GATE〜自衛官 斯くして彼の地にて、ASで駆けり 作:とりマヨつくね
─────ここは、いったい……
男は深い微睡みから目を覚まし、徐々に浮かび上がる意識。
聞こえてくる赤ん坊の鳴き声に、少々の苛立ちを覚えながらゆっくりと瞼を上げる。
ようやく外界の光景が目に入った時、男は思考を一瞬停止させた。
広がっていた光景はこちらを慈しむように見つめる女性と、今にも泣き出してしまいそうな顔をした男性の二人組。無論、どちらにも面識はなく、間違いなく初対面であるはずだ。
まったく状況が読めないため、話しかけようとするが声が出ない。
仕方がないため腕を伸ばそうとした時、またも思考を停止することになった。
あまりにも、あまりにも小さな自分の手に驚いたためだ。
そして男は気づく。先ほど聞こえた赤ん坊の声は自分から発せられたのではないかと。すなわち自分が赤ん坊であることだと。
再び冷静になって考えて。
─────は?
素直に訳が分からず、困惑するしかできなかった。
◇
日本のどこかにある山岳地帯。
薄暗い森の中を一つの影が通り過ぎた。
その影の正体は、オリーブ色の甲冑と赤くペイントされた右肩を持った巨大な武者だった。
武者の名はAS。最強の陸戦兵器とも言われる人型機動兵器である。
その中でも日本が誇る第三世代型のAS、AS-01一一式主従機士……またの名を<レイヴン>。
数年前に正式採用され、国防の要となっている最新鋭の機種である。
「─────!」
何かを察知した<レイヴン>が後方に高く飛ぶと、元いた位置に弾幕が降り落ちる。
着地し、57mm散弾砲『ボクサー』を弾丸が降ってきた方向へと向ける。
すると木蔭からもう一機の<レイヴン>が現れた。
強いて相違点を挙げるなら右肩が赤ではなく、青色であることだ。
『おいおい、今の不意打ちも躱すのかよ!』
外部スピーカーから、なんともお調子者そうな男性の声が発せられる。
対する赤肩の<レイヴン>は返答せず、引き金を引いた。
『うおぉ!?』
青肩は咄嗟に回避するが、赤肩の方は全速力で駆け出す。
パラジウムリアクターが唸り、マッスルパッケージがその力を解放し、二機の距離は一気に縮む。
手に握っていたボクサーを離し、腰に構えた刀を抜刀。
鈍く輝く刀身がアサルトライフルを弾き飛ばした。
しかしその瞬間、わずかながら隙を生むことになってしまった。
青肩はハンドガンを抜き、ありったけの弾丸を打ち込む──────そう思っていた。
なぜならもう既に、<レイヴン>の姿は目の前にいなかった。
周囲を見渡して探すが、突如、視界が暗闇に包まれる。
ビー! とコックピットからブザーが鳴り、模擬戦の終了を知らせた。
下村克人、23歳(前世含めて57歳)、転生者。
交通事故で命を落としたはずであるが、気が付いた時には再び日本人として生まれ変わっていた。
とはいっても、別に精神までおっさんというわけでもなく、あくまで記憶が……いやここでは『記録』といったほうがいいだろうか。
とにかくそういったものが頭の中にある状態だ。
わかりやすく言えば、アニメを見た後、そのアニメがどんな内容だったかを覚えているのと同じである。
そんな彼が転生(?)した世界は、SFロボットライトノベルの金字塔『フルメタル・パニック!』によく似た世界だった。
一応原作を読んだことない人のために言うが、この世界に『アームスレイブ』(のちはASと表記する)と呼ばれる人型兵器が存在する。
前世で自他共に認めるロボットアニメオタクであった克人は沸きに沸き、幼い頃からずっとASに乗ることを夢にし努力した。
その熱意は当時から相当なもので、同じオタク仲間もドン引きするほどであった。
彼は嘯く。
「──────俺にとってASは憧れであり命なんです。だからどんなことよりも俺はASを優先させますよ」
時が経ち就活が間近になり、親の反対を押し切って自衛隊に入隊。
その後、レンジャー訓練などの実績を残し、三等陸曹に昇進すると同時にASパイロットとして任命されるほどの実力を備えた。
そんな彼であるが───先の模擬戦で機体の頭部カメラを粉々にした罰として床掃除を行っていた。
こればかりは彼に非があるので致し方がないのだが、それに納得できない男がいた。
「どうして……模擬戦相手の俺まで巻き添えを食らっているんだよ……!」
同僚の絹田智一は、ぶつくさと文句を呟いていた。
彼は青肩の<レイブン>を操っていたパイロットで、連帯責任で床をピカピカになるまで磨き上げていた。
「それに関しては本当にすまないと思ってます……」
「ごめんで済んだら苦労しないんだよ! お前、本当にASを動かすとストッパーが効かなくなる癖やめろ! おかげさまでこっちはいつも迷惑をかけているんだからな!!」
「……ごめん。本当にごめんなさい。今度のコミケ売り子として手伝うから許してください絹田様」
「許す!」
─────許された
想像していたよりも、あっさり許されてしまったことに呆気に取られてしまう。
絹田はとある有名サークル(名前を出そうとすると、NT能力で絹田に殴られる)に所属しているらしく、同人誌即売会には常連である。
前世と今世含めても、客側としてしか行ったことはない克人には詳しいことはわからないが、やはり人手は欲しいらしい。
せっかくの休みを返上してしまうが、これで許されるのなら儲けものだろう。
「それはそれとして、お前本当にASを操縦するの上手いよな。どうやったら、頭部カメラをピンポイントで叩けるんだよ」
「まあ、昔からPS(作業用ASのこと)なんかを操縦したりしてたからな。絹田も三年ぐらいやればできるようになるぞ。なんなら教えてやろうか?」
「おお〜いいなあそれ……ってアホか! 俺は中遠距離による支援班なんだよ。近接の超技術なんているか!」
「アベシッ!?」
結局、強烈なツッコミを食らうことになってしまった。
なんでや。接近戦するなら覚えておいて損はないだろうに。
そんな克人の思考を読み取ったのか、絹田は掃除用具を一纏めにしながら言う。
「だって今時、本格的な戦闘なんて起きるわけないんだから仕方がないだろう」
「待て。それフラグじゃ……」
「ははは、何を言っているんだよ。そんなアニメみたいな展開起きるわけないだろ」
……それから数日後、彼らは初陣を飾ることとなった。
次回『AS馬鹿、異世界にゆく』