訓練の日々があっという間に過ぎて、体育祭当日。
OFAの力を体に纏わせた状態での登攀訓練で、10分位なら安定して状態維持出来る様にはなった。まだ、発動に時間がかかるし、集中力が切れだすと出力が不安定になる。一応、切島君や尾白君が協力してくれたおかげで、人体に対してどの程度の力を込めても大丈夫なのか確認は出来たけど。
「緑谷」
「轟くん……何?」
1-A控室で、入場の時間を深呼吸をしながら待っていると、珍しく轟くんが声をかけてきた。
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「へ!?うっうん…」
「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが…おまえには勝つぞ」
唐突な宣戦布告に、聞き耳を立てていた人達がざわっとする。確かに、僕はオールマイトからOFAを継承している関係で、他の人よりオールマイトと接する機会は多い。その事と、轟くんが宣戦布告する理由は分からないけど、
「そりゃ、自分の個性も満足にコントロール出来てない僕に比べたら、轟くんの方が上だって思うよ。でも…!!皆、他の科の人も本気でトップと狙ってるんだ。この二週間、努力してきたんだ。色んな人に協力もして貰ったんだ。僕だって…遅れを取るわけにはいかないんだ」
オールマイトに言われた、僕が来たって世の中に知らしめるって事。夢である、オールマイトみたいな最高のヒーローになる事。僕が体育祭を無事に乗り切る為に、兵壮さんや皆が協力してくれた事。色んな物を背負ってここに居るんだ。
「僕も本気で獲りに行く!」
「………おお」
「盛り上がってる所悪いけど入場だよ。ほら、行くよお二人さん」
「あ、うん、ごめんなさい」「……ああ」
▼▼▼
『雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る、年に一度の大バトル!!どうせ、てめーらアレだろ!!?敵の襲撃を受けたにも拘らず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!ヒーロー科!!一年!!!A組だろぉぉ!!?』
私達が会場に足を踏み入れた瞬間、大きく湧き上がる観客席。あの事件のおかげで、例年に比べて注目度が高いと聞いていたけど、ここまでとは思ってなかった。一般客もだけど、予想以上にプロヒーローの数も多い。
「すっごい人だね、纏ちゃん。もう、心臓がバクバクだよ」
「こんな中で選手宣誓しないといけないのか…憂鬱だなぁ」
「ああ~、そういえばそうだね。ファイトだよ、纏ちゃん!!」
マイク先生の、A組と比べて淡白な他クラスの紹介を聞きながら、選手宣誓の文言を頭の中で反芻する。何で、推薦組じゃなくて一般入試の一位通過なのか疑問ではあるけど、やれと言われたからにはやるしかない。競技が開始されたら、観客の目なんて気にしている余裕なんて無いだろうから、ここを乗り切りさえすれば。
「選手宣誓!!選手代表!!1-A兵壮纏!!」
「はい」
今年の一年主審を務めるミッドナイト先生に呼ばれて、壇上に置かれたマイクの前に立つ。
「宣誓!我々選手一同は、日頃の成果を発揮し、ヒーローを目指す者として、正々堂々と戦い抜く事を誓います………と、定型文はここまで、ちょっと話をさせて貰う」
決められた言葉を言った後、衝動的に口から言葉が出た。マイクを取って、こちらを怪訝な表情で見上げる皆に向き直る。
『私達は、ヴィランの襲撃を受けた。オールマイトのおかげで無事にここに立っている。でも、私はふと思った。もし、またピンチになった時、オールマイトが居なかったらって。オールマイトも人間。いずれは居なくなる。私達が卒業した時、ヒーローとしてデビューした時、もう大丈夫と言ってくれる背中は無いかもしれない。想像できる?彼が居ない社会なんて。オールマイトっていう蓋で抑え込まれてた悪意が解き放たれた未来なんて』
一回、息継ぎを挟む。皆、静かにしている。観客の方も、多少ざわざわしてるけど、私の言葉に耳を傾けてくれている。
『私達がオールマイトを越えて、平和の象徴にならないといけない日が必ず来る。今、ここでは私が一位だ。私がオールマイトだ。ヒーロー科でも普通科でもサポート科でも何でもいい、私に挑んで越えてきなさい。私が居るんだと皆に知らしめなさい。私はその上で、全員を叩きのめして一位を取る。以上』
そう言い終わり、私はマイクを戻して列に戻る。「調子に乗んな!」とか「やってやろうじゃねぇか!」とか「ふざんけんな、一位になんのは俺だ!!」とか、皆思い思いの言葉を叫んでいる。やる気に欠けていたヒーロー科以外の人達の目にも闘志が宿っている。
『サイッコーの選手宣誓だったわ、兵壮さん。じゃあ、早速、第一回戦の種目を発表するわよ。多くの生徒がここで涙を飲むその種目はこれ、障害物競走!!』
ミッドナイト先生の宣言と共に、大型スクリーンに障害物競走のコースが映し出される。
『ルールは単純。このスタジアムの外周4kを走りきってゴールすればいいだけ。コースから外れさえしなければ何をしたって構わないわ。まぁ、競技者に過度な攻撃を加えたと見なしたら失格にするけど。さぁ、皆位置に着きまくりなさい!』
皆、我先にと出入口ゲートへ駆け出す。幾らゲートが大きいと言っても、この人数が殺到したら確実に詰まる。だからこそ、少しでも良いポジションを取らないと、障害物次第で後々に響く。
私は、そんな彼らを見ながら、ジャージを捲って靴を脱ぎ、腕や足を変化させる。一回戦を勝つだけなら、飛んでいってしまえば簡単だけど、それでガス欠になったら意味がない。色々見極めながら、個性を使っていかないとね。
『では、スターートォ!!!』
▼▼▼
「どけぇええ!!」「早く行けよーー!」「足踏むんじゃねぇえ!!」
スタートの合図と共に、全員がゲートへ殺到する。案の定、ゲートの中で詰まって押し合い圧し合いになる。透明なだけの私じゃ、皆が捌けてから巻き返す手段が、頑張って走るしかない。障害物次第だけども、この中を押し進む以外良い方法が思い付かない。
こういう時、纒ちゃんとかが羨ましく思う。だってほら、
「お先にー!」
前腕部とふくらはぎをタイヤにした纒ちゃんが、天井を走り去って行く。多分、磁力か何かで張り付いているんだろうなぁ。あ、纒ちゃんの頭に羽が生えてる。これはマズイ。
「みんなー、耳塞いでー!!!」
纒ちゃんがゲートを抜ける。皆に注意を一回促して、耳を塞ぎながら前の人の背になるべく身を隠す。
『La~~~~♪』
直後、歌声が私達を襲った。
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