キズモノ   作:野生のウルティメイト太郎

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第三話、裏切り(1/2)

 

「だァ!」

 

「オラァ!」

 

 森の中。

 ヨルとユーダは【リトルネペント】というウツボカズラに似た、自走する捕食植物のモンスターを狩り続けていた。

 その理由は……。

 

「出ねぇなぁ花付き」

 

「うん」

 

「さっさと【リトルネペントの胚珠】を手に入れて、ユーダの装備を強くしたいのに……」

 

【リトルネペントの胚珠】とは、通常のリトルネペントとは違う、花をつけたリトルネペントが落とすアイテムである。

 そのアイテムを探している理由は、二人が真っ先に向かった村【ホルンカの村】で受けられるクエスト、【森の秘薬】のクリア条件が、【リトルネペントの胚珠】の納品だからだ。

 

【森の秘薬】クエストはクリアすればボーナス経験値を得られる上、強化すれば長いこと使える片手剣【アニールブレード】が手に入る。

 

 モンスターを倒して経験値稼ぎをしつつ、片手剣使いのユーダの装備を強化できる為クエストを受注したのだが、一つ問題が発生した。

 

 花付きのリトルネペントが出現しないのだ。

 

 元々花付きリトルネペントの出現率は一パーセントと言われているが、それにしても出ない。

 その分通常のリトルネペントを多く狩ることができたが、クエストをクリアできなければ本末転倒だろう。

 

「まぁ、通常のリトルネペントを倒した分だけ花付きが出現する確率が上がるらしいから、これも無駄じゃないよ」

 

「そうだけどさぁ」

 

「そう焦らないで。焦りすぎて花付きと実付きを見間違えたりしたら大変なことになるよ」

 

「流石にそんなヘマはしないって」

 

「わかってる、冗談だよ」

 

 リトルネペントの種類は、花付きの他にもう一匹いる。

 それが実付きのリトルネペントである。

 

 実付きのリトルネペントは、花付きと同じくらいの確率で出現し、もしその実を攻撃してしまうと、強烈な破裂音と臭いを発して周囲のリトルネペントを一斉に引き寄せてしまうのだ。

 所謂おじゃま虫。

 

 数十体のリトルネペントに襲われては二人ではひとたまりもないので、充分に注意しなければならない。

 

「しっかし出ねぇなぁ」

 

「ヨルって他のゲームでも周回とか苦手だったでしょ」

 

「いやぁ、レベル上げの為ならできるんだが、アイテム集めとなると途端にダメになっちまうんだ。大した違いはないはずなのにどうしてなんだろう──」

 

「よう」

 

「「!?」」

 

 二人の後ろから突然誰かが話しかけてきた。

 

「あぁ、驚かせちまったかな? 安心してくれ、僕達は決して怪しい者じゃないから」

 

「……その格好で怪しくないは無理あるだろ……」

 

 話しかけてきたのは、不気味な仮面をつけた二人組だった。

 曲刀を持った男が前に出て、片手剣を持った男が後ろで控えている。

 

「まぁまぁ、人を見かけで判断するなとよく言うじゃあないか。それより、一つ僕からお前達に提案があるんだが」

 

「提案?」

 

「見たところお前達は二人で一体のリトルネペントを狩ってるようだが、それじゃあ効率が悪いとは思わないか?」

 

 曲刀を持った男は仮面の下の鋭い眼光を覗かせながら、わざとらしい動きで語る。

 

「そこでだ、僕達と協力しないか?」

 

「協力?」

 

「僕達と一緒にリトルネペントを倒して花付きを探そうってことさ。四人ならリトルネペントを倒す量も増えるし、花付きを探す目も増える。片手剣使いはそっちとこっちで二人、二つくらいなら案外すぐ見つかると思うんだが、どうだ?」

 

「どうする? ユーダ」

 

「……わかった、乗るよ」

 

 その言葉を聞き、曲刀の男は眼光を恐ろしく歪ませた。

 笑っているように見えるが、仮面のせいで表情はよく分からない。

 

「自己紹介しようか。僕はTatsu(タツ)、こっちはGin(ジン)だ」

 

「よろしく」

 

 ジンと紹介された片手剣使いは、曲刀使いのタツと違い、しっかりとした態度でお辞儀をした。

 

「ヨルだ、よろしくな!」

 

「僕は……僕はノブ、よろしく」

 

「?」

 

 ユーダはタツとジンに偽名を名乗った。

 

「ヨルにノブね、いいじゃないか全員二文字で統一感があって。じゃあ早速パーティを」

 

「パーティは組まない。アイテムを持ち逃げされたら嫌だからね」

 

「……信用ないのね僕達、まぁいいけど。じゃあ行こうか」

 

 くるりと振り返り歩き始めるタツとそれについて行くジンの後ろで、ヨルとユーダはヒソヒソと話す。

 

「なんで嘘をついたんだ?」

 

「勘違いかもしれないんだけど、あのタツって人、もしかしたら僕が知ってる人かもしれない」

 

「知り合い?」

 

「いや、僕が一方的に知ってるだけ。タツって名前、ベータテストで少し有名だったんだよ、悪い方向で」

 

「もし何かあった時の為に偽名を使ったのか」

 

「念の為にね。ヨルも用心して」

 

「了解」

 

* * *

 

 三十分後。

 

「出ないなぁ一体も」

 

 あれから多くのリトルネペントを倒したが、花付きは一向に現れない。

 

「僕って結構運良い方だと自負してたんだけどなぁ」

 

「このゲーム買っちゃう時点で運枯れてるんじゃないか?」

 

「あっそっかァ」

 

 ヨルとタツは、意外と打ち解けていた。

 

「さっき実付きなら居たのにね」

 

「ヨル……」

 

「あっ、悪い。話しすぎだったか?」

 

「そうじゃなくて、あれ」

 

 ユーダが森の奥を指差した。

 その方向をよく見てみると、そこには花を付けたリトルネペントがのそのそと歩いていた。

 

「居た」

 

「噂をすれば!」

 

「よしっ! それじゃあ早速」

 

「待って」

 

 飛び込もうとするタツをユーダが手で制止した。

 

「ノブさん?」

 

「なんのつもりだ?」

 

「見つけたのは僕だ。僕達がやる」

 

「……持ち逃げが怖いか? 本当に信用ねぇのな。まぁいいや、僕らはその辺をさらっと見てくるから、倒し終わったら声出して呼んでくれ」

 

「意外だね」

 

「何が?」

 

「僕達が持ち逃げする可能性は考えてないんだ」

 

「別に逃げられてももう一体自力で探せばいいだけだし、僕はお前みたいに神経質じゃねぇんだよ。というか、そっちのヨルはそんなこと許せるタイプの人間じゃないだろ?」

 

「おう! ちゃんともう一体見つけるまで手伝うから安心しろ!」

 

「……」

 

「何? なんか疑ってる?」

 

「いや」

 

「あっそ、じゃあ僕は見てくるから、そっちもしくじるなよ」

 

「あぁ、任せろ」

 

「行くぞジン」

 

「じゃあ、また後で」

 

 不機嫌に振り向くタツに、ジンが小さく頭を下げた後についていく。

 その背中を見送った後、ヨルとユーダは花付きの方へ視線を向けた。

 

「僕が先に行ってネペントを気絶(スタン)させるから、ヨルはトドメを刺して」

 

「わかった」

 

 二人はゆっくりと花付きに近づく。

 

「……なぁ、さっきの態度はあんまり良くなかったんじゃないか?」

 

「……ごめん」

 

「いや、責めてるわけじゃないないんだ。ユーダが俺のことも考えてくれた結果あぁなったのはわかってる。でも、もう少し人を信じていいんじゃないかと思って」

 

「…………そう、そうだよね。ヨルは出会ったばかりの僕のことを信じてくれてるんだし、こうやって疑いすぎるのは──」

 

「……? ユーダ?」

 

 突然足を止め、なにか恐ろしいことを思いついてしまったような顔で震えるユーダに、ヨルが心配して声をかける。

 

「ヨル、あの二人が向かったのって、さっき実付きのネペントが居た方向だよね?」

 

「あ? あぁ、確かそうだったと思うが」

 

「……ごめん、やっぱり花付きは一人で任せても大丈夫?」

 

「大丈夫だけど、一体どうしたんだ?」

 

「ちょっと……ね、終わったら呼んで」

 

「? わかった」

 

 ヨルの返事を聞き、ユーダはタツとジンの方向へ走り出した。

 不思議そうな顔でユーダの背中を見送った後、ヨルは深く呼吸をした。

 

「大丈夫とは言ったが、ちょっとばかし不安かな」

 

 短剣を逆手に構え、一気に花付きのネペントへ飛び込む。

 即座にネペントも反応し、先端が短剣状になった二本のツルを伸ばして攻撃する。

 

 多くのネペントを倒したことでレベルが上がったヨルはステップでツルを躱し、懐へ潜り込んだ。

 

「よっと!」

 

 何度か斬り込み、ネペントの体力を減らす。

 更に追撃を加えようとしたが、ネペントのツルが迫るのを見て、ヨルは大きく跳び退いた。

 

 ヨルが距離を取ることを予測していたかのようにネペントはウツボを膨らませ、腐食液を飛ばした。

 ヨルはそれを左に跳んで躱し、構えを取り直す。

 

(うーん、浅いな。俺ビビってんのか?)

 

 今の攻撃でネペントの体力は一割弱しか減っていない。

 攻撃が浅かったのだ。

 回避も少し動きが大きく、攻撃後に距離も取りすぎている。

 短剣を持ったヨルが、長いツルとよく飛ぶ腐食液が武器の相手にこうも距離を取るのは悪手としか言いようがないだろう。

 SAOがデスゲームとわかる前から少し見られたヨルの恐れ癖が、死の恐怖と、それに晒された状態での初めての単独戦闘により強く引き出されていた。

 

 ヨルはもう一度深く呼吸をし、ネペントをよく見る。

 

(相手は攻撃型で防御が弱い。恐れるな、攻撃をいなして懐に入ればあとは手玉だ。最短で行け)

 

 自分にそう言い聞かせると、ヨルは前へ走り出した。

 それに反応したネペントは左のツルで突きを繰り出し、ヨルは走りながらそれを最小限の横移動で躱した。

 

(動きはもっとスマートに)

 

 続く右のツルの切り払いを一瞬身を低くしたステップで躱し、左ツルの切り払いはツルの先端を自身の短剣で弾く。

 あと少しで短剣の間合いとなる程の近距離まで近づいたが、最後の最後ネペントは右のツルで突きを放った。

 ステップでの回避は間に合わないと判断したヨルは、右足を軸に僅かに身を回しながらツルを右肘で打ち落とし、軌道をずらすことで躱して、懐に潜り込む。

 

(攻撃はもっと──)

 

 ヨルは逆手に持った短剣をネペントの弱点──ウツボ部分と太い茎の接合部に突き刺した。

 素早く抜き、左から右へ水平に切り払い、くるりと短剣を順手に持ち替え、もう一度突き刺し、抜いた後手首を返して右から左へ切り裂いた。

 

 弱点への高速四連続攻撃。

 ネペントは気絶(スタン)状態となって大きな隙を晒した。

 

(もっと──)

 

 ヨルは、この隙を待っていた。

 弱点へ全力の一撃を叩き込むのに最適な隙。

 

 ヨルはソードスキル【ケイナイン】を発動させ、短剣を下から突き上げる。

 

(もっとパワフルに!)

 

 全力で地面を蹴り上げ、突きの威力を最大まで上げる。

 短剣はネペントの弱点に深々と突き刺さり、決着かと思われたが、なんとヒットポイントが一ドットだけ残ってしまった。

 気絶(スタン)状態から復帰したネペントは、ツルの攻撃をヨルに仕掛ける。

 

 一瞬だがスキル硬直で動けなかったヨルは、回避が困難になり、防ごうにも短剣はネペントに突き刺さっているので、抜く為の動作で間に合わないだろう。

 同じく、回避も間に合わない。

 

 そう判断したヨルは、なんと敵前で武器を手放した。

 ツルを右肩で受け、左足を軸に身を左方向へ大きく回転させることでダメージを最小限に抑え、軸足を右足に変えることで更に体を左方向へ捻り、左足を振り上げてネペントのウツボ部分を文字通り蹴り飛ばした。

 短剣が突き刺さったままだったおかげか、ウツボは綺麗に茎から切り離されている。

 

 ネペントの頭頂部の花がはらりと散り、中から拳大の弾が転がり出る。

 ヨルがそれを拾うと、ネペントの体はポリゴン片となって四散した。

 

 ヨルは一息つき、それを腰のベルトポーチにしまった。

 

「おーい! みんなー! 終わったぞー!」

 

 声を上げてここに居ないユーダ、タツ、ジンに知らせる。

 

「さて、みんなが集まるまで待つか──」

 

パァンッ

 

「!?」

 

 破裂音が森に響いた。

 次に仄かに悪臭が漂い、ヨルの背筋をぞわりとさせた。

 

「……ユーダ? 何があった? おい! 聞こえてるか!? 返事をしてくれ!」

 

 ヨルが語りかけても返事はなく、代わりに足許の揺れが返ってきた。

 振り向くと、三匹のネペントが一斉にこちらに向かってきているのが見える。

 

「マジかよクソッタレ!」

 

 それから逃げるように、ヨルは破裂音の聞こえた方向へ走った。

 しかし、ネペントは見た目以上に足が速く、ヨルは途中で追いつかれてしまった。

 

 振り返り、ツルの攻撃を避け、真ん中の一体の懐に潜り込んで弱点に攻撃する。

 しかし三匹も居ては満足に攻撃も出来ず、一撃だけ叩き込んで引かざるを得なかった。

 

 この状況、敵が多く、長い戦闘で武器が消耗し、更に敵の数が多いこの状況で、短剣という武器はあまりにも頼りなかった。

 一撃で仕留めたいのにその為の攻撃力がないのだ。

 しかし何もないよりはずっとマシだろう。

 

 ヨルは何とかツル攻撃を躱し、最初に攻撃した一体に集中して攻撃を仕掛ける。

 

 躱し、攻撃し、躱し、攻撃する。

 

 これを繰り返すことが出来れば、時間はかかるが確実に敵を倒せるだろう。

 繰り返すことが出来れば。

 

「くっ!」

 

 ネペントのツルが突然ヨルの動きを捉え始めた。

 これは、ネペントの動きが急に早くなったのだろうか? 

 否、ヨルの体に当然のことが起きていたのだ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 疲労である。

 SAOは、現実の体を動かさない。

 それでも、当然ながら脳は動き続けているのだ。

 

 今日はヨルにとって突然のことが多すぎた。

 初めてのフルダイブ型ゲームで行うリアルな戦闘やSAOのデスゲーム化など、心身共に刺激の強い出来事ばかりで、ヨルの脳は既に疲れ果てている。

 

「こんなところで死んでたまるかよ!」

 

 気合いを入れるための、自身を鼓舞する咆哮。

 しかし、気合いだけで補える疲労にも限度がある。

 ツルの攻撃はどんどんヨルの肉体を深くエグっていき、ついに直撃しようかという瞬間──

 

「シッ!」

 

 青く光る片手剣がネペントの弱点を切断し、間一髪でヨルを救った。

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