キズモノ   作:野生のウルティメイト太郎

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第五話、MMOは出会い系アプリじゃねぇ

 

 過去のトラウマというのは、どう頑張っても切り離せない。

 忘れていても、予期せぬところで思い出したりするものだ。

 

 SAOでジンとして第二の人生を歩もうとしても、それは変わらない。

 現実で過ごした第一の人生も、決して偽りじゃないのだから。

 

* * *

 

 ヨルがジン達と出会ってからしばらく経った頃、第一層ボス攻略会議を終え、ジンはタツ、ヨルと共に街を歩いていた。

 

「約ひと月、ようやく第一層クリアの兆しが見えてきたね」

 

 ジンは嬉しそうに二人に話しかける。

 心做しか、歩き方もいつもより楽しそうだ。

 

「あぁ、本当にようやくな」

 

 対して、タツが不機嫌な声色で返す。

 それも仕方ないだろう。ひと月……一ヶ月もあれば、本来であれば十層辺りまで攻略できていてもおかしくない。

 だと言うのに、今日ようやく第一層ボスの攻略会議が開かれたのだから。

 

「確かに時間はかかったけど、この状況じゃあ仕方ないよ。みんな死にたくないんだから」

 

 そんなタツを諌めるジンを見て、ふとヨルが口を開いた。

 

「そういやさぁ、二人ってどういう関係なんだ?」

 

 ジンとタツは、ヨルが出会った時からずっと一緒にいる。

 仲はかなり良く、戦闘時は息ぴったり。

 二人の関係はSAOを始めるずっと前からあるものだろうと、ヨルは考えていた。

 

「あぁ、言ってなかったっけ? 兄弟だよ。俺が弟でタツが兄さん」

 

「僕がお兄ちゃんです」

 

 ジンが自分とタツを指差し、タツは振り向いてブイサインを作る。

 何故か自慢げだ。

 

「へぇ、そうなのか」

 

 ヨルは驚きつつもしかし納得した様子で二人を見比べた。

 

「だから同じ格好してたのかぁ」

 

「まぁ……うん、そうだよ」

 

 ジンは「やっぱりおかしいよなこの格好」と思いながら自分の仮面を撫でた。

 不気味な仮面を着け外套纏った姿は、絶対に周りの興味を引くし、確実に怪しまれる。

 ジンはそれをわかっているが、それでも脱げないのには理由がある。

 理由と言っても、タツが強引に同じ格好をさせているだけなのだが。

 

「よし」

 

 タツが足を止め、おもむろに手を叩いた。

 

「あと必要なもんは僕が買っておくから、お前ら自由行動でいいぞ。でも街の外には出んなよ」

 

 タツはそんなことを言うと、そそくさと立ち去ってしまった。

 取り残されたジンとヨルは少し固まった後、顔を見合せ、笑った。

 

「タツって、いつも唐突だよな」

 

「ヨルさんもそう思う?」

 

「あぁ、強いんだけど変人というか」

 

「あれでマザコンだしね」

 

「えっ? そうだったのか?」

 

 衝撃のカミングアウトに、ヨルが驚く。

 ヨルはマザコンだからと言って引くタイプの人間では無いし、むしろ「母親を大事にしてるなら良いじゃないか」と言う奴だが、それでもタツがそうだと聞かされれば驚きを隠せなかった。

 

「まぁ、そうなるのも無理ない環境だったんだけどね」

 

「人生色々あるもんだからなぁ。ところでジン、いい加減俺にさん付けするのやめたらどうだ? どうにもむず痒い」

 

「あっ、ごめん。つい癖で」

 

「いや別に謝ることじゃないって。これからゆっくり慣れていけばいいし、なんならずっとさん付けでも良いし」

 

「うん、頑張って慣れるよ」

 

「おう。んじゃ、一人の時間も大事だし、適当にどっかぶらつくとするよ」

 

「あぁ、またね」

 

 会話を終わらせ、ジンとヨルは別れた。

 

* * *

 

「……暇だなぁ」

 

 二人と別れて三十分ほど、ジンは早々にやることを無くしていた。

 街の中で解決出来る簡単なクエストは全てこなしてしまい、しかもそのクエストは簡単な分報酬が安いので周回する気にもなれない。

 そもそも三十分の間に何度かヨルやタツとばったり会うくらい街があまり大きくないため、元からやることなどなかったのだ。

 

「なんだあれ?」

 

 そんなジンの退屈を察したかのように、近くでトラブルが発生した。

 

「なぁいいだろお姉さん、俺達と組もうぜ」

 

「ソロは危ないよ?」

 

「困ります……」

 

 二人組の男が、一人の女性にしつこく絡んでいた。

 男達は初期装備に、両方とも斧を携えていた。

 方や女は、声の高さや立ち姿で女性だとわかるが、黒いフードで顔を隠しており、ジンの位置からだとよく見えない。背には槍を携えている。

 

「ここだけの話、俺ベータテスターなんだ。いい情報いっぱい持ってるよ」

 

(うわぁ、どうしよう。助けるべきかな)

 

 ここだけの話まで聞いてしまったジンがどうすべきかアタフタしながら迷っていたそのとき。

 

「なぁいいだろ? せめて顔と名前くらい知りたいなぁ」

 

「っ、やめて……」

 

 ナンパ男の片方が女性の手を掴み、強引に引っ張った。

 ジンは視界の端でそれを捉え、反射的に駆け出し、二人を引き剥がした。

 

「え?」

 

「は? なにおまえ」

 

「……あー」

 

(やっちゃった! どうしようなんて言おう)

 

 ジンは心の中で少し後悔しながら、必死にこの場を収められる言葉を考え、そして思い至った。

 典型的なナンパには、典型的な手を使うべきだと。

 

「いやぁ、すみません、この人実は俺の仲間なんですよ。待たせてごめんね、じゃあ行こうか」

 

「あっ」

 

 ジンは女性の腕を引く。

 

 知り合い作戦。

 友人や家族、彼氏など、親しい仲のように見せかけて被害者を連れ去り、ナンパから逃れるのである。

 

 後ろから大きな舌打ちが聞こえてきたがジンは無視し、その場を立ち去った。

 

「ふぅ」

 

 少し離れた場所で一息つき、女性から手を離す。

 

「ごめんね、急に引っ張って」

 

「……いえ、助かりました。ありがとうございます」

 

 頭を下げた女性が再び顔を上げると、ジンと目が合った。

 その目を見て、ジンの心臓が少し跳ねた。

 

 奥が薄紫色に光る、綺麗な水晶のような瞳だった。

 フードのせいで陰りはしているが、それでもジンの顔を反射する透き通った眼だ。

 

 ジンが視点を目から逸らすと、今度は他のモノも見えてくる。

 背が高く、起伏のない細型の体型。一般的に魅力的とされる女性の体つきとは少しズレるかもしれない。

 しかし、影で顔の輪郭もはっきりしないが、とても整った顔立ちをしていることはよくわかる。

 ナンパが寄ってくるのも納得の美貌である。

 

「……じゃあ、私はこれで。またいつか会いましょう」

 

「あっ、あぁ、はい。お気をつけて」

 

 フードを深々と被り直し、軽くもう一度頭を下げ、女性は立ち去ってしまった。

 

「……はぁ、嫌なこと思い出しちゃったな」

 

 ジンはそう呟き、女性が去った方向と逆の方角に歩き出した。

 一人脳内で再生させた苦い記憶を、もう二度と思い起こさなくて済むことを祈りながら……。

 

* * *

 

 二日後

 

「本日の第一層ボス攻略、この子と一時的にパーティ組むことになりました。はい二人とも拍手」

 

「わぁ~」

 

「……」

 

 そんなことを言いながら誰かを紹介するタツと、無邪気に言われた通り拍手するヨルとは対照的なテンションで、ジンは仮メンバーを見つめる。

 

「青髪のナイトさんに組むよう言われてな、本当に一時的だからお互いそんなに気を遣わなくていいぞ」

 

「……また会いましょうとは言いましたけど、こんなに早くに会うことになるとは思いませんでした」

 

「……俺もです」

 

 その新メンバーとは、先日ナンパから助けた女性だったのだ。

 

「なに? 二人とも知り合いだったの?」

 

「いやぁ、知り合いというかなんというか」

 

「全く同じ格好だったのでまさかとは思いましたが……」

 

「まぁなんでもいいだろ。俺はヨル、よろしく!」

 

「あぁはい、よろしくお願いします」

 

 三者三様にリアクションをし、新しい仲間を迎え入れた。

 

 この四人がこの世界の運命を変えることとなるのだが、それを知る者は、未だ誰一人としていない。

 

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