水星の魔女 異聞 / 月の悪魔 −或いはとある射手のミス− 作:システマチック発光ネズミ
それと、遅ばせながら紹介を。
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決闘開始から、5分経過。
両者は、有効打を与えられずに膠着状態に陥っていた。
マズい。それも、とてつもなく。
最初からわかってはいたが、俺の機体…ディランザと、相手の機体との相性は抜群に悪い。
互いの交戦距離がかけ離れている上に、パイロットとしての技量もお互いに高いと来た。そうするとどうなるか。
こちらが近接戦闘に持ち込もうにも離れられ、相手が射撃を繰り出そうにもこちらは避けて近づいてくる。おまけに相手の離脱が上手いせいで追い詰めることも出来ない。
…決闘に制限時間はないとはいえ、エネルギー残量の問題もある*1。このまま状況を保つことも難しいだろう。被弾覚悟で突っ込もうにも、即座にブレードアンテナを狙い撃ちしてくるのは目に見えている。
…心底悔しいが、ラウダたちに頼んでスプリンクラーを…
いや駄目だ。ソレは…
『余所見厳禁ッ!』
「っく!」
ビームが機体の左肩を掠める。あと数十センチズレていればこちらが負けていた。
…馬鹿か、俺は。
今は敵に向き合え、グエル・ジェターク!!
うーん…マズいよなぁこれ。
5分経ってて互いに目立ったダメージ無しかぁ…
互いの戦闘スタイルと技量のせいで“追っかける→逃げる→また追っかける”のイタチごっこになっちゃってる。うーんマズい!主に燃料が。
普通の機体ならジェネレータのエネルギーは機体の運動や、内蔵火器にしてもバルカン程度にしか使われないけど、コイツは内蔵火器が多いし駆動用のモーターもドカ食いするからね。
一応打開策はある。でも今使いたくはないんだよなぁ。どうせグエル倒したらほかの御三家が突っ込んでくるだろうし…手札はあまり公開したくない。
下手したら
「余所見厳禁ッ!」
『っく!』
ちゃんと狙ったんだけど、避けられたか。あと少しズレてれば行けたのに。
…さて。もっかい考えよう。
打開策、その1。アレを起動させる。
メリットは?
・確実に勝てる。
デメリットは?
・ジョーカー…とまではいかないが、かなり大きい手札の公開。
・下手打てば審問会行き。
打開策、その2。射撃を捨てて近接で行く。
メリットは?
・勝率は五分五分。
・手札を晒さずに済む。
デメリットは?
・半分の確率で負ける…そして地球寮から資材が消える。
・ミノフスキー・インダストリーがモビルスーツ産業で圧力を掛けられるかもしれない。
…あれ。これ打開策1で行けるな?というかワンチャンあとの御三家2つも問題無さげか?無さげだなこれ。よしやるか。
決闘開始から、7分経過。
両者は体制を立て直すために一旦距離を取る。
グエルは、自身の勝機たる地上戦での機動力と運動性能を活かした一撃離脱を。
アルニカは、乗機に搭載された
「や、グエル。元気してる?」
『してるわけ無いだろ月野郎。…次で決めるぞ』
「そっかぁ…じゃこっちからも、2つほど謝罪を」
グエルは心底困惑した。
現状アルニカがグエルに対して謝罪するべきは“決闘で寮内のモビルスーツ用備品を根こそぎ奪っていった”ことしかなく、2つも謝罪することはない。
なのに何故2つもあるのか。…疑問は、すぐに解消される。
「まず1つ目。端的に言うけど、私は今まで君に“本気”を出していなかった。…君がジェターク寮長として挑んだにも関わらず、私はいつもどおりの戦いしかしてなかった。ごめん。」
自分のことは自分が一番良くわかっている。グエルも、自分自身をプライドの高い人間だと自負している…しかし。
これを聞いて真っ先に出た感情は、怒りではなく…
(…マズい。アレで本気じゃなかっただと!?
こいつの戦闘スタイルは中距離の射撃戦、だとしたら弾幕が濃くなるのか!?いくら耐久性が高いディランザとはいえ、何発も直撃を喰らえばマズい!)
焦り、だった。
そして、ここで彼は致命的なミスを犯した。犯してしまった。
戦闘において、情報は重大なファクターである。
事前に相手の攻撃手段を知っていれば、それに合わせた対処ができる。
事前に相手の弱点を把握していれば、隙を突いて打ち倒すことができる。そして…
事前に相手の行動を予習していれば、採るべきでない戦術もわかる。
「そして2つ目だ。私は今から本気で君を倒しに行く。その過程で機体がメチャクチャになるかもだから、先に詫びとくよ」
胸を覆う仄暗い装甲が真紅に染まる。
あァ、アガる。サタナキアの感覚が侵入ってくる!
鈍色の顎が開かれ、金色の口腔が顕わになる。
身体が軽い!重力下なのに、無重力みたいだ!
堅く閉ざされた身体がわずかに開き、空気が高熱を帯びる。
身体が熱を帯びてきた。イイ感じにアツい!
モーターが高速で回転する音と共に、蒼く鋭く長い尾がのたうち回る。
ヒトじゃ味わえない感覚!あァどれだけブン回せるかなァ!?
「キヒッ」
笑みが溢れる。
「アッハハ」
世界が一層鮮やかになる。
「ァ゛ハハハハハハ!!」
悪魔の嗤い声が、神聖なはずの決闘場に木霊する。
瞬間。グエルの…いや、ディランザの視界から、サタナキアが消える。
残ったのは…
『ぐぉ!?』
コクピットの下…正確には脚部の付け根、股間部あたりから衝撃を受け、機体が浮き上がる。
「ゥラァ゛!」
被害を確認する暇もなく、第二撃。背後から蹴りつけられた。機体がうつ伏せになる。
『っく、体勢が…!マズ』
「クヒヒ♪」あっはは、最高!!
駆動音。歴戦の故の勘とも言うべきもので間一髪避けられたが、おそらくとてつもない勢いで踏みつけられただろう地面は、一部が熱々しい赤に染まっていた。
『足裏にもビーム!?くっ、近寄りづらい__』
スラスターとマニュピレーターを駆使し、側転の要領で起き上がったディランザ…その眼の前には。
『__なんなんだ』
高速で迫る、黒く大きく、機械的な手。
『なんなんだ、その機体は__!!』
ディランザの頭部が、サタナキアの手に覆われる。高速で進む手が、頭部のあらゆる部位を破壊してゆく。メインカメラは粉々に割れ、構造体はひしゃげ、胴体との接合部は引き千切られ…そして、ブレードアンテナは吹き飛ばされた。
〈ーーーーーーーッ!!〉
咆哮とも言うべき音が轟き、システムはアルニカの勝利を告げる。
決闘委員会、ラウンジにて。
「あれは…」
「とんでもない結果になったね?」
「…じゃあ、なんです?今度はお二人が彼に決闘を挑むんですかぁ?」
「そうなるだろうね。私達はどうかわからないが…エランなら、手はあるんじゃないかな?」
「……」
「…クソ」
グエルは頭部を完全に潰されモニタが機能しなくなったディランザから、早々に外に出ていた。
寮長としての期待。学園最強たるホルダーのプライド。そして、それらを打ち崩された絶望が、己の肩に重くのしかかる。
「グエル」
…すでに更新したらしい、白にオレンジのアクセントが映えるパイロットスーツ。今のグエルには眩しく、どこか恨めしく映った。
「楽しかった!またやろう!」
「…は」
電撃が走ったかのような感覚。一瞬…いや数秒、思考が停止する。淀んでいた心が、眼が、一瞬で晴れやかになる。そして、新たな思考がグエルを支配する。
「…なんで、楽しいなんて」
「私は…ほら、結構本能で生きてる人間だけど。いやだからこそか、私と同じくらい強い君が気に入った!だから、またやろうグエル。今の最強は私だけど、君はきっと追いついてくれるだろう?」
太陽みたいに明るい笑顔と、本心からくる言葉。
きっとこれが友達、ってやつなんじゃない?と続けるアルニカ。
グエルの心中は、妙に明るく晴れ渡っていた。
「…そうだな、またやろう」
「そうこなくっちゃ!っとと、また後で
「ハハ、持ってけドロボー」
…いつぞや親父に教えてもらった慣用句、ここで使うとは、なんて思いながら、事前に自己診断プログラムを走らせていたディランザに戻る。
しかし。とてつもない機体状況にまたしても絶句してしまう事となる。
「…な、なんだコレ!?
頭部シグナルロスト…は、まぁいい。思い切り吹っ飛ばされたからな。
頭部との接合部もイカれて…はぁ、どんだけ馬鹿力なんだあの機体は。
腕部…は、特に問題ないな。精々消耗が激しいくらいか。
脚部…はいいが接合部がイカれてるのか!?あの時点で良く立てたな…
…は?」
関節や装甲はもれなくボロボロ。しかし、それ以上にとんでもないものがあった。
「…バッテリーは一部破損で使用不可、ジェネレータに至っては半壊してるだと…!?」
大凡のモビルスーツにおいて、バッテリーやジェネレータなどの重要機器は、基本的に攻撃されにくいであろう背後に配置される。
更に。指揮官機などの高級モデルになればなるほど、動力周りの装甲は分厚くなっていくのが常である。
…当然、グエルの駆るディランザは自身の父と各分野の精鋭達が考えに考えて考え抜いた末に製作された、いわば珠玉の逸品。
もちろん決闘でモビルスーツの四肢を使った格闘戦が行われることは珍しくはない。グエルも、それをテーマとして開発された機体と決闘したこともある。しかし、ここまでの被害は流石になかった。
「…オーバーホールに出せるか、これ?というかオーバーホール程度で修理できるのかコレ?」
グエルは、これだけの損害をたった3撃で与えたサタナキアの攻撃能力に畏怖を覚えると同時に、規格外の衝撃に耐えてくれた愛機とそれを設計してくれた父親たちに、深い感謝を捧げるのだった。
いよっしゃあ!いっちょアガリィ!!!
…とと、申し訳ない。完成の達成感でつい気分が高ぶってしまいました。
はい、どーも作者です。今回のお話どうでした?個人的にはかな~りいい感じに仕上がった気がします!
というわけででてきましたね。特殊システムその1、インテンションオートマチックシステム。本来はこれ、ニュータイプの脳波をそのまま翻訳して機体にコマンド入力の要領で操作する、って感じのやつですが。本作品でもまぁ似たようなシステムです。詳しくは次話でちょこちょこ出そうかと。
そして特殊武器その1、尻尾。まあ、アレです。鉄血のオルフェンズって作品に出てくるヤツとほぼ同一のものだって考えてもらってオーケーです。取り付け位置の違いはありますが…
あと今回、あんまし使わないだろうと思ってた透明文字を入れております。画面長押しかクリックとかで隠れた文字が見えるはずなので、ぜひ見てみてくださいな。
次話の投稿は来年度かもしれません。そろそろ受験がガチに始まりますので…あしからず。