【本編完結】もしもさりなちゃんがゴローと結婚するとしたら 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
「それで、君がアイの言ってた推薦したい子って訳か」
「は、はい!」
アレから1時間程、中々アイが帰ってこないから心配して見に行こうとしたら寝ているアイをおぶっている社長さんが入って来た時は流石に少し驚いてしまった。
ただ
「メールで『B小町に推薦したい子がいるから』って言われたは良いものの中々来ないから心配して探したんだが、泣いてるのを見つけた時は気が動転してどうしたもんかと思ったぜ。だがちゃんと赤ん坊の事泣けたんだと思うと寄り添ってやりたくてな。ずっと頭撫でてたら寝ちまったからこうしておぶって来たんだ」
と言われ、心の重責もある程度軽くなったんだと察してさりなと二人ホッとしていた。
そのアイだが今はベッドで寝ている、気持ち良さそうで何よりだ。
さて、それはさておき今はさりながアイドルになれるかどうかと言ったところ。
頑張れさりな、僕は応援しか出来ないが応援してるからな。
「宮崎から東京に週末通うと言う事で間違いないな?」
「費用は相談してせんせが出してくれる事になったので」
「昔からどうしてもなりたい夢だって語ってたからね。僕は何年も昔から費用くらいなら全額負担する腹積もりでしたよ、というか病気してる時も傍にいてあげる事くらいしか出来なかったからやれる事は全部してあげたい」
あの時僕は自分の無力さを大いに実感した。
医者でありながら弱っていくさりなを見る事しか出来ず、もしも病気が治るならなんだってしてあげたいと心の底から願っていた程だ。
それは今だって変わっていない、やれる事があるなら率先して力になりたいというのは事実だ。
それに医者は高給取りでありながらそこまで遊ぶ時間は無いからな、さりなと付き合うと決めた時から既に女遊びも全て辞めたし貯金なら山程ある。
「分かった、それならそっちは気にしません。使うのは陸路と空路どっちになりそうですか?」
「空路ですかね。陸路だと時間と費用が掛かりすぎるので」
「成程……良し、さりなちゃんと言ったな。流石にいきなり新加入ってのは他のメンバーの面目も立たねえし一度東京にはオーディションって形で来てもらう、そこで合格が出れば加入だ、良いか?」
「分かりました!私頑張ります!」
流石に即加入なんてアイや他のメンバーが頑張ってきた歴史を踏みにじる事になるからな、そこは僕達も把握している。
「それじゃアイの退院が明後日……土曜日の昼間だからそこで一緒に東京に来てもらう事は出来るか?」
「それまでに宿題終わらせます!」
「よーし良い返事だ。先生、今回の宮崎東京間の往復費用はこちらで持つんで早速……という形でよろしいでしょうか」
「分かりました、ウチのさりなをよろしくお願いします」
固い握手を交わし社長さんは部屋を後にした。
善は急げと言うがここまで早く決まるとは、楽しみだ。
……しかしそうなると一つだけ気掛かりな事がある。
「なあさりな」
「なあにせんせ」
「結婚してる事は」
「全部開示するよー、私のコンセプトは『嘘も秘密も無い』アイとは真逆のアイドルだからね」
「……そ、そうか」
やっぱりそうなるかあ。
本当ならそこは止めたいんだけど、如何せん学校じゃ既婚者として注目の的過ぎて隠したとしてもすぐバレそうだし逆に良いんだろうなあ。
そもそもさりなの目が輝き過ぎてて正直止められる気がしないし。
済まない社長さん、多分胃痛が増えると思うけど頑張ってくれ。
「よし、それじゃ早速だがオーディションを始めるぞ。本来この時期のオーディションは無いが身内推薦だから特別という事を忘れるなよ」
「はいっ」
俺の名前は斉藤壱護、この苺プロの社長をしている。
親代わりになっているB小町センター・アイの推薦で主治医の先生の親族?の雨宮さりなのオーディションを行っている。
しかし先生との関係を聞くのを忘れてしまったな……親子と言うには歳が近いだろうし歳の離れた兄妹か親戚か、どちらにせよ妙な縁が出来ちまったもんだ。
「B小町の曲で踊れるのはどれくらいある?」
「全部やれます!」
「全部か、そりゃ頼もしい。それじゃサインはBとSTAR☆T☆RAIN、続けてフルでやってくれるか。俺を観客だと思ってやってくれれば良い」
「2曲フル……分かりました、頑張ります!」
やってもらうのはB小町の中でも代表的な曲から2曲選出、さてさてアイの推薦枠のお手並み拝見と行くか。
雨宮さりなの歌、ダンスは……そこまで光るものは無かった。
歌はお世辞にも上手くない、ギリギリもギリギリのライン。ただ歌詞間違いは0とそこは評価点。
ダンスは相当B小町を見てきたのかコピー能力が高くそこは高評価だが体力が無いのか2曲で割かし息が上がっていた。
そう、その二つだけ見れば地下アイドルや新設アイドルグループならまだしも能力の高い面子の揃ったB小町にはこれと言って合格ラインに達していない。
――だが俺は彼女に魅了されていた。
歌やダンスだけでは計り知れない異様なまでに輝くオーラ、誰もが目を奪われる太陽の様な存在。
どれだけ息が上がっても常に観客へのサービスと笑顔を忘れない精神に一挙手一投足から目を離せなくなる。
アイドルオーラ?いや違う、そういう類いともまた違うあまりにも異質な輝き。
「生命としての、輝き……」
先生にはこの子がどういう境遇で育ってきたか話はある程度聞いている、今こうして元気に生きている事さえどうしてなのか誰にも分からない程、完治が奇跡的なものであったという事。
そんな絶望的なものから生きて完治を果たし、今ここにいるという意味は俺が考える何倍も、何十倍も大きくて。
生きる事さえままならず諦めかけていた夢が叶うかも知れないと確信した少女は、あまりにも美しくて。
「――何としてでも欲しい」
歌や体力は後からある程度なら強化させる事は可能だ。
だが彼女が持つ生命の輝きと呼べるオーラは文字通り『唯一無二』。
気付けば何がなんでも手放してなるものかと彼女に釘付けになっていた。
「ど、どうでした?はぁ……はぁ……」
「歌唱力と体力は後から鍛えさせてもらうが……合格だ、おめでとう」
「や、やったぁ!ありがとうございます!斉藤社長!」
これは間違いない、B小町に取り込めばこの子も、あの子達も、もっと輝ける、もっと高いステージへ登り詰める事が出来るはずだ。
そうと決まればここからコンセプトを決めなくてはな。
「んじゃ早速で悪いがコンセプトを決めたい……あ、いやちょっと待ってくれ」
そう言えば一度先生との関係性について聞かなくちゃならんな。
一応保護者として契約の証人になってもらわないとならないからな。
「なんですか?」
「そう言えば先生との関係を聞いてなかったな、どういう関係なんだ?兄妹か親戚か?」
「夫です」
「そうか、夫…………夫ォ!?」
その日俺は数年振りに絶叫した。
アイドルオーディション受けに来た子がまさかの夫持ち、しかもアイと同い年。
なにこれ、俺盛大なドッキリにでも巻き込まれた?隠れてアイがドッキリ成功の立て札持ってるとか無い?
「それ込みでアイから誘われたので」
あのポンコツ娘は何をやってるんだ……
ぐっ、し、しかし先にパフォーマンスを見てしまった以上こんな逸材を手放す訳には行かない……ミヤコにこってり絞られるのを覚悟の上で飲み込むか……
「そ、それでコンセプトの方だが……」
「『嘘も秘密も無い最強のアイドル』です!」
「そっかぁ……」
拝啓、ミヤコへ。
胃薬は今度から倍にしておいてくれ。
斉藤壱護
先にパフォーマンスを見たが最後、どんなぶっ飛んだ事言われても手放すという選択肢が無くなってしまった可哀想な人
多分ある程度アイの破天荒が伝染してる