栄冠は灰色に輝く   作:笛とホラ吹き

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35:都大会準決勝 王明高校⑦

 8回表。

 先頭打者の沢滝が敬遠で出塁し、2番・中島が四度目の打席に入る。

 

 王明の投手は変わらず一年生の吉田天亮。下位打線は吉田の変則フォームと細かく動く変化球を前に打ちあぐねていたが、上位打線はこれを攻略できるだろうか。できなければ負けだ。

 

 ──大丈夫、無理に打ちにいく必要は無え!

 

 塁に居るのは沢滝だ。中島は初球から無理やり打ちにいくのではなく、沢滝が盗塁して最低でも二塁まで進むのを待つことに決めていた。

 盗塁が決まるまでは、変に当たってしまうかもしれないので絶対にバットは振らない。その時が来るまでジッと待ち続ける。点差を縮めたいと逸る心を落ち着け抑え込みながら。

 

「走った!」

 

 沢滝は初球から走った。吉田のクイックは完璧だったがそれでも間に合うタイミング、何ら危なげ無く得点圏へ到達する。

 ランナー二塁となった2球目。三盗を警戒して牽制が多く中々次を投げられない。まだか、まだかと待っていると五度の牽制を経て漸く投げられる──ところで沢滝がまた走り出した。

 

「んな……ッ!?」

「こ、の……調子、乗ん、なッ!」

 

 二盗よりも難度の高い三盗、しかし沢滝はこれも問題無く成功させる。たった2球でノーアウト三塁の状況を作り出したことで、得点できる可能性は大幅に高まった。一応ツーストライクなので、空振りさえしなければの話であるが。

 

「相手のどこを見て走ってるんだろ……?」

 

 易々と盗塁を成功させる沢滝を見て、晴真は参考にしようと眼を凝らしたがどうにも分からない。何処の何を見ればあんな躊躇い無く走れるんだ?疑問だけが増すばかりであった。

 ベンチからではなく、塁に出れば見えるものがあるのだろうか。沢滝が生還したら取り敢えず聞いてみよう……そう思う晴真であった。

 

「ぐう……ッ!」

 

「引っ張った!けど……!」

「勢いが強過ぎる……これではホームゲッツーになりかねんぞ!」

 

 その後2球のボールを経た5球目。中島はチェンジアップをどうにか捉えたものの、引っ張った打球は弾道が低く、細かく勢い良くバウンドするセカンドゴロとなってしまう。

 平凡なゴロなら本塁が間に合ったかも知れないが、相手は堅守の王明高校。トンネルなどエラーをすることも無く、強い打球は寧ろ処理が早くなるので得意な部類。完璧で無駄の無い捕球→姿勢制御→送球の一連の流れを見せる……が。今本塁を目指して走るランナーは沢滝零士であった。

 

「十分」

 

 王明が完璧な守備を見せるように、彼もまた完璧な走塁を見せていた。

 

 リードを広く取って自身へ警戒を割かせ、ホームでの刺殺を狙う前進守備を更に尖らせる。

 それは、相手に『打たせて取る』という選択肢を与えるため。中島が三振してしまえばただアウトを一つ献上するだけになってしまう、だから『自分をアウトにしたい』と思わせることで、当てやすい球を投げるように誘導したのだ。

 

 そして、そう来ると分かっているなら走るべきタイミングは勿論分かる。

 投手が投げる瞬間。ここまでと同じように本塁を盗むように走れば良い。自分自身を餌に使った思考誘導と、打てそうな球がきたら迷わず振りにいくよう育てた仲間への信用。その複合には、王明の澱み無い完璧な守備でさえ──

 

「セーフ!」

 

「3点目ェ!」

「また一点差だ!」

 

 ──間に合わない。

 

 沢滝は送球を受け取った捕手が触れようとするのをしっかりと躱し、ホームベースに触れた。これにより再び点差は1点に縮まる。

 打った中島も、王明の守備が本塁に注目している間に一塁へ到達する。こちらもセーフとなり打席結果は内野安打タイムリーとなった。

 

「ま、間に合ってよかったわぁ……」

「まったく、心臓に悪い……!」

 

『3番 ファースト 青木君』

 

 ここで回るのは無安打の青木。力の入る場面ではあるが、まだノーアウトなので落ち着いて臨んでほしいところだ。ゲッツーの危険があるとはいえ、恐れずにヒットを狙ってほしいものだが……

 1球目はアウトローへのストレート。外れると踏んで見逃すもストライクを取られてしまう。続く2球目は内角の球に手を出したが、それはカットボールであり芯を外れてファールに。

 

 ──ん?もしかして、コイツ……

 

 3球目はチェンジアップ。打ちにいきそうになるがどうにか堪えてボール。4球目はアウトハイの釣り球に手を出してしまうも、何とかバットに当てて空振りは免れた。

 

 ──俺を、見てない?

 

 一塁の中島が、ここでふと気付く。沢滝にはあれだけしつこく牽制をしていた吉田が、自分に対しては一切牽制をしてこないということに。

 舐められている?打者3人で終わらせるから気にしなくて良いと思われている?それともそうやって油断させたところで狩る心算?

 

 ──やっぱコイツ、俺が眼中に無え!

 

 確認のため、リードを広げて牽制が来るかどうかを確かめてみる。盗塁を警戒しているのなら間違いなく牽制する、しかも左投手の吉田には見え見えの行為のはず……だったのだが。吉田は牽制球の一つさえ投げること無く、向かい合う青木との対決だけに注力していたのだった。

 そうと分かればもう、躊躇う理由は無い。5球目は内角へのストレートでファールだった、次は外への緩い変化球を投げてくるはず……それも、カウントにはまだ余裕があるのでストライクからボールになるような変化球を。そこを突いて走るのだ。

 

 ただ、中島には沢滝のような完璧なスタートを切れる技術や眼がある訳ではない。そこにはどうしてもある種の山勘が介在してしまう……が、それでもイケるはずだと信じて走る。

 

「……」

 

 待つ。まだ投げない。

 

「……」

 

 待つ。まだ投げない。

 

 ──まだかよ……

 

 待つ……脚が、上がる。

 

「いっ……け!」

 

「走った!?」

「タイミング完璧……!」

 

 吉田の投げるタイミングと、中島が走り出したタイミングが完璧に噛み合う。中島に足は無いと高を括っていた吉田は驚愕するも、落ち着いて球を外し捕手が刺しやすいように投げた。

 ウエストを掴み、右手で握り直し、そして二塁で待つ小野寺に送球……小野寺が捕球するのと中島が二塁に触れたタイミングはほぼ同じ。判定は塁審に委ねられることとなるが、果たして。

 

「セーフ!」

 

「やった……!」

「盗塁成功だ!」

 

「へへ……やったぜ……!」

 

「やってくれたな……よし、俺も……!」

 

 盗塁を成功させ、二塁の上で拳を突き上げる中島を見て青木も士気を上げる。

 カウント2ー2。ここまでファールで何球か粘っているし、ランナーも得点圏まで進んだ。アウトを欲しがるなら三振を狙ってくるはず……ならば、何を投げてくるだろうか。

 

 ストライクからボールになるような、狙いが見え見えの変化球なら見逃せる。ストレートとチェンジアップは触れているし、向こうが投げるのを避けるだろう。

 ツーシームだ。次にくる球は恐らくツーシーム。ストレートに見せかけた変化球で、空振りさせにくるはずだ。そこを狙い打つ。

 

 ──沢滝が教えてくれた、基本に立ち返れ。

 

 懐まで呼び込んで叩くとか、変化し切ったところを逆らわず流すとか、そんな難しいやり方は沢滝には教わっていない。

 バッティングに関して、沢滝から教えてもらったのはこれだけだ。ストレートでも変化球でも関係無く、身体の前で捕まえて──

 

「あ……」

 

 ──強く、振る。

 

 まずはフルスイングするところから。中島が二塁に到達してゲッツーの危険が無くなったことで、その基本に立ち返る余裕が生まれた。

 放たれたツーシームが変化し切る前に、正面で捉えて強く引っ張る。弾道こそそこまで高くはならなかったものの、フルスイングしたことで打球はぐんぐんと伸びていき、そして……

 

「う、そ」

「逆、転……?」

 

 レフトスタンド、人の居ないベンチへと鋭く突き刺さっていった。

 ツーランホームラン。ここまで無安打だった青木の一発が、慧峰高校を勝ち越しに導いたのだ。

 

「……?」

「何呆けてんだ、喜べ喜べ!」

「逆転ホームランだぞ!?」

「そ、そうだよな……?」

 

 打った本人すら実感の湧かない最良の結果。慎重に塁を踏みベンチに帰ってきて漸く、今自分はホームランを打ったのだと自覚するが……あまりにも出来た結果過ぎて喜びより困惑が勝る。

 

「ナイスバッティング。素晴らしい結果だったぞ」

「沢滝……」

「僕も続きますよ!」

「御影……!」

 

 一年生二人による、裏も何も無い賞賛の一言。それを受けて初めて、青木は全身を震わせた。

 自然と手が力強く握り締められる。脳が、全身の筋肉が喜びに打ち震える。歓喜の叫びが溢れるまでそう時間は掛からなかった。

 

「……ッしゃあ!」

 

 ──よし、僕も続くぞ……

 

 青木の喜びようを見て、それに続かんと張り切る晴真であったが。彼は申告敬遠を食らい強制的に一塁へ立たされてしまう。

 こうなったら盗塁をしてやろうと、何度も試みようとはしたのだが。王明の晴真への警戒度は中島の時よりも段違いに高く、一向に一塁から足を離すことすら叶わない。

 

「アウト!」

 

「アウト!」

 

 ──ど、どうやって走ってたの、沢滝君……?

 

 結局、6ー4ー3の併殺となり、速攻で塁上から締め出されるのであった。

 その後、6番・小林も三振に倒れあっという間にスリーアウト。5ー4と慧峰高校1点のリードで8回裏に回る。そしてここで沢滝は選手の交代とシートの変更を告げた。

 

『慧峰高校 選手の交代とシートの変更をお知らせします』

 

「頼むぜ、エース」

「任されました」

 

 沢滝がキャッチャーに。佐竹がファースト、青木がセンターに移動し、ショートにはベンチから二瓶が入る。

 そして、ピッチャー……棚原からボールを託されて晴真がマウンドに上がった。160キロを投げるエースのお出ましに、球場全体から期待と絶望の入り混じった歓声が響き渡る。

 

「あと2回、抑えて見せましょう」

「一つ一つ、落ち着いていくぞ」

 

 ──まずは、先頭打者から……

 

 8回裏、王明高校の攻撃は1番・石神から。普段は高い出塁率を誇る彼だが、今日の試合ではまだ一度も出塁できていない。1番打者としての役割を果たせていない彼は、試合最後もあり得るこの打席は死に物狂いで臨むだろう。マウンドからでもその気迫の強さはありありと感じられる。

 だが、それだけだ。晴真の豪速球は気合だけで打てるような代物ではないし、その前に登板していた二人は変化球で躱すタイプの投手。いきなりの変化にすぐに対応できる程、人間……高校生は器用にできてはいないということを理解させられるだろう。

 

「ストライク!」

「は……?」

 

 初球、インハイへのストレート。右打者の胸元を抉るクロスファイヤー気味に放たれたそれを、石神は眼で追うことすらできなかった。

 晴真にしてみれば、ただの一球。だがその一球で打者の心をへし折る力が彼にはあった。

 

「ストライク!」

「ッ……!」

 

 2球目、アウトローへのストレート。要求されたコースよりはだいぶ甘い球だったが、石神はそれにバットを振る素振りすら見せられない。

 

「俺を、舐め──」

 

 3球目。もう一度同じコースを指示され、今度は狂いなく要求通りのアウトローへ投げ込む。

 石神もプライドを賭けてバットを振るが、闇雲なスイングに捕まるような球ではない。全くタイミングを合わせられず、全球ストレートでの空振り三振となった。

 

「ストライク、バッターアウト!」

「冗談だろ、こんなの……」

 

 そのまま2番・松原も三球三振に抑える。ここまで一度もバットに掠られすらしていない、相手にしてみれば絶望感に溢れるピッチング。そしてまるでそれが当然だとでも言わんばかりの、落ち着いたマウンド上での佇まい。王明の応援団はその本文を忘れ静まり返ってしまっていた。

 

『3番 ライト 矢端君』

 

 ──まったく、アイツら……監督から変化球を狙えって言われてるのを忘れやがって。

 

 打席に立ちながら、矢端は監督から事前に受けていた指示を振り返る。

 

 狙うはストレートではなく変化球。ストレートは当たれば飛ぶだろうが、そもそも速過ぎる上にノビも強く当てることは難しい。しかし奴の変化球はどちらも沈む変化、しかもストレートと違う軌道であることが分かりやすい大きな変化球だ。

 見逃せばボールになるし、枠の中に収めようと思えば変化やコースはある程度妥協せざるを得ない。そこを狙い打つのだという指示であった。

 

 当たらないストレートよりも、ワンチャンを掴める変化球を狙う。

 

 あの球速を相手に、口で言う程簡単な仕事になるとは勿論思っていない。だが、矢端にも名門・王明高校打線でクリーンナップを務める強打者としてのプライドがある。

 このプライドに賭けて、必ず御影晴真を打ち崩して見せようではないか。決意の第四打席──

 

「ストライク!」

 

 ──その決意を打ち砕くような一球。

 

「やっべえな、マジでよ……」

 

 見えるか、こんなの。そう愚痴りたくなるような強烈なストレート。元々見逃す予定の球だったとは言えあまりに速過ぎる。

 矢端はすぐに予定を変更した。狙い球を絞るとかそんなことは残念ながらできそうに無い。せめて奴がもう一年は投げていてくれたら、データも増えて希望は見えていただろうが……今それをやるのは自分の腕前では無理だと結論付ける。クリーンナップのプライド?そんなものは1球目の時点で粉々に打ち砕かれた。

 

 ならば、どうすべきか。

 

「ストライク!」

 

 勘に頼る、と言うと少し格好悪いか。もう少しマシに聞こえるように言い換えてみよう。

 

 ──眼では追えない、なら……!

 

「当てた!?」

 

 ──奴の投球に、『反射』しろ!

 

 投げられる球ではなく、晴真自身を見る。何処を見ているのか、どんなフォームか、次に投げたいのはどんな球だろうか?思考を巡らせ次にくるだろう球をある程度予測し、晴真の投球に合わせて反射的にバットを振る。

 予測が間違っていれば、ただ見当違いの空振りをするだけという危険な作戦。少なくともツーストライクからやるものではない。だが、矢端はこの博打に打ち勝って見せた。打球はサードの頭を超えてフェアゾーンに落ち、レフト前ヒットとなる。4番の打席を前にして、王明は勝ち越しの望みを繋ぎ止めて見せたのだった。

 

「あ、危なかった……」

 

 心臓がバクバクと高鳴る。こんなギャンブル的なスイングは二度とすまい……矢端は一塁上で息を整えながらそう心に誓った。

 

『4番 セカンド 小野寺君』

 

 そして、来る。

 慧峰にとっての最後の試練。彼を打ち取ることができたなら勝利は決まったも同然だ。だが、打たれたらまたしても勝ち越しを許すこととなる。9回の攻撃は下位打線から……そうなればもう、再度の逆転は厳しいと言わざるを得ない。

 

 ここで必ず、小野寺渉を打ち取らなければ慧峰の勝利は無いと言っても過言ではない。

 それがどちらにも分かっているからこそ、マウンドの晴真も打席の小野寺も、両者共に互いを食い殺さんと鬼気迫る表情になっていた。

 

「タイムお願いします」

 

 ここで、沢滝が一度空気を切る。

 気負い過ぎは良くない。前の打席の棚原は張り切り過ぎてコントロールを誤り、その結果ソロホームランを被弾してしまった。今それをやられる訳には絶対にいかない。沢滝はこういう時は必ずタイムを取って空気の流れを変えるのだ。

 

「やはり、クリーンナップともなると一筋縄ではいかないか」

「うん……練習試合ではともかく、公式戦で打たれたのは初めてだよ」

「今の内に慣れておけ。これから先、何度も何度も抑えて打たれてを経験していくんだからな。先に行けば行く程、相手は強くなるしこちらの手の内も研究されて裏をかかれやすくなる。一々打たれる度に騒いでたら心が保たんぞ」

「……大丈夫だよ、ありがとう。あとさ……」

「何……?」

 

 晴真が沢滝に希望を伝える。どうやら何か作戦のようなものがあるらしい。

 沢滝はそれを聞き、もの凄く苦しそうな表情になるが少しの葛藤の末に「初球だけだぞ」と許可を出した。呆れたような口調であった。

 

「大丈夫。僕、結構器用だからさ。君もそれは知ってるでしょ?任せて」

「……なら、良いんだがな」

 

 なら、良い。そう言って沢滝はタイムを終え持ち場へ戻って行った。

 改めて、打席の小野寺と対峙する。3番に打たれてしまった以上、4番の小野寺に打たれないなんて楽観的な考えはできない。

 

 ──集中しろ……

 

 集中力を高めていく。視野が広がる。広がった視界の端で、矢端が盗塁を試みようとリードを広げているのが見えた。

 アレを牽制死させることはできるだろうが、しかし晴真はそれをしないと決めた。ここで矢端を刺してアウトを取っても、それは小野寺との対決を先延ばしにしただけに過ぎないからだ。

 

 確実に、仕留める。

 沢滝のリードを信じる。右脚を上げ、前へ踏み出し身体を前方へ。関節から関節へ無駄無く踏み込んだ力を伝導し、指先へ伝える。そして投げる──胸元を抉る、クロスファイヤー。

 

 小野寺はバットを振った。矢端と同じ、狙い球を定めず晴真の動きに反射するスイング。

 あのバッテリーは強気だ。ボール球を無駄に投げてはこないし、インコースへも臆さず投げてくる。きっと最初はインコース……そう信じて、バットを指2本分短く握り、脇をしっかりと締めて、内角の球を打つスイングをした。

 

 ──打てる……ッ!

 

 予想はドンピシャ。間違い無くジャストミートするタイミング。このまま振り抜けば二打席連続のホームランは間違い無い……はずだった。

 

「ッ……!?」

「振ってくれて、ありがとう」

 

 ──信じてたよ。貴方なら当てに来るって。

 

 ドンピシャでミートしたはずの球がブレる。芯を外れ打ち損じた球が正面へ転がっていく。いったい何が起こったのか小野寺には理解できず、動き出しが遅れてしまったのを晴真は見逃さなかった。

 晴真が投げた球は、ストレートではなくカットボールであった。吉田天亮の投球を見て思い至った小さな変化球の必要性、そして自分に投げられそうな該当する変化球は何かと考えた結果思い至った、先輩二人が投げる同一の球。

 

 成功するという、確信があった。

 自分では試したことは今まで無かったが、森園と棚原の努力を晴真は直に見て知っている。握りはどうすれば良いのか、腕の振りは、何処に投げるのが効果的か、ストレートに球速を近付けるにはどうすれば良いのか……それを参考にできたのだから。

 

「ファースト!」

 

 ゴロを捕球し、慎重に送球。ファーストの佐竹がこれをしっかりとキャッチ。ピッチャーゴロで8回裏を終わらせたのだった。

 

「御影ェ!やりやがったなお前ェ!」

「す、すいません。先輩達の努力を参考にすればイケると思って……成功してよかったです」

「まったくだ。結果成功したからよかったものの、もし曲がらなかったら逆転されていたぞ」

「はい、仰る通りです……」

 

 慧峰陣営が沸き立つ中、ランナーだった矢端と抑えられた小野寺はその騒ぎを見ていた。

 

「やられた、か」

「ぶっつけ本番らしいぜ、今の球」

「マジか」

「大した奴だよ、なぁ?」

 

 抑えられた悔しさ。一発勝負をものにして見せた度胸への敬意。色々と感情はあるだろうが……

 

「行こうぜ、守備」

「俺らが折れちゃ、本当に負けだもんな」

 

 その眼からはもう、勝利を目指そうという闘志はほぼ消えかけていた。

 打席でも感じていた、ここで打てなければもうダメだろうという予感。それが自分の不甲斐無さのせいで現実になってしまった。正確にはまだ終わった訳ではないが……9回はもう、消化試合のようなものである。

 

「ストライク、バッターアウト!」

「やっぱ、ダメ……か」

 

 9回表、慧峰高校の攻撃を三者凡退に抑えた王明高校の裏の攻撃。先頭打者の5番・大城が内角低めのツーシームを空振り三振に抑えられる。

 6番・浜本はストレートを振りにいくも、バットに当てられず三球三振。7番・漆原はツーストライクから次のボール球を見送り、ストレートをファールにして粘りを見せるが……

 

「ストライク、バッターアウト!ゲームセット!」

 

 5球目、アウトローへのチェンジアップに翻弄され空振り三振に倒れる。ここで試合は終わった。

 

「整列!5ー4で、慧峰高校の勝ち!」

「ありがとうございました!」

 

 最終スコア、5ー4。

 慧峰高校の勝利と、56年振りの決勝進出が確定した瞬間であった。




 八千代戦と同じ話数までで終わらせたかった
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