栄冠は灰色に輝く   作:笛とホラ吹き

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36:戦いの後

「悔しいけど、良い試合だったよ」

「決勝、俺達の分まで頑張ってくれよ」

 

 試合後。

 王明のマネージャーから、勝者に受け取ってほしいと彼女らが折った千羽鶴を渡される。本来なら主将である沢滝が受け取るところだが、その時は近くに居なかったので代わりに晴真が受け取った。

 

 ──物理的にも精神的にも重いなぁ、やっぱり。

 

 この夏に懸けた彼ら、彼女らの想い……今となっては無念の詰まった千羽鶴。

 こうして受け取ったのは初めてではないけれど、やはりその重みには圧倒されてしまう。先輩達がこういうのを重荷に思うのも、こうして受け取ってみると共感できてしまった。

 

「……対戦、ありがとうございました。王明の皆さん気持ちも一緒に、甲子園へ連れていきます。千羽鶴、ありがたく受け取らせて貰います」

 

 それでも、受け取ったからには晴真にできることはこの想いを甲子園まで連れて行ってやること。

 勝たなければならない理由が増えていく。中学で水泳の日本一を獲った時とはまた違う、一発勝負が続くトーナメントで勝ち進むことの意味。晴真はそれを直に実感したのだった。

 

 ──次も、勝つんだ。

 

 

 ────────────────────

 

 

「さぁ、反省会の時間だ」

「反省する点が多過ぎるな……」

 

 試合が終わり、学校に帰ってきた慧峰の面々は休息もそこそこに反省会に入った。

 最初から最後までずっと活躍していた一年生二人はともかくとして、二・三年生は腑抜けてまともに働けていなかった序盤・中盤は省みなければならない部分だらけ。

 

「確かにそうだ。攻撃の面ではな」

「え?」

 

 二・三年生は不甲斐無かった。それは攻撃面に関して言えばその通りであるのだが、守備に関しては実はそこまででもない。

 失点は4点。その内ソロホームランが2本とタイムリーヒットが2本、そしてエラーは失点に関わるにしろ関わらないにしろ一つも無かった。

 

 点を取られてしまった時も、沢滝がその都度フォローを入れていたとは言え引き摺らず後続を切ることに成功できている。

 4失点は確かに少なくはないが、殆ど最小失点で炎上を防げていたことは今回の勝利に大きく影響していたと言っても過言ではない。守備に関しては寧ろしっかりと仕事をしていたと言えた。

 

「1イニングの失点が最大でも2点。被安打の多さを考えれば、それ以上に点を取られてもおかしくなかったが。それでもこれだけに抑えることができているのは間違い無くお前らの功績だ。胸を張れ」

「それに、試合を決めたのも青木先輩のホームランでしたからね。この試合の主役は皆さんでしたよ」

「そうか……」

「俺達、頑張ってたんだな……」

 

 明確に言葉にされて、自分達はちゃんと戦えていたのだという実感が漸く湧いてくる。

 守備ではエラーもなくビッグイニングを作られることを阻止し、攻撃では慧峰の5得点の内4点を一年生の力を借りずに取れた。

 

 この準決勝、沢滝は全打席で敬遠され攻撃では殆ど仕事をできておらず、晴真は打ってこそいるものの打点は1点のみ。守備での貢献こそ二人とも大きいものの、二・三年生に花を持たせるというのを抜きにしても、実はこの試合それ程活躍できてはいないのである。

 この試合は上級生で勝った。その事実は彼らの見失いかけていた自身と覚悟を再び確かなものとする。

 

 これ以上醜態は見せない。

 発破を掛けてくれた後輩達に報いるべく、自分達の夢である甲子園出場を現実のものにするべく、彼らは再び闘志を奮い立たせるのであった。

 

「ありがとう、沢滝、御影!」

「お前らのおかげで、俺達はもう一度甲子園を目指して戦おうと思えるようになった!」

「もう勝つことへの後ろめたさからも、勝ち続けることの重圧からも逃げたりしねぇ!」

「甲子園に行きたいんだ……だから決勝、もう一度お前らの力を貸してくれ!」

 

 立ち上がり頭を下げる先輩達の前に移動し、晴真も同じように頭を下げた。

 

「こちらこそ、最後までよろしくお願いします」

「ここまで来て投げ出させはしないさ。甲子園には必ず連れて行ってやる」

「御影……!」

「沢滝……!」

 

 決意を新たに、慧峰高校野球部の面々は決勝に向けて心を一つに纏めた。

 もう潰れることも、揺らぐことも無い。2日後の試合には万全の精神で臨めるだろう。

 

「さて、覚悟も決まったところで決勝の相手がどんな奴らかを見ていくぞ」

「……そっか、もう」

「俺らの次の試合がそうだったんだよな」

「何処が勝ち進んだんだ?」

 

 反省会はそこそこに、次は決勝に向けた相手校の対策会議が始まる。試合は明後日であり今からでは大それたことはできないが、相手の情報の有無だけでも戦いやすさはかなり変わる。情報を共有するだけでも価値のある時間だ。

 自分達とは逆の山で行われた準決勝、猛士高校と双子山工業高校の試合。保護者の協力の元録画して貰った映像を確認しながら、次の対戦相手となる高校の特色を暴いていく。因みに勝ったのは後者──双子山工業高校の方である。

 

「始まった」

「何というか……厳ついのが多くないですか?」

「双子山工業……『フタコー』と言えば、都内でも有数の不良校として有名だからなぁ」

「そんな奴らが都大会を勝ち進んできたのか」

「ルー○ーズかな?」

 

 どうでもいいことを語りながら、試合を早送りも交えつつ追っていく。

 先攻の猛士高校が初回から4番のツーランホームランを含む3点を先制し追いかける展開となるも、先発はそこから立て直し以降を無失点で切り抜ける。

 

「めっちゃブンブン振ってくるな」

「ありゃ当たれば飛ぶぞ……あっ三振」

 

 裏の攻撃ではどんな球にも全力のフルスイングで長打を狙い、塁に出れば積極的に特攻にも似た走りで次の塁を狙う。

 勿論そんなギャンブル的な攻撃がそう上手くいくはずも無く、何度も三振や盗塁死を繰り返していたがその分成功した時のリターンは大きい。偶の成功を確実にモノにして、細々とした得点ながらも着々と点差を縮めていく。

 

「あっ、また打たれてる」

「炎上してんな……その割に堪えてなさそうだが」

 

 その後も打って打たれてを繰り返し、2点ビハインドで迎えた9回裏。ここまで7失点のエースが失点を取り戻すタイムリーで同点に追いつくと、その後に四球を挟んでのトドメとなるサヨナラスリーランホームランでゲームセット。

 最終スコア、7-10。決勝の相手は双子山工業高校で確定した。こちらは野球部発足から初の決勝進出である。

 

「さて、これを見てどう思った?」

「すっごいガラが悪い」

「ピッチャーが厄介そうだった。打たれてたけど」

「あんだけブンブン振って走ってくるとなると、投げる側としては大分プレッシャー掛かるな」

 

 その感想の通り、まず脅威となるのは準決勝を投げ抜いたエース・川平綾芽だ。

 最速154キロのストレートに、カウントを取れる普通のカーブ、ピッチングに緩急を付けるスローカーブ、空振りを取れる鋭く落差の大きいナックルカーブの三種類のカーブを使い分ける技巧派。一試合を投げ抜くスタミナもあり、バッティングでも大きくチームに貢献できる、投打共に優れた双子山の絶対的エースである。

 

 幸い、準決勝では噛み合いが悪く打ち込まれたことで多く球数を投げることになっていたため、決勝では少なくとも長いイニングを投げることは無いだろうが。それでも登板した時は警戒が必要な相手であることには何ら変わりない。

 エースを支える控え投手も中々面倒そうだ。川平が完投したことでブルペンで投げる様子しか見れていないが、変則アンダースローの右投手にナックルボーラーの左投手と、出てきたところを想像するだけでゲンナリしそうな並び。こちらもエースに負けず劣らずの厄介さはあるだろう。

 

 守備はあまり良い方では無さそうだ。フィールディングは覚束ないし、イージーミスで簡単に走者に進まれ点を与えてしまうことも多い。ポジショニングも王明などのように、どうアウトを取りたいかを考えているような気配は感じない。

 しかし、ピンチになればなる程集中力を発揮して度肝を抜くスーパープレイを実践してしまう。数回のエラー程度なら埋め合わせてしまえる運と土壇場での強さがある、数値だけでは判断し切れない嫌な厄介さがある守備だ。

 

 打撃に関しては、どいつもこいつも初球からブンブン振って長打を狙ってくる。

 まるで馬鹿の一つ覚えのような拙攻だが、その分当てた時のリターンは大きい。ヒット一本で二塁・三塁を無理なく狙いに行けるし、勘が良いのか割と当てる能力それ自体も高い。

 

 当たれば飛ぶし、その上当てる力も高いとなると投手に掛かる心理的負担は小さくない。

 三振、併殺、牽制死と無意味なアウトも多いが、それ以上に爆発力がある、これまた守備と同様に厄介な打線である。1番から9番まで打力にあまり差が無いのも大きい。

 

「纏めると、ハイリスクハイリターン……上振れを引くことで格上でも食える可能性を持つ、いつでもこちらにリスクを背負わせてくる相手だ」

 

「マトモに戦えるなら、ハッキリ言って戦力ではウチの方が上なんだがな。奴らもウチ程ではないにせよ、数多の強豪を倒して決勝まで来ている……決勝でも()()()()と思って臨んだ方が良い」

 

「だが、勘違いはするな。初戦の皇心学館、三回戦の八千代、準決勝の王明……どこも格上だったが、それでも俺達は勝ち上がって来た。奴らだけに運が向いている訳ではないし、奴らがそれらよりも格上などということは断じて無い。普通に戦えば、決勝は勝てる試合だということを覚えておけ」

 

「先発は御影、お前に任せる。決勝ではコールド制が無いから5回より長く投げることになる、今から心の準備をしておけよ」

「任せて。決勝戦、必ず勝とう」

 

 最後にそう言って締め、決勝に向けた情報共有は終わり解散となった。

 時間も時間だし、皆学校を出れば寄り道もせず真っ直ぐ家に帰ることになるだろう。晴真も勿論そのつもりだったし、そもそも寄り道しようと思う用事なんて無かったはずだったのだが……

 

「おお……?まさか貴様は、明後日の決勝の敵じゃないかあ?」

「間違い無えなぁ。慧峰のエース御影晴真様だぁ」

 

 ──うわぁ……双子山の選手だぁ……

 

 まさかの鉢合わせ。2日後に球場でぶつかるはずの相手と街中で出逢ってしまったのであった。

 

「双子山工業野球部の選手ですね。こんな所で会うとは奇遇ですけど、敵同士では話せることもあまり無いですしこの辺りで」

「おいおい、寂しいこと言ってくれるなあ?」

「ワシら、これからジーニーズ(ファミレス)で決勝戦に向けて決起集会をするところなんじゃあ。丁度良いから貴様も招待したるわ、着いて来いや」

「ええ……」

 

 ──マジかよ、そんな大事な集会に敵になる相手を呼ぶか?普通……

 

 予想外の展開にドン引きする晴真。どうにか穏便に断れないかと考えるが、しかしこれは相手のことを知るチャンスだと思い直す。

 慧峰の初戦、皇心学館相手にコールド勝ちを決めるという選択を成せたのは、帰り道で偶然稲羽らの話し声を聞いたのが切っ掛けだった。ならばコレもまた勝利の切っ掛けにできるはずだ。

 

 それに、相手の方から誘ってきているのだ。寧ろ乗らない方が失礼だろう。

 一度深呼吸をして覚悟を決め、晴真は気圧されないよう毅然とした態度でその誘いを受けた。

 

「……良いよ。君達の闘志、見せて貰おうじゃないか」

「そう言ってくれて嬉しいわあ。俺は双子山(フタコー)3年の宮本龍星じゃ。ポジションは主に外野の何処か……よろしく」

「ワシは2年のサード、附田圭志じゃあ……案内するから着いて来いや」

「うん、道案内よろしくね」

 

 ──さて、面倒なことにならなきゃ良いけど。

 

 最悪のパターンを想定し、常に携帯を連絡可能な状態にし逃げ道を把握しながら歩く。

 いざ、向かうは東東京地区に於ける最後の敵が待つその辺のファミレス。警戒とは裏腹に、特に危険なことも無く辿り着いたのであった。




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