GATE〜自衛官 斯くして彼の地にて、ASで駆けり   作:とりマヨつくね

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イタリカ救援

 陸上自衛隊特地派遣部隊本部では、佐官級の幹部自衛官が、今にも取っ組み合いになるのではないかと思うほどの激論を交わしていた。

 それを一つ壁を隔てても聞こえる怒号に、克人は鬱屈としていた。

  

「なんでもいいから静かにして欲しいもんだ」

 

 

 偉そうに言っている克人であるが、実際はそんなに詳しい事情を知らない。

 第三偵察部隊の皆は現地人の戦闘に巻き込まれたようで、現状の戦力では無理があると判断し、援軍要請をしたとのことだ。

 で、ここからはあくまで推測であるが、打撃部隊である第一戦闘団と第四戦闘団は毎日毎日地味な訓練ばかりさせられている。

 そこまでならただの日常であるわけだが、先日最小限の被害で炎龍を撃退したことが自衛隊の士気の向上を促してしまったのだ。

 そこで今回の援軍要請がトリガーになってしまったようで、無辜の民を救出するという大義名分の元、どの部隊が出動するかで絶賛議論の最中という訳である。

 

(……あれ? これもしかして俺のせいでもある?)

 

 

 そこでようやく気づいた克人は、疲れが溜まっているんだろうなぁ、と思いながら口にコーヒーを含む。

 冷めてより強くなった苦味と酸味が口いっぱいに広がり、怠くなっていた意識をシャッキリとさせる。

 すると部屋の扉が開き、誰かが入ってくる。

 絹田だ。

 

 

「よう、相棒。仕事の時間だぞ」

「は? それはどういう……」

「いやいや、俺たちの小隊の元々の所属忘れたか? 第四戦闘団が救援になることになったんだよ」

 

 

 ……そういえばそうだった。

 克人が所属する第四戦闘団は、ヘリによる空中機動作戦を旨としている。

 その際、対地兵器の破壊及び基地の占拠を主とした理由で、AS部隊もここに所属することになっている。

 

 

「でもASはどうすんだよ」

「何言ってるんだよ。もう届いてるぞ、『とっておき』が。スーツに着替え終えたら、格納庫に迎え」

「お、おう」

 

 克人は意味が分からず、生返事を返した。

 絹田の指示通り、パイロットスーツに着替え格納庫まで行く。

 格納庫の前に立っていた絹田が「遅いぞ」と軽口を叩くが、克人は大して気にせず視線で扉を開けることを促した。

 意を汲んだ絹田は、格納庫の扉を開けた。

 中に入り、暗がりの奥へと歩んだところで照明が点く。

 

「コイツは……!?」

 

 克人の前方には、武者の意匠が入ったASが出陣の時を今か今かと待ちわびていた。

 

「<レイヴン>……どうしてこんなところにあるんだよ」

 

 伊丹と風呂で会話した時は第三世代型は、政治的な都合で配備できないと聞いていたはずだ。

 それなのに……なぜ……。

 

「炎龍との戦闘で得たデータを元に、お前の親父さんがお偉方に口添えしたらしいんだよ」

「父さんが……?」

「ああ、十数年前の巨大AS事件の生き残りで、<レイヴン>の開発者でもある下村悟に言われたら、いくらお偉いさん方でも重い腰をあげたみたいだな。実に物分かりがいいことだな」

「……それはどうかな」

「は? そいつはどういうことだよ?」

 

 克人は苦笑を浮かべながら、<レイヴン>を見上げる。

 <レイヴン>のボディは傷はおろか、塵の一つすら見受けられないほど綺麗なオリーブ色を放っていた。

 

「父さん、子煩悩だからな」 

 

 

 作戦の内容を軽く説明され、順次機体に乗り込みマスター・スーツに固定される。

 機体を起動させ、心臓たるパラジウム・リアクターが唸りを上げる。

 モスグリーンの瞳が輝きを放ち、<レイヴン>はゆっくりと立ち上がる。

 壁に固定されたライフルと10式単分子カッターを腰に装備し、<レイヴン>達が続々と格納庫から出る。

 輸送用のヘリからアンカーが伸び、機体が固定される。

 空気を切り裂くロータ音を響かせながら、ゆっくりと足が地面から離れてゆく。

 目指すはイタリカ、漆黒の空を武士(もののふ)達を乗せた天馬の一団が駆けてゆく。

 

 

 

 

 ─────どうして、こんなことになったのだろうか

 

 

 帝国第三皇女ピニャ・コ・ラーダは、ふとそんなことを思った。

 父、国王モルト・ソル・アウグスタスの命で異世界から来たという軍隊について調査することになった。

 浮かれていた、とは思う。

 今まで見向きもされなかった私の騎士団に、ようやく大役を任せてもらえたのだから。

 だが、そんな浅はかな考えはすぐに消えた。

 先の戦いで、諸王国軍の生き残りであるデュランの見るに耐えない姿を見た時、確信した。

 それからも僅かな手かがりをかき集めたが、どれも信じがたいことばかりだった。

 そんな折、謎の武装集団がイタリカを攻めているという情報が入り、イタリカへと赴いたはずだ。

 それなのに─────まさか、アルヌスでの残党が盗賊に成り下がっているとは予測できなかった。

 最初こそ、数日に渡る疲労による思考力の低下と盗賊の残忍な行動で冷静さを失ったことでピニャの作戦は瓦解した。 

  二次防衛線も突破され、最終防衛線もじきに陥落するだろう。

 

「うおおおおおおおおおおお!」

 

 盗賊の一人が剣を高らかに掲げ雄叫びをあげると、周囲が熱気を帯びる。

 士気が上がった盗賊達が次々と雪崩れ込んでくる。

 騎士、民兵、農夫、イタリカ全体が一丸となって応戦こそしているものの、明らかに押されている。

 絶命の叫び、苦痛に悶える泣き声、怒りの怒号、阿鼻叫喚の地獄絵図がそこにはあった。

 ピニャには、ただひたすらにその光景を眺めることしかできなかった。

 

 

「緑の服の人達は!? 援護は!?」

 

 

 ピニャは叫ぶが、それに腹心であるハミルトンは首を横に振るだけだった。

 それもそのはず、緑の人─────自衛隊は捨て駒としてピニャ自身が南門に配置させたのだ。 

 もう間に合うはずがない。

 それにたかだか数人増えただけで、どうにかなる戦力差じゃない。

 

 

「もう……終わりなのか」

 

 

 膝から崩れ、諦めかけた時だった。

 黒い何かが通り抜け、戦場に舞い降りた。

 爆撃があったかのような轟音が轟き、敵味方関係なく周囲のものは吹き飛ばされる。

 舞っていた土煙が晴れ、そこにはゴシック服を身にまとった少女が、ハルバードを片手に不敵な笑みを浮かべていた。

 死神ロゥリィ・マーキュリー。この世界でその名を知らぬものは存在しない暗黒の神エムロイの神官だ。

 その登場を彩るように、城門が爆発し炎上した。

 

 

 UH-1J三機編隊が門外の盗賊に対して、上空から機銃を掃射する。

 それよって北門に群がっていた敵がほとんど消えた。

 

『クリア、AS部隊降下!』

『了解、AS部隊降下』

 

 健軍一等陸佐の合図で、後ろで控えていた輸送機から<レイヴン>達が降下されていく。

 その数、およそ十二機。

 全高八メートルの鋼鉄の巨人の姿を見て、盗賊の大半は萎縮してしまう。

 それもそのはず、アルヌスの生き残りである彼らにはトラウマそのものと言っても過言ではないだろう。

 数人の盗賊が弓矢や投石を放ってくるが、分厚い装甲には歯が立たなかった。

 着陸した<レイヴン>の各々が、アサルトライフルから人間大の弾丸を放ち、鉄塊とも言えるほどの大きさの刀を振るい、盗賊の一団を蹴散らしていく。 

 混乱し、恐怖し、狂乱し、散らばる盗賊達を上空から狙撃される。

 気が付いた時には盗賊のほとんどが、武器を捨て降参の意を示した。

 最後は門内にいた盗賊を機銃で薙ぎ払い、決着はついた。

 

 

  

 




次回『一難去ってまた一難』
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