ブルーアーカイブ‐迷い込んだYP‐   作:七時の権兵衛

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6話 克服のその先へ

 僕が周りの兵隊どもを軒並み地獄に送り込んでいる最中、アリスさんに向けてゲーム開発部の人たちが声をかけ続けていた。

 スターダスト・ドラゴンに乗りながら東奔西走南船北馬に動き回り、スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンの効果を適宜使って皆の元にたどり着く兵隊が出ないように殲滅しつくす。

 

 モモイさんは言い続ける。細かいことはどうでもいい。ずっとみんなで一緒にいたい。

 ミドリさんは言い続ける。難しいことがあっても、それでも一緒にゲームを作っていたい。

 ユズさんは言い続ける。全部理解したけど、その上でまたみんなでワイワイ遊んでいたい。

 先生は言い始める。アリスがどんな子であっても、私の大切な生徒であることに変わりはない。みんなで一緒に帰ろう。またレトロゲームで遊んで、ゲーム作って、そういう日常を楽しもう。

 

 ヒマリさんは言い募る。貴女は私の可愛い後輩ですもの。帰って一緒にお話ししましょう。

 リオさんは言葉を出し始める。壊そうとした私が言えることではないのかもしれないけれど、貴女は大事なミレニアムの、キヴォトスの生徒よ。無事に帰って、一度、しっかり謝らせて。

 

 すると、兵隊の勢いが弱まり、余裕ができる。

 なら、僕も一言いいに行こうか。

 

 

「君には確かに魔王になりうる力が眠っている。でもさ、最近の創作では、魔王の力を克服した人が主人公なんてザラにあるんだ。なら勇者であるアリスさんが乗り越えられないはずがない」

「あとケイさんも。君にもしっかり感情はある。なら、一旦その感情に従ってみるのもありだと思うよ。ケイさん用のデッキも準備してるんだ。帰ったら一緒にやろう」

 

 

 きっと、僕の言葉はあくまで最後の1%。最後の一押しでしかないはずだけど、それでも確かにアリスさんは自分の中で暴れるその力を抑え始めた。

 編纂事象、僕の知っている時間軸ではアリスさんが暴走した要因のはモモイさんを傷つけてしまったことも含まれた。でも、幸いにもこの世界線ではアリスさんが誰かを傷つける前にそうなる未来を知っていた僕が早め早めに動いたことによってそんな嫌な未来は訪れず、アリスさんの精神は安定していた。

 

 だからこそ、AL-1Sであった無名の司祭の遺産。無名の王女はキヴォトスを滅ぼす厄災ではなく、キヴォトスを守護する祝福と変化したのだ。

 

 さて、スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンは相手を除外する際には自身も除外する必要がある。つまり彼もあの地獄を味わってきたわけで、労わるように額を撫でてカードの状態に戻す。

 脚代わりに飛んでくれたスタダも特徴的な鳴き声を上げながらカードの状態に戻る。

 

 

 遠くで、意識を取り戻したアリスさんに涙を流しながら抱き着くモモイさんと、涙こそ流していないがユズさんも巻き込んで抱き着くミドリさんがいる。

 一方でアリスさんの体からトークンに戻されたケイさんはボーっとしている。

 その様子が気になり、ケイさんの元に足を向けるとこちらに顔を向け、見つめてくる。

 

 

「先ほどの言葉は、本当ですか」

 

「うん。だって、ケイさんはモモイさんのゲーム機に移るときにちょっと不愉快な感じだったんでしょ? 自分がゲーム機に移されるなんてって、怒りを覚えたんだ。なら、感情が無い訳ない」

 

「そちらではなく」

 

 

 ケイさんの言葉にしばらく考えが止まる。

 そっちじゃない? 自分に感情があるのか疑問視してたわけじゃないの? と。

 だが、そんな停止時間など数瞬にも満たぬことで、すぐに答えを出す。

 

 

「もちろん! 一緒にデュエルしよう! ケイさんに似合うデッキは何かなって考えて、しっかり組んできたんだ。初心者だと動かしにくいけど、ケイさんならちゃんと動かせると思って、ちょっとデッキレベル上げたんだ」

 

「そう、ですか……私の、私だけの、物」

 

 

 ケイさんは僕がマシンナーズデッキの入ったボックスを手渡すと、宝物を抱くようにギュッと抱え込んだ。初めての、ケイさんだけの物ということなのだろうと言葉から推測できる。

 確かにあくまで無名の王女の起動キーでしかなかった彼女に与えられていたものはそれ即ち無名の王女の物でもあったのだろう。

 実際、ケイさんの口調はクソゲー汚染される前のアリスさんに似ていて、ボディは存在せず、思考回路は同調されていたことに比べれば今はどうだろう。

 

 テイルズサガクロニクルによる甚大な精神汚染の結果とはいえ今はアリスさんとケイさんの人格は大きく異なり、身体は似てはいるもののしっかり別人物であると認識でき、今こうして自分しか持っていないデッキを手に入れられた。

 それはただの道具でしかなかったケイさんが人としての一歩を踏みしめた瞬間だったのだろう。

 

 

 最終章。プレナパテス先生とそれに伴う色彩襲撃の際、バリア破壊の為にケイさんは消滅もしくは長期スリープすることになった。

 それはこの世界を守るために無理をして力を行使した結果であり、あの時確かにケイさんは魔王の力ではなく勇者の力に成り上がったのだ。

 だけど、それでも、いなくなるのは寂しい。

 だから僕は準備する。

 

 キヴォトス中の各地、四方八方から攻撃を浴びせて破壊するために様々なモンスターに待機してもらっている。

 混沌の戦士、(ソラ)から訪れし英雄、星屑の竜、希望の名を持つ者、四天を統べる天龍、成長しリンクを己の力とする竜。

 究極の亜竜、愛を一身に受けた者、セフィロトの神、絶望の名を持つ者、四天を支配する邪龍、リンクの究極体AI。

 除外や戦闘破壊が主となってしまうため、それが効かなかったときの為に邪悪なる不死鳥を背負う英雄も待機してもらっている。

 

 もしこれでもまだ足りないようであれば、神のカードを出すことも仕方ないと思う。

 神、特にラーの翼神竜は相応しい場でなければサーチ札も含めて手札に来てくれない。

 だが、これだけ手を尽くしてもなお破れず、残るは神のみとなったその時は、呼び出されるのもやぶさかではないと言質を貰った。

 

 

「ユウジ」

「あれ、ケイさん? どうしたの?」

 

 

 そう意識を思考の海に潜らせていると不意にケイさんに声をかけられる。

 その手には先ほど渡したばかりのデッキを握り締め、こちらを見上げてくる。

 

 ああ、そうだった。やっとミレニアム本館に戻ってきたんだから、約束通りデュエルをしよう。

 

 

「ユウジはどのようなデッキを使うのですか」

「んー、今回はいっそケイさんのデッキの真反対を言ってみようかなと。マシンナーズはレベルの高い大型モンスターを並べる機械族テーマだけど、ならこっちはレベルの低い小型モンスターでやりくりする獣族テーマで行こうじゃないか」

 

 

 そう言いながらこのデッキのメインモンスターである通常モンスターカードを見せる。

 カードに描かれているのはパステルカラーの淡い色合いで描写されるフワフワの毛に包まれたピンク色のウサギが切り株の上で二足で立ち上がっている様子。

 ケイさんはカードを見ると目をキラキラと煌めかせ、おそらく無意識だろうけど可愛いと呟いた。順調に情緒が育っているようで何よりだ。

 

 

 

 デュエルの最中、フィールドや手札を考えながらデュエル以外の思考はさらに深い海に潜っていく。

 最終章だけを気にしていたが、パヴァーヌがこれで終わったことによって今度はトリニティ・ゲヘナ・アリウスの事件が発生していくだろう。

 聞いたところによると既に補習授業部自体は既に発足していて先生も補習を行いに度々トリニティに赴いている。

 

 となれば、出来る事なら白洲アズサに接触したいな。

 現状でも大分拗れ気味だが、元アリウス生徒にアリウスの場所を聞き込んでそれでベアトリーチェを始末することが出来ればトリニティ編は大分マシな結末になる。

 聖園ミカは魔女に落ちきることはなく、アリウススクワッドはテロリストとして扱われることもない。

 しかしどうやって白洲アズサに接触したものか。先生に頼るのも違う。正直言ってこれからやろうとすることは危険なことで先生を巻き込むわけにはいかない。

 

 僕はもうLPを0にしない限り外傷で死ねない異常な体に落ちぶれてしまったが、先生は違う。

 銃弾一発でも余裕で致命傷になってしまう先生をこれに巻き込むわけにはいかない。

 

 もしこの計画が上手く行かなかったときだけ、巡航ミサイルの身代わりになることも視野に入れた方が良いな。そうすればヒナさんがシナシナになることもないだろうし。

 

 

 デュエルを進めていると、こちらに地獄のような盤面が出来上がっていた。あまりにもエクシーズ出来すぎて未来龍皇を召喚しないとフィールドが埋まってしまうほどにガンガン回ってしまった。

 でもケイさんはその盤面を突破するために色々試行錯誤していて、それすらも楽しいということが雰囲気に溢れ出ている。

 

 

 結果として、あの後未来龍皇は突破されたが連続シンクロによって辛くも勝利した。

 ケイさんは悔しさを出しつつも楽しかったと握手に応じ、晴れ晴れとした顔をしていた。




ぬおおお、ストックが……ちょっとこれまで以上に更新遅れそうです…
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