GATE〜自衛官 斯くして彼の地にて、ASで駆けり   作:とりマヨつくね

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敗北の味

 

 

────────イケる!

 

 克人は確かな確認を持って、一切の迷いを切り捨てて、<レイヴン>に右手の刀を振るわせた。

 銀の刃は黒い装甲を切り裂き───────はしなかった。

 ブレード刃が接触する直前、背中のカートリッジを射出して斬撃の身代わりにしたのだ。

 

「クッ……まだまだぁ!!」

 

 ペダルを力一杯に踏む。

 <バルバトス>に組みつき、両肩のアジャイル・スラスタで一気に加速させる。

 葉や枝を払いのけ、降りかかるGに歯を食いしばる。

 やがて森を抜け、断崖絶壁の崖に激突する。

 その衝撃はあまりにも強く、瓦礫が一斉に崩れる。

 寸前のところで後退に成功するが、<バルバトス>の方は間に合わず瓦礫に埋もれる。

 体勢を立て直そうとするが、スパークが飛び散らせ片膝をつく。

 克人は<レイヴン>の状況を確認する。 

 左腕部ほぼ破損、アジャイル・スラスタも焼き切れ、装甲は所々凸凹になっている。

 克人自身も、先ほどの激突の衝撃でモニターに頭をぶつけ、意識が朦朧していた。

 それでも、これで直接激突した<バルバトス>はぐしゃぐしゃになっているはずだろう。

 しかし現実は非情だった。

 瓦礫の隙間から赤い光が点ったかと思えば、瓦礫を吹き飛ばす。

 その奥から傷一つない<バルバトス>が姿を現す。

 

「これでもダメなのかよ……」 

 

 なんとか立とうしても、完全に脚部のダメージが大きすぎる。

 一方の<バルバトス>は、獲物を捉えた狼のように悠然と歩く。

 <レイヴン>は最後の抵抗と言わんばかりに、十式単分子カッターで突きを行いはするものの、その程度でラムダ・ドライバの障壁は貫くことはできず、刃が二つに折れて宙を舞った。

 

 そして目の前で立ち止まると、片手で首を掴み持ち上げる。

 

 

『ふむ……やはりいいパイロットだな。腕だけなら私以上だ。この障壁を張らなければ、先ほどの激突で死んでいた。ここで殺すのは惜しいな……気が変わった。お前、助かりたいか?』

「な、なにを……だよ」

『なに、お前のようなAS乗りは中々いない。小娘を渡せとは言わん。ただ見逃せすだけでいい』

 

 ……なるほど。死にたくなければ俺の仲間になれ、ということか。

 元いた世界でもこういう武人系のキャラはいた。

 それにレレイやテュカ、ロゥリィとは出会ってたかだか数ヶ月の関係で、ピニャに至っては話したことすらない。

 わざわざ自分の命をかけてまで守る必要はない、そう思う人間は確かにいるだろう。

 

「それは違うよな……」

 

 克人はほくそ笑むと、操縦桿を強く握った。

 意味はないとわかっていながらも、<バルバトス>の腕を掴んでギチギチと音を鳴らしながらも引き離そうとする。

 そして言い放った。

 

「ふざけるなよ! あんないい奴らをアンタみたいなクソ野郎どもに渡すわけないだろうがぁ!!」

『そうか……残念だ』

 

 外部スピーカーから残念がるような声が聞こえ、掌に力が篭っていく。

 あと数秒もしないうちに、克人の体は<レイヴン>諸共バラバラになってしまうことだろう。

 そんな状況なのに、克人の表情はとても落ち着いていた。

 別に死ぬのが怖くないというわけではない、だからと言って使命を最後までやり遂げた達成感で愉悦に浸っていたわけでもない。 

 

『さらばだ』

 

 そう言った直後、<バルバトス>の背中が衝撃が襲った。

 

『なに!?』

 

 <レイヴン>を掴む手を離し、素早くその場を離れて後ろにいる存在を見た。

 だが、そこにはASらしき影はない。

 

 あまりにも唐突な出来事に<バルバトス>は混乱し、その感情が機体越しからでも伝播してくる。

 と言うか、克人もまったく同じ気持ちだったからだ。

 こちらのセンサーがイかれてしまっているが、だからと言って<バルバトス>の方が反応できないのはおかしい。

 センサーが反応しないステルスの攻撃か、機体が反応できないほどの速度で攻撃を受けたことだろう。

 

「一体どこから……」

 

 克人の疑問に誰かが応える。 

 

「あらあらぁ、どこかで戦いの気配を感じて来てみれば、随分と面白いことをしているじゃなぁい?」

 

 闇の奥から艶やかな黒髪をたなびかせ、巨大なハルバードを抱えた浴衣姿の少女が現れた。

 

「マーキュリー……さん」

「あら? 奥のえーえす? に乗っているのは『変な色』の男の子じゃない?」 

 

 と、なんとも明るい口調であるがそれどころじゃない。

 確かにロゥリィは、ASに匹敵するのではないかと思うほどの戦闘能力を誇るが、今回はまるで事情が違う。

 ラムダ・ドライバを使われてしまったら、ロゥリィが勝てるかどうかわからない。

 逃げろ、そう言おうとした時だった。

 

『いいのか? ロシアとの関係が悪くなるぞ……そうか』

 

 <バルバトス>のパイロットが、誰かと通信し納得したような声が聞こえた。

 ガランッとカートリッジがこぼれ落ちる音と共に、機体の向きをこちらに反転させる。

 

「あらぁ? もう終わりぃ?」

「ロゥリィ・マーキュリー、せっかくの来客をもてなすことができず申し訳ない。予定ができた。それとそこの<レイヴン>。貴様、名前は」

「……下村、克人」

 

 恐る恐る名乗った。

 

『そうか、覚えておこう。また会う機会があるだろう。その時までに更に精進するんだな』

「お、おい……待ち、やがれぇ……!」

 

 克人の制止を待たずラムダ・ドライバの力を行使した。

 一瞬でクレーターを生み出した後、周囲一帯に爆煙が上がる。

 土煙が晴れた頃には、<バルバトス>の姿はどこにもなかった。

 戦闘が終わったことへ安堵すると同時に、どっと疲れが押し寄せてくる。

 遠くから多種多様な声が聞こえてくるが、持ちこたえることができずに意識は暗闇に落ちた。

 




次回『初心に戻って』
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