うちの姫様はチョロ可愛い   作:水代

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閑話:時には昔の話をしようか

 

「村のほうで何かあったのか?」

 

 村のほうが随分騒がしい。

 家を出てすぐにそのことに気づく。

 

 俺の家は村から外れたところにあるとはいえ、別にそれほど離れているわけでは無い。村から山へ向かうための坂道の途中といったところ。

 なので俺の家から下にある村の様子は簡単に見えるのだが、どうにも村の中心部に人が多く集まっていた。

 

 普段から村と交流が途絶しているのでもしかしたら前持って何がしか村へ通達があったのだとしても俺には分からない。

 故にこうして村のほうを見て何をやっているのか観察しているわけだが。

 

 そんなことをしている村のほうから数人こちらのほうへとやってくるのが見える。

 

「……何の用だ?」

 

 村人がこちらへとやってくるのは正直初めてのことだ。

 村で作っている田畑などは反対側の平地にあるし、川だって下流が村の傍を流れているし、山は村を半分覆うようにして広がっているので別にこちら側からでなくとも入ることはできる……まあ魔物の(たむろ)する山を平然と歩いているのは俺くらいのものだが。

 

 つまり基本的にこちらへやってくる理由なんて俺の家を訪ねる以外に無いのだが、両親が生きていた頃からの記憶も含めてもこの十二年一度たりとも村人がこちらへとやってきたことは無いのだ、不審に思うのも当然だろう。

 

 そうして近づいて来る人影。

 その一人は見覚えのある顔だった……村長だ。

 そうしてあと二人、一緒にやってくるのは……。

 

「……兵士?」

 

 簡素な鎧兜をつけて腰に剣を刺した人間が二人。

 俺は初めて見るが『オレ』の記憶が教えてくれる、どこかの国の兵士だろう、と。

 同時に『オレ』のゲーム時代の記憶から大よその事情も察する。

 

「徴兵イベント、か」

 

 

 * * *

 

 

 IFSというゲームは以前も言ったようにゲームを最初から開始するごとに新しいシナリオが作られる。

 同時にプレイヤーは自身の分身となるプレイヤーキャラクターを作ってそのシナリオに参加するTRPGような形式なのだが、大抵の場合プレイヤーキャラクターは初期設定としてどこかの国家に所属している。

 

 放浪者、旅人、大罪人など国家に属さない、或いは属せない設定もあるにはあるが、それ以外なら基本的にはどこかの国の国民としてスタートする。

 

 そしてゲームシナリオ上、国家間の戦争なんてものはいくらでも起こり得るためそのための軍隊というものが各国には存在するわけで、当然軍隊……兵士を増やすために徴兵というものが行われる。

 

 兵士に関しては自ら城などの行政機関へ赴いて志願することでもなることができるが、徴兵イベントを得て強制的に連れていかれることも多い。

 特に農村など街から離れた地域ほど起こりやすく、同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり村の住人から疎まれている俺のような存在は真っ先に徴兵に差し出されるわけだ。

 恐らく去年まで無事だったのはこの国が徴兵の『12歳以上』という条件をつけていたのだろうと予想できる。

 戸籍などというものは無いのでいくらでも改ざんできそうではあるのだが、同時に『鑑識(アナライズ)の魔石』などがあれば一発で年齢を確認できるので嘘をついてもすぐバレる。

 

 やってきた村長は案の定俺を兵士たちへと差し出し、徴兵に連れていくように告げた。

 

 勝手に決めるなと言いたいところだが、『オレ』の記憶の中にあるような文明の進んだ国家と違い、この世界は村のことは村長にある程度の決定権があるため、行け、と言われれば俺はそれに否とは言えない。

 言ってしまえばもうこの村には居られない、どこかに逃げる必要があるし、徴兵から逃げたとなればもうこの国にも居られなくなる。

 

 まあ別にそれはそれで他所の国でいくらでも生きられる自信はあるので構わないのだが、逆に兵士になれば国から多少の給金が支給されるし、何より衣食住が安定するのが大きなメリットだった。

 

 『オレ』の記憶によればせまっ苦しい兵舎に住まわされ、糞不味い食事を食わされ、使いまわしの古着を与えられるらしいが、兵舎に備え付けられた古びたベッドだろうと板張りに布を敷いただけのような今のベッドよりはマシだし、糞不味い食事だろうが魔物の肉とその辺の野草を『悪食』を使ってどうにか消化しているだけの現状よりはよっぽど健全だし、何より使いまわしの古着だろうが7年使いまわして着古した今のぼろ着よりはマシだと思う。

 

 環境的には総じてメリットのほうが大きいが、戦争となったら真っ先に使い潰されるデメリットもある。

 ただその辺は強くなれば何とでもなる範疇である。

 『オレ』の記憶にある世界のようにボタン一つでミサイルが飛び交い、引き金一つで銃弾が交差するような戦場ではなく、主武装が剣や槍、弓、或いは魔法といった世界だ。

 今のままレベルを上げていけば早々に死ぬようなことは無いだろうと思う。

 

 あとはそのレベルを上げる時間があるのか、ということだが効率的には悪いが普通に訓練するだけでも多少はレベルが上がるらしい。それにこの世界の軍隊はレベル上げのために魔物対峙の遠征を行ったりもするらしいので、レベルが全く上がらないということは無いだろう。

 

 まあ総じていうなら現状と比べて悪くない、といったところか。

 

 そう結論を出すと、徴兵にやってきた兵士に素直についていき……。

 

 去り際にこれまでの仕返しとばかりに村長のケツに蹴りを入れた。

 

 

 * * *

 

 

 徴兵で募集した兵士ってどうやって連れて行くんだろうって思っていたのだが、まさかの徒歩だった。

 いやまあ、木っ端の末端兵士のためにわざわざ乗り物用意してくれたりはしないよね、とは思うがそれにしても……。

 

 因みに宿はあった。

 というか最寄りの街の兵舎で寝かされた。

 

 最悪野宿なのでは、とも思っていたのだが村から集めたばかりの人間で兵士としての何の訓練も受けてないのだから野宿させても何もできないだろう、とのこと。

 

 また徒歩とはいえ、国の兵士がわざわざ村まで来て道中の案内してくれるのも不思議だったのだが、基本村人なんて国どころか周辺地域の地形すら知らないのに兵士募集してるから城まで来いなんて言ったところでそこどこ? となるため仕方が無いらしい。

 

 途中で少しだけ今回徴募に来ていた兵士の一人と話す機会があったのでそんなことを聞いた。

 

 食事に関しては……うん、まあ乾パンみたいなのと薄味の豆スープ、それに水が一杯と寂しい内容だったが、まあ無料(タダ)なわけだし、と思いながら家から持ってきた魔物肉のジャーキーを食べて物足りなさを補っていたら他のやつらに見つかって仕方なく分けることに……見事全部食われた。暇があったらまた作っておこう……多分この先ずっとこんな食事な気がする。

 

 村では半ば村八分にされていたせいで同年代の子供と遊ぶことどころか会話することすら無かったのだが、徴兵された人間たちの中にはそれなりに同年代の子供たちも居て道中で色々と話をしていた。

 中でも俺が山に入って魔物を狩っていた話は中々に受けたらしくなんか微妙に尊敬の眼差しを向けられてくすぐったい感じがした。

 

 村を出てから一週間。

 途中の村によって追加の徴兵が行われたりしながら少しずつ人数が増え、俺の村を出た時は10人ほどの集団だったのがいつの間にか100人規模の集団となっていた。

 聞いた話によれば同じような集団が国中あちらこちらからやってきて最終的には2000人程度の徴募となる予定らしい。

 

 さらに3日ほど過ぎた頃、ようやく目的地らしい王都の街並みが見えてきた。

 

 セント・トライアド。

 

 それがこの街の名前であり。

 

 トリニティア城。

 

 それが街の最奥に聳え立つこの国の行政機関がある城の名。

 

 そして―――。

 

 トライアド聖王国。

 

 それが俺の住んでいるこの国の名前らしかった。

 

 

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