キズモノ   作:野生のウルティメイト太郎

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第七話、不死身の男

 

 声が聞こえる。

 なんだか無性に懐かしい。

 そんな気がする。

 

「うぅ、ひぐっ」

 

「おいおい、泣くなよ」

 

 これは……俺か? 

 一緒に居るのは……兄さん? 

 

「だって……こんなに怪我して……」

 

「そっちだって怪我してるだろ? それに、家族を助ける為ならこんな怪我なんてどうってことない」

 

 鉄の匂いがする。

 それに、少し肌寒い。

 

 そうか、これはあの時の……。

 

「僕のせいで……死んじゃったらどうしようって……」

 

「大丈夫、俺は死なない」

 

「えっ?」

 

「俺は、────」

 

* * *

 

「こんなところで死なないでください。私まだ、自己紹介も出来てないのに」

 

「……?」

 

 ジンが目を覚ますと、女性に上半身を起こされ、何かを飲まされていた。

 

(……誰だろう……。というか何が……俺は……)

 

「……っ! そうだ! 俺は」

 

 意識を覚醒させ、体を起こす。

 前を見ると、タツやヨル達がまだ戦っていた。

 

 ふと、ジンは妙な開放感に気付き、自身の顔に触れる。

 

(仮面が無い。壊れたのか)

 

 その顔は、横切る人間全員振り返ると言うには些か大袈裟かもしれないが、十分に整っていた。

 少し鋭い目付きと泣き黒子。そして頬の一本傷が特徴的で、爽やかな雰囲気を纏っている。

 

(兄さんが怒るかな)

 

「ごめんなさい、私のせいで……」

 

 女性がジンに謝る。

 冷静になって、声や脇に置いた槍を見聞きしてみれば、それはフードの外れたコマであることがわかった。

 今まで影になって見えなかったその額の右上には、痣のような傷跡が前髪で見え隠れしている。

 

(そうか、俺はコマさんを庇って……)

 

「……大丈夫、俺は死なないから」

 

「えっ?」

 

 ジンは深く息を吐き、頬を叩いて気合を入れる。

 そしてその掌を持ち上げ、髪をかき上げる。

 前髪は後ろに流され、覚悟に満ちた瞳がよく見える。

 

「俺は、不死身だ」

 

 そのまま歩き出し、落としていた剣を拾う。

 そしてもう一度深呼吸し、駆け出した。

 

「てりゃあぁ!」

 

 剣を突き出し、そのまま突撃する。

 コボルトロードの不意を突き、ジンの一撃は命中した。

 

「ジン!」

 

「兄さん!」

 

 刃を引き抜き、タツと位置を入れ替える。

 距離を詰めたタツの二連斬りがコボルトロードの腹部をくの字に斬り裂く。

 

 コボルトロードは咆哮を上げ、垂直にジャンプした。

 

「全包囲攻撃だ! みんな避け──」

 

 キリトの忠告より速く、一本の光がコボルトロードを貫いた。

 その光の正体は、コマの全霊の一撃だった。

 

 ソードスキルのモーションを止められたコボルトロードは体勢を崩しそのまま自由落下する。

 

「チャンスだ!」

 

 ジンのその声に応えるようにヨルが跳躍し、強烈なドロップキックを叩き込んだ。

 

 更に体勢を崩したコボルトロードは着地出来ず地面に叩きつけられ大きな隙が生まれた。

 

 すかさずアスナがソードスキルで追撃を重ねるが、強引に起き上がったコボルトロードは乱雑に刀を振り下ろす。

 

「チィ!」

 

 スキル硬直で動けないアスナを庇うようにタツが曲刀でそれを防ぎ切る。

 その隙に跳んで来たキリトのソードスキルがコボルトロードの体を斜め一本に斬り裂いた。

 

 しかし、HPが一ドット残り、コボルトロードは嘲るように口角を歪めた。

 それに対し、キリトも笑みを返し、続く斬り上げでコボルトロードにVの字のダメージエフェクトが刻まれ、一ドットのHPを削りきる。

 

 ソードスキルの名は【バーチカル・アーク】。

 垂直二連撃技である。

 

 宙に飛ばされたコボルトロードの体は不自然に停止し、そして砕けた。

 僅かな静寂の後、ファンファーレと共に【Congratulation】の文字が浮かび上がり、一、二秒の間を置いて歓声が沸いた。

 

「クソっ! LA(ラストアタック)取られた! おいお前! 次はこうはいかねぇからな!」

 

「あっ、あぁ……」

 

 盛り上がる場と、LAボーナスを取られて悔しがるタツとは対照的に、キリトは未だ状況が飲み込みきれていない様子で呆けていた。

 

「やった! やったね兄さん!」

 

 ジンが飛び跳ねながらタツの背中を叩き、体を揺さぶる。

 

「あぁ、それに、お前が無事でよかった」

 

「そんなこと言う割にはあんまり心配してないね!」

 

「俺の弟だからな。信頼してんだよ」

 

「少し前まで過保護だったくせに!」

 

「それはそれ、これはこれだ」

 

 兄弟二人の仲睦まじい様子に、ヨルが微笑みながらコマに話しかける。

 

「あいつらなんやかんやでお互いのこと大好きなんだ」

 

「……そうですか」

 

 コマはフードを深く被り直し、ヨルと一緒にジンを眺める。

 

(……なんだか、不思議な人)

 

「いやぁでも! これで第一層クリアかぁ! ようやく脱出の第一ぽろるりら……」

 

「!?」

 

 ジンの呂律が突然回らなくなり、後ろに倒れた。

 

「ジン!?」

 

「……!」

 

 それを見てヨルとコマはジンの元へ駆けつける。

 タツが倒れるジンを抱き抱え、様子を伺う。

 

「……なんかやけにテンション高ぇなと思ったら、ハイになりすぎて気絶しやがった……」

 

「「えぇ……」」

 

 そんなジンに二人も呆れながら、眠るジンに寄り添った。

 

* * *

 

「……? あれ? 俺……」

 

 ジンが再び目を覚ました。

 

「おはようジン」

 

 タツの声と共に上体を起こし、周りを見渡す。

 

「……何が起こった?」

 

「舞い上がりすぎて気絶したんだよ。ったく、馬鹿みてぇ」

 

「……そっか、どのくらい?」

 

「ほんの数分。ちょっと色々あったけど、もう解決したからお前は気にするな」

 

「そう……」

 

 体を完全に起こそうとするジンをヨルが止め、地面に座らせる。

 

「危ないからもう少し休んどけ」

 

「大丈夫だって、ヨルも大概心配性だな」

 

「おい、休め」

 

「はい……」

 

 タツから向けられた圧でジンは大人しくなり、立ち上がろうとはしなくなった。

 しばらくそうしているとジンはふと、何かを思い出したようにコマの方を向いた。

 

「あれ? 顔隠すんですか?」

 

「……はい、出来れば今日見た事は忘れてください」

 

「そっか。余計なお世話かもしれないけど、せっかく美人なのに勿体ないんじゃないかな」

 

 そんなことを堂々と言い放つジンに、タツが少し引き、ヨルにコソコソと話しかける。

 

「おい、今の聞いたかヨル。ジンのやつあんなキザなセリフナチュラルに言いやがったぞ」

 

「……? なにが?」

 

「なにがってお前……」

 

「よく分からないけど、他人を褒められるのはいいことだよ」

 

「たっはぁ、この恋愛弱者共め」

 

 ヨルの純粋さにタツは呆れ果て、そっぽを向いた。

 

「……冗談はよしてください。こんな傷物の醜女など……」

 

「傷物って……、もしかしてさっきの傷跡のこと? 酷いなぁ……そんなこと言うやついるの?」

 

 その問いかけにコマはこくりと頷き、何も言わなかった。

 

「そうなんだ……俺は好きだったけどなぁ、太陽みたいで」

 

「……えっ?」

 

 コマは信じられないことを聞いたという顔でジンを見遣る。

 

「傷物かぁ、それだったらほら、俺も顔に傷跡あるよ」

 

 ジンはそう言って自身の頬にある傷を見せる。

 

「ヨルも唇と眉の所に小さな傷あるし、タツも仮面で隠れてるから見えないけど傷跡残ってるし」

 

「おい僕のプライバシーだぞ、侵害するな」

 

「じゃあ俺達、キズモノ仲間だね」

 

「……」

 

 コマが驚きのあまり固まってしまった。

 その様子を少し眺めた後、ジンがハッとして慌てだした。

 

「やばい今の俺の発言めっちゃ不謹慎じゃなかった? ごめん! まだ変なテンション抜けてないみたい。不快にさせたなら本当にごめん。許して貰えないかもしれないけど……」

 

「……いえ、ありがとう、ございます」

 

 声を震わせながら、コマが感謝を述べた。

 その震えが喜びによるものなのか怒りによるものなのか断定できず、ジンは何も言えなかった。

 

「……あの、私、コマって言います」

 

 フードを少しだけ上げ、真っ直ぐジンの目を見てコマは自己紹介をした。

 それを聞いてジンはヨル、タツと顔を合わせ、もう一度コマの方を見る。

 

「……知ってるけど……」

 

「えっ!?」

 

 ジンは既にコマの名前を知っている。

 

「どっ、どうして……」

 

「えっと、左上に自分のHPバーがあるでしょ? その下にパーティーメンバーのHPバーも映ってるから、その横を見ると名前が書いてあるよ」

 

 そう言われてコマは視点の左上を確認する。

 そこには確かに自分以外のHPバーが表示されており、名前を記載されていた。

 

「……本当だ……」

 

「ぶふっ、ククク」

 

 コマの声を聞いて、堪えきれずにジンが吹き出してしまった。

 

「わっ、笑わなくたっていいじゃないですか……」

 

 そんなジンに少し不機嫌に返すコマに、ジンは謝りながら答える。

 

「ごめんごめん、そうだね、自己紹介すべきだったね」

 

 ジンは立ち上がり、コマの目をしっかりとみて自身の名を名乗る。

 

「改めて、ジンです。コマさん、良かったら一時的とは言わずに、これからも俺達と一緒にパーティーを組んで欲しい。ダメかな?」

 

 そう言ってジンは手を差し出した。

 

「……よろしくお願いします」

 

 コマは、少し気恥ずかしさを感じつつもその手を握り、頭を下げた。

 

「……なんかいい雰囲気になってない?」

 

「タツちょっと黙ってて」

 

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