うちの姫様はチョロ可愛い   作:水代

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時には昔の話をしようか⑤

 

 

「魔石を……食べる???」

 

 サリアとウリアの二人から、何言ってんのお前、みたいな表情で見られたが、まあ仕方ないだろう。

 『オレ』の記憶で例えるならスマホ食べて体から電波出してますっていうくらいおかしな話だ。

 そんなこと人間にできるわけないだろ、と言われればそうなのだが実際裏技というか隠された仕様というか、とにかくできてしまうのだから仕方ない。

 

「なるほど? なるほど?? なるほどネ?」

 

 ふと聞こえてきた声に視線を向ければ部屋の入口に立っていたのは楽しそうに、くすくすと笑い俺を見やる眼鏡の女。

 サリアとウリアの主にしてこの『ルシェド』の街……通称『暗黒街(ブラックタウン)』を取り仕切る組織『ヘイロン』の現首領たるマオ・リィエンが笑みを浮かべ、片手で眼鏡をくい、と押した。

 

「とても楽しそうな話じゃないカ。とてもとても興味があるネ?」

 

 ねっとりと、絡みつくような視線にうんざりとした表情をしながら追い払うようにシッシッ、と手を振る。

 

「そうつれないことを言わないでくれヨ。今の話、とても金の匂いがするヨ。そう、金の成るとても良い匂いネ」

 

 シシシ、と笑いながら手元でソロバンを弾くような真似をする。

 

「さあ早く続きを語るヨ。とても興味深い話をネ」

 

 そんなマオの態度に嘆息しながら、それでも続きを楽しみにしてるとばかりに目を輝かせる姫様を見やり。

 

「仕方ねえなあ……」

 

 過去語りの続きを始めた。

 

 

 * * *

 

 

 ―――火打(イグナイト)

 

 その一言と共に炎が舞い、着火剤を燃やしながら薪に炎を灯す。

 指先から炎が舞う、そんな光景に口元が弧を描くのを抑えられなかった。

 

 ―――魔法だ。それは間違いなく魔法だった。

 

 魔石持たずとも魔法が使える。この世界の人間が知れば仰天するような事実を『オレ』は知っている。

 もっと言えば『オレ』の知る裏技染みたゲーム時代の仕様がこの世界でも一つちゃんと効果があることを理解した。

 

 それは間違いなく朗報だった。

 

 『オレ』の知識を使えば今の時点でもできることがある。

 何よりも『オレ』の知識を適切に使えば()()()()()()()

 

 『オレ』の知識からIFSの世界観を知ったからこそ言える。

 

 この世界において強さとは生きるために必須だ。

 それは単なる腕っぷしである必要はない。人を雇える金の力でも良い、人を動かせる権威の力でも良い、もしくは人の代わりになるなんらかの道具でも良いのだ。

 

 この世界は『オレ』がいた世界とは違い、法も秩序も、文化も何もかもが未熟だ。

 

 世界中には魔物という危険な存在が蔓延っているし、国と国は険悪で簡単に戦争を起こす。

 街に監視カメラなんて便利なものはなく、巡回の警邏の目を盗めば犯罪の立証は簡単ではない。さらにこんな田舎村では治安維持機構すら存在しないし、例え何かあっても村人同士で結託し、犯人を捕らえれば私刑で殺してしまう。

 

 以前も言ったが、うちの家族……すでに死んでしまって俺だけになってしまったが、俺は村に受け入れられていない。

 もし村で物が壊された、だとか何かを盗まれた、だとかそういう事件が起こったなら真っ先に俺が疑われて、疑わしきは罰するの精神で殺される可能性がある。

 

 『オレ』の生きていただろう世界とは違い、この世界において戦闘能力というのはあればあるほど良い、と言える類のものだ。

 何よりこれからも山に入って食べるものを探さねばならない以上、死にたくないならそれは必須だった。

 

 

 

 ゲーム時代、強くなるための簡単な方法を上げるならば一番手っ取り早いのは『レベルを上げる』ことだった。

 いや、現実的に考えてレベルって何だよって言われるかもしれないが、ジャンル的にはRSRPG*1だったIFSには登場キャラ全員に『個人ステータス』というものが設定されており、その中には『レベル』という強さを数値化したものがあって、各キャラクターの基本ステータスは『レベル×成長率(才能)』で決定されていた。

 

 問題はこのレベルというものを見ることができるのが『プレイヤー特権(チート)』という類のものであり、他の登場人物たちは『数値化(ステータス)の魔石』というものを使わねば自分の能力を確認することはできず、そもそも他人のレベルなんて見えない、ということだ。

 

 だが少し待って欲しい。

 

 俺が山で鬼面鼠と対峙してしまった時、脳裏に過った文字があったはずだ。そこには確かこんなことが書いてあった。

 

 ―――【鬼面鼠】Lv3

 

 そう、魔物の名前、そしてレベルが見えた……というか理解できた。

 そう言えば鬼面鼠から魔石を抜き取った時にも『悪食の魔石』という情報が浮かび上がったが、普通なら『鑑識(アナライズ)の魔石』でも無ければぱっと見ただけでそれが何の魔石か、なんて分かるはずがない。

 

 ―――もしかしてプレイヤーチートがあるのだろうか?

 

 もしそうだとすると。

 

 ―――ステータス

 

 そう念じてみれば途端に脳裏に浮かび上がって来る情報。

 

名前:ルド

年齢:5

性別:男

レベル:2

体力:12/88

魔力:3/18

心力:38/99

身体能力:E

魔法適性:E+

 

 『オレ』の知識の中にある簡易ステータスと同じものが浮かびあがってくる。

 よくゲームなどである『STR』だの『DEX』だの『INT』などの能力値の詳細を知ろうと思うならば残念ながら『数値化の魔石』が必須になる。その辺は現地人と差異はない。

 もっとも、これだけの情報が常に知れるというだけでも十分過ぎるのだが。

 

 因みに体力は体を動かすのに必要なエネルギー。まあ文字通りだ。ゲーム的にいうならHPというよりスタミナ、などの概念だろうか。

 要するにこれが減っているということは疲れているということだ。

 

 魔力は体内に貯蔵された魔力の量。

 『オレ』の記憶によるとゲーム時代の仕様で『悪食』の魔法の発動に10、『火打の魔石』を吸収するのに5消費するので帳尻はあっている。

 

 心力は心の力……というよりはメンタル。どこぞのTRPGでいうところのSAN値に近い。

 要するに低ければ低いほど心が弱っているということだ。

 今日は一日であまりにもたくさんのことがあって、精神的に疲れているので低くなっているが、まあ一晩寝てメンタルをリセットできれば大きく回復するだろう。

 

 身体能力はステータスの合計値で判断される。Eというのは子供並といったところ。

 魔法適性は簡単に言えば魔力の運用に対する熟練度だ。これが高いほど魔法の行使が素早く、そして正確になり、魔力の使用に無駄が無くなる。逆に言えばこれが低いうちは同じ魔力量で同じ魔法を行使しても高い場合よりも魔力に無駄(ロス)が出る。基本的に魔石などを使っている内に魔法を使うことに慣れて上昇するので身体能力と同様E+は子供並と言ったところだ。

 

 問題となるのはレベルだ。

 

 2と書かれているが、ゲーム時代キャラクリしたばかりの操作キャラはレベル1だ。多分俺の場合、鬼面鼠を殺したからレベルが上がったのだろう。

 魔物を倒すとレベルが上がる、だいたいゲームと同じ仕様らしい。

 

 となれば。

 

 ―――明日から動き出そう。

 

 そう決めると疲れた体を引きずり、寝所に潜り込む。

 『オレ』の記憶の中にあるようなふかふかなベッドも柔らかな布団も無い、木の板に寝っ転がって薄い布一枚被るだけの余りにも質素な寝所だったが、精神的な疲れと肉体的な疲れ、両方が重なってあっという間に意識は落ちていった。

 

*1
リアリティシミュレーションローグプレイングゲームの略。ワールドシミュレーターによって作られた仮想現実の中にキャラクリによって作成したキャラを登場人物の一人として配置し、ロールプレイングするタイプのゲーム。

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