ブルーアーカイブ‐迷い込んだYP‐   作:七時の権兵衛

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幕間2

〇久々ともいえない帰省

 

 アビドスに帰省、と言っていいのかわからないがまあ来た。

 エデン条約のトリニティ側が何とかなったので、ゲヘナをどうしようか考えていたところ、まずアビドスに一旦戻ったほうが良いのではないかと謎の勘が働き、今に至る。

 

 以前とは違いホシノさんは蝉のようにはなっていないものの……距離が近い。

 ソファに座れば何の躊躇いもなく隣に座ってくるし隙間も空いてない。太ももと太ももが割とぴったりくっついている。

 

 

「うへへ、おかえりー、ユウジ」

 

「うん。ただいま、ホシノさん」

 

「わざわざ来てくれるなんてどうしたの?」

 

 

 代用コーヒーの入った、かつて僕が使っていたマグカップを差し出しながらユメ先輩は質問を飛ばしてくる。

 ユメ先輩はホシノさんのように隣に座るわけではなく真正面に座った。

 いただきますと声をかけ、コーヒーを口に含む。以前と変わらず苦みが強くて明らかに本物のコーヒーとは違うのに、なぜかホッとする不思議な味。

 お礼を言いつつ、懐からあるカードを一番上においたデッキを出して、見せる。

 

 書かれているカードはナチュルの森。自然豊かな森の中に住むナチュルが描かれたフィールド魔法だ。

 ビナーとの戦いでアビドスの砂漠でも問題なくフィールド魔法が展開され、維持自体は何の苦もなくできたことからアビドスの砂漠化を何とかしようと考えた結果だ。

 湿地草原でもいいかとも考えたが湿地草原にすると動きが取りにくくなったことから、ナチュルの森及びナチュルデッキを渡すことにした。

 

 

「これを使えばアビドスの砂漠化を止めることが出来ます。ので、貼りに来たかったのと、会いに来たかったから、です」

 

 

 自分の感情を赤裸々に話すことに少し顔が熱くなるが、ユメ先輩もホシノさんも喜んでいるようには見えない。

 ユメ先輩はデッキと僕を交互に見て落ち込んでいるし、ホシノさんは僕の左袖を捲って腕を確認してきた。

 二人ともなんで、いや、そうか。二人ともカードの精製に何が必要なのか知っている側だった。

 

 僕が召喚させることのできるデッキを組むということはそれに伴って大出血をしているということであると知っている生徒は、案外少ない。

 無論ピンチになったり直前まで用意していなかったりをしてたら躊躇いもなく切って血を出すがつまりそうじゃなければ流石に血を流す所を見られるのはマズいという理性が働き、他に人がいない場所でしか精製していない。

 結果として、真実を知っているのはユメ先輩とホシノさん、ゲーム開発部とリオさん、ヒマリさんと先生だけ。知り合い自体は多いし、召喚するところを見られている人数を考えれば少ない方だろう。

 

 ホシノさんは僕の右手に自身の左手を重ねる。

 怪我だらけでゴツゴツとした手を女子高生らしい手で優しく撫でられて、その後に思い切り抓られた。

 

 

「環境を変えるだけなら一枚だけでよかったじゃん。なんでたくさん持ってくるのさ」

「ユウジの中で私たちはそんなに冷酷に見えてるの?」

 

「いや、そういうわけじゃ」

 

「ユウジ君、ありがとう。でも、ホシノちゃんの言うとおりこれ一枚だけで大丈夫。それ以外はユウジ君が必要になった時に使って」

 

「……はい」

 

 

 ユメ先輩に促されるままにナチュルの森だけ取り出してそれ以外はデッキケースにしまい込み、正式に使用権をホシノさんに譲渡する。

 僕の勝手でフィールド魔法が解除される事の無いよう、アビドスの事を愛してくれている年長者の中でホシノさんかユメ先輩のどちらかは迷っていたけれど、ユメ先輩は今現役なのはホシノちゃんだからとホシノさんに譲ることになった。

 

 

〇もしもユウジがゲマトリア所属になったら

 

 真っ黒なスラックスを履き、ワイシャツに袖を通す男。

 顔を黒い渦で覆い隠したその男は誰に話しかけるでもなく黙々と裏面が男の顔と同じようになっている紙束を重ねていく。

 

 死霊を束ね、不滅となりて敵を滅ぼす軍団。

 コインに運命を託すなど不要とばかりに未来を定める軍団。

 地上絵のごとき怪物が地上を荒らしまわり、天上にて樹に記されし神が敵を打ち滅ぼす軍団。

 世界の始まりの力を悪用し、相手に絶望を与えんとする軍団。

 醜い心から生まれざるを得なかった四天の竜を束ねし邪竜が率いし軍団。

 人の手によって作られしAIが反旗を翻し、愚かなニンゲンを定めようと動く軍団。

 

 氷結界により封印されていた邪悪なる氷龍。

 星の観測者(スターゲイザー)として眺めるままを良しとせず、地上の者たちを征服せんと企む機械仕掛けの天使達。

 深淵の竜と共に世界を壊すかつて聖女の守護竜だった青年。

 

 

 男が操るそれは決して正義側に立つ存在ではない。

 人を騙し、操り、自由を奪う邪悪な存在ばかり。

 だが男はそれを承知で彼らを操る。

 

「そろそろだ。そろそろ先生が来る」

 

「私は人を助ける器に無かった。だが、アンタならできるだろう。そのためなら壁でも踏み台でもなんにでもなろう」

 


 

 アビドス高等学校。

 それが含まれる砂漠地帯の一角に巨大建造物が出来たと報告を受けた頃には、被害が拡大していた。

 各地に正体不明の謎の怪物が出現。怪物に銃弾が効かず、逆に怪物の一撃は肌を抉る。その結果多数の怪我人が出ている。

 

 先生として着任してからあまり時を経ずに起こった出来事だった。

 出来たことといえば精々、アビドスの問題に区切りをつけたこと、アリスを起動させたこと、補習授業部と面識を作ったこと。

 

 いったいどうすればいいと考えを巡らせていると突如として通信が入る。

 本来であればアロナが防いでくれるであろう無許可のそれをアロナが万全の状況にあるにも関わらずこうして届く異常事態。

 

 

「この放送はキヴォトス全域に配信されており、何人も止めることはできない」

「自己紹介をしよう。私はモラトリアム。お察しの通りこの事態を引き起こした張本人だ」

「一つ、提案をしようと思ってね」

「この放送を見ている諸君。我が軍門に下ると良い。そうすれば君たちが余計に血を流すことも、食うに困ることもない。口先ばかりで何もしない連邦生徒会とも、権力ばかり振るい福祉に力を入れぬ各学校の首長とも違う」

 

 謎の男がつらつらと演説を重ねる。

 彼のいうことは一見魅力的なようだが畢竟言っていることは自分の配下に傷つけられたくなければ支配下に入ればいいというマッチポンプもいいところな言説に過ぎない。

 三大校を始めとして各学校からシャーレへの緊急要請が飛んできているあたり、それを理不尽に感じている生徒は多いようで。先生はそれに答え急いでシャーレ事務室を後にする。

 

 生徒たちの協力の下、建造物に一歩一歩近づいてはいるが怪物の数も多く、歩みは牛のようだ。

 長い間一緒に戦ったことによってトリニティ―ゲヘナ間の感情がマシになったりいつの間にかアリスの中にいたケイという人物が協力して機械による物量作戦をしてくれたり、緊急事態につきシャーレの先生が責任を取る代わりにSRT特殊学園の一時閉鎖中止など様々なことが起こった。

 

 あれからモラトリアムと名乗る人物からの通信はなく、ただ建造物から次々と怪物が溢れ出すのみ。

 あの男が何を思ってこのような行動に出たのかはまったくもって理解不能だが、生徒たちの為にも必ず止めなければならないだろう。

 

coming soon...

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