蒼き戦姫   作:bb_ms

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阪神ジュベナイルフィリーズ

2010年12月12日 阪神競馬場

 

阪神ジュベナイルフィリーズ──2歳女王を決めるG1レース。来年の牝馬クラシックに向けて大事な足がかりになる1戦であり今年も粒ぞろいの牝馬が集まっていた。

 

2歳女王の誕生を一目見ようとたくさんの観客が阪神競馬場に集まっていた。いよいよパドックが始まり続々と出走馬が集まる。

その中でも異質な存在感で周回する1頭に観客がざわめき始める。

 

 

「ん?えっ!?なあ、あの馬って……」

 

「あ、俺覚えてる。10月の新馬戦で大暴走して勝っちゃった馬じゃん。確か名前は……」

 

 

そこにはブリンカー、シャドーロール、更には折り返し手綱まで装備したレヴィの姿があった。某機動戦士も真っ青のフル装備である。

あまりのインパクトに他の騎手や馬主、他の関係者の視線が釘付けになる。そんな様子を見てレヴィの手綱を引く阿部は苦笑いを浮かべる。

 

 

「やっぱ目ェ引くよなあ……でもこんだけやっておかないと心配なんだよな。」

 

 

新馬戦の時のようにまた暴走しないとも限らない、むしろその可能性の方が高いと感じた陣営一同は何があっても対処出来るようにと馬具を出来るだけ付けて出走させる事にした。

折り返し手綱の使用にはJRAも難色を示したが何とか了承を得る事が出来、フルアーマーレヴィの誕生となった。

 

 

「馬体は完璧、集中は……うわっ、こらレヴィ顔を舐めるんじゃない。」

 

 

パドックで阿部に甘える仕草を見せるレヴィ。そんな姿を見てかレヴィの単勝オッズが少し下がる、だがそれでも6人気33倍程のオッズが付いていた。

前走を能力の表れと評価する人は少なくなく意外と人気を集めていた。ただ1人気はやはりと言ったところかレーヴディソールが単勝1.6倍の評価を受けていた。

 

競馬新聞や解説者の殆どが二重丸の印を打っており実績も確か、誰も実力を疑う余地が無い存在である。

 

 

パドック周回も終わり返し馬が始まる。阿部は島田にレヴィを預けると口を開く。

 

 

「レヴィは完璧に仕上げた、後はスタート後だ。理想は抑えて番手かガッツリ後方に下げるかだが…まあ上手くはいかんだろう。」

 

「それと他馬からは少し離せよ、また暴走して巻き込んだりしたら洒落にならんからな。」

 

「勿論わかっちょる、耳がタコになっほど聞かされたわ。オジキがここまでやったんじゃ、ゲートが開いてからは任せとけ。」

 

 

島田がニカッと笑うと阿部も薄く笑みを浮かべ、行って来いとレヴィのトモを軽く押しターフに向かわせた。

 

 

「頼んだぞ、トヨ……!」

 

 

 

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『本日の馬場コンディションは良馬場ですが強い風が吹いています。前走は衝撃のデビュー戦となりましたレヴィが7枠13番に収まります』

 

 

まだ落ち着いているな、と島田は少し安堵する。ゲート内で暴れて怪我でもして発送取消となったら勝負以前の問題だ。

早く、早く全頭入ってくれと祈りながら他馬のゲート入りを待つ。

 

 

『全頭収まりました。第62回阪神ジュベナイルフィリーズ…スタートしました!』

 

 

「おおおっ。今日も……かい!」

 

 

ゲートが開くと同時にレヴィが好スタートを切り…前走のように前へ前へと暴走し始める。だがこれは想定内とばかりに島田が折り返し手綱を使いつつレヴィを宥める。

 

 

『5番フォーエバーマーク、6番マイネイサベルが好スタート。断然1番人気の11番レーヴディソールはやや出遅れたか。13番レヴィも好スタートを切りますが…前走同様暴走か!しかし鞍上島田豊高が必死に抑えます!』

 

『更には手綱を押して8番ピュアオパールと9番マルモセーラがハナを獲りに行きます。先頭集団はごった返して来たぞ!』

 

 

島田は先頭集団から避けるようにレヴィを馬群からやや外に誘導すると宥めにかかる。折り返し手綱や声掛け、首筋を撫でたりして落ち着かせようとする。

──がダメ、全く止まる気配が無く更に加速しようとするレヴィ。ずっと外を回す訳にもいかず島田は最後の手段に出る。

 

 

『先頭集団から2、3頭程外を回しているレヴィは止まる気配がありません。このまま掛かり続けたままで……おっと島田騎手、レヴィの眼前で鞭を振ります。』

 

 

新馬戦でレヴィが見せ鞭を理解している事を確認した島田はこれは使えると思い、調教で積極的に見せ鞭を覚えさせた。そのおかげで見せ鞭を出すとレヴィが力を溜め始め多少だがスピードが落ちる事が分かった。

 

あまりこういった使い方をすれば後々に響く事は理解していたが今は眼前の勝利を目指し見せ鞭を振るう。思い通りレヴィは徐々にスピードを落とし体力の浪費を抑えほぼ最後方、16、7番手辺りに付ける事が出来た。

 

前半の600mを前に折り合いを付ける事が出来たレヴィ。馬群は先頭から終わりまでおおよそ10馬身程だろうか、先頭集団がペースを落とし馬群が密集する事で中段辺りに付けていた馬達が掛かり始める。

 

ごった返し始めた中段辺りを見て島田は最後方まで下げる判断を取れた自分を褒める。更に集団に巻き込まれ掛かり始めるレーヴディソールを見て口角が上がる。

だがレーヴディソールの鞍上も見てるだけではない。すぐさま手綱を引くとあっさりと折り合いを付け安全なポジションに移動する。

 

 

「流石にそこまで上手うはいかんか。だがやっと天運が向いて来た、後は何処で動き始むっかな。」

 

 

色々と思考しているうちに残り600m手前、勾配のきつい急坂を各馬が下って行き続々とラストスパートに向け動き始める。中盤で少しペースが落ち着いたおかげで先頭集団が垂れる様子はまだ無い。

 

レース前から強く吹いていた風が今日一番の勢いでレース中の馬に襲い掛かる、レヴィも少し振られたかスピードが少し落ちる。

うっとおしそうな顔を浮かべる島田であったがふとある妙案を思いつき、馬群の内に馬体を寄せる。

 

 

「もし失敗したやすまんな長夫さん、オジキ。」

 

 

その瞬間、レヴィが消えた。

 

 

 

-----------------

 

 

 

『さあ各馬最終コーナーを回り直線に向き始める!馬群は大きく広がった!その中からダンスファンタジアが先団に取り付く!内からはライステラスも上がって来ているぞ!』

 

『ライステラス先頭だが外から!外からはレーヴディソールが脚を伸ばして来る!レーヴディソールが一気に躱すか!』

 

 

レーヴディソールが200mを切ろうとする辺りで一気に差し脚を伸ばして来る。観客の多くがこれで決まったかに思う、が最内を突き何かが現れる。

 

 

『レーヴディソール!レーヴディソールが纏めて躱す──いや最内レヴィ!最内レヴィが馬群の隙間から現れた!?』

 

 

小さい馬体が低く沈み込み、内を行く他馬の影からいきなり現れるレヴィ。観客席からは最内など全く見えず実況に一同騒然とする。

勢いに乗るレーヴディソールの差し脚を感じ勝ちを確信した鞍上は最内から現れるレヴィへの反応が遅れる。慌てて鞭を入れ更なる加速を促すが時すでに遅し。

 

 

『残り100!レヴィが次々と躱す!2番手のホエールキャプチャを捉えた!負けじとレーヴディソールも脚を伸ばすがこれはどうだ!?』

 

 

「行ったれやあああ!!!」

 

 

島田が吼え渾身の右鞭を入れるとレヴィもそれに応え更なる加速を見せる。

 

 

『レヴィか!レーヴディソールか!レヴィか!?レヴィか!レヴィだ!レヴィ差し切ったー!』

 

 

一瞬の静寂と共に大歓声が沸く。それを聞くと島田が大きく右手を突き上げる。

 

 

『ターフに衝撃の稲妻が奔る!勝ったのは13番レヴィと島田豊高!最後方から最内を突き17頭ごぼう抜きで他馬を千切り捨てました!13番レヴィ2戦2勝でG1奪取です!』

 

『前走は新馬戦で大外を回り勝ち、今日は打って変わって最内から他馬の隙間を縫うように差し脚を伸ばし、外のレーヴディソールを上回る末脚で差し切りました!』

 

『父ハーツクライは初年度産駒から重賞を勝利、しかもG1馬を排出という事になります。今後のハーツクライ産駒にも期待が膨らむところですね。』

 

『1着は13番レヴィ、2着は半馬身差で11番レーヴディソール。3着に1馬身差で4番ホエールキャプチャで電光掲示板の点滅が始まります。』

 

 

大歓声に包まれる中レヴィを流しゆっくりとウイニングランに入る。人生の中で1番の歓声を浴びているとレーヴディソールが近づいて来て鞍上が口を開く。

 

 

「……おめでとうございます。」

 

「ああ、あいがとさん」

 

 

島田が笑顔で答えるとレーヴディソールが離れていく。鞍上の顔はよく見えなかったが雰囲気から悔しさを滲ませている事が分かる。

 

 

「ま、今回はおいの思惑が上手う嵌ったって事でな。」

 

 

島田は強風の影響で最終コーナーを回り切ると他馬がばらけると想定し最内を突く事を選択した。勿論あくまで想定なので馬群がばらけずどん詰まりの可能性もあったが、レーヴディソールの末脚を上回るには最短を最速で突っ切る必要があった。

結果馬群はばらけて内にレヴィなら通れるスペースが生まれる。そして小さい馬体を駆使し内の馬を躱し勝利を掴んだのだ。

 

 

「わいが小さくなかれば勝てんやった。こん馬体は足枷じゃなか……武器じゃ。」

 

 

ウイニングランも終わり検量室に向かうと阿部が固い表情で待ち構えていた。島田はやっぱり怒られるか?と思い恐る恐る近づくと右手を上げるようにジェスチャーされその通りにする。

上げた右手を阿部ががっしりと掴むと破顔し──

 

 

「……やったなトヨ。お前、やっぱ上手えよ!最終直線で姿が消えた時は心臓が潰れるかと思ったけど…お前実はめっちゃ考えて乗ってるんだな!」

 

「ないだそん言い方は、素直に褒めや!」

 

 

あんまりな物言いに島田は少し怒りながら検量へ向かう。その後ろ姿を見ながら阿部は言葉を続ける。

 

 

「いや本当にすげえよお前。まさか初重賞勝利がG1になるとはな……ありがとな、トヨ。」

 

 

その後口取り写真を撮りにウィナーズサークルに来た長夫と矢郎の目は泣き腫れスーツは着崩れていた。

 

 

 

-----------------

 

 

 

『圧巻の手綱捌きで見事阪神ジュベナイルフィリーズを制しました島田豊高ジョッキーです。おめでとうございます。』

 

「あいがと──んん、ありがとうございます」

 

 

『スタートは前走同様かなり掛かり気味でしたがそれは想定内でしたか?』

 

「そう、ですね。こうなるだろうとは思っていました。そのための馬具でしたがあまり意味は無かったですね。」

 

 

『でも途中で折り合いを付け一気に後方待機を選択。ここら辺の判断というのは?』

 

「なるべく不利を受けない位置を選択した結果最後方になりました。その辺りで中段がごった返して来たので上手い事躱せて良かったです。」

 

 

『最終直線はばらけた馬群の中で最内に潜り込み──まるでターフから消えたように見えました。これも作戦通りで?』

 

「作戦と言うより一か八かの博打でした、レーヴディソールに勝つには最短を最速で行く必要がありましたから。結果的に上手く行きましたが失敗してたら…まあ終わりでしたね。」

 

 

『結果としては展開を読み切り馬群を捌き切る素晴らしい騎乗でした。これで島田ジョッキーは地方から移籍10ヵ月で80勝という素晴らしい成績となりました、最後にファンの方に一言お願いします。』

 

「おかげさまで移籍初年度から重賞──それもG1を勝つ事が出来ました。これから自分もレヴィもより一層頑張っていきますので応援よろしくお願いします!」

 

 

『本当におめでとうございます、以上島田豊高ジョッキーでした。』

 

 

 

 

 





裏では馬主席で2人で抱き合いながらレースを見る長夫と矢郎の姿がありました。

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