蒼き戦姫   作:bb_ms

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気付き

 

「レーヴディソールは脚部不安で4月までは休養、復帰は早くても5月か。」

 

「レースん後明らかに具合悪そうやったもんな。」

 

「てなると早くてオークス辺りで復帰か。」

 

 

2011年1月、そんな記事を見ながら阿部と島田は厩舎内で美浦の冬を過ごしていた。

レヴィはJRA賞2010年度最優秀2歳牝馬を受賞し2歳シーズンを終えた。G1を勝ったとはいえレーヴディソールと票数を争ったのはお互いのレースパフォーマンスを考えれば仕方の無い事だろう。

2戦2勝と書けば見栄えはいいが内容は2戦とも良いとは言い難いものである。レヴィの暴走癖が治らない限りどれだけ勝とうとも安心は出来ない。

調教で治らないならどうすればいいのかと相変わらず阿部は頭を抱えていた。

 

 

「にしても雑誌の記者ってのは色々書くもんだな。なーにが『これで実力でのG1勝利と言えるのだろうか』だよ。勝ちは勝ちだってのに。」

 

「んな3流雑誌の書く記事なんか気にすな、オジキは厳つい見た目をしてる割には肝っ玉が小せどで。」

 

 

レヴィのG1勝利にあたって厩舎にも色々なメディアから取材が来て阿部は対応に追われていた。

調教助手として働いていた厩舎はオープン競争に出走させる事が手一杯で勝った事もほぼ無く、こういった経験が無い阿部は対応の仕方が分からずほぼ全部の取材を通してしまっていた。

そのため普通の厩舎なら断るような雑誌からの取材にも答えてしまい案の定好き勝手書かれていた。

 

 

「『十分に調教が出来ておらず他馬にも危害を与える可能性がある馬を出すな。』か…これに関しちゃ耳が痛えな。せっかく天稟に恵まれてるってのに俺が競馬を教えてやれないばっかりになあ。」

 

「それに関しちゃおいも同じや、1人だけのせいやない。」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけどよ、これが治らなかったら桜花賞の前哨戦も使えねえんだよなあ。」

 

 

競走馬でも色々なタイプがいる。叩いてガス抜きをしてからじゃないと本気を出さない馬、1走1走に全力を出してしまうため直行しか出来ない馬等々。

まだ2戦しか走らせていないがレヴィは叩いて良化するタイプではない、いや叩かずとも全力を出せる馬だと見ている。だがまだキャリア2戦、叩かずに桜花賞に出走するのも不安が残る。

だが前哨戦で暴走癖が出ていざ本番で余力が残っていない状態だったら最悪だ。

 

 

「なあトヨ、桜花賞に直行したいって言ったら怒るか?」

 

「んー……おいは良かち思うどんな。まあ長夫さんが許可してくれたやん話じゃっどんな。」

 

「まあそれはそうか、はて調教師の体たらくを許してくれるかどうか…。」

 

 

上手く調教が出来ず不安を抱えたまま前哨戦は使いづらいので本番1発勝負でもいいか、こうまとめると酷いものだと阿部は苦笑する。

気は進まないがホウレンソウは大事だ。ケータイを取り出し長夫に連絡を取ると丁度昼休み時だったからか数コールで出てくれた。重い口を開き、長夫に暴走癖を治すために尽力しているがもし駄目だった場合は直行の選択肢を取っていいかの確認を取る。

するとあっさりと了承してくれた。阿部が精いっぱいやってくれている事は知っている、信頼しているのであまり気負わずやってくれという旨の返事を貰い二言三言会話すると通話が切れる。

阿部は長夫の信頼に応えられていない現状に申し訳無くなりソファに座るとがっくりと項垂れる。

 

 

「罵られるどころか逆に励まされちまった…手ひどく罵ってくれた方がまだましってもんだわ、はあ…情けねえ。」

 

「さっきも言ったがオジキだけのせいじゃなかと。おいにも出来っ事があればないでん言ってくれ、あげん素質馬をこんまま走らすだなんて勿体なさ過ぎるわ。」

 

「ああ、俺の厩舎初のエースと言っていい存在が漸く出て来たんだから絶対何とかしてみせるぞ。長夫さんにも許可は貰った事だし色々とやってみるか!」

 

 

阿部はレヴィを御しきる事が出来ないままになっている現状から来る長夫への申し訳無さと、急に転がり込んで来たG1タイトルの重圧感でここ最近暗い雰囲気を漂わせていた。

だが長夫の言葉で多少気が晴れた様子で頬をバシバシと強く叩くと勢いよく立ち上がりレヴィの居る馬房へと向かって行った。

 

空元気かもしれないが少しはいつもの雰囲気に戻った阿部を見て島田は顔に薄く笑みを浮かべると自分も馬房に向かい始める。

 

 

 

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2月に入りレヴィの桜花賞へ向けた調教が再開する。相変わらず普段は大人しく優等生なレヴィを見て首を傾げる阿部厩舎一同、はてどうしたものかと思いつつ様々な調教を施していく。

前走から約2ヵ月ゆっくり休ませたレヴィの馬体は殆ど大きくはならなかったが身体付きやハリが良くなり、キ甲が少しだが抜けつつあり確実に成長していることが見て分かった。

 

そんなレヴィを見てまた暴走するような事があってもポテンシャルだけで勝ってしまうんではないかと思う阿部だがそんな甘えた考えは即座に頭から消した。

少しでもこんな考えに至った自分の思考を恥じ、桜花賞までに完璧なレヴィに仕上げるために日々尽力していく。

 

そんな日々を過ごしていたある日、馬房の清掃や他馬の蹄鉄の打ち換え等でレヴィがポツンと1頭だけになるタイミングがあった。

厩務員が付いてはいたものの他馬が傍に居ない状況は入厩してから殆ど無かった。担当の厩務員はレヴィの相手をしつつあちこちの馬房の掃除を始める、するとレヴィがそわそわしだし周りをキョロキョロを見始めた。

 

 

「ん?どうしたレヴィ。順番に外に出してやるからちょっと待っててな。」

 

 

順々に馬房の掃除を進めていきレヴィの番が回って来る。レヴィを外に出そうと馬房の鍵を外すと勢いよく飛び出しそのまま走って行ってしまった。

 

 

「えっ!?あ、ほ、放馬!放馬ー!」

 

 

厩舎より少し離れた場所で作業していた阿部はそんな声を聞いて急いで見晴らしのいい場所に出て周りを見渡す。

 

 

「放馬だと!?どの馬だ!?」

 

 

すると1頭の馬がこちらに近づいて来るのが見えた。何処の馬かと思えばうちのレヴィの姿であった。レヴィは阿部と傍に居た同じ厩舎の馬の姿を見つけるとスピードを緩め阿部達の周りを旋回し始める。

 

 

「レヴィ!?お前一体どうして…?」

 

「テキー!」

 

 

レヴィの後方から息も絶え絶えに追いついた厩務員が口を開く。

 

 

「テ、テキ!す、すみ、すみません…馬房を開けた瞬間レヴィが飛び出してしまって…」

 

「お前…今回は何事も無く済んだけど気を付けてくれよ。今こいつに大事があったら俺達どうにかなっちまうぞ。」

 

 

レヴィは落ち着きを取り戻し阿部と共に居た仲良しの馬、シュテルスとグルーミングを始めていた。

 

 

「にしてもレヴィがトレセン内でしでかすなんて初めてだな。なんだお前仲良しのシュテルスが居なくて寂しかったのか?いつも世話してくれてる厩務員じゃダメなのか?」

 

 

そんな事を言うと担当の厩務員が苦笑しつつ頬を掻く。入厩当初からずっと世話をしているのに阿部や島田よりも相手にされていない現状に少し悲しげな表情を浮かべていた。

 

 

「本当にレヴィは甘えただなぁ。いつもの相手が居ないと寂しがるし俺かトヨが居なくても鳴くし、早く甘えん坊から抜け出さないとだな…」

 

「甘えん坊、甘えん坊か。…………お前、もしかして。」

 

 

阿部は厩務員の肩を勢いよく掴むと顔を近づけて問いかける。

 

 

「なあ!今トヨ何処にいるか知ってるか!?」

 

「えっ、ああ今なら調教も終わって厩舎で休んでいるんじゃ…」

 

「そうか!ちょっと悪いけどレヴィ達の相手頼むわ!」

 

「え、まだ掃除が…」

 

 

そんな呟きは聞こえておらず阿部は急いで島田の元へ向かう。数分程走り厩舎の休憩室の扉を勢いよく開けるとそこに島田の姿があった。

 

 

「うおっ…オ、オジキ?どげんしたそげん慌てて。」

 

「トヨ!分かった、分かったかもしれん!レヴィの暴走癖の正体が!」

 

 

 

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『それでは始めにお聞きしたいのですが前哨戦を使わず阪神JFから桜花賞へ直行という事ですが、これは元々想定していた事でしょうか。』

 

 

『まあそうですね、本当は使いたかったんですけどほら…あの気性でしょう?あれが治るまではちょっとと馬主さんとの話し合いの結果そうなりまして。』

 

 

『2戦とも序盤から暴走気味なレースが続いてましたからね。ですが桜花賞に出すという事は治ったと見ていいのでしょうか?』

 

 

『はい。桜花賞では新しいレヴィの姿をお見せできるかと思います。』

 

 

『ありがとうございます。続いて島田騎手にお伺いしたいのですがここまで2戦ともコンビを組んで来ています、前走からの馬体や精神面での成長は現状感じられますか?』

 

 

『ええ、明らかに別の馬になっています。あまり事前にこういうのもアレですが…負ける姿は想像出来ません。2歳女王はマグレではないという事を見せられればと思います。』

 

 

『ありがとうございます。以上阿部調教師と島田騎手のインタビューでした。』

 

 

 

 





投稿が遅れすみません。仕事が少し落ち着いたので投稿ペースを上げれるように頑張ります。

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