蒼き戦姫   作:bb_ms

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次走に向けて

波乱に満ちた新馬戦が終わり数日後──阿部、島田、長夫の3人はレヴィの祝勝会という事でとある料亭に来ていた。

 

「それでは、レヴィの新馬戦勝利を祝して……乾杯!」

 

 

長夫の音頭と共に乾杯し祝勝会が始まる、と同時に島田が頭を下げる。

 

 

「長夫さん、レヴィを御しきれず無茶な騎乗をしてしまいすんませんでした!」

 

「あの日も散々謝っていましたがそんな気にしないで下さい、レヴィは特に何ともなかったのですから。」

 

「そうだぞトヨ、それに俺の責任でもある。まさかレヴィがあんな一面を持っていたとはなあ…」

 

 

あんなに大人しく人畜無害な風貌のレヴィに関係者一同まるっと騙されていたのだ。その衝撃は計り知れないものだった。

 

阿部は馬を取り違えたかと何度も確認し長夫もレース後のレヴィの姿を入念に何回も何回も見直した。だがあんな小さい馬は中々おらずあのレースに出ていたのはレヴィそのものであった。

 

気性が荒い馬を預かった事が無い訳では無い阿部だが、レヴィのようなレースでのみ気性を表に出す馬を扱った経験などほぼ無い。自分の経験の浅さが出てしまったと阿部は感じていた。

 

他馬に不利を与えずに暴走していた事が幸いしたか競争再審査とはならずに済んだが、次からはどうやってレースに出そうか阿部は苦悩の中であった。

 

一方で島田は自分の騎乗に非があると感じていた。中央に移籍して7ヵ月経ち60勝を超える成績を残しており、後ろ盾も無い状況でここまでやれている事に少し天狗になっていた。

 

だが今まで騎乗してきた馬の中で1番小さいレヴィにあそこまで振り回されてしまった。この事実を重く受け止め、次の騎乗ではレヴィを御しきれるパワーと技術を求め騎乗調教や筋肉トレーニングに精を出していた。

 

 

当事者のレヴィはというと──特に何も変わらなかった。あれだけの走りをしたのにも関わらず次の日にはケロっとしていたのだ。

 

阿部や獣医が見てみたが何も異常は無く、変わったところと言えばレヴィの体調を心配した阿部が飼葉のニンジンを食べやすいようにと細切りにしてやったら、それ以降細切り以外のニンジンは食べなくなった事くらいであった。

 

まあ何はともあれ新馬戦に勝った事、レヴィに異常が無かった事を良しとして3人は食事を進める。

程々に腹も膨れ酒も進んだところで阿部が2本指を立てる。

 

 

「長夫さん、次のレースについてなんですが……2つほどプランがあります。」

 

「2つ、ですか。」

 

「はい、まず1つ目は11月中に1回使い12月の阪神JFを目指すプランです。使うとしたら──そうですね、500万下でもいいんですがレヴィを2歳馬の中でも能力上位と見込んで京王杯2歳SかKBSファンタジーS辺りですかね。」

 

「2つ目は阪神JFを無視して桜花賞を目標にするプランです。半年の間にレヴィの気性を矯正し3月にあるトライアルレースをステップにして牝馬クラシックを獲りに行きます。」

 

「もっと言うと皐月賞やダービー、はたまた海外重賞──シーザリオのようにアメリカンオークス等を目指す道もありますが……かなり夢見がちな話になるので割愛します。」

 

 

急に出て来る重賞やG1の名前に長夫は心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。

 

 

「……レヴィは2歳馬の中でも抜けている存在という事ですか?」

 

「少なくとも私とトヨはそう思っています、あれだけ暴走して最後は外ラチに突っ込んでいったのにも関わらず最後に盛り返し勝ってしまう……1600mのレースなのに1頭だけ1800m、いや2000mを走っていたようなものです。」

 

「うん、ワシもそう思います。完全に乗りこなす事が出来ればG1を取る事が出来ると思い──いや、出来ます。」

 

 

2人の真剣な眼差しに身体が熱くなる。まさか初めて買った1頭目がこんな上手く行く事があるのか?夢じゃないかと思い頬をつねると確かに痛い。

 

 

「あくまでこちらから提案出来るプランなので、長夫さんがああしたいこうしたいありましたら勿論出来るだけご意向に沿えるようにしますが……」

 

 

長夫は10分程考え、手に持っている杯を飲み干すと口を開く。

 

 

「阿部さん島田さん、1つ目のプランでお願い出来ますか。使うレースはどちらでも構いません、阿部さんの方でどちらがレヴィに合っているか見極めて貰ってもいいでしょうか。」

 

「分かりました、レヴィの様子を見つつこちらの方で決めさせて頂きます。」

 

 

目標は阪神JFに決まり3人は再度乾杯をすると更に飲み進めていく。数時間後、島田が2人を飲み潰したところで今日はお開きとなった。

 

新馬戦から1週間後、阪神JFに向けてレヴィの調教が再開される。相変わらず調教は真面目にやるレヴィ、阿部はあの手この手で内に秘めた姿を調教中に引き出そうとしたが全て失敗に終わる。

 

これは次のレースで本番調教みたいな事をしないといけないのかと頭を抱える阿部をよそに時は過ぎていき11月に入ろうとしていた。

 

阿部は京王杯2歳Sに出走させる事を長夫に伝え了承を得る。末脚があるなら東京のコースが合うだろうし、またハナを切る事があってもあのスタミナなら押し切れるのではと思ったからだ。

登録も無事に済みいよいよ初めての重賞を週末に控えたある日、事件が起きる。

 

 

「ね、熱発だぁ!?」

 

 

厩務員の言葉に思わず大声が出る。身体が丈夫な事が取り柄だったレヴィが突然の熱発、しかもよりによってこのタイミングでだ。

 

直ぐにレヴィの様子を見に飛んでいく阿部。色々と検査をした結果熱発以外は何事も無い事が分かり一安心するが…

 

「レースは回避だな、それと大事を取って今月は休ませて様子を見たい。となると…」

 

 

阿部はその日のうちに長夫へ連絡を取りレヴィの容態を伝える。長夫は最初物凄い動揺を見せたがただの熱発で何事も無い事を伝えると落ち着きを取り戻す。

問題はレースプランだ、プラン2に移行するか阪神JFの抽選だけでもやってみるかと長夫に問う。

 

「少しでもG1に出走出来るチャンスがあるならせめて抽選だけでも……」という返事が返って来た。分かりましたと返事をし、2つ3つ言葉と交わすと通話が切れ阿部は椅子にがっくりと腰を落とし口から言葉が漏れる。

 

 

「マジか、せっかくのチャンスだったってのに……こんな試練は望んで無えよ……」

 

 

その後レヴィはケロっと回復し翌週から調教が再開される。ぶっつけ本番の挑戦になるとしてもしっかりと走れるようにギリギリを見極め強めの調教を施す。

 

それに応えるかのようにレヴィの動きは日に日に良くなっていき、これならあるのではと阿部も思うほどだった。そんな日々を過ごしているとあっという間に時が過ぎ阪神JFの抽選日となる。

 

抽選枠8枠に対し登録馬が20頭。かなり分の悪い賭けになったが関係者全員の天への祈りが通じたのか──レヴィは抽選を通る。阪神JFへの出走が決まったのだ。

沸き立つ一同であったが阿部の表情は険しい。ある馬の存在が頭から離れないでいたからだ。

 

 

「レーヴディソール、か。こいつは厄介だな……」

 

 

新馬戦、デイリー杯2歳Sと連勝し今回の大本命とされている1頭だ。強烈な末脚を武器とし2走とも圧巻の末脚で勝利している。

 

頭の中で様々な展開でレースを想像するが最後にどうしても差される結果ばっか浮かぶ、さてどうしたものかと悩み始める阿部の頭がペチペチと叩かれる。

 

 

「オジキ、なーに険しか顔しちょっど。」

 

「トヨ……」

 

「まずは出れる事を喜べや、レースん事はおいに任せとけ。」

 

 

そう言うと島田はレヴィの様子を見にその場を離れ馬房に向かう。

 

 

「……ま、最後はトヨ次第か。レヴィは蓋を開けてみないと何も分からんしな。」

 

 

やる事は全てやった。当日どうなるかは神のみぞ知るかところかと思い、思考を切り上げ阿部は島田の背を追いレヴィの元へ向かう。

そしていよいよ決戦の日──阪神競馬場にレヴィの姿があった。

 

 

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