「鬼面鼠ですか……失礼ながらよくご無事でしたね」
というかこいつは人様の家で何をやっているのだろうか?
「鼠の類の魔物の血は厄介な病を運ぶと聞きますし、それを全身に浴びてよくご無事でしたね」
「ああ、まあその通りで、あいつらに噛まれると疫病にかかったりするし、血にはその病原菌がたっぷりだ。だからまあ俺も結構危なかったんだろうな」
本来ならば。
「『
そんな俺の問いにサリアとウリアの二人が首を振る。
まあそうだろう、『悪食』というんは実は滅多に出ないレアな魔石なのだ。さらには効果がアレなもので、こんな魔石使うやつは文字通り悪食なやつだけなのだ。
「悪食ってのは簡単に言えば『なんでも食べれるようになる』魔法だよ」
そんな俺の説明に二人が首を傾げた。
* * *
―――インフィニティ・ファンタジー・ストーリー
まあファンの間では『IFS』と略して呼ばれていたらしい。
タイトルはまあ……よくありそうなタイトルなのだが、国産VRゲームの一つでMMOではなく家庭用ゲームの類である。
最大の特徴として
通常のゲームには大なり小なりストーリーというものがあるが、このゲームに最初に与えられるのは『設定』だけだ。
というとどんなゲームなのか想像がつかないのかもしれないが、簡単に言えば『小説生成AI』を応用されて作られた『シナリオ生成AI』がゲームに内蔵されており、事前に設定された『世界観』を舞台に大まかな『方向性』をプレイヤーが決定することでAIがゲームスタート時点でシナリオを作り出す。
さらにプレイヤーがプレイヤーキャラを自作し、どういう風にシナリオに対して関わっていくか……言うなればTRPGの形式をゲームにしたようなものである。
つまりゲームをクリアし、再びスタートするたびに新しいストーリーが作成される……タイトル通り『無限の物語』が展開されるのである。
『鬼面鼠』や『悪食の魔石』と言ったものに妙な聞き覚えがあったのはつまりこのゲームに登場する魔物やアイテムだったからだ。
IFSにおいて再生成されるのは基本的には『ストーリー』であり、根本的な世界観……例えば魔物や魔石といったものはどんなシナリオでも共通している。
故に村の名前には全く聞き覚えも無かったのに魔物や魔石には妙な違和感……恐らく既視感があったのだ。
―――頭が狂いそうだな。
この世界がゲームの世界だなんて『この世界の人間』としての記憶のある俺からすれば頭がどうにかなりそうな話ではあった。
―――だが同時にひどく都合が良い話だ。
少なくとも『オレ』はこの世界についての知識を多く持っている。それは田舎村に住んでいて他者とほとんど交流も無かった俺にとって値千金の知識となるのは間違い無かった。
例えば今べっとりとついたこの鬼面鼠の血。
鬼面鼠は『疫病』というバッドステータス*1を付与してくるが、設定によればその根本は鼠の体内に流れる血液の中で病原菌が繁殖しているかららしい。
故にゲーム時代、刃物で鼠を切りつけ返り血を浴びると確率で『疫病』がついてしまっていた、らしい。
見事に俺もまたその血がべったりとついている。
これは単純に洗い流したところで、流し切れるようなものではなく、殺菌効果の高い薬草を煮詰めて飲むか、もしくは『
なんて他人事のように言っていられるのも、今まさに手の中にあるこの真っ黒な宝石のような魔石があるからこそ、だ。
―――記憶を取り戻すと共に手に入れた魔石がこれというのはついている。
『
これは今俺が求めている全てを解決してくれる奇跡のような魔石だ。
『悪食の魔石』という名前で分かるだろうが、これに魔力を込め使うことで『悪食』の魔法が使用可能になるわけだが、『悪食』の魔法とは簡単に言えば『なんでも食べれるようになる魔法』だ。
ゲーム時代、操作キャラクターにはステータスの一つに『空腹値』というものがあった。
要するに腹の空き具合を数値化したものだが、これが高くなると運動系ステータスの弱体化や、五感の低下など様々な悪作用が起こっていた。つまるところお腹が空いて力がでない、というやつだ。
これを解消するためには『食料品』カテゴリーのアイテムを使用する必要があったのだが、『悪食』の魔法はつまり『食料品』カテゴリー以外のアイテムを摂取できるようになる魔法だ。
もっと分かりやすく言えば、例えばその辺の石や土、枝や葉を食べても消化し、栄養にできる魔法だ。
だがゲーム時代実際にこれを使って木石を食べるのはほとんど最終手段とされていた。
何せ『IFS』はVRゲーム……しかも五感対応のフルダイブ型VRゲーだったのだ。
つまるところ操作キャラが食べた物の味はしっかりとプレイヤー本人の味覚に反映される。
食べることができるからと言って誰が好き好んで土や石、木なんてものを食べたいか、という話だ。
この魔法の真価の一つは
つまるところ『毒物』の類であろうと無毒化して消化、吸収してしまえるのだ。
故に全身にべっとりとついた血を洗い流し、恐らくすでに体内に入ってしまっただろう『疫病』の病原菌に関しては『悪食』の魔法を一度発動してしまえば完全に無力化、どころか糧としてしまえる。
これはこの先、自生している植物の毒の有無などが分からない俺にとっては極めて有用な魔法と言えるだろう。
何よりこれから先、本当に何も食べるものが無くなった、という時に、いざとなれば土を食べてでも飢えを凌げる……いや、絶対に美味しくないので本当に最後の最後という時だけの手段にしたいところだが……それでも飢え死ぬ心配だけは無くなっただけマシと言えるだろう。
そしてもう一つ、この『悪食』という魔法には恐らく誰も知らないだろう……ゲームプレイヤーだった『オレ』だけが知っている真価、或いは裏技がある。
それがこの世界においても有効かどうかを確かめるために台所に向かう。
そして調理用の台座に取り付けられた『
『悪食』の魔法を発動しながら『火打の魔石』を
喉にひっかかりそうなサイズだが、『悪食』の魔法が『なんでも食べることができる』魔法というだけあって咀嚼や嚥下なども補助してくれる。凄まじい違和感を喉に覚えながらもそれを飲みこみ。
―――
呟きと共に指先から火の粉が飛び散った。
成功した、そのことに驚きながらも同時に狂喜する。
そう……『悪食』の魔法の誰も知らないだろう秘密。