ことん、と机の上に空になった紅茶のカップを置く。
「なあ……」
先ほどサリアがついでと淹れてくれたものだが、長年メイドをやっているだけあってその腕前は良く、うちにあったいつも飲んでいるはずの茶葉なのにいつもよりぐっと美味しく感じる。
俺が淹れると一口飲んで眉間がきゅっと寄る姫様も特に何も言わずに飲んでいるのだから実際普段より美味しいのは間違いない、いや、それは良いのだが。
「お前ら、いつまでいるの?」
すでに日も沈みかけているが未だに人の家で寛いでいるやつらに呆れた視線を向けるが全く気にするようもない。
まあ遅くなったからと言って、この街で『ヘイロン』の関係者を襲うような命知らずがいるとは思えないので問題は無いのだろうが……。
ちらり、と姫様を見やるが特に気にしたようもないのでまあいいか、と諦めて続きを語ることにした。
* * *
『オレ』の記憶にあるゲーム時代の仕様を利用して強くなるために最も必要なのは『魔石』だ。
そのために必要なのは当然魔物を倒すことになる。
他にも流れの商人から売買する、という方法もあるかもしれないが残念ながらうちには金なんてほとんど無いし、そもそも村と交流があまり無かったので商人がいつ来ているのかすら知らない。
『オレ』の記憶にあるような地方のどこでも大なり小なり店があるような発達した世界ではないのだ。
商人とは街に自分の店を持つ
そして基本的に徒歩での移動が基本となる民間人にとって、街から街、村から村へと渡り歩くのは非常に時間がかかる。
恐らく村に来る小売の商人も来ても月に一回、ないし二月に一回といった頻度だろうから、さすがにそんなものを待っていられない。
話を戻すがIFSというゲームにおける戦闘は基本的なRPGと同じく『能力値』と『スキル』が重要になってくる。
IFSのステータスは筋力、敏捷、耐久、抵抗、器用、幸運の6種に分けられるわけだが、まずもってステータスで負けていると不利になるわけだ。
そしてこのゲームにおけるスキルというのは『魔法』のことだ。
ゲームでは最大5種類の『魔石』を装備することで一度の戦闘で5種類の魔法が使用できた。
つまりスペックと魔法、この二つの武器で戦うのがIFSの戦闘の基本となる。
問題はIFSがオンラインによって複数人プレイも可能だったとは言え、究極的にはソロゲーだったことだ。
『オレ』の記憶でいうところの『オンラインゲー』と『家庭用ゲーム』の違いは基本的にそこだ。
複数人がプレイするためバランスが重視されるオンラインゲーと異なり、家庭用ゲームは一人、ないし少数がプレイするためプレイヤーキャラクターが『最強』になれる。
そしていくらIFSが周回ごとに新たなるシナリオを生成する無限のストーリーを謡っていても世界観設定が同じなのだ。つまり出てくる魔物やプレイヤーの使える魔法、ステータスなどのシステム自体は同じなのだから『最強になるための道筋』というものが有志達の手によって作られる。
そして『オレ』の記憶によれば、その根本となるのが
まずもって本来5つに制限されるはずの魔法を『魔石』を食うことで無制限に取得できるという時点ですでにバランスブレイカー気味ではある。
とはいえ、例えば今の俺のように五歳児の弱弱しいスペックに『火打』のような弱弱しい魔法、このような状況はゲームでも十分にあり得た話だけに、これだけだと利点とは呼べてもぶっ壊れとまでは呼べないだろう。
何よりいくら魔法を覚えることができると言っても、そもそも強力な魔石をどうにかして手に入れなくてはならないのならば大器晩成型と呼んでも『
だからもう一つ、『悪食』の魔法による『魔石食い』にはとんでもない隠し要素があるのだ。
その話をする前に一つ前置きしておくと。
全ての魔石には色がある。
例えば『悪食の魔石』を見つけた時、黒色の宝石と称したように『黒』。
『火打の魔石』ならば『赤』。
他にも『青』『黄』『緑』『白』の四色と先の二色を合わせて全ての魔石はこの六色に分かれている。
この色というのは『魔法の属性』を表しているとされている。
赤なら火系統、青なら水系統、緑は風系統、黄色は地系統の四元素で分かりやすいだろう。
では白と黒はというと『消滅の白』と『混沌の黒』と言われており、破壊、消滅を司るのが『白』色の魔石、創生、改造を司るのが『黒』色の魔石だと言われいてる。
『オレ』のイメージだと逆らしいが、要するに『色を抜く』のが白で『色を混ぜる』のが黒だと思えば分かりやすいだろう。
そして『悪食の魔石』は属性としては『吸収』、つまり自らに取り込む行為なので『黒』になるわけだ。
その上で『魔石食い』の隠された要素に話を戻すと。
―――『黒』の属性を持つ『悪食』を使用して『魔石』を食らうと、その『色』に対応した能力の『成長率』に補正がかかるのだ。
『オレ』の知識の中にあるポケットの中のモンスターなゲームで例えるならば『魔石食い』によって任意の『個体値』を後付けで盛れる、ということだ。
レベルの話をした時にも言ったと思うが、このゲームにおけるステータスは『レベル×成長率』で求められる。
つまり成長率とはステータス値の才能であり『魔石食い』をすることでその才能を伸ばすことができるのだ。
この成長率の後天的な上昇と魔法をいくらでも覚えることができるという特性、この二つを合わせると時間をかければ最強のスペックを持ち、全ての魔法を使用できるプレイヤーキャラが誕生する。
―――これが仕様だというのだから、公式チートなんて呼ばれる所以である。
プレイヤーキャラの各ステータスの
つまり俺がこれからやることがそれだ。
山に行って魔物を倒す、そして魔石を食らい、レベルを上げながら各能力の成長率を上げていく。
さらに魔法をガンガン使っていくことで少しずつだがレベルアップ以外で魔力の最大値も伸びていくので一石二鳥どころか三鳥と言えた。
とはいえ、いずれ最強になれると分かっていても、今はまだただの弱い五歳児であることを忘れてはならない。
鬼面鼠は実際最弱クラスの魔物だが、それでももう一度出会えば死ぬ可能性は普通にある、というか高い。
なのでもう少し……せめてレベル10になるくらいまでは敵を選びながら戦う必要があった。
だが俺のモチベーションは高い。
少なくとも昨日までの絶望感はすでにない。
強くなればなるほど未来において取れる選択肢は増えていくのだ。
元より出自の時点で選択肢が狭い俺が生きるためにはとにかく強さは何よりも必要だった。
ふんす、と気合を入れながら朝ご飯の硬い黒パンを咀嚼しながら水で押し流し、腹を満たすと早速山に向かうための準備を始める。
問題は武器だろう。
槍が半ばで折れてしまっている。まあそのお陰で逆に俺の体のサイズにあっているとも言えるが、短すぎて昨日のように鼠サイズの巨体に襲われたら頼りないとしか言いようがない。
となると鼠より弱い魔物に狙いを絞る必要があるのだが。
はて、そんな魔物いるだろうか?
先も言ったが鬼面鼠は最弱クラスの魔物だ。
それでも死を覚悟したが、これが成人男性ならば剣の一振りであっさり倒せる程度の存在でしかない。
やはり五歳児という体の小ささがどうしてもディスアドバンテージになってしまう。
『オレ』の記憶の中から何か良い魔物はいないか、と記憶を掘り起こしながらリストアップしていると。
―――そう言えばあいつがいたな。
ふととある魔物の存在を思い出す。
あの山に生息しているかどうかは不明だが、探してみる価値はあるだろう。
―――ミミクリーフロッグという名の。