GATE〜自衛官 斯くして彼の地にて、ASで駆けり 作:とりマヨつくね
アルヌスの丘での戦闘から数日が経過した。
「「特地調査……?」」
汚れたASのボディをモップでごしごしと洗浄しながら、克人と絹田は疑問の声を上げる。
「ああ、
「それで俺たちとなんの関係が」
『六つの深部偵察隊を編成して、そこに俺達の第一小隊が一機ずつ配置されるらしい』
「それ、大丈夫ですか? こっちの軍にもASのことは伝わっているし、下手に動かして現地の住人と戦闘になろうものなら国内外にバッシングされるのでは?」
克人の問いに、小村は「さあ? 俺にはわからん」と答えられなんとも不安な気持ちになる。
まあ、この世界にはもしかしたらドラゴンなんかも出るかもしれないし、妥当と言えば妥当か。
「それよりお前は大丈夫なのか? お前、死んだ敵兵の墓を作ってやったんだろ? それなのにこんな……」
「大丈夫です」
克人は短く小村の発言を遮る。
「俺は大丈夫です。ちゃんと自分で考えて決めましたから」
「……そうか。なら、いいんだ」
どこか安心したかのような声音で小村は返した。
「ちなみに俺は、どこの偵察部隊に入るんですかね?」
『ああ、そのことか……確か第三偵察部隊だったような』
「なるほど……それにしてもファンタジー世界探検か〜。妖精とか、エルフとかいるのかな?」
「いるんじゃないかな? 俺としてはやっぱり魔法使い……と言うよりは魔法は見てみたいな」
「多分、あんまり期待しない方がいいぞ。現に化け物はいたが、お前らが言うようなやつはいなかっただろ」
「ちょ、夢をぶち壊すようなこと言わないでくださいよぉ!!」
とまあ、夢を膨らませる二人に対して、小村のひどく冷静なツッコミが来るのであった。
◇
「え、えっと……第3偵察部隊の隊長に常磐した伊丹です」
……なんでだろう、なんか想像と違っていた。
いつも小村にビシバシと鍛え上げられている克人からしたら、目の前の男性伊丹耀司はとても情けなく見えてしまうのである。
なんでも先の『銀座事件』では大活躍だったらしいが、本当にそこまですごい人物だとは思えない。
「大丈夫かな、この人」
隣に立っていた栗林志乃二曹も同様の意見だったらしく、克人は謎のシンパシーを感じた。
そうこうしているうちに、あらかた話は終えたらしい伊丹が号令をかける。
「じゃあ、行こうか」
「「「「了解!」」」」
「り、了解」
その後、後ろに控えていた96式改に乗り込み、まだ見ぬ世界へと出発した。
先頭は七三式トラック、後ろは高機動車(HMV)、続いて軽装甲機動車(LAV)、そのさらに後ろを二機の96式改が走るという形だった。
「それにしても……のどかだな」
どこまでも広がる青空、生い茂る緑、うまい空気、異世界というよりはどこかの田舎を思わせるものだった。
最初はファンタジーに興奮していた克人であるが、これでは肩透かしである。
「のどかだな〜」
『なんか色々、台無しなんですけど……』
通信越しから聞こえる絹田の声は、克人以上にがっかりしてしていた。
それからしばらく車を走らせている(途中から伊丹達によるアニソンメドレーを聴きながら)と、もっとも近辺に位置するコダ村に到着した。
初めは村人達に怖がられていたが、黒川二曹の真摯な態度と伊丹の駅前留学で覚えた翻訳でファーストコンタクトは何事もなく無事に終わった。
克人の方も、子供達にASについて問い詰められていた。
『これ、なあに?』
「え、え〜と、魔法で動く、鉄の、大きな鎧。俺、これ、操る」
なんとも拙いが、これぐらいしかASを表現する方法がないから許してほしい。
幸い、子供達には通じたようで「おお……!」と感嘆の声が上がる。
「あんた、子供達に好かれているみたいね……」
「栗林二曹……あまり茶化さないでくださいよ」
克人は向こう側で他の子供達と遊んでいた栗林に対して半眼を向ける。
「別にそういうわけじゃないわよ。あと、あなたもう少し肩の力を抜きなさい。私、あまりそういうの得意じゃないから」
「え、あ、はい、わかりました。それじゃあ……栗林……ちゃん」
「ちゃん付けはやめて!」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて謝るが、すぐにあることに気づく。
まさかちゃん付けで呼ばれると思ってなかったためか、栗林は顔を真っ赤にしていた。
まるで何かを恥ずかしがっているかのような……いや、これは普通に怒っているな。
『いちゃいちゃ……』
『らぶらぶ……』
と子供達が言っていたが、栗林はどういう意味かわからないようだし、克人は聞かなかったことにした。
そうこうしていると、伊丹が村長との話を終え、乗車の号令が掛かり子どもたちとお別れする。トラックに乗車し、すぐに走り出した。
コダ村を離れてから長い時間が経ち、太陽が沈み月がで始めた頃。
彼は、克人は信じ難いものを見た。
きっと今後、これ以上の光景を見ることはないと思えるほど、異常な光景が広がっていた。
「燃えていますねぇ」
伊丹が双眼鏡を覗きながら言うと、「はい、燃えてますね」と倉田三曹が簡潔に返答していた。
伊丹や倉田だけではない。克人も、栗林も、黒川も、その場にいた全隊員が見入ってしまっていた。
「大自然の脅威っすね」
「とう言うか、怪獣映画だろ……」
おやっさんこと、桑原陸曹長は額に汗を浮かべながら言った。
その発言に克人は心の中で同意した。
はっきり言って、あんなものと戦いたくもない。可能ならどこかに行くまで待機がベストだろう。
だが隊長である伊丹は違った。
「ねえ、栗林ちゃん。あのドラゴンさぁ、何もない森を焼き討ちする習性があると思う?」
意見を求められるが、栗林に答えられるはずがない。
だがツンデレである栗林は、少しばかり辛辣な態度で言ってのけた。
「ドラゴンのご習性にご関心がおありでしたら、二尉ご自身でお調べなったらどうです?」
「栗林ちゃ〜ん。おいら一人じゃ怖いからさぁ、一緒に来てくれない?」
「わたしは嫌です」
「あ、そう」
結局、森に入れたのは翌朝だった。
あんなに生い茂っていた森も、今では綺麗な焼け野原が広がっている。
「こりゃ、随分と酷いな」
「ああ、これで生存者がいたら奇跡だな」
絹田の言葉に克人は頷く。
たった一夜にしてこれほどの被害、まさに生きる災害だ。
それから小一時間ほどかけて捜索して、どうやら生存者がいないということだけはわかった。
遺物をあらかた調べ終えた克人は、伊丹がいるところへ向かう。
伊丹は井戸の脇に腰掛け、栗林の報告を聞いていた。
「あ〜、生存者いた?」
「ダメです。こっちは全滅、死体も残っちゃいません。遺物の方も大体焼け焦げてしまって、原型を留めている物が少なすぎます」
「そうか……とりあえず、ドラゴンが民家を襲うことは報告したほうがいいな。それとドラゴンの住処と出没地域も調べておかないとね」
などと言いながら、井戸の中に木桶を投げ入れる。
するとコーン、と何かがぶつかる音が井戸の奥から響き、妙に感じた伊丹が覗きこんだ。
同じ違和感を感じた克人と栗林も、伊丹に続いて井戸の中を覗き込む。
そして三人が目にしたものは────
「「き、金髪エルフ……!」」
克人と伊丹が声をシンクロさせながら言った。
井戸の奥底で、長い耳と美しい金色の長髪を持った少女が、プカプカと水の上に浮かんでいた。
次回『VS炎龍』