【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
ってなってて脳みそがバグを起こしております、作者です
月日は流れ妊娠35週、覚悟を決めてサポートをすると決めたは良いけれどやはりというべきか10代の妊娠ケアをするのは当人も担当医も心身共に疲労が溜まる。
特にアイはそういった事に無頓着だ、細心の注意を払ってのサポートがより重要視されるのがやり甲斐も出るが……といったところだ。
「だいじょぶゴローくん?最近お疲れ気味?」
寝転びながらさりなにマッサージをされている。
どうにも30を超えると体力が落ちてくるのかすぐ身体にガタが来てしまうのが難点だ。
「まあね。やっぱり10代の子の妊娠サポートとなるとより一層の慎重さが求められるからね。それこそ今担当してる患者なんてさりなと同い歳の子だよ」
「私と同い歳なんだ、世界は広いなあ」
「……さりなはさ、子ども作らないって判断後悔してる?」
静かに語り掛ける。
本来はさりなとの間に子どもを設けるのは既定路線だった、そりゃあ最愛の人との子どもなんだ作りたくない訳が無いのだから当然だ。
だが退形成性星細胞腫という病気は完治して尚その主張が収まる事は無く嫌な事に定期的にその名前が顔を出す。
そう、この病気は遺伝性が高い。
たとえ完治しようとも子に受け継がれる可能性が高く、生存した患者が子を設けようとした例はほぼ無い程だ。
それ程までにハイリスクであり、一度発症した患者だからこそその苦しみを味わわせたくないと拒否する。
そしてそれは僕達も例外では無かった。
何度も死の間際を彷徨ったさりなと、それを目の当たりにしてきた医者である僕……子どもを設けないという判断をしたのは必然だった。
しかしそれでも、もしかしたら後悔があるかも知れないという懸念は薄れなかった。
情けないと自嘲してしまう。
「うーん……確かにちょっと寂しくはあるけど後悔は無いよ。やっぱり私と同じ苦しみを味わう可能性が少しでもある子を増やしたくないし」
「……そうか」
でもさりなはしっかりとそう答えていた……何とも心根の強い子だ、結婚してから特にそう思う様になった。
強い子に育ったなとちょっと親目線になってしまう自分がいた。
「でも、だからこそゴローくんの担当してる患者さんには幸せになってもらいたいな」
「そうだな……」
親、親か……
アイも今は自分なりに生まれた後の事を考え出してる。
その目はまだあどけない10代だが……ほんの少しだけ人の親の目をしていると感じた。
……出産予定日まで残り五週。
もう少し頑張ってくれよ、僕の身体。
そう心の中で呟くのだった。
そして迎えた出産予定日。
今日は帰れないかもと伝えるとさりなは「だいじょーぶ!応援してるから!」と満面の笑みで送り出してくれた、本当に最高の妻に恵まれたと実感してしまう。
「それじゃ後はお願いしますね、先生」
「ああ」
「センセ、おつかれさま。でも呼んだらすぐに来てよ?」
「おう。今日は家に帰らずずっと病院にいる予定だしな」
さて、これが終わればアイとの繋がりも無くなってしまうな。
裏の姿も少しだけ見られたし、そのカラッとした彼女の姿を好意的に見られて悪くない気持ちだった。
……ほんの少しだけ、さりなに会わせたい気持ちもあったけど今の僕は医者だしな。それは職権乱用だからダメだ。
「それじゃ僕はこれで――」
外で空気でも吸おうかと思い……アイに白衣の袖を摘まれている事に気が付いた。
その姿は何とも神秘的で、つい吸い込まれそうになってしまう。
「……センセ、誰かを愛する事ってどう言う事なんだろうね」
困った様に笑う彼女は、どこか寂しそうだった。
「私ね、ちょっとだけ怖いんだ。施設育ちだから誰かから愛される事を知らなくて、そんな人間が子どもを産んで大丈夫なのかなって。勿論産みたいのはそうなんだけどね。だから経験豊富そうなセンセなら知ってるかなーって」
それは嘘じゃない、彼女の飾らない本音だった。
実際愛を知らずに育った人間が子どもを作って虐待をしてしまう……なんて言う事例は何件も存在している、だから大丈夫なんて無責任に言う事だけは絶対にしない。
何より、アイは僕に似ていた。
両親から愛されず、周りにも愛されず、愛を求めながら生きてきたその姿はやり方は違えど僕そっくりで。
放っておける訳が無かった。
「僕も誰かに愛されずに育ったんだ。母親は僕を産んですぐ他界、父親はそんな僕を恨んでいるのかずっと会ってない。祖父母に育てられたけどその二人とも微妙な関係なままだった。……今でこそ少しずつ分かってきているけど、そんな人生だったから30超えてまだ模索中なんだ」
「でもな」
「僕は君の主治医だ。もしも困った事があったら電話をしてきたって全くもって構わない……なんてね。人気アイドルとメアド交換なんてバレたら殺されちゃうかもね」
少しキザに言い過ぎたかと苦笑して誤魔化す。
だがアイの目は真剣だった。
それはそれで嬉しい様な恥ずかしい様な、微妙な気持ちになってしまう。
「センセ、メアド交換しよ。ここまで『私』を見てくれたのはセンセが初めてだから。ね?」
「……わ、分かった」
どうしよう、これさりなにバレたら割とガチで詰められるんじゃないだろうか、なんて考えてしまう。
「と、取り敢えず僕は外の空気吸ってくるからっ」
「はーい……あ、最後に一つだけ」
「なんだい?」
「最初の日に電話越しに『愛してる』って伝えてた人、センセの『そういう』人?」
あの日の通話……聞かれてたのか、と引き止めてきたアイに少し冷や汗をかいてしまう。
だがバレたなら隠す事も無いな、真っ直ぐ伝えよう。
「……まあね。僕がこの世で初めて愛を知るキッカケをくれた、大切な人さ」
「…………そっかぁ」
「それじゃ、いつでも呼んでくれて良いから」
僕は別に察しの悪い人間じゃない。
だからアイがそれを聞いてきた真意は何となく分かってしまって、掛ける言葉が見つからずに……いや、この場合何も声を掛けない事が最善だろうと。
「あーあ……私、センセの事……好き、だったんだぁ……今更……分かるなんてなあ……」
その声を、わざと聞こえないフリをしてその場を去ったのだった。