GATE〜自衛官 斯くして彼の地にて、ASで駆けり 作:とりマヨつくね
畳の匂いが鼻腔をくすぐり、意識がゆっくりと浮上してくる。
ゆっくりと瞼を上げると、木製の天井と引き紐電球が視界に移っていた。
身体を起こそうと力を入れると、全身に強烈な痛みが走る。
とてもではないが動かせる気がしない。
「困ったな……絹田や小村隊長の安否を確認したのに……」
そんなことを呟くと襖の扉が開いた。
「あら、起きたのね」
声のした方へと目を向けると、栗林が浴衣姿で入ってきた。
温泉にでも入っていたのか、髪から水滴が零れ落ち、頬から首筋を伝って豊かなバストへと──────────
パァン!!!
「ちょ!?」
と、発砲音とも聞ける乾いた音が炸裂した。
一体、自分ら何を考えているのだ。
確かに栗林は魅力的な女性ではあるが、彼女のことをそう言う目で見るのは一人の男としてなぜかいけない気がする。
先程まで肉体を支配していた激痛すら忘れ、壁へと駆け寄る。
そして勢いよく、ゴスゴスと頭を打ち付ける。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜」
「ちょ、ちょっと、あなた何をやってるのよ!? そんなに頭打ちつけたら、怪我が悪化するわよ。だからやめなさいってぇ!!」
己に湧いた煩悩に振り払おうとする克人を止めるべく、栗林が壁から引き剥がそうとする。
「栗林サン、トメナイデクレ。コレハ、オレのセキニンナンダ。タガラ、トメナイデクレ」
「そんなカタコトで言っても、説得力の欠片もないわよ!!」
「おい、栗林。なにがあった──────ってこれどう言う状況?」
騒ぎを聞きつけた伊丹達が、現在広がっている地獄絵図に困惑する。
それに対し、克人と栗林が。
「「隊長、助けてください!」」
同時に全く違う意味で同じ声を上げる。
ええ〜、とげんなりしながら他の隊員達の協力を得て、なんとか引き剥がすことに成功した。
ちなみになぜ、壁に頭を打ちつけていたのかは、当の元凶である栗林以外すぐに理解され、追及はあえてされなかった。
それから数分後。
ようやく落ち着きを取り戻した克人は、気を失った後の話を聞くことになった。
黒いASは既存のデータがない新型であること、機体ログには特殊な装備が積まれていること、小隊の皆んなは無事であること、以下の三つだ。
要するに、皆が無事なこと以外は何もわかっていないということだ。
いや、ラムダ・ドライバについては知っているのだが、それを指摘することはできない。
それを指摘するのは、克人が転生者であることを告げなければならない。
そして……ここが創作の世界であることを伝えないといけない。
そんなこと、言えるはずがないのに……
克人の沈黙を貫ぬくように伊丹が声を発する。
「下村はそのASと戦ってどう思った?」
「……正直なことを言うと、化け物以外の何物でもありませんでした」
「そうか。もっと具体的なことを教えてくれないか?」
「って言っても、あれが<シャドウ>改造機としか……」
「じゃあ、言い方を変える。また襲ってくると思うか」
「襲ってきます、確実に。少なくとも、彼女たちをゲートの向こう側に帰すまでは」
奴の口ぶりからしてほぼ確実。
それに機体のダメージは少なく、メンテナンスをすれば翌日には再起可能だろう。
もう隠れる必要がないことから、多少強引でも誘拐しようとするのは簡単に予測できる。
克人は機体さえあれば戦えるが、小村と絹田は動けない。
ラムダ・ドライバに対抗するためには、圧倒的に敵の数が少ない。
それに伊丹たちの話を聞く分に、アメリカや中国の妨害もある。
「なるほど……これは中々に厳しいなぁ……」
「そうねぇ、私はともかくとして殿下や騎士さんは厳しそうだしねぇ」
「……悔しいが、エムロイの神官に言われたら何も言い返せぬ」
伊丹のぼやきに、ロゥリィとピニャが首を縦に振る。
その他の者も、大方同意しているようだ。
AS、アメリカ、中国、これらを無策で潜り抜けるほど一筋縄ではない。
何か策を練らなくてはいけないが……そう簡単に閃いたら苦労はしない。
部屋が静寂に包まれようとした時、その内の一人が手をあげる。
「あのぅ……私に提案があるんですけど……」
「えっと……さっきから気になっていたんですけど、どちら様で?」
「そいつは梨沙、俺の元嫁さんだ」
「ファ!? 伊丹隊長に元だけど嫁さん!? 明らかに女心とかわからなそうな隊長が!?」
「お前、いくら何でも失礼すぎだろ……それはそれとしてどんな案だ?」
「ふふふ、これを見よ!」
伊丹が問うと、梨沙と呼ばれた女性はメガネをくいっと上げて自信ありげにスマホの画面を見せる。
そこに載っていたものは、とてもファンシーで衝撃的なものであった。
次回『化かし合い』