「初めまして、我々は敵連合。せんえつながら、この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
恭しく挨拶をする黒煙のヴィランに、個性を発動させながら睨む相澤の内心は、焦りと悩みで一杯だった。出来ることならすぐにでも兵壮を助けに飛び出したい。しかし、自分がここを離れてしまえば、別の生徒が黒煙によって連れ去られてしまう。
なまじ、連れ去られた兵壮が学年でもトップクラスの戦闘力を有しているが故に、他の者が連れ去られた時のリスクと天秤にかけてしまう。この時ばかりは、自身の合理的判断を下したがる性格に後悔するばかり。
「おや、行ってあげないのですか?イレイザーヘッド。ここままでは、あの見目麗しい生徒がどんな目にあうか分かりませんよ?何せ、少々マナーの悪い者もいらっしゃいますから」
黒煙の言葉に生徒が怒りを滲ませ、13号の後ろで今にも飛びかからんと身構える。だが、立ち位置が致命的に悪すぎるのだ。相澤と13号や生徒達に挟まれる形で立つ黒煙に消失の個性を発動させている為、その直線上にいる13号や生徒達も個性を発動させる事が出来ない。
「行ってくれ、先生!!俺達なら大丈夫!!自分の身は自分で守る!!」
「兵壮君をお願いします、相澤先生!!」
「そうです、先輩!ここは僕に任せて、先輩は行って下さい!!あの子を助けに行けるのは、先輩しか居ないんです!!」
切島や飯田が声を上げ他の生徒も口々に行けと、13号もいつでも個性を発動できる様、指を構えながら叫ぶ。
「···全員、自身の身を守る為に個性を使え。13号!任せたぞ」
そして、相澤は階下へ身を翻す。ヒーローとして、担任として、愛する生徒を守る為に。
「流石エリート様、顔も体も良いんだなぁ」
「なぁ大将、あの女は好きにしていいんだよな」
「ああ、好きにしなよ。かの平和の象徴が、目の前で生徒が滅茶苦茶にされる様を見て、笑顔を浮かべていられるか見ようじゃないか」
下卑た顔でジリジリと包囲を狭めてくるヴィラン達。正直ヴィランというよりも、そこら辺にいる個性を持て余したチンピラにしか見えない。それこそ、私を捕まえたあの脳丸出しの奴と比べれば暗黒大将軍とガラダK7だ。アレさえ居なければ、さっさと離脱して皆の所に戻るのに。手だらけ男の横で静かに佇んでいても、私が離脱しようとした瞬間動き出して捕まえられるだろう。
今の私に出来る事は、アレを警戒しつつチンピラ達を倒しながら助けが来るまで耐えるだけ。
「行くぜぇえ!!早いもん勝ちだぁああ!!」
連携する訳でもなく雑多に突撃してくる。明らかに、近接な個性じゃない奴らまでも。それほど、私の体は魅力的なんだろうなぁと思いながら思い浮かべる。入試の時は手足だけだったけど、今度は完全なる黒鉄の城だ。
「手加減は出来ないから、マジーン・ゴー!!」
「グエッ!!」
真っ先に近付いてきた四本腕の異形野郎の顔面に、鋼鉄の拳を叩き込む。
黄色く光るカメラアイ、格子状のスリットが入った口部、鋭く尖った耳部の突起、胸に赤く輝く一対の放熱板。その雄々しき姿は、紛れもなく元祖スーパーロボット「マジンガーZ」。その威容に、敵もたじろぎ勢いを無くす。
「さぁ、どこからでもかかって来なさい」
「チッ、姿が変わってもただの小娘だ。ひん剥いてグチャグチャにしてやれっ!!」
発破をかけられ、今度はそれなりに示しあわせて攻撃してくる敵達。たけど、そんな稚拙な連携で私を倒そうなんて片腹痛い。
「ルストハリケーン!」
上から飛び掛かってくる奴らを、口のスリットから吐き出した強風(酸性無し)で吹き飛ばし、
「冷凍光線!フィンガーミサイル!」
地を駆けてくる奴らは、耳の突起から発射した超低温の光線で足を凍らせ、小型ミサイルで気絶させ、
「光子力ビーム!ロケットパンチ!!」
遠距離から個性で攻撃してくる奴らは、両目から放たれるビームでその攻撃を凪払い、両手を飛ばして殴り飛ばしていく。
「チクショー!!」
「もっと個性を磨いて出直して、ミサイルパンチ!」
髪をドリル状にして突撃してきた女性の髪を、戻ってきた手で掴み、腹部から低威力のミサイルを連続発射し昏倒させる。
「どうしたの?もう降参する?」
ぐったりした女性を投げ捨て周囲を見渡す。先程まで、欲望を漲らせていた顔が、絶望と恐怖に彩られたじろいでいる。
「流石、天下の雄英だ。生徒と言えど、そこらの有象無象じゃ歯が立たないか。仕方ない、オールマイトの前に、コイツのウォーミングアップだ。行け、脳無。ソイツの手足を引きちぎって達磨にでもしてやれ」
カリカリと首を掻いている手だらけ男が、脳丸出しの異形に指示を出すと、ソイツはゆっくりとこちらに近づいてくる。脳が丸見えなのに脳無って。
「先手必勝、マジンガーキック!!」
最大出力のブーストで跳び、脳無に向かって渾身のドロップキックをぶちかます。正直、私は自分の力に過信していた。逃げるのは難しくとも、戦うとなれば負ける事はないと。お爺ちゃんと共に鍛え上げてきたこの力が、通用しない訳がないと。
普通の人間なら即死、良くても瀕死の重症は免れない威力で放った。一撃で倒すとまでは行かなくとも、それなりなダメージは与えられると思っていたそれを、脳無は身構えもせず胸で受けたにも関わらず、小揺るぎともしていなかった。
(手応えが無い、威力を吸収か無効化された!?)
ショックを受けている場合じゃなかった、効いていないのが分かった瞬間離れるべきだった。脳無に右足を掴まれ、一瞬の浮遊感の後に落下。ドガンとコンクリートが壊れる音が響き、全身に痛みが走る。ある程度緩和している筈の擬似的な痛みでも激痛と呼べる程の。
それが、一回、二回、三回。数えられたのはその位まで、気付いた時には手男を飛び越して噴水に墜落していた。解放された訳じゃない、アイツに掴まれていた右足が、衝撃に耐えきれずに膝部分から千切れただけ。
「どうだ?対オールマイト用に作られた改造人間、脳無の力は。コイツのショック吸収の個性は、オールマイトの100%だって効かねえんだ」
手だらけ男が、大仰な手振りで子供の様に自慢気に話す。大丈夫、まだ戦える。先生が、オールマイトが来るまで、少しでも脳無の情報を。
「ショック吸収、通りで···」
千切れた右足を捨て、飛び掛かってきた脳無に、何とか腕部の修復を間に合わせ、ガップリと手を組み合う。純粋なパワー勝負なら、ショック吸収は関係ない。手を握り潰すつもりで力を込めながら、胸の放熱板にエネルギーを集中させる。
「食らえ!ブレストファイヤー!!!」
放熱板から発射された、高温の熱線が脳無を胴体を焼く。やはり、熱は吸収の対象外だった様で、脳無は痛みに苦しみ、口から泡を出しながら踠いて逃げようとする。こっちも、二度目は無いと渾身の力で逃がさない。
「おお!おお!凄いねぇ~、でも、個性がショック吸収の一つだけなんて、俺は言ってないよ」
「くっ!!回復の個性まであるなんて」
もう、体を貫いても可笑しくないのに、一定の所から進まない。焼ける側から新しい組織が生まれている。破壊と再生のスピードが釣り合ってるなんて、回復スピードが速すぎる。
「ロケットパーンチ!!!ドリルミサイル!!!」
このままでは不味いと思い、後ろに倒れ込みながら両手を射出、ブレストファイヤーの力も利用して脳無を真上に飛ばす。天井に突き刺さった所で、追従していたミサイルが突き刺さり、拘束具に形を変えて脳無を天井に拘束する。持って数分だろうけど、これで少しは時間が稼げる筈。
「消耗し過ぎた、変身が···」
私の個性は、オーバーヒートの様な機能不全状態に陥ると、強制的に変身が解除されて、人の体に戻ってしまう。体から離れた物はそのままなのだけが救い。
「おやおや、そんなハレンチな格好、まるでミッドナイトみたいじゃないか、アッハッハッハ」
私の体を見ながら手だらけ男が嗤う。ジャケットはぼろ布と化し、ズボンは超ローライズな短パン、タンクトップも胸がこぼれ落ちそうな位。ロボから人に戻る時に損傷や欠損があった場合、他の場所から補填して人体を再構築する。真っ先に補填に回されるのは、スーツに使われている素材。やり過ぎて袖が短くなるのはあったけど、ここまで削られたのは初めて。
「さあ、皆が借りを返したくてお待ちだぜっ!!」
「カハッ!!」
手だらけ男が、私の腕を中指だけ立てた状態で握って無理矢理立ち上がらせた上で背中を蹴っ飛ばされ、さっきまで怖じ気付いていたヴィラン達の群れに投げだされた。
「へっへっへ、ようやくお楽しみの時間だぜ」
「簡単に壊さないでよ、たっぷり苦しめてあげるんだから」
「悪いが、俺の生徒には触れさせんよ!!」
包囲の一角が吹き飛ぶ。見慣れた灰色の捕縛布が、私の腰に巻き付いて体が宙を舞う。今度は、冷たい水の中じゃなく、大きくて温かい相澤先生の腕の中。
「すみません、先生」
「いや、俺のミスで辛い思いをさせた。よく頑張ったな、兵壮。後は、俺に任せろ」
そう言って、私を地面に下ろしてヴィラン達と対峙する相澤先生。
「格好つけやがって、やっちまうぞ、てめぇら!!」
「「「「「うおおおおお!!!!!」」」」」
「はぁはぁはぁ、ここまで来れば《prrrrr》繋がった!!」
『はい、こちら雄英高校ミッドナイトです』
「1A葉隠です!ヴィランです!ヴィランの襲撃です!みんなを、纒ちゃんを助けて!!」
『ッ!!動けるヒーロー教員を緊急招集!!校長先生にも緊急連絡!!葉隠さん、落ち着いて分かる範囲で詳細を教えて』
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