダメだもの」

 

「ええ。私の人生観も変わったし」

 

「……私も、前を向く事が出来たよ。というかこの話聞いてたら寝るに寝られないもん」

 

 そして、その全てのキッカケとなったのはさりなだった。

 アイの精神安定となり、ユウキの心をほぐしたゴローを連れてきたのも、めいめいの心を前向けさせたのも、そしてあの握手会も、さりな無しでは成し得られなかった。

 だから彼女達はさりなに恩を返したいと一致団結した。

 

 想いは巡り巡って行く。

 彼女らに元気を貰い、病に立ち向かい打ち勝ったさりなが彼女らに恩を返し、そしてまたその恩は彼女らの手によってさりなへと帰っていく。

 

 全ての大団円に向けて、物語はラストスパートを迎える――

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいね、ゴローくんも事務所に呼ばれるなんて」

 

「そうだね。なんだろう」

 

『吾郎先生にも話したい事があるから、何とかして予定を開けてもらう事が出来ないか』

 いつだったか、少し前壱護から呼び出されそう言われた事をさりなは思い出していた。

 医者で多忙なのを承知でもどうしても直接話したい事があるからと真剣な顔で言われたものだから、吾郎に話を付けて予定を開けてもらって今に至る。

 

「2人とも済まない、突然呼び出してしまって」

 

「あ、しゃちょー」

 

「僕は構いませんよ、それよりどうかしたんですか?どうしても来てもらいたい用事があるとの事みたいですが」

 

「先生もわざわざすみません、ささまずは中に入ってください」

 

 夏真っ盛りとあり蒸し暑い東京の気候は意外と九州人には慣れないものだ、と先日さりながポツリと独り言を壱護は何となく思い出していた。

 今日の主役はこの2人だ、というのは他メンバーからも重々言われていたのも大きい。

 

「しゃちょー、話ってなにー?」

 

「ああ、そうだな……座ってもらって早々ですが本題に移らせてもらっても?」

 

「良いですよ」

 

 ふぅ、と一息を入れる壱護。

 この話はアイドル業界、もとい芸能界でもほぼ前代未聞の行いだ……彼は1人冷や汗を流しながら2人に向かい直る。

 

「…………来年の三月末に、先生とさりなの挙式ライブを行いたいと思っています」

 

「……へ?」

 

「挙式ライブ……挙式ライブ……!!」

 

 反応は……彼、壱護からしてみればどちらも予想通りだった。

 吾郎は頭が反応出来ていないのか素っ頓狂な声を上げ、さりなは一瞬理解が遅れたものの数秒後には既に全てを理解していた。

 

「……先生にはアイが大変お世話になりましたし、さりなも良く頑張っています。何よりメンバー間の仲が良好になったのもさりなが来てからです。なのでメンバー内でも何か礼をしたいということになりましてね……話し合った結果がこれでした。どうでしょうか、費用は全て我々が持つという事で、内容を共に決めていく方向性で」

 

「ゴローくんゴローくん!私これやりたい!!ゴローくんと結婚式したい!!」

 

「壱護さんがそこまで言ってくださるのなら……その、お言葉に甘えても良いかなと……」

 

「やったー!ゴローくん大好きー!」

 

「俺としましても何かしら何れお礼をすべきとは思っていましたが、何をすれば良いのやらさっぱりだったのでこれでホッと出来ます」

 

 吾郎としても、経済状況的に挙式はもう少し後になると考えていただけに僥倖という考えがあった。

 早い内にウエディングドレスを着せてあげたい、どうにかならないものかと模索していた時期もあった程だ。

 

 夢が叶ったのはさりなだけではなく吾郎も同じだったのだ。

 

「……さりなのウエディングドレス姿を見るのはまだ先の話になると思っていたんです。僕の理想の結婚式を挙げるには経済的に貯蓄が足りなかったので。だから、理想……というか考えもしなかったこのライブでの結婚式、さりながここまで喜んでくれているなら理想を超えられるはずだと決心しました。ありがとうございます、宜しくお願いします」

 

「勿論です。全力を尽くして準備させてもらいます」

 

 固い握手を交わす。

 

「結婚式か~……んふふ、今から楽しみだなあ。みんなにもお礼言わないと」

 

「そうだね。僕も……とても楽しみだよ」

 

 これは、物語の1つの結末。

『雨宮吾郎』と『天童寺さりな』が結ばれた世界での大団円。

 

 

 ――そして時は進み、3月を迎える。

 

 梅の花が散り、やがて桜が花を咲かせ始める。

 別れの季節から出会いの季節に変わる、そんな季節に。




次回(多分)最終回
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