キズモノ   作:野生のウルティメイト太郎

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第四話、這い寄る悪意

 

 気がつけば、俺は第一層の森エリアに来てきた。

 

 ユーダに裏切られた場所だ。

 

「……何やってんだ俺……」

 

 なんともまぁ情けないことをしていると自嘲的な気分になった。

 ユーダに謝ってから来る場所ではないだろう。

 

 日は沈み、辺りは既に真っ暗だ。

 帰ろうと思い、後ろを向いたその瞬間。

 

「……」

 

 黒曜の短刀が俺の腕に突き刺さっていた。

 飛んできた物を反射的に受けて防いだらしい。

 

(ネペントでも他のモンスターの攻撃でもない……。プレイヤーか)

 

「誰だ」

 

 俺が暗闇に向かって問いかけると、帰ってきたのは刺さった物と同じ短刀だった。

 今度は複数。それも色々な方向から飛んできた。

 

 俺は腕に刺さった短刀を引き抜き、四方から飛んでくる黒い刃を弾き、躱す。

 

「……っ」

 

 しかしこの暗闇でこの黒さは視認しづらく、何本か体に突き刺さる。

 

(【戦闘時回復(バトルヒーリングスキル)】があればこの程度のダメージは大した問題じゃない。しかし集中力が削られる)

 

 このままではまずいと思った俺は、手に持った短刀を、刃が飛んできた方向に向かって勢いよく投げると同時に反対側に駆け出した。

 金属のぶつかる音と共に当たったことを確信し、何とか森を抜け出そうとする。

 しかし……。

 

「シャッ!」

 

「チッ」

 

 そう簡単には行かなかった。

 攻撃を仕掛けてきたプレイヤーの仲間か、或いは同一人物であろう男が、正面に突然現れ首を掻っ切ろうと武器を振るった。

 

 俺は咄嗟に姿勢を低くし、地面を滑って攻撃を躱す。

 

「首を落としたつもりだったが、素早いな」

 

 敵は赤色のボロ布を纏い、仮面を着けた男だった。

 カーソルの色は犯罪を犯したことを示すオレンジ。

 

 一層のこんな場所でPKをするとは思えないので、おそらくは俺を狙ってきたのだろう。

 わざわざ個人を狙ってくるのは、レアアイテム狙いか、恨みを持った誰かの依頼で来たのだろう。

 

 そういうことを好き好んでやる連中は九割方同じ連中。

 

「ラフコフか」

 

「まぁ、その通りだと言っておこう」

 

 男は否定するのも面倒だと言う態度で認めた。

 このまま色々聞き出せそうだと思い、俺はそいつに話しかけた。

 

「何が目的だ?」

 

 レアアイテムは元々特に持ってない。

 装備も普通の軽装で武器はない。

 

 となれば、私怨か、はたまた蘇生アイテムを入手するためにライバルを少しでも減らしたい奴の仕業か。

 後者であれば理解できるが、前者は生憎と心当たりがない。

 と言っても、最前線で戦っていれば妙な因縁をつけられたり、嫉妬を買うことは珍しくないが。

 

「さぁな、俺はただお前達を殺すよう依頼されただけだ」

 

 一点を除き、予想通りの返答だった。

 

「お前達だと? 誰のことだ」

 

「そこまで答えてやる義理はないだろう?」

 

「……依頼人は?」

 

「金を受け取ってるんだ。そう易々と明かす訳がないだろう」

 

 やはり大した情報は得られなかった。

 だが、この時間で短刀で減った分のHPは回復が済んだ。

 

 先程の動きを見る限り、レベルはこちらの方が上だろう。

 剣術もなかなか良い腕をしているが、攻略組と比べれば平均程度。

 

 もし仲間が居ても、このレベルなら問題ない。

 殴り倒してその隙に逃げるのは容易だ。

 

「……お喋りは終わりか? じゃあ始めるとするか」

 

 そう言うと、男は闇に隠れた。

 人影が、木々の間を素早く移動している。

 

 位置の特定を困難にし、不意打ちを狙っているのだろう。

 

 暗闇の中でもよく見えるスキルはある。

 だが、この動きを完全に目で追うことは難しい。

 ならば、別の感覚に頼る。

 

 光がなくとも、音は聞こえる。

 耳を澄ませ、男の足音を追い、位置を探る。

 

 足音が後ろで止まった。

 

(来る!)

 

 瞬間、強く土を踏み込む音が聞こえ、俺は振り向いて構える。

 

 男の持っている武器はシンプルな曲刀。

 だが、刀身が黒い鉱石で作られており、間合いが測りづらい。

 

 しかし、注意さえしていれば問題は無い。

 

 真正面を向かれても男は止まることなく、そのまま突っ込んでくる。

 何か企みがあるのかもしれないが関係ない。

 攻撃を避け、カウンターを打ち込む。

 

 お互いの距離が、剣の間合いまで近づく。

 その直前で、黒い刃が二本に別れた。

 

「!?」

 

 俺が警戒した次の瞬間、男が二人に分身した。

 

「ぐっ!」

 

 二人に挟まれ、左右から同時に攻撃されるが、何とか体を捻り、前転して距離を取る。

 

「初見の一番を食らって軽傷で済ませるとは、なかなかやる」

 

「兄者、次は三番で行こう」

 

 違う、一人が二人に分身したのではない。

 元から二人だったのだ。

 こいつらは格好や背丈、体型がそっくりなだけの別人だ。

 

 おそらく、俺と最初に対面した時はまだ一人だった。

 俺が体力を回復させる為に話している隙にもう一人がゆっくりと近づき、そして木の影に隠れ、合流したのだろう。

 

 それ自体はどうだっていい。

 問題は、俺が足音を一つだと誤認したことだ。

 足音だけではない。呼吸すら一つしか感じなかった。

 

 こいつらは、走る時の歩幅も速度も、呼吸すら全くの同時。

 対面しても一人だと勘違いしたのは、ピタリと後ろに張り付いて走っていたからだろう。

 そして攻撃の直前に二手に別れ、同時に攻撃する。

 

 理屈は簡単だが、実際にやるのは至難。

 その凄さは認めざるを得ないが、それはそれとして気色の悪い二人組だ。

 

「行くぞ」

 

「あぁ」

 

 そうして、男達は再び闇に溶けた。

 今度は別々の方向に走っているのだろう。

 規則正しい足音が、左右前後から聞こえてくる。

 

 攻撃が来るタイミングは音で分かる。

 しかし、攻撃に対処できるかどうかは別だ。

 

 左右から強く踏み込む音が聞こえ、俺は右に待ち構えた。

 しかし敵の姿はなく……。

 

(上か!)

 

 見上げると、空から二人が迫ってきていた。

 

「うおぉ!」

 

 もはや回避の間に合う距離ではなく、何とか腕で防ぎ致命傷を避ける。

 

 男達は距離を取り、こちらの反撃を許さない。

 

「三番を受けるか、頑丈だな。まるで岩だ、油断するなよティン」

 

「どうする兄者?」

 

「問題ない。岩のように頑丈だと言うのなら、角から削るだけだ」

 

 今攻撃を受けてようやくわかった。

 こいつら攻撃のタイミングは同じだが、持ってる武器の間合いと剣筋は別だ。

 

 兄者と呼ばれている男の武器は曲刀だが、ティンと呼ばれた男の武器は片手剣。

 黒く塗られているせいで気付くのに遅れた。

 

 いや、それは言い訳だ。

 頭痛に気を取られ、中々戦いに集中しきれていない俺のミス。

 

 それにしても心底やりづらい相手だ。

 一人一人の実力は俺より下だろうが、連携がものすごく上手い。

 片手剣と曲刀の間合いの差に対処するのが地味に面倒くさい。

 

 というか、格好といい、武器といい、場所といい、ジンとタツを思い出させられる。

 

 そういえば、こいつは『お前達』と言っていた。

 あれはジン達のことなのだろうか。

 アイツらは大丈夫だろうか。

 

 タツとの会話を思い出す。

 カルラとは、誰なのだろうか……。

 

 ……やめろ、考えるな。

 今はここに集中しろ。

 

「二番で行くぞ」

 

「了解」

 

 こいつらは強い。

 集中しなければ負ける。

 

 ユーダは関係ないのだろうか。

 あいつがラフコフに依頼した……ということは無いだろう。

 

 今はどうでもいいことだ。

 そんなことは後でいくらでも考えられる。

 

「もう一度三番で行くぞ。今度は裏合わせだ」

 

「あぁ」

 

 前後から挟むように攻撃してきた二人を何とか躱す。

 二人は畳み掛けるようにすぐに次の攻撃を開始した。

 

 ケイタやテツオが死んで、どうしてこいつらが生きている。

 気に入らない。

 

 次が来るんだ。

 備えろ。

 

「四番だ、用意しろ」

 

「そろそろいただき時ってところか」

 

 左右から大量の短刀が飛んでくる。

 半分は弾き、躱したが、もう半分が体に刺さる。

 

 このゲームになんの意味がある。

 こいつらはなんのために俺を襲う。

 なんでこいつらはまだ生きている。

 

 意味なんて後から誰かが作ってくれる。

 こういうことをする奴はMMOなら必ずいる。

 死にたくないのは誰でも同じだ。

 どうでもいいはずだそんなことは。

 

「行くぞティン」

 

「了解だ兄者」

 

 二人が交互に入れ替わりながら攻撃してくる。

 切れ目のない連撃は、まるで二刀流の豪剣士に襲われているようだ。

 

 どうにかしなければ。

 集中しろ。

 

 できなければ死ぬぞ。

 殺される。

 

 だと言うのに、俺の意識はどこにあるんだ。

 

 あぁ、頭が痛い。

 

 やめろ、もう。

 

 これ以上はダメだ。

 

 俺が裂ける。

 

 俺が溢れる。

 

 これは俺の中に閉じ込めておかないといけないものだ。

 

 だから、もう。

 

 もう。

 

 

 

 苦い思い出はいつも、泥の味がする。

 

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