【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
ツクヨミ「あの物語が果たして、どのような結末を迎えたか。それは彼等には予想だにする事も出来ない」
ツクヨミ「死んで『推しの子』に転生するなんて、そんな奇想天外はこちらの世界には存在しないからね」
ツクヨミ「さあ、こちらの世界も1つの終着点を迎えるね」
ツクヨミ「あの世界の私が何もしなかったように、この世界の私も何もしないさ」
ツクヨミ「ただ――」
ツクヨミ「そう、ただ2人の幸せを祈らせてもらえれば、それでね」
「ふぅ……いやしかし、まさか僕が結婚式をする日が来るなんてなあ」
「何言ってるんですか〜?あんなにりーなとラブラブなのに」
「見てるだけで尊い、満たされる」
「あはは、ありがとう」
武道館挙式、本番一時間前。
流石にそわそわが止まらない男こと雨宮吾郎はそう回顧していた。
その実、さりなとの出会いから入籍までは語っていたが自分の出生については何も語っていないのでそう思われるのも無理は無い。
そして吾郎はそれを語る気は無い、知られたところでどうしてほしいという事が何も無かったからだ。
無意味に押し付ける事はワガママでしかない、下手に気遣われるのは性分ではない、そういった面も大きかった。
だから彼は笑顔で言葉を受け取る事にしたのだ。
「芽依ちゃんとカナンちゃんも、いつもさりなと仲良くしてくれてありがとう。あの子がめげずに頑張れたのは、アイ以外にすぐ仲良くしてくれた君達がいたからってのもあると思うからさ」
「改めて言われると照れちゃいますね〜、初めて宮崎に行った時の事を思い出しちゃうなあ」
「うん。私達がこれだけ頑張れたのもさりなやゴローさんと出会えたからだよ。お礼を言うのは私達の方」
「そっか……B小町の力になれて、そしてこうやって祝われるってほんの少しだけまだ自分の事として捉えきれてなかったけれどさ。やっとちゃんと自分の事だってしっかり喜べる気がするよ」
「そうですよ!ちゃんと主役が喜んでくれないと困っちゃいますからねっ」
「これで一つの憂いも無く拝める」
吾郎はさりなと入籍して尚、どこか自分が幸せになって良いのかほんの僅かにまだ引っかかりがあった。
それは実親との和解が無かったからだった、そしてその和解が成された今彼はようやく自分が全ての意味で憂いなく喜べるようになったのだと自覚した。
「よし、さりなにかっこ悪いところは見せられないからな!ビシッと行くぞ!」
もう、そわそわした姿はそこには無かった。
「……アイ、ゴローくんのとこじゃなくて良いの?」
「いーのっ。今はさりなと話したい気分だし」
「そうなの?」
「そーなの!」
純白のウェディングドレスを身に纏うさりなを見て、アイは笑顔を浮かべていた。
ほんの少しだけ目尻が下がっているのは、誰にも気付かれず。
「さりなと出会ったのは16歳なのに、気が付けばもうさりなは高校卒業だもんねー。早いなあ」
「アイも同い歳だけどね。うん、でも早いな〜って思うのは私もそう思うかも。B小町に入ってからは、本当に本当に駆け抜けたー!って感じだったから。まだまだ辞めるなんて考えられないけど、なんか感慨深くなっちゃうなー。あの時B小町に誘ってくれてありがとう、アイ」
「ふっふっふ〜。もっと褒めてくれて良いんだよ〜」
「よっ、アイちゃん最高!世界一のアイドル!私の最推し!」
「ふへへへへ〜」
口では諦めるといくらでも言える。
それでもやっぱり、本当の意味で諦めるのは苦しいもので。
彼女は今日この場に来るまで未練を本当の意味で断ち切れてはいなかった、自覚しながらも一度も口にはしなかった。
それは想い人と親友の事が大好きだったからで。
だが、彼女は、アイは。
さりなのウェディングドレス姿と笑顔と言葉を聞いて。
自然と笑顔と共に心のつっかえが取れた、そんな気がして。
「はぁ……本当に、夢みたい。小学生の私に『高校生になったら憧れのB小町になって大好きなアイちゃんの隣で歌って踊れて、B小町みんなと仲良くなれる』なんて言っても夢としか思わないんだろうなあ……」
「でも夢じゃない、でしょ?」
「うん!だってこんなにドキドキワクワク、私の心臓は動いてるもん!身体の奥底から込み上げてくる熱だって本物!これは絶対嘘じゃない、夢じゃない。本当の私」
さりなはたまに夢を見る事がある。
自分の病気が完治せず悪化し続け、自分が死ぬ夢だ。
可能性としては寧ろこうして死んでいく方が高かったという事はさりな自身が分かっていた、こうした未来を見る事は実際無かったと言えば嘘になる。
しかしだからこそ、今ある、自分が生きているこの世界を現実としてハッキリと認識出来る。
自分が生きてゴローと結婚して、B小町に入って、アイの隣で歌い踊って、とびっきり幸せな人生を送っている今を、認識出来る。
病気で苦しんでいた日々の自分を否定しない。
あの頃の自分あってこその今がある、さりなはそう確信している。
「うんうん、さりなはそうでなくっちゃ」
「……ねえ、アイ?」
「なーに、さりな」
「私、生きてて良かった。アイと出会えて良かった」
「……センセよりも?」
アイは不意に少しだけ意地悪な質問をしてしまったと思い直す。
さりなにとってゴローは最愛の夫、親とは実質的な絶縁をしている以上それより上の存在なんて有り得なかったとアイですら本当は分かっていた。
だからこそ、これは口に出すべきではなかったと咄嗟に気が付いた。
「うん」
だから、そうであるからこそその返事に目を見開く。
「せ、センセより上なの?自分で聞いといて聞き返すのもどうなんだろ〜とは思うけどさ」
「そうだよ。私とゴローくんが仲良くなるキッカケをくれたのは画面の向こう側で輝いてるアイだったんだもん。私にとってアイは、生きる希望も、ゴローくんも、将来の夢も、努力しようと思えた気合いも、親友も、そして全て叶えられた『今』も、全てのキッカケを与えてくれた。
大袈裟だって言われるかもしれないけれど、全てに絶望してる中で見た唯一の光はアイだったんだよ。あそこで諦めなかったからゴローくんと出会えた、本当にありがとう……アイ」
「…………ありがとう、さりな」
そして目を閉じる。
この2人に、それ以上の言葉は要らなかった。
「しっかし凄い歓声だ……いつもさりなはこんなに凄い歓声を浴びながらステージに立ってたんだね」
「その中にはゴローくんの歓声もあったけどね」
「ははは」
控え室で2人きり、僕とさりなは微笑み合う。
いつも聞いていたはずの歓声が、この後僕らに向けられるというのだから本当は緊張しまくっていてもおかしくないのだけれど不思議とそうはならなかった。
「ねねねゴローくん、ウェディングドレス綺麗?」
「ああ、世界一だよ。本当に綺麗だ」
このやり取りももう8回目になる。
何回やるのだろうかとか考えてしまうが、実際この子以上に綺麗な人なんて考えられないのだから仕方ない。
幸せで幸せで仕方ない。
「私ね、ゴローくんと結婚出来て幸せだよ。こんなに幸せな人生を送る事が出来て幸せだよ」
「僕もだよ。出会ってくれてありがとう。好きになってくれてありがとう」
思えば彼女と出会ったのは病室だった。
今にも死んでしまいそうな、それでも必死に生きている彼女に何か出来ないかとせめて話し相手になってみたのが始まりだった。
その彼女が、さりなが今はキラキラと輝くアイドルとして元気に活動して、そして僕の妻として隣にいる。
これ以上の幸せは無いと思っていた。
「よし。そろそろ行こっか、ゴローくん」
「そうだね、さりな」
でも、こんなにも沢山の人が祝福してくれて。
B小町のみんな、プロダクションの人達、アイ。
それに客席を見渡せば。
男泣きをしているリョースケや上原さんに……さりなの高校でファンクラブをしていた生徒や先生達、宮崎でお世話になった同僚や近所の方々。
まだどこかぎこちないけれど笑顔を向けてくれている父さんと母さん。
それに、変装していても分かるくらい目立つ輝。
何よりもこのステージ全体が、僕達を、僕とさりなの人生を……祝福してくれていた。
僕は、そしてさりなは一歩ずつ手を握りながら踏み出す。
きっと今日は、人生で最も賑やかで楽しい日になる、そう確信して。
この世の大抵はフィクションである。
捏造して
誇張して
都合の悪い部分は綺麗に隠す。
だけれども。
今僕らの生きてるこの世界は、フィクションじゃない、現実だ。
そして僕の隣にいる
僕は、僕らは。
確かに辛くて苦しい人生を送ってきたかもしれない。
でも、それを黒歴史とは言わない。
だってそれは、今を全力で踏みしめて生きる僕らを否定する事になるから。
だから言おう、この人生に、お互いに。
『これは絶対嘘じゃない、愛してる』と――
これで本編完結です!ありがとうございました!
後日談はありまぁす!!当たり前だよなあ!?