キズモノ   作:野生のウルティメイト太郎

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プロローグ
プロローグ(1/2)


 

 2024年 9月 2日 月曜日

 

 直径十キロメートルにも及ぶ基部フロアの上に、大小はあれど近しい広さを持つ階層が百層積み重なっている巨大な石と鉄の城。

 

 それはこの世界の全てであり、無限の蒼穹に浮かんでいる。

 

 内にはいくつかの都市と多くの小さな街や村、森と草原、湖まで存在する。

 

 その城の名は【アインクラッド】。

 またの名を──

 

【ソードアート・オンライン】(略称 SAO)。

 

 世界初のVRMMORPGである。

 

 この仮想世界は現実とかけ離れているが、共通の常識も多い。

 その内の一つ、人が集まるところには、噂も集まる。

 

 地面を掘ると伝説の武器が出てくる、とか。

 死んだプレイヤーの幽霊が出る、とか。

 大型モンスターのテイムが出来る、とか。

 壁に向かって走り続けると通り抜けられる場所がある、とか。

 

 私はそういう噂を集め、自分の手で検証し、結果を記事にしている。

 

 殆どの噂は勘違いやただの嘘が広まっただけのものだが、初めからそうだと決め付けて行動しなかったら、誰も真実を知ることが出来ない。

 だから私は今日も噂を集めに行く。

 

 ……と、言うのは建前で、実際の所私が楽しみたいだけなのだが。

 しかし、このSAOというデスゲームの中でそういう小さな娯楽を楽しめなくなったらおしまいだと私は思う。

 

 さて、噂を集める方法は至って簡単。

 人がいる所に行って聞くだけだ。

 

 早速私はちょび髭を生やした男に話しかけた。

 

「噂?」

 

「はいそうです。なにか知りませんか?」

 

「あのな嬢ちゃん、情報って言うのは貴重なんだ。それをタダでよこせってのは」

 

「いえいえ、情報だなんてそんな大層なものじゃないですよ。本当に根も葉もないような、会話が弾まない時に話のネタにするくらいの内容でいいんです」

 

「えぇ? うーん……」

 

 男は顎を擦りながら記憶を探っている。

 いきなりこんなことを聞かれてもすぐには出てこないだろう。

 

「噂、噂ねぇ……あっ」

 

 男は手のひらにぽんっと拳を置いた。

 なにか思い出したようだ。

 

「二十二層のある湖でヌシが釣れるって話を聞いたことがあるな」

 

「ヌシ?」

 

「あぁ、なんでもすげぇ引きが強くて、まだ誰も釣れてないんだと」

 

「ほぉ」

 

 こういうのはありがちな噂だ。

 しかしこれでいい。

 私はこういうのを求めているのだ。

 

「いいですねぇ。他にはなにかありますか?」

 

「うーん、あぁ、そういえば面白いのがあったよ。なんでも新しいMobが追加されたんだと」

 

「Mob追加?」

 

 誰かが、或いは皆が条件を満たしたことでMobが追加されることは時々ある。

 

 本当ならこれは情報屋に売るべき情報だろうが、私に話すということは確定していない情報なんだろう。

 

「どんなMobなんですか?」

 

「それがな、犯罪(オレンジ)プレイヤーだけを狙うらしいんだ」

 

 この世界で盗みや傷害、殺人と言ったシステム上の犯罪を行ったプレイヤーは、通常緑色のカーソルがオレンジ色に変化する。

 犯罪(オレンジ)プレイヤーとは、そういったカーソルの色がオレンジに変化したプレイヤー達の総称だ。

 

「有り得ない話じゃないとは思わないか? 今まではオレンジカーソルになっても街に入れなくなるだけ、それもクエストをこなせば一日や二日でグリーンに戻せた。犯罪行為に対するペナルティが小さすぎたんだよ」

 

「そのMobは新しいペナルティだと言うことですか?」

 

「そういうこと。ま、目撃情報は少ないし、その数少ない情報も本当かどうかは怪しいもんだがな」

 

 特定の相手だけを狙うMob。

 少し興味深いと思ったが、この噂が真実か検証するのは難しいだろう。

 

「なるほど、ありがとうございました!」

 

「おう、どういたしまして」

 

 私は足早にその場を立ち去り、一人のプレイヤーにメッセージを送った。

 

「……そういや、下層でPKが起きたなんて噂もあったが、言いそびれちまったな」

 

 そんなちょび髭男の呟きを聞くことなく、私は二十二層へと向かった。

 

* * *

 

「という訳で、今からこの池に本当にヌシが居るのか確かめようと思います」

 

「……」

 

 私は釣竿を持って、二十二層のとある池に来ていた。

 

「いきなり呼び出されて何をするかと思えば……、また変な噂集めですか?」

 

「変とはなんだ! これは立派な趣味だよ!」

 

「はいはい」

 

 小生意気な態度で私に接するこの女は、私の高校の後輩だ。

 と言っても年は変わらない。

 私のいた部活に後から入ってきたので、私が先輩ということになっている。

 

 こいつは私と同じ中層プレイヤー、所謂エンジョイ勢にしてはなかなか強い。

 私は色々とスキルは取っているが戦闘はからっきしなので、噂の検証をする時は大体いつもボディガードとして連れ回している。

 

 色々言われるが、なんやかんや着いてきてくれるので良い後輩だとは思う。

 生意気だが。

 

「でも確かめるって言ったって、先輩釣りできるんすか?」

 

「私を舐めてもらっちゃ困るぞ。これでもコツコツと釣りスキルを上げてるんだ」

 

 予め買っておいた餌を針に括り付け、池に投げ入れた。

 あとは待つだけだ。

 

「へぇ、凄いじゃないですか」

 

「そうだろうそうだろう」

 

「凄い暇」

 

 後輩に毒を吐かれ、ガクッと肩が落ちる。

 

「あのねぇ、いつも言ってるだろう? こういう場所でこそ、小さな娯楽を楽しめなくなったらおしまいだってさ。っと、早速掛かった。こりゃ大きいぞ」

 

「おぉ、さすが先輩」

 

 グんッと体が池に引かれた。

 折れるんじゃないかと不安になるほど竿が曲がり、ギリギリと音を立てている。

 

「ぐぬぬ」

 

 負けじと足腰に力を入れ、全力で竿を引く。

 しかし、私のステータスではなかなか釣り上げることが出来ず、しばらく拮抗状態が続いた。

 

 数分後、ふと竿が軽くなった。

 ようやく弱ったかと思い、大袈裟に体を引いて釣り上げた。

 

「そりゃ!」

 

「おぉっ! 釣れ……てなくないですか?」

 

 その竿の針には、何もついていなかった。

 ヌシも、魚も、餌も、何もついていない。

 

「……餌だけ持ってかれちゃった」

 

「さすが先輩」

 

「うるせぇやい」

 

 その後も何度かそれらしい当たりを引いたが、結局釣れることは無かった。

 

「餌がもう無い……」

 

「もういいんじゃないですか? ヌシが居るっぽいことはわかりましたし、そろそろ帰りましょう」

 

「えぇ〜、うーん、まぁでも、そろそろ暗くなってきちゃうしなぁ。よし、今日は帰るか」

 

 私は荷物をしまい、帰る準備をした。

 

「明日またリベンジだね」

 

「まだやる気ですか?」

 

* * *

 

 私達は帰るため、二十二層の森の中を歩いていた。

 もう日は完全に落ち、辺りは暗闇に包まれている。

 木々に囲まれ月明かりすら差し込まず、不気味な雰囲気が漂っていた。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「先輩」

 

「どわひゃあ!」

 

 後輩にいきなり話しかけられて、心臓が跳ね上がる。

 

「いきなり話しかけないでよ!」

 

「だったらどう話しかけろと……じゃなくて、一向に目的地につかないんですけど」

 

「え? あぁ、えーと、もう少しで着くよ」

 

「それ聞くのもう五回目くらいなんですよね。もしかして迷ってます?」

 

「いやぁ、ハハハ」

 

「何笑ってるんですかぶん殴りますよ?」

 

 そう、迷っていた。

 二十二層なんて滅多に来ないから、土地勘がなければマッピングも済んでいない。

 まぁ、迷った一番の原因は私が「こっちの方が近道だ」って言って森の中を突っ切ろうとしたからなんだろうが。

 

「はぁ、先輩に任せるといつもこう」

 

「……ハッ」

 

 天才的言い訳を思いついた。

 これなら私の責任を少し後輩に押し付けることが出来る。

 

「……私に任せるとこうなることは普段の言動で予測できた」

 

「急にどうしたんですか?」

 

「だが、こうなることをわかっていながら私に任せた君にも責任はあると私は思うよ!」

 

「……」

 

 後輩は驚いた顔で固まった。

 おそらく私の天才的言い訳に言い返すことが出来ないのだろう。

 この隙に畳み掛ける。

 

「だから……待って、剣を抜かないで! 暴力反対!」

 

「ここなら誰もいませんね」

 

「怖いよぉ! ごめんって!」

 

 肉体言語で訴えられたらこちらに勝ち目は無い。

 なんとか剣を収めさせる。

 

「まぁまぁ落ち着いて、焦らなくてもここにはモンスターなんて居ないから。落ち着いて行こうよ」

 

「それはそうですが……──ッ! 避けて!」

 

 突然私の体は後輩に力強く押され、後ろに倒れた。

 

「何して……」

 

 何が起こったか分からず前を向くと、そこにはナイフが二本地面に突き刺さっていた。

 ちょうど私達が立っていたところだ。

 

「先輩! 無事ですか!?」

 

「なんとか、そっちは?」

 

「大丈夫です! それよりこれって」

 

「うん、PKだ」

 

 落ちているナイフは明らかにプレイヤーの武器だ。

 偶然落ちてきたなんてことはありえないだろう。

 この近くに明確に敵意を持って私達を攻撃してきたヤツが居る。

 

「後ろ!」

「!」

 

 後輩の背後から迫る影を見て咄嗟に叫ぶ。

 私の言葉に反応し、後輩は咄嗟に振り向いて攻撃を防いだ。

 

 ガキィンと金属のぶつかる音が鳴り、攻撃してきた人物は跳び退いた。

 

「あちゃあ、防がれちゃった。いい腕してるね」

 

「お前がナイフを外すから警戒されたんだぞ」

 

「怒らないでよォ、ここからじっくり遊べばいいでしょ?」

 

 木の影から更に二人出てきて、私達は囲まれてしまった。

 これでは逃げられない。

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