明星ヒマリにまつわるエトセトラ   作:アラベスク@arabesuque_38

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明星ヒマリは問題児である

 明星ヒマリは問題児である。

 

 些か暴論かもしれないけれど、これは連邦捜査部──通称「シャーレ」の担当顧問であり、キヴォトスの「先生」である私の結論だった。

 これに対して反論する人はそうはいないだろう。もっとも、当の本人からは猛烈に抗議を受けるであろうことは想像に難くない。

 

 ──が、

 

 事の大小はあるものの、私欲を優先するためにあちこちとハッキングを行う常習犯と化していることは揺るぎもない事実だった。

 この間も「あら、この清水の如く透き通る可憐な乙女の万年雪の結晶のように儚く穢れを知らない純白の下着をご覧になりたいのですか?」なんて言いながら、執務室のスプリンクラーをハッキングして部屋を水浸しにしたり。

 私のスケジュール表が一日「特異現象捜査部」に行くように改ざんされていたり、「傾国の天才美少女とのデート♡」に変更されていたり、例をあげようとしたら枚挙に暇がない。

 

 ──ちなみにスプリンクラー事件は「蒸気で、というのはできませんでしたから」と意味深な科白を頂戴して、後日ルミに「先生って、そういうところもあるんだね」なんてじっとりとした目で見られたし。

 スケジュール改ざん事件はハートマークに過剰反応したユウカとノアを宥めるので大変だった。すっごく大変だった。

 

 ただひとつ、困ったことに。

 カジュアルに行われるその行為が、最近では特に私の気を惹く目的で行われていることに気が付いてしまったのだ。

 高い頭脳を持ちながらも「私に会いたい」という理由でスケジュールをハッキングする。ただ一言モモトークで伝えてくれれば喜んで飛んでいくというのに。

 そんな彼女の不器用な一面を、不覚にも愛おしいと感じてしまったのだから。私も大概、始末に負えなくなっているのだろう。

 

 明星ヒマリは問題児である。

 ただし──それと同時に、私にとってかけがえのない存在になってしまっていたのだった。

 

 彼女が自称する「超天才清楚系病弱美少女ハッカー」という肩書も誇張のない事実であると言っても過言ではない。

 美しい白磁の肌に伏し目がちの瞳、儚げな印象を感じさせる彼女の容姿も「清楚で可憐」という言葉が確かに相応しい。

 ひとたび口を開けば堂々と自己を称賛する科白を吐き、星座占いのようなオカルトを前にして紫水晶(アメジスト)のように美しい瞳をキラキラと輝かせる。

 

 そんなギャップを前にして、彼女の虜にならない方がどうかしている──なんて、そんな言い訳で自分を正当化することが……「大人」である私にできる小狡い処世術だった。

 

 話は変わるが、そんな完璧な超絶美少女である彼女にも身体が不自由だという弱点がある。

 とはいっても、彼女が病弱であることを揶揄したり、憐みの目で見る者もいない。そんなハンディキャップなんて、彼女の能力の高さの前では霞んでしまうから。

 彼女自身も自分のことを「病弱」と自称しているものの、決してそんな姿を人には見せようとしてこなかったし、感じさせないように振舞っていた。

 そのことを私は誇りに思っているし、彼女の意思を尊重したいとも思っている。

 

 だから────、

 

「困ったことになりました。先生、助けていただけませんか?」

 

 そんなヒマリの言葉とともに、おそらく彼女が今いるであろう座標がモモトークに送られてきた時。

 私の心臓の鼓動が一気に跳ね上がったこと、持っていたコーヒーカップが床に激突したことにも気を留めずにシャーレの執務室を飛び出したこと、徹夜明けでフラフラの身体を押して全力で駆けだしたこと。

 ──ぜんぶ、仕方のないことだったと、今でも結論付けている。

 

***

 

「ヒマリ!!! 大丈夫!!?」

 

 幸いにも送られた座標はシャーレからすぐ近くのところだった。

 いつも通りの様子で車椅子に座っているヒマリを視界に捉え、目立った外傷や異常がないことにホッと胸をなでおろす。

 

「ふふっ。お待ちしておりましたよ、先生」

 

 肩で息をしながら膝に手をついた私を見て、嬉しそうに頬を緩めるヒマリ。まるで「悪戯」に成功した子供のような表情をする彼女をジッと見つめた。

 額を流れる汗をグッと拭って呼吸を整える。ひとまず彼女が無事だったことは確認できた。じゃああのモモトークは一体……?

 

「それで……どうしたの?」

「車椅子が壊れてしまいましたので、ふふっ、ミレニアムの清楚な高嶺の華であり、超天才清楚系病弱美少女ハッカーを抱きかかえる権利を差し上げま────」

 

 口上の途中で彼女の身体をひょいっと抱きかかえた。羽のように軽い。本人も少し気にしている肉付きの薄い華奢な身体に、壊れ物を扱うように優しく触れる。

 

「きゃっ!? あっ…ほ、本当に抱きかかえていただけるなんて………」

 

 腕の中で目をグルグルをさせるヒマリの耳は真っ赤に染まっていた。

 自分でするのは平気な癖に、こうして自分がされる側になったら弱いのだから。

 そんな彼女のことすら愛おしいと思ってしまう私は、本当に重症らしい。

 

「ヒマリが困ってるなら、いつでも助けるよ」

 

 もじもじと両手を動かしている彼女にそっと囁く。

 

「って…そっ、そそそれはプププロポー…!?」

 

 あわあわとするヒマリを無視してシャーレに向かって歩き始めた。

 

 ──まぁ、彼女の言い分は事実ではあるのだけれども。

 そういう科白は、もう少しきちんとした場で言葉にしたい。

 

 そんな風に思ってしまう私も──彼女に負けず劣らずのロマンチストなのかもしれない。

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