LOVE LIVE!! The Rainbow For yoU 作:RASっさん
「あー…えっと…聞き間違いですかね?発足できないって聞こえた気がするんですが」
「大丈夫、君の耳は正常だよ。生徒会内での審議の末、ロック部は発足することができないと決断したってこと」
…いや、その口調から察するに、あなたが決断したと思うんだが?
少し目を細めて彼女を見るが、本人はそんな視線も気にしていない様子。ただ呑気に口元の飴を右に左に転がしている。
一切自分の牙城を崩さないスタイル…エモコに匹敵する肝の持ち主だな。
それにしても、不安だった部活が本当に設立できないとかマジ?
いざ正面から言われると心に来るものがある。俺たちの物語、ここで終わりってこと?ここに来た意味ねぇじゃん。
すると後ろにいた中川もため息をつきながら固まっている俺へ答えた。
「最終的には会長が決断を下したのですから、このことは諦めてください」
「そうは言われてもなぁ…ってか、委員ちょも生徒会の人なのか?」
「1年生徒会書記を務めています…あと、中川奈々です。少しは覚えてください」
「入学早々、生徒会に入ってくれた新入生だよ。あ、菜々ちゃん例の印刷は済ませた?」
「はい、教員からの許可ももらえましたのでその報告も兼ねてこちらに」
クラスの書類ついでにそんなことまで…というか生徒会にもう入ってるのかよ。どれだけ学校が好きなんだ…
さりげなく前席の子がマルチタスクも難なくこなせる高スペックとわかったところだが、未だに納得出来ない部活の話に戻した。
正直、1年って理由だけで却下なら簡単に引き下がることはできない。
ウメの気まぐれみたいに発足した一面はあるが…本気でやりたいのはその頃から変わっていないし、自分の音楽をここで見せたいのはあるし。
「流石に理由なしじゃあこっちも納得はできないですけど…」
「いやいや、理由ならたっくさんあるよ?まず、普通に創部理由に問題ありだね。部員の経歴や活動指針もしっかりしていない上に、全体で字が汚い。七咲君をここに呼んだのも、君の名前しか分からなかったからでね──」
「本当に申し訳ありませんでした…」
「凄い手のひら返し…」
ダメじゃん、完全にこちら側に非があったじゃん。本当に何やってんだあの馬鹿は。
そして中川、何ボソッと突っ込んでんだ。これ、俺らの監督不届きであって俺自身がやらかしたわけじゃないぞ?
そんな俺の謝罪に苦笑いする会長はそのまま続けた。
「そもそも、新しく部活動を始めるなら同好会や研究会になるね。ある程度の成果を得られたら部に昇格するのさ」
「七咲さんの部活は立ち上げる際、何か成果や経験などありますか?」
「成果か…」
なるほど…確かに部になると予算とか組めたりするんだな。
後ろからの中川の問いも、経歴があった場合には部に昇格した状態からスタート出来るからだろう。
だが、俺らは中学からバンドは立ち上げてたけど、それまでにあげた成果は一切ない。
それは、単に中学が技量を上げる期間だったからなんだけど。ウメなんかは初心者上がりだし。
そして経験か…ウメはともかく、エモコは小学校からやってたと聞いたな。でも賞を取った話は聞いていない。
まぁ、あいつは自分の技量をを高める性格だからそういうのには無頓着だろう。
俺は……
「──特にないですね」
「……そうですか」
「それじゃあ、同好会からスタートかな。申請書にはそう書いて来るといいよ」
会長はそう言って笑った。なるほど、今回は生徒会に呼ばれたのも提出したのがまともな申請書じゃなかったからか…他にできない理由がないだけマシか。
俺がやらかしたわけじゃないし、安心した。会長も普通に承認してくれそうな雰囲気だし。
寧ろ、プラスな情報は得られたってことだ。よかったぁ…緊張の糸が一気に緩んだ気分だ。
しかも、わざわざ生徒会の方が直に教えてくれるなんて…これ、もしかしてすごく助かったのでは?
「ふぅ…入部届は改めて俺が書きます。今回はどうもこちらで問題が起きちゃったようなので」
「そっか。まぁこっちもちゃんとしたこと書いてくれれば承認するから」
「ありがとうございます…」
「平気平気…頑張ってねー」
軽いなぁ…でも、生徒会長のお陰で申請は可能とわかった。俺もさっさと2人のところに戻って事情を説明しないとな。
去り際に中川のところにも礼しておく。今度からはなるべく寝息立てないで居眠りだな。
「中川も、ありがとう。それじゃあな」
「…ええ、それでは」
やけに間があった気がするが、聞くのも野暮だな。そのまま俺は生徒会室を後にしたのだった。
(七咲さん…やはり、彼は
「はぁ!?何で部が出来ないのよ、ちゃんと申請書は提出したけど!」
「その内容や字が酷かったと…俺が改めて書くからそれまで我慢しておけ」
「やっぱり犬語でしたか…プッ、キャンキャン娘らしいですね」
帰ってきて事情を説明すると案の定、彼女が不機嫌になる…こっちが怒りたいわ馬鹿。珍しく失笑するエモコは予想通りといった様子のようだが。
でも、生徒会室で大分ストレスが発散できた俺はある程度落ち着きを取り戻している。この際、ここでみんなと一緒に申請すればいい。
それじゃあ、新しく貰った申請書に書き込みますかね。帰りに職員室でもらってきた新しい申請書を取り出し、机に置いた。
「というか、俺らの部活名も碌に決めてなかったもんな…ウメはなんて書いたんだ?」
「ロック部」
「安直にも程があるだろ…」
マジでロック部かよ。捻りの一つもなかった。
でも、何も成果を出していないから部ではなく同好会になる点も踏まえて、ロック部は変えないといけない。
「名前はロック同好会でいいんじゃねぇの?俺たち、まだ結成して2年しか経ってないし」
「まぁ、それはそうね…ロックもエモコからしか学べてないし」
「何です?私のロックに文句あるのですか…死にたいですか?」
「「そこまで言ってない」」
怖いわ、そんなキラッキラな笑顔で言うセリフじゃない。相当自分のロック道にプライドがあるようで…
でも、ウメも俺もロック自体は中学で始めた入門生だ。そのジャンル先輩であるエモコから2年間はみっちり教わって力をつけて行った。
だから、まだロックの真髄を理解してないのは確かかもな。それも考慮してロック同好会は正しいのかもしれない。
…少し響きがカッコ悪いのは否めないけどな。
…気を取り直して、次のステップに行こうか。確か、部活創設の理由みたいなやつだったな。
「『ロックバンドの素晴らしさを伝える、同時に新しい音楽ジャンルとして学園を盛り上げる』とかでいいんじゃねぇの?」
「全員にそれなりに残る音楽なんてあるわけないじゃない。馬鹿なの?」
「何もこれに準拠するわけでもないからな…本音と建前ってやつだ」
「そう言う貴方も建前に流されそうな性格ですけど」
うっせ…んなこととっくの昔から分かってるっつーの。でも実際本音通りに動くのは難しいんだよ。
ウメなら本音でしか動け無さそうだし、エモコなら本音で動けるところをこじ開けるだろうけど。
社会の一部とも言える本音と建前…まぁ、あの生徒会長ならそれも加味してオッケー出してくれるでしょ。
さーて、次々。下の欄には部長と部員の記入欄。
「部長は…ウメがやるのか?」
「…別にいいや、他がやっていいわよ」
「おや、珍しいですね。何処かでその長っ鼻でも折られたのです?」
「そんなんじゃないわよ…ただ、迷惑はかけたなーって…そんだけよ!悪い?」
どうやら、彼女なりに今回の出来事は反省しているらしい。
そりゃあ、ウメ一人にこんな仕事任せるのは不安だったから願ってもないことだが…
問題は部長というポジションにそもそも付きたくないってことだ。定期的に開かれるミーティングや年間イベントの参加など、面倒に巻き込まれるのは確かだ。
ってことで、どうせウメならやってくれるのかなぁって思っていた。
まさかの本人が辞退したわけだが。
うーん、どうしたものか。エモコなら、人の上に立つポジションからなってくれそうだけど──
「……」
「あー、はいはい。俺が引き受けるのね…」
俺に冷めた目で訴えてくるあたり、デメリットの方が多かったようだな。こいつはそういう性格だ。
仕方がないし、俺の名前を書いておくか。まぁ、同好会の状態をいち早く把握できるのはいいことだからな…今回みたいな事態も減ることだろうし。
そしてその調子で他の備考欄も書き込んでいく。予算はそこまでなくいいんだろうけど、折角だから多めに引っこ抜きたいな。
2人に色々ツッコミ、ツッコまれながら書き終わった頃にはかなりマシな内容になってくれた。これなら誰に見られても恥ずかしくないな。
後は、職員室にもう1回提出して、数日待てば結果が返ってくるだろう。悪くない返事が返ってくると良いが…
「それじゃあ、これを出しに行くか」
「…ねぇ、その場合って暫くチェックしてもらえないのよね?」
「まぁ、他の部や同好会のチェックが先だろうからな」
なんか、こいつまずいこと考えていないか?この雰囲気、直ぐに彼女のテンションが下がっているのが分かる。
そしてこうなった時、大抵は反比例してぶっ飛びボルテージが上昇しているのだ。
「バンド活動…まだ、出来ないの?」
「まぁ、あと数日は?」
「あぁーもう!こうなったらライブ!ここでライブしちゃおう!」
「何言ってんだこいつ…っておい!」
変なこと言ったと思いきや、走り去っていった彼女に俺の声なんか聞こえてないのだろう。あーあ、また始まったぞ…
今度は何する気なんだよ…
「走っていきましたね」
「なんでお前は冷静でいるんだよ!また変なこと始める気だぞ…」
「はぁ、暑苦しいですね…あのキャンキャン娘ならまともな結果を持って帰りません。奥手の時点で手遅れです」
「それ、諦めの境地に入ってないか?」
…まぁ、でも事実なのは否めない。仕方がないので、エモコと2人で彼女をゆっくり追いかけた。
もう、次から次へとイベント濃すぎるわ、過労死するわ。
やっと追いついた時には部室棟に到着していた。あいつ、こんなところまで来て何を──
「ウメ、やっと追いついたぞ…どっからそのアンプ取り出した!?」
「さっき軽音部から借りてきた!」
「同好会と偽って借りましたね。彼女のことです」
まさかあの時間で用意したってのか…行動力化け物かよ。いや、これがウメって忘れてたわ…最近学校生活で忙しかったからか大人しく見えたんだ。
ナチュラルに軽音部へ詐称しているのも問題だが、ここで始めるのは悪手だろう。エレキギターとか、特に公共で鳴らすとうるさいからな…それを許可なしに行うのはまずい。
「え、マジでおっ始めるの?しかもここ校内だぞ?」
「シャラップ!ここで発散しなきゃ私の気が治るわけないじゃない!」
あー、無理だ。こいつ完全に暴走してら。
そのままチューニングに戻るあたり、引く気はサラサラ無いんだな。
確かに、1週間以上ギターでいい音出せていなかったから、相当溜まっているようだ…にしても、わざわざここで発散しなくてもいいのに。
「エモコもなんか言ってくれよ…」
「愚民の釘付けができる…キャンキャン娘にしては、悪くない案ですね。いいでしょう、参加します」
「ちょっ!お前もそっち側かよ…」
お前はこっち側にならないの?そんな疑問を吹き飛ばすように彼女もウメのところへ向かって行った。
そして手際よく楽器を取り出してチューニングを始める。本気で始めるのかぁ…もう止めないのね?
というか、お前…何となくこうなることを予想してたんじゃないか?ウメが突っ走った時も落ち着いてたからな。
この感じ、普通に中学校でもあったな。勝手に校舎で演奏し始めて、怒られて…
完全にその頃のデジャヴを思い出しているけど、今回は高校だからなぁ…
「はぁ…あーあ、下手すれば休学案件だぞこれ…」
…まぁ、乗りかかった船だし。俺も一緒に沈むしかないんだが。本当にこいつらと居ると寿命が縮む思いだなぁ。
でも、正直…俺もここ1週間はまともに弾けてねぇし、2人とセッションも全くやってない。学校に慣れる必要もあったからな。
それもあって、2人が準備している姿を見ると、無性に演奏者の血が騒ぎ始める。
久しぶりにぶっ放したい。日頃の鬱憤とか、授業の退屈とか、2人に対する疲労とか…全部演奏に乗せたい。
…背中のサックから一式を取り出す。設置するのは土台となるアームとアンプへのコード。そして軽く音の確認。
うーん、いつものアンプじゃないから音に違和感は少し感じるけど…
それでも十分、ぶっ放せるな。これなら2人の音楽にもついて行ける。
「あーもう!どうなっても知らねぇからな」
「ルイも乗り気でいいじゃない!」
「判断力がトロいですね。早く準備してください」
…2人もチューニングを終えて準備万端だ。今日も良い音を出せそうで何より。
この先の展開、多分ゲリラライブの形となって、生徒会とかに見つかって怒られるオチだろうなぁ。
でもそんなオチがわかっていてもこのノリが好きなのは変わらない。とんだ問題児になるかなぁ俺たち。
周りも何かが始まる予感は感じたのか、少しづつ集まってきている。部室棟は3階まで天井が抜けた広いスペースだ…音もよく響くと言うことだ。
いいねぇ…ここ、絶対いい音楽できそうだよなぁ…!!
開始の合図でウメはピックを持つ手を天に掲げながら叫んだ。
「それじゃあぶっ飛ばすわよ!『Lucky☆Lucky』!」
七咲逢音・九条梅・鰐淵えもこ…3人ともロック