キズモノ   作:野生のウルティメイト太郎

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プロローグ(2/2)

 

「やっぱり、殺人(レッド)プレイヤーか……」

 

 殺人(レッド)プレイヤーとは、犯罪(オレンジ)プレイヤーの中でもさらに特に悪辣な、平気で殺人を犯す者達の総称である。

 

「こんな下層まで来て何が目的ですか? 私もこの子も、お金もアイテムもろくに持ってないですよ」

 

 少しでも考える時間を稼ぐ為に話しかける。

 あわよくば会話だけで何とか見逃して欲しいとも思っている。

 

 何せこっちは二人、相手は三人。

 後輩だけなら逃げ切れるかもしれないが、私が圧倒的に足手まといだ。

 つまり、これは二VS(たい)三じゃない。

 ハンデ付きの一VS(たい)三だ。

 不利すぎる。

 

「理由? ないよそんなの」

 

「えっ」

 

「俺達はただ、遊びたいだけだから」

 

「「!」」

 

 相手の一人が手の甲を見せる。

 そこには白いタトゥーが彫られていた。

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)……!」

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】(略称 ラフコフ)。

 それは、この世界において知らぬ者はいない、最低最悪の犯罪集団。

 殺人(レッド)プレイヤーばかりを集めた殺人(レッド)ギルドだ。

 

 つい最近、このゲームの最前線で戦う【攻略組】の手によって潰されたと聞いてきたが……。

 

(こいつらは生き残り? まさかこんな下層で遭遇するなんて……)

 

「後輩よ、もしピンチになったら私を置いて逃げるんだぞ」

 

「それ本気で言ってます?」

 

「冗談、絶対守ってね」

 

「だと思いましたよ。まぁ、タイタニック級の大船に乗ったつもりで安心してください」

 

「それ沈まない?」

 

 私も短剣を取り出し、両手で構える。

 戦力にはならないだろうが、せめて最低限の自衛は出来ないとダメだ。

 

「お喋りは終わり? じゃ、行くよ」

 

「私が道を開きます! その隙に先輩は逃げてください!」

 

「がってん!」

 

 私は出来るだけ戦闘に巻き込まれないために頭を下げ、体を丸める。

 後輩は三人纏めて迎撃し、ソードスキル【ホリゾンタル・スクエア】で押し返した。

 

「!?」

「こいつッ」

「この女強いぞ!」

 

 スキル硬直で動けない後輩をカバーする為に立ち上がり、切っ先を向けて威嚇する。

 後輩の意外な強さに驚いたラフコフ達は、「こいつも強いのか?」と言う顔で警戒してくれている。

 

「見つけた」

 

「えっ?」

 

 硬直の消えた後輩はそう呟くと、私を後ろから持ち上げ……。

 

「そぉい!」

 

「えぇぇぇ!?」

 

「なにっ!?」

 

 前方に思い切りぶん投げた。

 

 私は驚きつつもスーパーヒーローさながらに飛び、身を丸めて上手いこと受け身を取る。

 

「十点満点着地!」

 

 そう叫びながら私は振り返らずに走った。

 

「まっ、待て!」

 

「行ってください!」

 

 後ろで剣のぶつかる音が響いた。

 後輩が足止めしてくれているんだろう。

 

 少し心配になったが、私が居ても戦えた後輩なら一人でも大丈夫だろう。

 後輩を信じて、全力で走る。

 

「キシャア!」

 

「な!?」

 

 突如降ってきた、上からの攻撃で私は尻もちをついてしまった。

 

(嘘、四人目?)

 

「先輩! 逃げて!」

 

「こういうのが向いてるんだよ俺って!」

 

「きゃっ!」

 

 下からかち上げるような攻撃で短剣が弾かれ、私は身を守る術を失ってしまった。

 

 今から振り下ろされる刃を止める手段は私には無い。

 瞬間、私の世界は遅くなった。

 

 死を直前にすると時間が遅くなると言うが、こんな感覚か。

 頭が冴えて、驚く程冷静になれた。

 時間が遅くなっても止まる訳では無いし、私だけ速く動ける訳でも無いので、どの道私の死は不可避だろう。

 

 後輩が何かを叫んでいるが、よく聞こえない。

 あそこから私の所まではとても間に合わないだろう。

 

 こんな呆気ない、つまらない終わり方になってしまうとは。

 

 そういえば、こいつらが無事にここに居るということは、結局新Mobの噂は嘘だったということか。

 ……最後の最後まで噂の話とは、私も結構どうしようもない人間なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、首が飛んだ。

 私のでは無い。

 目の前に居た男の首が。

 

「いつも、どこにでも蛆のように湧いて出てくる」

 

「だ、れ……?」

 

 誰かがいた。

 重々しい雰囲気を纏う男がいた。

 

「お前らクズの生き残りは、あと何人だ? 俺は後何人殺せばいい? 何人殺させてくれる?」

 

(Mob? いや、違う)

 

 そのあまりに重たい雰囲気にボス級のMobかと思ったが、この男はプレイヤーだ。

 グリーンカーソルの、ごく一般的なプレイヤーだ。

 

「おいおい、ウロのやつ殺られやがった」

 

「けっ、いつも人の獲物を横取りするクソ野郎だ、死んで当然だろ」

 

「先輩! 無事ですか!?」

 

「う、うん、この人が助けてくれて……」

 

 ラフコフ達の意識が男に向いた隙に、後輩は私に駆け寄って立たせてくれた。

 

 男の視線がラフコフ達ではなくこちらに向き、ゾッとした。

 結果的に助けてもらっただけで、この男が味方である確証は無い。

 もし狙われたら今度こそ助からないだらう。

 

「よく頑張ったな、後は任せろ」

 

 男は私達の肩に手を置き、そう言った。

 その言葉を聞いた途端、緊張の糸が切れ、先程までの頭の冴えと冷静さは無くなり、涙がボロボロと出てきた。

 

「うえぇ……怖かったぁ……」

 

「ちょっ、先輩、人前ですから」

 

「……さてと」

 

 男は視線を私達からラフコフ達に戻した。

 

「今殺したのはハイエナのウロか、お前らはビット、クチビル、ポテトだったか」

 

「何、俺達有名人?」

 

「いや、お前らみたいな”雑魚”は結構狙った相手を取り逃すから名前が調べやすいだけだ」

 

男はわざと一部だけ声を大きくし、分かりやすくラフコフ達を挑発した。

 

「はぁ? 雑魚? 勘違いすんなよ、俺らは遊びだからガチでやってねぇだけだよ」

 

「へぇ、お前らにもプライドってあるんだな。言い訳する暇があるなら行動で示したら?」

 

「この野郎カッコつけやがって、わかったよ、じゃあてめぇには本気でやって──」

 

「だから行動で示せって」

 

 ラフコフの一人が喋ってる最中に、男は一瞬で間合いを詰めて一人殺してしまった。

 この場にいる誰もその動きを目で追えなかった。

 

「なんっ──」

 

 呆気にとられていると、すぐに二人目が殺され。

 

「待──」

 

「……あぁ、本気でやってこのザマだったか?それなら悪かったな」

 

 三人目の胴と脚が泣き別れた。

 無数に舞うポリゴン片の中心で立ち尽くす男の姿に、私は戦慄した。

 なんとこの男は、時間にして一分前後で、計四人のプレイヤーを殺したのだ。

 

 あいつらだって決して強くは無いが弱い訳でもなかった。

 最前線で戦うプレイヤーには及ばないにしても、レベルだって低くはないだろう。

 

 ただ、それらを無に帰すあの男の圧倒的な力と、恐るべき殺意。

 埋めようのない実力差と憎悪が、あの瞬殺劇を生んだのだ。

 一体どれほどのことがあれば、あんなにも躊躇いなく人を殺せるのか。

 

「ふぅ……」

 

「あっ、待って!」

 

 立ち去ろうとする男に呼びかける。

 

「……なに?」

 

「あの、お兄さん名前を知りたいなぁ……なんて……」

 

 先程の光景が脳裏から離れず、少し恐怖が湧き出てしまった。

 だが、それでも知りたい。

 助けてくれたこの男の名前を。

 

「……いいよ、俺の名前は────」

 

* * *

 

 これは、僕達の物語。

 

 少し因果が狂えば、このSAOにいなかったかもしれない僕達が、SAOに来た理由と、この仮想世界で生きる理由を探す物語。

 

 そして、僕が生きた記録。

 

 いつか、近いうちに死にゆく僕がどのような人間だったか確かめる為の記録。

 

 これは、僕の遺書である。

 

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