LOVE LIVE!! The Rainbow For yoU 作:RASっさん
パソコンに映し出されるのは、丁寧に割り振られた数字の羅列。一覧になっている物品名とその個数、値段が一覧になった画面をぼーっと眺める。
今月の売り上げ…言わずもがなだけど低迷してるなぁ。売れてるの、ギターとベースの弦…あとドラムスティックだけって大赤字じゃねぇか。
しかもこれ、去年と比べて売り上げ減ってるし…にも関わらず店がここまで続いているのは不思議で仕方がない。
「まぁ、ネロ姉のことだから金の心配はないんだろうけど…何処から補完してるのやら」
今日は休日。バンド練習はお休みとなっている。俺としてはその分寝れるから万々歳だったんだが…
あの姉、昨日からバイクで遠出していた。置き手紙で店番よろって…もし今日バンド練あったらどうするところだったんだよ。
そうして現在、こうして店のカウンター前でパソコン弄ってる。実際、店内は今日も閑古鳥だからなぁ。
パソコンの画面を切り替える。別に人が来れば気がつくし、それまでは適当にやってよう。
早速、前に見つけたフォルダを開いて、セブンスの映像はっと…
「………あった。曲は…『Sparkle☆Time!!』だな」
俺が任されている中川のスクールアイドルとしての作曲。彼女がどういう曲が欲しいか以前に、スクールアイドルの曲に理解を深めないといけない。
かという俺はロック曲しか作ってきないからなぁ…無意識にあのジャンルから離れていた節があるし。
でも、約束してしまったからにはいい曲を作らなければならない。
動画が流れ、ステージでライブをする6人が映し出された。これ、確かセカンドライブに披露したっけ?
『CLAP! CLAP! CLAP! ハジける心』
『STEP! STEP! STEP! 両手重ねて』
…曲調はシンプルだけど、伴奏に使っている楽器が多い。メインのギターに加えてベース、ドラム、トランペットやクラップまで。
特に印象的なのはクラップで、終始曲構成で重要な役割を担っている。あのテンポのいい音が入ることでグループとみんなを繋げる鍵となっている。
セブンスのセトリでこの曲を入れる人が多いのもそれが理由だろう。カラオケとかでも合いの手にできるしな…
となると、スクールアイドルの曲でこのようにファンとつなげる要素がいる。
シンプルにこのクラップを使うのもいいかもしれないが、合いの手になる掛け声や盛り上がりの合図となるシャウト…もいけるな。
ただ、それが分かったのはいいものの──
「問題なのはこれが中川のスタイルにどう合うかだよなぁ…」
動画を見ながら抱いた感想はそれに尽きる。中川のタイプはなんというか、熱量をそのまま直結させた感じだ。
そう、「もっと、熱くなれよ!!」的な奴。彼女1人で日本に夏が訪れそうだ。
それは合いの手に合うかと言えば…うーん、クラップは難しいな。
単に俺がそれを取り入れる技術がないのかもしれないが、実際それを彼女の曲に入れても盛り上がりには欠ける気がした。曲はその人に直結するものだ…俺がやらかすと彼女のライブのクオリティも下がる。
何より、中川が納得してくれないだろう。自分のタイプに合わない曲は歌っていて楽しくなかったら本末転倒だし。
そう考えながら、映像に目を戻す。煌めくライトにシルエットのように映る6人の姿。そしてサビと同時に一気にライトアップされる。
この演出が憎いほどに良い。畜生、曲との相性が良すぎるんだよなぁ…
「……伝説にはまだまだ遠いな」
正直、ロックを始めて早3年。ゲリラライブをおっ始めるくらいはピアノの腕は上達したし、作曲も2人のセンスに追いつける程度になった。
だが、スクールアイドルを見ていた頃の気持ちと比較するとどうしても越えられていない…そう思ってしまう。
あの時間は深く心に残るような音楽だった。消えてしまった今、それは徐々に風花していくはずなのに。
俺の…沢山の人の心に鮮明に残っている。
だから、俺もジャンルは違えどロックで心に残るような曲を作りたい。
この映像に勝るような、本物の音楽を。
「……あ、終わってたか」
観客の声援に包まれる会場で映像が終わる。あーあ、みんなセブンスに魅了されちゃってらぁ。
…まぁ、俺もなんだけど。やっぱり何度見ても耳に残り続ける。
見てろよ…いつかあのステージに立つのは俺たちになるからな。そこで全員釘付けにしてやんよ…
だからスクールアイドルの曲くらい、朝飯前に──
朝…飯前に………
「………ん──ー……何も思いつかん」
ダメだった。頭を唸らせても思いつかないものは思いつかないんだよ〜。
本当に、あいつに良い曲作れるか不安になってきたぞ…?タイムリミットは確か秋までって言ってたから時間に余裕はあるんだけど…もう少し新しい発見がないと前に進めなさそうだ。それまでは、こうして地道に動画から研究するしかない。
まぁ、セブンスにこだわってるわけじゃないし、Y○uTubeで漁れば大量に見つかるだろう。中川のためにも色々やらないとな。
それにしても、本当に誰も来ないな。俺の必死の叫びも店のBGMにかき消されるばかりで寂しさまで覚える。
午前中は特に人が来ないし、こんな辺鄙なところに足を運ぶ奴なんて──
「アオー、店空いてる〜?」
「…いたわ、物好きなやつ」
気だるげな声でドシドシと店に入ってきたのは九条梅…基、自称天才のウメだ。正確に言えば自称、天才部少女のウメらしい。
そういえばこの前、ギターの弦がどうとか言ってた気がする。切れる前に買っとかなきゃって部活終わりに…
あいつの弾き方だと直ぐにガタがくるもんなぁ…やれやれ。
「もう入って来てるじゃねぇか…今日はギターの弦の買い替えだな?」
「何よ、知ってたの?」
「それ以外で来ないだろ。それより予備の弦は買ってなかったのか?」
「予備のも無くなったからここに来てるのよ」
マジか…張り替えたの1ヶ月前だよな…とんでもない頻度で使い壊してる気がするんだが…
俺はキーボードだからそこは何も言えないが…前に交換したエモコはまだ随分と余裕を残してたんだよなぁ…ウメにギターの使い方もう一度教えてやれっての。
そう考えているうちに彼女が弦をカウンターに持って来ていた。俺もここは店番らしく会計の手を進める。
「それにしてもスッカスカねぇ…休日なんだし、少しは人集めたら?」
「ここに来る物好きな奴は早々いねぇよ…まぁ、店前にポスターくらいなら貼っておくか」
「うわー、地味過ぎるでしょ…せめてこういうストラップとかステッカーとか用意しなさいよ!それなら一つくらい買ってやるわ」
「ネロ姉にそんな趣味あると思うか?……まぁ、でも聞いておく」
因みにウメのギターはケースともにキーホルダーとステッカーが飾られていた。ピンクやゴールドの、キャピキャピしたものだ。
問題はこいつのギターもピンクだからな…配色的に目立ち過ぎなのは否めない。
言ったところで、可愛いからの一辺倒だけどな。
はぁ…一応、メモっとくか。最近のバンド女子やマニアの方に手に取って貰えば得はするからな。
まぁ、ウメの意見だから信憑性皆無だけど、客の声は大事だからな、うん…
そうしてメモしていた俺だが、この時相手がウメであることを無意識に忘れていた。
そう、九条ウメだからこそ。
「…何よ、これ」
「あ?……あ──」
彼女の声に顔を上げ、固まる。いつの間にか彼女はカウンター横まで来ていたが、俺のメモの内容を見るためだろう。
その時、偶然にもパソコン画面も目に入ったのだ。俺が開いていた出費の画面ではないパソコンの画面を。
しまった……普通にミスった。
「アオ…何の真似かしら?気でも狂ったの?爆せたいの?」
「エモコの口調が移ってんぞ…」
軽口を叩いてみるが、エモコってワードに引っかからないところからして、だいぶキレてるな…
どうしよ…ここでスクールアイドルの曲を作ってますって馬鹿正直に言えたら楽なんだけど。
残念ながらそれは出来ないから、ここは何とか誤魔化すしかない。
「ただの研究材料だ…ロック音楽を深めるためのな」
「偽物の音楽が本物に叶うわけないじゃないの」
「……それは知ってる」
ダメだ、俺の理由が言い訳にしか聞こえない。実際は半分正解だからどうにか切り抜けたいところだが…
こんな風になるのは恐らく、俺と初めて出会った時以来だ。溢れ出る嫌悪と負のオーラを惜しみなく出して俺を睨みつけてきた。
そのまま抑揚のない声で俺に問いかける。
「もしかして裏切る気じゃないでしょうね…あんた今更、姉の幻でもおってんの?」
「1つの音楽としては見ているが、追ってない。俺らの目指す先…その通過点に過ぎないだろ?」
紛れもない本心で言い返す。あくまでも通過点…その一点に関しては一緒だし、俺も姉を超えたい思いはある。
そもそもウメも俺が何故、バンドに入っているかは知っているはずだ。よっぽどのことがない限り、俺が裏切らないことも。
「はぁ…初めに言った通り、これは学習材料に過ぎないんだ。これくらいでめくじら立てんなって…ギャンギャン娘になるか?」
「誰がギャンギャンよ!…って、それ絶対にエモコに言うんじゃないわよ!ニヤニヤすんな!」
ギャンギャン娘って聞いたら、あいつ爆笑しそうだけどな。割と俺のネーミングセンスいいかもしれない。
やっと頭の熱が引いたのか、彼女が一歩引く。それで俺も動画のタブを消し、ことなきを経た。
心臓の音がデカい…結構緊張してたんだな、俺。バンド活動は続けたいからだろう。
そのまま彼女は購入した弦をしまいつつ、出口へと向かう。だが最後に足を止めて俺の方を振り向いた。
「言っておくけど…私たちのバンドは、あんなのに負けない。永遠に残り続ける本物の音楽で塗りつぶす」
「……」
「そのこと、忘れるんじゃないわよ」
そう言い残し、彼女はここに用はないとばかりに扉を出ていった。俺も張り詰めていた緊張を解して椅子に座り直す。
はぁ…今のは危なかった。スクールアイドルのことは2人に話していないが、ここでバレかけるとか。
自分家だからって少し油断し過ぎてたな…反省反省っと。もうしばらくはヘマしないように心がけとかなきゃ。
「
そんな事実が改めて頭の中を回る。
忘れかけていたが、俺らのバンドがロックの路線で行っている理由の1つだ。ウメが立ち上げたこのグループは最終的に本物の音楽としてみんなの心に残ることだ。
志はすげぇ聞こえのいい感じだが…もう少しだけスクールアイドルへの考えを柔らかくしてくれねぇかな?
それにしても、まだここまで拒絶しているとなると、中川のアイドルライフがヤバいかもしれん。俺、普通に曲作ってるの知られたら間違いなく関係が拗れるんだよなぁ…
「やっぱり引き受けなきゃよかったか。面倒なのは目に見えてたんだよなぁ、全く…」
でも、彼女のあの目を見ていたら、手伝いたくなったんだよなぁ…変に友達的な何かになっちゃったし。
あー、自分から面倒な方に行ってら。
スクールアイドルの姉を持ったロックな俺…って、ラノベのタイトルっぽいのにその実、かなり肩身の狭い思いをしてるよ…現実逃避してぇ。
そしてこの自虐に突っ込む人もいない。このまま今日の残りはゼロかなぁ…
と、思ったその時だった。扉が開かれて人影が入ってきた。おっ、1日に2人とかラッキーじゃん。
「…いらっしゃいまs──」
「ん、今日もゼロか。キサン、自分から客集めに動く気はないんか」
「……どうして裏から入ってこないんだよ?」
「そんなこと、気にすることなか。第一、私の店ばい」
あんたの店だから聞いてるんだし、心配してるんだけど?そもそも客集めはあんたの仕事やろがい……心の中で叫んだが、言われた本人…ネロ姉は悪びれもなく俺のところまで向かってきた。
片手にヘルメットを担いでいる…ちょうどツーリング的な何かから帰って来たのだろう。
相変わらず赤のスカジャンにタンクトップとかいう露出度のおかしい格好だが、それでも彼女はふらっと何処かに行っては帰ってくる生活を送っている。
何をしていたのか、詳しく聞く気にはなれない。だって黒寄りのグレーな仕事のようだし。
俺のパソコン画面を見て、何となく察したらしい。そのまま俺のメモ帳に目を向けながら何か考えているようだった。
「作曲はやらんのか」
「店番しろって言ったのはどこの誰だよ…」
「それもそか…まぁ、燃え尽きて灰にならんくらいで気張んとき」
「……へいへい」
一体何を考えているのか、未だにわからないところもあるこの人だが、純粋に応援してくれてる…でいいんだな?
何だかんだ、俺のことを引き取ってから3年間共にしているし、それくらいは分かった。俺がバンドを始める時も、あのキーボードくれたし。
そのまま去っていく彼女の背中を見送りつつ、俺もパソコンの画面を再度立ち上げる。
…よし。
もう少し、突き詰めてみるかぁ…曲作り。
七咲逢音…寝るつもりの休日を店番にされた可哀想な奴。現在、ロックとスクールアイドルの板挟みに合っている。
九条ウメ…スクールアイドルが嫌いなボーカル…これ、ラブライブを真っ向から否定している形だからどうストーリー進めよっかな(自分から首を絞めに行っている作者の図)
ネロ姉…ナナスタを見ている人なら分かりますが、服装の露出度が結構際どい。スカジャンにダメージジーンズとか…最高じゃないっすかぁ。
休憩となる逢音×ウメ回?になりましたが、次回から虹ヶ咲に戻ります。せつ菜ちゃん爆誕です。