出会いから数か月。
僕はモウヤンのカレー*1を生成し、三人で食べながら精製用のコストを溜めつつ過ごしていた。
二人が心配するからゆっくりになったせいで月単位の時間が経ってしまった。
その中での実験の結果、基本的にレベル・ランク・リンク数と必要血液量は比例し、カードの種類によっても左右された。
通常モンスター<効果モンスター<儀式モンスター<融合モンスター≦エクシーズモンスター<シンクロモンスター<リンクモンスター
レベル・ランク・リンク2のモンスターたちで検証したところそういう結果になった。
この時呼び出した
魔法・罠カードについては完全に種類別になっており魔法カードは儀式魔法<通常魔法<装備魔法<速攻魔法<フィールド魔法<永続魔法、罠カードはカウンター罠<通常罠<永続罠だった。
この数か月の間、食料提供や護衛などにカードを使いつつ交流したおかげでホシノさんはある程度警戒を解いてくれた。
今ではキャットシャークから僕たちが見て無い時にたまに撫でられると報告を受けたりもした。
そんな、僕にとっては過ぎ去ったどこか懐かしくも新しい学校生活を過ごしているとそりゃもちろん戦闘はあるわけで、その戦闘の中で見覚えのある白髪と歪な角付きの生徒を見て変な声を出しそうになって、無理矢理抑えたところをホシノさんに見られて何やってんのと言わんばかりの目で見られたりもした。
だけど、厳しくも美しい日々を過ごしていた僕は失念していた。
ここには、悪い大人がいることを。
*ゲホッ……随分な歓迎法だな。仮にも大人を名乗るヤツのやることがこれか
「おや、初対面のはずですが随分の嫌われよう。まあいいでしょう
雇った方が失礼したことは謝罪します。私としてはただ連れてきて貰いたかっただけです」
*そーかい。で? わざわざ誘拐までして僕に何を?
「端的に言ってしまえば実験への協力願いです
キヴォトスでは珍しい人型の男性体、かつ類似性のない特殊能力
それについて調べさせてもらいたいのです」
今現在の黒服が拠点にしているだろう若干生活感の残る一室に、後ろ手に縛られた状態で座らされている僕と黒服に黒い頭部の男が相対していた。
ここまで連れてきたヘルメット団の奴が抵抗を止めてた僕の顔を殴ってきやがったせいで口の中が切れて、口の中に血が溜まって気持ち悪かったからと血を吐き出しながら黒服と対話する。
おおよその黒服の理由は分かった。要は一章のホシノのように扱いたいわけだ。
まったくもって情けない。いつもの襲撃ヘルメット団の追撃のために二人が離れた隙を狙われて、こうして無様に転がっているのだから。
*それで? 取引というからにはこちらへのリターンは?
表情を隠すように、嘲る様な顔をしながら黒服に質問を飛ばす。
一歩間違えば死んでしまうかもしれないという恐怖と、こんなことを仕出かした黒服への怒りを隠しながら。
「勿論。実験の末にあなたの体は今のそれよりもはるかに丈夫になるでしょうし
なんでしたらアビドスの借金の肩代わり、まあこれは額が額ですから限度はありますが
どうでしょう? まだ加えるものがあるのならある程度は答えますが」
*……実験に協力したうえで、さらにアビドスの借金6割
「おっと、6割は無理です。2割」
*さらにお前に渡せるものがある。それを加えて6割
アビドスにいるのなら、こうなることも予想だけはしていた。していてもこのザマだからこそ不甲斐ないのだけど。
「ほう?膨大な借金の4割分に相当するものがあると?」
*行動からして調べはついてるんだろ?僕の作り出したカード、及びその使用権
*お前がさんざん興味を持つだろうものだよ。頷かないのであれば見せもせんが
*承諾するのであればカードを見せるが、実際に権利の移譲をするのは実験後だとも加える
交渉において、手札は大きく見せなければならない。
承諾しないのであれば交渉は決裂。握っているこのカードを使って脱出し、承諾するのであれば見せるだけ見せて実験は生命や精神へダメージをいかせるものにさせないようにする。
ただの大学生が出したにしてはマシなものだろう。
黒服はしばらく考え込むように顎に手を当てる。
体感では長い時間が流れた後、黒服が声を出す。
「いいでしょう。その提案をお受けします
そうなれば拘束はもはや無意味ですね。外しますよ」
そう言って指を鳴らすと手錠が外れ、腕の自由が利くようになった。
確かめるように手首を軽く動かし、違和感がないことを確かめると、立ち上がって黒服に手を差し出す。
こいつにどんな思惑があろうと、今手を出していない時点で恨むのはお門違い。
なら取引が成立した段階でこいつは敬意を払うべき相手だ。
黒服は僕のやりたいことをすぐに理解して握手をする。
*これからよろしく頼む。早速だが、これが取引材料だ
握手を終えて、手に忍ばせていたカードをさも懐から取り出したようにしながら黒服に見せる。
カードに描かれているのが黄金の神竜。
ラーのよく死ぬ竜*2ん゛ん゛っ、もといラーの翼神竜だ。
僕のいない世界線の未来で黒服はホシノを暁のホルスと呼び、キヴォトス最高の神秘として狙っていた。
なら、形態変化を含めないなら4体しかいない神属性、3体だけの幻神獣族かつその中でもランクが高いとされ、ホルスの別側面とされたラーを冠するラーの翼神竜は取引にぴったりのはずだ。
こうして取引は成立した。
僕は実験体になり、ラーの翼神竜を渡す。黒服はアビドスの借金の6割を肩代わりする。
黒服は、僕にホシノさんとユメ先輩へ別れを言う期間を作ってくれた。
期限は2か月。それを過ぎれば強制的に回収するといっていたが、破るつもりはない。
僕が実験終了までカードを渡さないように、実験開始まで肩代わりは無しだから。
だから僕はそれまでの間に例のものを探さなければいけない。
ユメ先輩の死因と思われるもの。デカグラマトン・ビナー。
この負債を返し終わってからじゃないとユメ先輩は死んじゃうし、ホシノさんも悲しむ。
だから僕は誘拐から帰ってきて、心配する二人を尻目に砂漠を調査する。
さらに、二人の見えない所で精製をLPが8000を下回らない程度ではあるが繰り返し行っていった。
*ありがとう、
答えるようにエンジンの回転数を上げた惑星探査車に乗りながら購入した双眼鏡をのぞき込む。
レンズの向こう側は砂嵐で覆われ、一寸先も見えない五里霧中。
だが、この子が言うからには確かにこの先にいるのだろう。
*惑星探査車……効果を発動せよ
この子の名前を言い、効果の発動を宣言する。惑星探査車はその大きい体躯をカードの状態に戻し、カードに戻る際にもう一つカードを伴ってくる。
そして僕はそのカードの発動を宣言する。
*フィールド魔法、ヌメロン・ネットワークを発動する
そうすると砂嵐が吹きすさび砂漠の広がっていたというのに、上書きするように景色が塗り替わっていく。
至る場所から巨大な紫の花が咲き誇り、その花からすべてを覆いつくすように根が生えたフィールド。
そして、砂嵐が止んだことによって敵の姿が現れる。
真っ白な装甲に身を包んだ巨大な蛇のような機械。
「ゴアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
*ッ――僕は! ヌメロン・ネットワークの効果を発動!
*デッキのヌメロン通常魔法を墓地に送り、効果をコピーする!
*墓地に送る魔法は、自身の場にモンスターが存在しないため、ヌメロン・ダイレクトだ!
*ゲート・オブ・ヌメロン
ビナーの咆哮によって引き起こされる威圧感は容易に僕の体を包み込み、死への恐怖が支配する。
だが止まっていられない。黒服の実験に付き合うことになった以上、襲撃に救援して守ることは不可能。ならばここでやるしかユメ先輩を守るすべはない。
メインデッキとは異なるデッキ、
*現れろランク1! 始まりのナンバーズたち!
*ゲート・オブ・ヌメロン-エーカム、ドゥヴェー、トゥリーニ、チャトゥヴァーリ!
*こいつらは戦闘では破壊されず、X素材を使ってゲート・オブ・ヌメロンモンスターのATKを倍に
*そして、ヌメロン・ネットワークによってヌメロンモンスターは素材なしで効果を発動できる!
ビナーが巨大な光線を吐く。必死に走りながら、動きを止めずにカードを操ってそれを回避する。
4体のヌメロンモンスターが場に現れ、巨大な門を形成する。
さらに、念のためにセットしておいた罠を起動する。
開いた罠カードの中身はメテオ・レイン。自身のすべてのモンスターに貫通*3効果を付与する罠カードだ。
そしてエーカムに攻撃指令を与え、攻撃姿勢に入った段階で手札から速攻魔法を発動する。
リミッター解除。自身の場の機械族モンスターすべての攻撃力を倍にする速攻魔法カード。
それによって自分の場のモンスターの攻撃力は倍になる。
エーカムの攻撃はビナーの装甲に傷一つつけることはなく、反対に僕の周りで突如として爆発が起きる。
なるほど……物理的に攻撃できない状況の場合でもこうして無理矢理反射ダメージ*4を徴収するわけかっ……!
*ぐぅっ……! ドゥヴェー!
ドゥヴェーの攻撃*5、反射ダメージ。体中の筋肉が引き裂かれたような痛み。
トゥリーニの攻撃*6、反射ダメージはなくビナーの装甲がえぐれた。
*決めろ! チャトゥヴァーリ!
チャトゥヴァーリの攻撃はビナーの体全体を飲み込む。
しかし、ビナーは全身から火花を上げながらも健在だった。
嘘だろ……リミッター解除使ったから16000打点だぞ……8000打点で反射なかったってことはそれ以下だろお前……いや、そもそもLPが多いのか?
やばいやばいやばい。失敗した! 前提条件が違った!
これでやり切れないとなるともう……いや!
*アローヘッド確認!
*召喚条件は、EXデッキから特殊召喚されたモンスター2体以上!
*守るべきものを守るため盾となれ!
……時間切れだ。これで僕はしばらくお前に手を出せない。
攻撃宣言はできず、ターン処理も行えない。
だが、事実上の戦闘破壊耐性と身代わり効果を持ったこの人がいる限り、お前も何もできない。
さっきからお前が吐く光線はアストラムに吸い込まれ、反射された光線がお前を焼いてるもんな。
待ってろ、次は殺す。そう決意して、僕は黒服の下へと歩みを進める。
遠くに二人分の人影が見える。
水色の人影が大きく手を振り、桃色の人影は不機嫌に佇む。
ごめん、ホシノさん。僕はもうそっち側に行けない。
ごめんなさい、ユメ先輩。後輩を失う経験をさせてしまって。
今の僕は重なるダメージによってやがて砕け散る。自身のLPをそのままコピーしたトークンだから。
ああ、死ぬってこんな感じなのかな。ハハ、特別なトークンだからって意識同調するんじゃなかった。死ぬ感覚を味わうとか……最悪。
指先から感覚が失われる。駆け寄ってくる二人を感じながら。
大丈夫、ビナーは引き付けてるし、トークンの仕様上、二人に向かう攻撃も対象だから。
もしビナーが原因じゃなかったとしても、何とかなるはず。残した子たちもいるしね。
「ユウジ君! ユ、な、なんで……!」
「ユ、な、ユウジ……? ユウジ……おい、しっかりして……ユウジ、ユウジ……」
小さな手で揺らされる感覚が来る。
でもこの破壊は不可逆で、ここまで残ってたことの方が奇跡なわけで。
数か月、やっぱ長い間居たおかげでホシノさんもすごく親密度上がってる感じあるし、ユメ先輩に関してもそう。
もう意識を保つことも出来なくなってきた。
こうなりたくなかったからアビドスから離れた場所で戦ってたのに……
あ、ヌメロン・ネットワーク貼ってたんだから異常感じて近くにいるに決まってるじゃん。
は~……最後の最後にとんでも無いガバかましたな~……
ご指摘によりとんでもないガバが発見されたため、S:PリトルナイトとI:Pマスカレーナの召喚はなかったことになりました。