「ミミクリーフロッグですか……寡聞にして聞いたことが無いのですが、どのような魔物なのですか?」
首を傾げるウリアだが、まあマオも含めてこいつらは昔から街住みの連中なので知らないだろうな、と苦笑する。
「全長3メートルのどでかい蛙だよ。まあ主な生息地が自然深くの水辺だからな、俺の村の場合、川をずっと遡っていくと生息地があったし、逆に自然の少ない街の周囲には基本生息してないから田舎の人間じゃないと知らないかもな」
「そんな巨大な魔物を相手にしたんですか? 五歳の時に?」
全長3メートルという巨大さに瞠目するウリアとは対称的サリアは白々しいとでも言いたげな表情で嘆息する。
「その巨体のせいで自分で動けないというオチがなければ脅威だったかもしれないわね」
「ああ、サリアは知ってたのか」
「まあ、多少は、ですが」
サリアの言う通り、ミミクリーフロッグは全長3メートルという巨体を持つ魔物だが、その巨体のせいで自力で動けないという何とも間抜けな性質を持つ。
とはいえ魔物とて飲まず食わずで生きられるはずもない。
ではそんな彼らがどうやって餌に食らいつくかと言われると、その名前にヒントがある。
ミミクリー、つまり擬態するのだ。
「ミミクリーフロッグは川辺の泥濘に体を埋めて、周囲に擬態するんだよ。体色が泥みたいな色してて保護色になってるわけだ」
そして川に水を飲みに小動物がやってきた時、気づかず目の前に足を出した獲物に舌を伸ばし、その足や体に巻き付けてそのまま丸のみにしてしまうのだ。
「中々恐ろしいような気がするのですが」
「まあ知らなかったらな。泥の中に潜り込んでるせいで気づかず不用意に近づいてばくり、って可能性はあるんだが……」
ミミクリーフロッグにある特徴がある。
それさえ知っていれば簡単に居場所を特定することができるし、さらに言えば……。
「さっきも言ったが、土に埋まってて舌を伸ばす以外のことできないんだよ、その舌だって精々1メートルくらいしか伸びないしな」
そして極めつけに間の抜けた話なのだが。
「あいつら……潜んでる場所に上から泥被せると呼吸できなくて死ぬんだよな」
ついでに言えば蛙なのに水中で呼吸もできないので、平地で雨なんか降った日には地面に埋まったまま溺れ死ぬのだ。
あまりにも間抜けだが、全長3メートルという巨体と隠れ潜み突然襲って来るという性質のせいで動物のみならず、時々人間も食べられることもある厄介な魔物だったりする。
「ま、そんなわけであいつら倒すだけならそもそも武器とか必要無かったわけで、俺にとっては格好の獲物だったわけだ」
* * *
まず用意するのは家に残されていた『
これを『
後は解体用のナイフと護身用に半分に折れた槍を持って家の近くの川へと向かう。
村の近くを流れる川なので流れは決して急ではない。時々魚が泳いでいるので釣り道具、無いし罠があれば漁などやってもいいかもしれない。
まあそれはさておき、川を川上のほうへと遡っていく。
行きつく先は……まあ分かっていたがあの山だった。
そしてそのまま山へと入りながらしばらく進んでいくと、川の口が広がり池のようになっている場所があった。
池の周囲は緑が生え茂っているが、川の傍だからか地面は濡れている。
―――この辺いるかもな。
そう思い、周囲を見渡して小石を見つけるとそれを拾い、少し勢いを付けながら多分この辺だろうとあてずっぽうに投げる。
所詮五歳児の腕力かそれほど遠くには飛んで行かなかったが……ことん、と地面に石が落ちて。
瞬間、そのすぐ横の地面からにゅるっと長く滑った舌が伸びる。
だがその舌が石を舐めるとそれが生物でないことを理解したのかすっと戻っていく。
その戻っていく先を見やれば地面に穴が開いていることが分かる。
―――見つけた。
ミミクリーフロッグは全身が土に埋まっているのだが、ならどうやって獲物の接近を捉えているかと言われればつまりこれだ。
地面を叩く音、つまり足音などの振動を敏感に察知してそこに舌を伸ばしている。
なので穴の傍で自分から少し離れた場所にもう一度石を落とせば、またそれを足音と勘違いして舌が伸びてくる。
その舌に向けて逆手に構えた槍を振り下ろせばあっさりと槍が突き刺さり、舌から血が溢れ出す。
ぐえぇぇぇぇ、と穴のほうから汚い悲鳴が響く中、槍を引き抜けば唯一の攻撃手段へと大きな怪我を受けてしまったミミクリーフロッグはすぐさま舌を引き戻すので、そのまま穴の淵を蹴って土を落とし穴を埋め立てる。
それから手をかざし、『浄水』の魔法を魔力が続く限り発動し続けるとかざした手のひらから少しずつ水が溢れだし、穴の周りに土を濡らしていく。
『オレ』の記憶に寄れば舌が無傷だと折角埋め立ててもあっさりと舌を伸ばして穴を掘ってしまうらしいのだが、あの舌は非常に敏感であり傷つけられると痛みでのたうち回って回復のために動かなくなるらしい。
だがその間にこうして土を埋め立てて水で濡らして泥化させてしまえば回復してしまうより先に穴の中の空気が無くなって窒息してしまう。
周囲にも同じように隠れ潜んでいる可能性が高いようなので、石ころ片手に魔力が尽きてへとへとになるまで作業を繰り返していった。
最終的に追加で三つの穴を同じように処理したころになれば最初の穴を埋めてからそれなりに時間は経っている。
頃合いとしてはとっくに呼吸ができずに死んでいるだろうので最初の穴を埋めた時に突き立てておいた木の枝を目印にして穴を見つける。
一応本当に死んでいるかどうか確認のため、ステータスと呼びかけてみれば……。
名前:ルド
年齢:5
性別:男
レベル:3
体力:74/133
魔力:0/20
心力:78/99
身体能力:E
魔法適性:E+
レベルが上がっている、つまり自分の行動によって魔物を倒しているということだ。
ならば間違い無く死んでいると確信し、穴へと近寄り、その辺に落ちていた石を拾って穴の周囲の地面を掘っていく。
子供の身にそれなりに疲れる作業ではあったが、休み休み掘っていると柔らかく滑った何かが土の下から現れる。
土を払えばそこにあったのは地面の保護色になるような灰茶の滑る皮膚を持った魔物の死骸だった。
目の部分が真っ白なので死んでいる、これが生きていると黒目があるのだが、基本地面に潜っているせいで生きた状態でこいつを見たことのある人間というのは少ない。
さらにせっせと周囲を掘り、その巨体の半分を完全に露出させると早速ナイフを皮膚に突き立てる。
ぬるぬると滑って裂きづらい皮を裂いて見えるのはピンクの肉。さらにそれを切り裂くが最早死んだそれからはほとんど血が流れる様子も無くただ3メートルという巨体のせいで解体に苦労しながらも腹のあたりにあった『黄色の魔石』を見つける。
―――『
脳裏に浮かんだ表記に予想通りと頷いて魔石を持ってきた袋に入れる。
『悪食』の発動、さらに魔石の吸収に必要な魔力が足りないのでひとまずこれは後回しになるが、今日の収穫はもう一つある。
そう目の前の化け蛙である。
『オレ』の感覚だと蛙なんて食べれるか! と言いたいらしいのだが、田舎の人間からすれば蛙の肉というのは普通に食べるし、この化け蛙実は美味いのだ。
一端地面に埋まるとそこからほとんど動くことも無く、ひたすらに通りがかる獲物を食べる性質のせいで、その全身は脂がのっていて柔らかい。そして良く動く舌は肉厚で弾力がありながらも柔らかく、薄くスライスした舌はコリコリとした触感を持ちながら噛めば噛むほど味がにじみ出る高級食材の一つだ。
『オレ』のゲーム時代の記憶では、街で買うとそれなりの値段になるくらいの高級素材……とまでは行かずともちょっとした贅沢くらいの位置付けの食材らしく、売ればそれなりの値段にはなる。
正確には味などは高級食材にも劣らないのだろうが、慣れれば子供でも殺せるくらい簡単に手に入る上に一体一体が超巨体で大量の肉が手に入る。
ただし山や川辺など手に入る場所が人里から離れている、という諸々の条件から値段が上下しまくって最終的にやや贅沢、くらいに落ち着いているらしい。
要するに美味いのだ。
こんな田舎村で食べれる食材としては贅沢過ぎるくらいに。
何より肉である。こんな田舎村で肉は貴重な食糧だ。俺とて父親が狩りで取って来るからこそ時折食べれたが、それでも毎日食べれるほどでは無かった。それが普通なのだ。
記憶の中の『オレ』の常識が忌避感を示しているが、そんなもの忘れてしまうくらいに目の前の肉に対する俺の期待感は高い。
とはいえこんな巨体持って帰れるはずもないのである程度剥ぎ取ってあとは埋めるしかないだろう……放置してたら他の厄介な魔物がぞろぞろとやってきかねない。
―――取り合えず今日はここまでだな。
まだ日は高い、昼頃と言ったところか。
だが魔力が空っぽになってしまった以上ここまでだろう。
勿体ないようにも感じるが、魔力が成長するまでは我慢するしかない。
それでもまた今日も生き延びた、そして強くなった。
その事実に心の中でガッツポーズを決めながら残りの三匹の魔石を剥ぎ取り、家に帰って行った。