【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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割と重要なターニングポイント


もしもこの世界線の宮崎にアイが原作通りやってきたとしたら-3-

 病院近くの山道、ここは空気が良い。

 何せ整備されているとはいえほぼ森だ、落ち着くにはここ以上に最適な場所は無いだろう。

 

「……まだ恋する乙女の年齢だもんな、アイも」

 

 実質的に推しのアイドルに恋されて、それをフる形になったというのはやはりファンとしては大ダメージだった。

 だが僕には最愛の妻が、さりながいる。

 いくら内の内まで好意的に見る事が出来た人としてもアイドルとしても好感の持てる人間でもさりなを裏切る事は出来ない。

 

 色々と思うところはある、だからこうして割り切る為に頭をリフレッシュさせに来たのだ。

 

「少し休んだら戻らないとな」

 

 計算によれば出産予定までは残り数時間、寝れる気もしないが一応戻っておくに越した事は無い。

 あと10分、15分したら帰ろう……と思っていた時だった。

 

「あんた、星野アイの担当医?」

 

「……」

 

 見るからに不審者だろう黒ずくめの男にそう聞かれた。

 彼女が受診する際は偽名を使っている。

 更に言えば彼女の芸名に名字は無い、公表もされていない星野姓を知っているのは芸能関係者でも極わずか……それこそ苺プロの上層部くらいなものだ。

 だと言うのにサラりとそれを口にした、関係者なら堂々とコンタクトを取れば良いのに、だ。

 

 ……かと言ってここで下手に相手を挑発させる様な事を言う訳にもいかない、慎重にいかねば。

 

「君、アイさんのお知り合いかな?名前を聞いても?」

 

「チッ……!」

 

 あ、これ不審者で確定だな。

 聞かれた途端(きびす)を返す様に反転して走っていった、あれが不審者じゃなかったら何なんだよ。

 

 ……それにしても、だ。

 

「あ、ちょっと!そっちは崖があって危険だから気をつけて――」

 

「なっ!?う、うわぁ!?」

 

 本来ならここから一目散に立ち去って警備を強化してもらうのが最優先だろうが、如何せん医者としてのお節介が先行してしまった。

 何せ不審者の向かった先にあるのは崖しか無い、もう夜更けも夜更けで足元も見えない状態でそんなところを走れば、と思って引き止めたのだが遅かった。

 悲鳴と衝撃音が響き渡り、その次には苦悶の声が聞こえてきた。

 

「く、くそぉ……何でなんだよ……俺の人生こんなところで……」

 

 本来なら放っておけば良い、不審者なのだし後で警備に拾われた時に生きてるかどうかくらいで丁度良い、だって相手は危険な人物なんだぞ。

 

「……ああもう、何で僕はこうお節介なのかなぁ!」

 

 だが医者として目の前で助けられるかも知れない人間を放っておける訳が無かった。

 自分まで落ちない様に慎重に足を運び、崖から降りて状態を確認する……ボロボロで擦り傷だらけだが足を骨折している程度、頭部の傷は無し。

 よし、これなら助けられるはずだ。

 

「な、なんだよお前っ!俺を嘲笑いに来たのか!?」

 

「……君が何の為にあそこにいて、僕に接触してきて、アイの名前を出したのか、そんなのは僕には到底分からない。だが僕は医者だ、心身共に傷付いてる君の様な人間を知らんぷりする事なんて出来る訳が無いだろ……産婦人科だけど」

 

「ふざけるな!俺はお前を殺すんだ!殺してアイも……ぐっ、いっ……てぇ……」

 

「そういうのは後で聞いてやるよ。ほらおぶりな」

 

 しかしやっぱりアイ目的のストーカーだったか、それも僕もターゲットとか笑い話にならないんだけど。

 でもそれは『本来なら』の話。

 今コイツはただの怪我人、全身擦り傷に脚部骨折、その痛みでまともに動けもしない人間なんざ患者でしかない。

 

「……んで、だよ。俺はお前にもアイにも危害を加えようとしたんだぞ……そんな奴助けるとか馬鹿かよ」

 

「ああ、馬鹿かもな。職業病みたいなもんだ……っと、たく慣れない土地の夜道なんざ一番気を付けないといけないんだぞ」

 

 良く良く顔を見ればまだ若い、アイやさりなより少し年上程度か。

 本来なら体力を回復させるはずがこんな重労働をさせられているのだしそれもあるなら尚更、痛みより辛そうな顔をしている訳を聞かずにはいられなかった。

 

「……言いたくないなら良いけどさ、なんでそんな辛そうな顔してんだよ」

 

「ふん、言ったところでお前なんかに分かるかよ……アイはな、俺の唯一の光だったんだ。親は優しかったけどチビの時に死んじまって、昔っから何をやっても人より下手で、誰からも馬鹿にされて、そんな俺にも笑顔をくれたのがB小町で……アイだったんだ。そんなアイが妊娠なんて……許せなかった。俺に向けてた笑顔は全部嘘だって分かってても……認められなかったんだ……嘘を吐かれる事が……」

 

 弱々しく語る男に、同情する部分も大いにある。

 心の拠り所である親がいなくて、不安定な精神のまま育って、そんな中唯一の生き甲斐がアイ。

 で、そのアイドルが妊娠ともなればこうなるのも多少は分からなくもない。

 だがこの男は一つだけ勘違いをしている。

 

「なあ、知ってるか?」

 

「……なんだよ」

 

「『嘘はとびきりの愛』って言葉。アイドルってのは嘘に嘘を重ねて、どれだけ辛い事があっても幸せそうに楽しく……みんなの心の拠り所である事が仕事。仮面を被って、嘘を吐きながら、それでもファンに幸せを届けるのがアイドル。だからファンにとって嘘を吐かれるのは寧ろ光栄な事なんだ、それだけ愛されてるって事なんだ。……ま、これとあるアイドルの言葉を自己解釈しただけなんだけど」

 

 アイは、アイドルである事を諦めなかった。

 それはファンを見捨てなかった事と同意になる……そう僕は解釈している。

 だから伝えないといけなかった、アイはお前を見捨ててなんかいないんだと、寧ろ愛してくれているのだと。

 

「まあ、こんな年齢で妊娠した事に関してはこってりお説教してやったさ。まだ身体も育ち切ってない年齢で母体に何かあったらどうするんだ、ってね。でも安心しろ、僕が必ず健康な状態でアイを復帰させてやるから」

 

「…………俺は、とんだ間違いを犯そうとしていたのか?」

 

 その声は、今までで一番弱々しく震えたものだった。

 ようやく分かってくれたか……全く人騒がせな奴だ。

 

「でも君は何もまだ行っちゃいない、ただの怪我人だ。戻れるさ、今からなら」

 

「戻れる……のかな、俺」

 

「人ってのは間違いを犯しながら生きていくものさ。僕も、アイも、君も。戻れるくらいの間違いなら反省して生きていけば良い。そら、病院に着くからな。これからアイの出産が始まるから後でまた話は聞いてやる、それまで治療でも受けてな」

 

「……ありがとう」

 

 ボソリと呟かれたその言葉には何も答えない。

 きっと一人で消化した方が良い事だろうから。

 

 ゆっくりと歩く夜道は、静かだった。




これ、もしかしてさりなちゃんが隣にいるゴロー無敵救済者説検証RTAなのでは?
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