「師匠―、ししょー、しっしょー」
光とともに青色が降り注ぐような晴天の下、大きな木をくり抜いて作られた家の前でエクスののんきが声が響いた。
その声に応えるように家の中からトタトタと足音がしたかと思うとガチャリとエクスの目の前の扉が開く。
「あーもー……一回呼べば聞こえるって」
顔を出したのは当然アルスだ。その顔は眠そうではあるものの、格好は寝巻きでなくきちんと普段の黒いローブ姿だ。白金のようなその髪も絹のように美しく、しっかりと櫛を入れられていることが窺える。
ぶつくさと文句を言われたエクスは悪びれることなく、
「師匠のことだからまだ寝てるかと思ったんですよ」
うぐ、と痛いところを突かれたアルスは少し不貞腐れたように答える。
「どうせ先輩のことだから馬鹿みたいに早く来ると思って早めに起きてたよ」
「馬鹿みたいにって……普通の時間だと思うけどなあ」
いまいち納得がいかないような顔のエクスはまあいいかと話を切り替える。
「それでそんなに眠そうなんですか」
「まあね。おかげで寝不足になりそうだよ」
それを聞いたエクスはふむ、と一瞬何かを考えると、
ガンガンガン!ガンガンガン!
「うるせえな!?いきなり人んちの鐘で遊んでんじゃねえよ!」
「いや、なんか師匠眠そうだったんで」
「それは来客用の鐘であって目覚まし用じゃないんだよ!」
アルスのクレームにもエクスはけらけらと笑うばかりだ。まったく…とアルスは溜息をつく。
「それでセンパイ、怪我の調子はどう?」
「だいぶ良くなったけどまだそこそこ痛む……ってところかな」
エクスはそう言うと短槍に貫かれた太ももをさする。実際ここまで自力で歩いてこれている時点で完治とはいかなくとも快方に向かっていっているのだろう。エクス自身の顔色も悪くない。
一人頷くアルスに今度はエクスが気遣わしげな目を向ける。
「師匠の方はどう?左手とか大丈夫ですか?」
「センパイと同じ感じかな。まだけっこう痛いけど割と良くなってきてる」
アルスは包帯の巻かれた左手をひらひらと振ってみせた。何度も傷口を洗い、その度に取り替えた包帯には最初の頃と違って血の滲みなどもなくあまり痛々しさは感じられない。
アルスは自分の頬にそっと手をやると、
「こっちの方なんかはもうだいぶ傷も塞がったしね。この分だと特に痕とかも残らないと思う」
その言葉にエクスはどこかほっと安心した様子を見せた。実際アルスも似たような気持ちだ。別に痕が残ったからといって殊更に厭うつもりもないが、やはりできれば目立つ場所に傷痕が残るのは好ましくない。
アルスは一つ息を吐いて気分を切り替えると、
「それじゃそろそろ村長の家に行こうか」
そう言って玄関から一歩踏み出した。
数日前のあの日、あの夜。
アルスとエクスの二人はしばらく呆然と残された首飾りと焦げ跡を眺めていた。
先に動いたのはアルスの方だった。別に冷静さを保てていたというわけではない。ただなんとなく、ふらりと動いて落ちていた首飾りを拾っただけだ。
それを見てエクスはぎょっとしたように、もしくは焦ったように声をあげた。
「師匠、それ危ないんじゃ……」
「……多分、大丈夫だと思う。もう熱くもないし、今は魔力も邪悪な何かも感じない」
手の中の首飾りをじっと油断なく眺めるも、何も感じない。だというのに禍々しく見えるのは気のせいだろうか。夕方にこれを拾った時にはただの変わった首飾りとしか見えなかったのだが……
「それ、どうするんですか?壊すとか?」
いつの間にか近くに来ていたエクスがアルスの肩ごしに覗き込む。アルスは少し考えて、
「んー……どういうものかよく分からないのにさ、下手なことするのは危ないし……」
あまり気は進まないが仕方ないかとそれをポケットに仕舞う。夕方はこうしていてもなんともなかったのだし、恐らくは大丈夫なはずだ。
「とりあえずボクが預かっておくよ。後で適当に魔除けの箱にでも入れておくから」
そしてアルスは周囲をぐるりと見渡すと溜息をついてこう呟いた。
「これ、どうしようっか?」
「それにしても随分時間がかかりましたよね」
村長の家へ向かう道すがら、エクスがのんびりと口を開いた。
あれから数日。今二人が村長の家に向かっているのはその事件のことで村長に呼び出されたからだ。
ふと、通りかかった畑の向こう側を見る。ここは『川』の結界のある畑、つまり向こう側はあの戦いの場所だ。
だがその痕跡はもうすでになくなっている。ヴォジャノーイ達の死体はすべて綺麗に片付けられ、地面の焦げ跡は真新しい土で隠されている。あの戦いを示すものはもはや二人の体についた傷痕くらいだ。しかしそれもじきに治り、消えるだろう。
アルスは静かに首を振るとゆっくりと前に向き直った。
「まあなにせ村人の中に殺人鬼がいたんだしね。それも医者なんて立場のある人間が」
あの後、起こった騒ぎは当然ながら巨大ナメクジの比ではなかった。
村人から信頼を得ていた医者が子供の連続不審死の犯人で、その動機が邪教の生贄の上に魔物まで従えていたのだ。ああだこうだと一気に混乱が村中に広がった。
もちろん簡単には信じない者もいた。だが、あちらこちらに転がるヴォジャノーイの死体や医者の家の地下室の禍々しい像など、物的証拠がいくつもあったおかげでそういった者たちも信じざるおえなくなった。
次に疑われたのがアルスだ。医者はハメられたのではないか、実は医者とグルで仲間割れをしただけなんじゃないか、などあらぬ疑いをかけられたが、エクスの証言と何より医者が死亡宣告をしたはずの赤ん坊が生きていて、しかもそれを連れてきたのがアルスということでひとまず疑いの声は収まった。それでも猜疑の目を向ける人はいるものの、それに関してはここまでやった以上気にしないようにするしかないだろう。
「それにしてもまさか本当にセンパイがあの木に英雄認定されてるなんてね」
以前エクスが枝を折ってしまったロープスの木。あの時は偽物だとばかり思っていたのだが実は本物だったようだ。
気づいたきっかけはヴォジャノーイだ。そもそも最初に川原で襲われた時、何故エクスは助かったのか。陸上ならまだしも、襲われたのは水中でしかもいきなりだ。冷静に考えればおかしいのだ。戦闘経験を積み重ねた熟練の戦士ならいざ知らず、ただの素人がその状況で助かるなど。
それをあの夜の戦いで水中でのヴォジャノーイの厄介さを見たアルスは違和感を感じ、思い至ったのがあの木だ。
以前読んだ本には確かにこう書かれていた。『その木は英雄にしか傷をつけられないが、もし傷をつけることができたのならその者は一度だけ敗北から遠ざかる』と。
「つまり俺のおかげでこんなに早く怪我が治るってことじゃん。もっと感謝してくださいよ師匠」
「ボクは未だに納得がいかないんだけどなぁ……ていうかその薬を調合してんのはボクだろうがよぉ」
ロープスの木のもうひとつの力。その葉を巣材にしたある薬は死にかけの人間も助かるほどの生命力を与える薬になるというもの。その薬のおかげで二人の傷はたった数日で驚く程の回復を見せた。助け出された赤ん坊もそうだ。生贄にするためにそれまで死なないように世話をされていたとはいえ、それなりに弱ってはいた赤ん坊もロープスの薬のおかげですっかり元気になった。
「それにしても効果がすごいよね。売ればけっこういい値になるんじゃない?俺の分は三割くらいでいいからさ」
「なんでお前にそんなに払わなきゃいけないんだよ……それに売るったって調合がかなりクソ面倒だし、何より材料の葉っぱが少ない上に一度の調合でけっこう使うからなあ」
なかなかそう上手い話はないものだ。アルスの言葉にエクスは残念そうに頭の後ろで腕を組む。
二人が歩く暖かな陽射しの中、ふわりと緩やかな風が爽やかな緑の香りを運んできた。その中に仄かに甘い花の香りを見つけたアルスはゆっくりとその大きな青い目を細める。
「どうしたん師匠、変な顔して。目にゴミでも入ったんですか」
「違うわボケ。ぶっ飛ばすぞ」
一瞬で気分をぶち壊されたアルスは隣を歩く弟子の足を蹴っ飛ばしてやる。
ブツブツ文句を言うエクスを面倒なので無視してしばらく歩くと村長の家が見えてきた。
「こんにちはー。村長―?きましたよー」
エクスが村長の家の扉をコンコンとノックする。すると中から声が聞こえてきて、ややあって玄関の扉がガチャリと開かれた。
「おお、よく来たな。さ、上がりなさい」
そう言って二人を招き入れてくれた村長の後に続いてアルスとエクスは扉をくぐる。
「そこの席に適当に座るといい」
指し示した席の反対側に村長がどっかと座る。二人が座ると奥の方から村長の奥さんがお茶を持ってきてくれた。
二人がお礼を言ってコップを受け取るとおもむろに村長が切り出した。
「さてお前たちを呼び出したのはな、諸々の調査が終わったからだ」
真剣な面持ちでそう話す村長に二人は居住まいを正して話を聞く。
「結果改めて医者の奴が犯人であり、アルスの潔白であることが証明された」
それを聞いてほっと二人は胸をなで下ろした。
「ありがとうございます」
アルスのお礼にうむと頷くと、
「そういえばあいつの家から日記が見つかってな。なんというか、随分とお前に執着していたようだ」
なんとも微妙な、それでいて気の毒そうな目をアルスに向けた。
「まあ、もしかしたらあやつも寂しかったのかもしれないな」
だからといって許されることではないがな。そう呟くと村長は深く息を吐いた。
一口お茶を飲み一息ついた村長はさて、と話を変えた。
「それでだなアルス、お前に一つ頼みたいことがあるんだが」
「え、ボクに……ですか?」
きょとんとするアルスに村長は一枚の手紙を取り出した。
「これを都まで行って役人に届けて欲しいのだ。もちろん路銀や地図などその他諸々をこちらで用意する。とはいえ一人分しか都合できないのだが」
はあ、と差し出されたそれを受け取る。見るからに上等な紙で立派な封がしてある。
エクスと二人でそれを矯めつ眇めつ眺めてから、
「それでなんで師匠なんですか?」
そうエクスが尋ねると村長はううむと唸り、ぎしりと椅子を軋ませながら背もたれに体を預けた。
「実は今回の件だが、さすがに国のお役人に報告をしなければいけないと思ってな。それで一連のことをまとめた報告書を書いたのだが、どうせなら当事者のお前に行ってもらったほうがいいのではないかと考えたのだ。今回の事件を解決したアルスなら道中、危険は少ないだろうしな」
それに、と村長は机に身を乗り出す。
「アルス、お前が拾ったという例の首飾り。あれがどういうものか分からずに扱いに困っているのだろう?」
「まあ、はい……」
あの首飾りはあれからもやはり、なんの力も感じられないままだった。だがかえってそれが不気味で、アルスはできる限りの魔除けを施して保管していた。具体的には魔除けの呪文が書かれた布五枚でぐるぐる巻きにし、ヘンルーダの葉で何重にも包んだものをこれまた魔除けが施された箱を大中小と用意して、三重にしまって上で棚の一番奥に突っ込んである。
「あれも証拠としてお役人に渡してしまいなさい。そうすれば危険もなくなるだろう」
「え、でも……そうすると役人の人が危ないんじゃ…」
アルスの懸念にエクスが横で頷くが、村長はいやいやと首を振って、
「そうはいっても重要な証拠の一つだしな。報告するならそれも渡したほうがいいだろう。それにそういうものはお上になんとかしもらったほうがいいだろう。なに、心配するな。都にはこの国きってのの天才と名高い錬金術師もいるのだし、お上に任せてしまえば何とかしてくれるだろう」
そう言って一人頷くと、村長はぐびりとお茶を飲んだ。向かいに座って話を聞いていたアルスとエクスはそういうものだろうかと顔を見合わせる。
「それにしても都かあ。ずるくない?師匠ばっかり。どんな所なんですかね、都って」
「お前なぁ、別にボクは遊びに行くんじゃないだけど」
二人のやり取りを見て苦笑した村長が口を挟む。
「まあエクスもそのうちに行く機会があるだろう。いいところだぞ、王都ほどではないが華やかでたくさんの人で賑わっていてな。この国の第二皇女が治めている街だ」
「へえ、お姫様がですか」
「ああ。なんでもさっき話した錬金術師と幼馴染らしい。とても人望に厚く、頭脳明晰な立派な方だそうだ」
偉い人にはあまり興味がないようで、ふうん、とエクスは気のない返事を返す。そしてやはりアルスが羨ましいようで未練がましく封筒を手の中であれこれと弄ぶ。くぴりと出されたお茶を飲み干したアルスはそれを横からひらりと取り上げると、そのままポケットに仕舞いこんだ。
「分かりました。届けて報告するくらいなら…」
それを聞いて、うむと村長は満足そうに頷いた。それからちらと視線をそらして、
「あー……それとだな、アルス……」
「はい?」
村長は少しだけ視線を彷徨わせると気まずそうな顔になった。
「ワシはな、昔戦に行ったことがあるのだ」
「はあ」
その話はちらと聞いたことがある。たしかエクスが剣を貰うときに、村長が昔戦の時に使っていたお下がりだとか言っていた気がする。そういえばあの剣はどうしたのだろうか。あの夜にぶん投げてそのままだった気がするが、ちゃんと回収したのだろうか。
アルスが隣の顔を盗み見てそんなことを考えていると村長は懐かしむような顔で、
「情けない話だがその時ワシは死にかけてなあ。なんのことはない、ただ単純に相手より剣技が劣っていたのだ。元より農家の倅が剣を担いで戦士を気取っていただけなのだからさもありなんといった話ではあるが」
昔話をする村長は腕を組んでふうと一つ息を吐く。
「見逃されたのかそれとも死んだと思われたのか。はたまた止めを刺すまでもなかったか。ともかく運良くワシはなんとかその場を生き延びた。だが深い傷を負って血も止まらず薬もない。そもそもろくに動くことすらできない。その時一人の老人に出会ったのだ」
その老人に助けられたという話だろうか。だがそれがどうしたというのだろう。
村長が何を言いたいのかよく分からない二人はとりあえず曖昧な返事をしておく。
「その老人はなにやらよく分からん言葉をブツブツと唱えるとワシに手をかざした。すると驚くことに傷が癒え、今にも死にそうだったワシはあっさり助かったのだ」
「え、それってその人が魔法使いだったということですか?」
意外な展開に思わず口を挟んだエクスに村長はうむと頷いた。
しかし魔法使いに助けられたなんて経験があるなら何故アルスにあんな否定的だったのか。エクスは驚きながらも無意識に眉を顰めてしまう。
村長は思い出すように天井を見上げると、
「その後、助けた礼をしろと言われてあれこれと手伝わされたんだ。まったく色々なもを見たな。珍しいものからすごいこと、恐ろしいものまで本当に色々だ。間違いなくワシの人生はあれで変わった」
村長は見上げていた顔を正面に戻した。
「だからワシにとってはその老人こそが『魔法使い』の姿だったのだ。それで、と言うと言い訳になってしまうがな、知らぬことなどないのではいう程知恵に溢れ、驚く程老練なあの姿とお前はどうしても重ならなかったのだよ」
「それは、まあ……ボクなんて駆け出しの半人前だし……」
だが村長はふっと微笑んで首を振る。
「いいや、今回の件でワシは自分のこと狭量さを知ったよ。そもそも魔法使いでもないワシがあれこれ偉そうに決め付けるのが間違っていたのだろう」
「……」
「たしかにアルス、お前はワシがかつて出会ったあの魔法使いには及ばんのかもしれない。しかしそれでも、その力を以てこの村を邪悪なものから守り、救ったのは揺るぎない事実だ」
だから、と村長は一度言葉を切ってアルスを真っ直ぐに見て、
「アルス、お前は立派な魔法使いだ」
そう言って優しく笑ってくれたのだった。
「よし、忘れ物はないな……」
旅立ちの日、アルスは自宅で最後の荷物のチェックをしていた。きちんと一つ一つ確認し荷造りが完璧であることを確認したアルスが荷物を背負うと、タイミングよく玄関からノックが聞こえてきた。
「なんだ、黛か」
「どーも」
玄関の扉を開くと見知った顔が立っていた。アルスは背負った荷物を一旦下ろすと、
「どうしたの?なんか用?」
「いや、一応見送りしようかなって」
ああ、とアルスは得心して頷く。相変わらず律儀なやつだ。アルスは下ろした荷物の上にポンと腰掛けた。
「別にいいのに。ちょっと遠いとはいえ都なんてそこまで長旅にはならないだろうし」
「え?邪神を封じるための失われた魔法を求めて、竜に滅ぼされた幻の都に行くんでしょ?」
「どんな大冒険をさせる気だよ!?」
最終的に世界を救うことになるのではないだろうか。
「じゃあ村長から村の全財産の半分と伝説の指輪を受け取ったって話は……」
「デマに決まってんだろ!いったい誰からそんな話を聞いたんだよ!」
「エクスだけど」
「ぶっ飛ばすぞあの野郎!」
どうやら危うく詐欺師仲間にされるところだったようだ。
「まったくボクをなんだと思ってんだよ」
ブツブツと文句を言うアルスに黛は真面目な顔になると、
「何って、村と子供たちを救った英雄」
ムグ、とアルスは一瞬押し黙ってしまう。たしかに救ったのは事実だがそう言われるとなんだかむず痒い気分になってくる。そもそもあれは自分一人でやれたのではなくエクスとの協力あっての勝利だし、運によるところも大きい。
だが知ってか知らずか黛はいつもどおりの表情で、
「実際すごいよ、アルスは。子供っていうのは未来みたいなものだからね。そういう意味ではアルスはこの村の未来を救ったってことだからね」
アルスはフルフルと首を振る。
「……たまたまだよ、ボクだけじゃなくてエビセンパイのおかげでもあるし」
「そんなことないでしょ。これから邪神を封印するために幻の都に旅立つんだし」
「だからデマだって言ってるだろ、それは!」
そうやって二人でひとしきり笑うと、アルスは荷物を背負い直して家から出た。
「これでよし、と」
玄関に鍵をしっかり掛けたのを確認して村の入口へと向かう。隣ではそこまで見送るつもりなのか黛が歩幅をあわせて歩いている。
途中、村の保管庫がわりの小屋の横を通り過ぎた。あの時の地面のヌルヌルはもうどこにもなく、ポカポカと暖かい日差しが降り注ぐ光景はナメクジのことなど微塵も感じさせない。
そんな平和な眺めの中、白い蝶と黄色い蝶がひらひらと草むらを飛び回っていた。
なんだか最近よく見るな、とアルスはじゃれあう二匹を眺める。あの蝶は蜘蛛の巣にかかっていた二匹だろうか。それともただ同じ種類なのだろうか。
まあ違う色の二匹が一緒にいるのはなかなかに珍しいから蜘蛛の巣にかかっていたあいつらなのかもしれない。
そういえばあの夜にも見たような……いや気のせいか、とアルスが記憶を探っていると、
「そういえばさ、アルス」
「ん?なに?」
アルスがまあ蝶のことなんてどっちでもいいかと隣へと顔を向けると黛は少しだけ黙ったあとに真剣な口調で口を開いた。
「この前はごめん。アルスのことを考えずに無神経なことを言ってしまって」
「……ああ」
あの戦いのその前の日。エクスから話を聞いて心配して来てくれた黛と半分自棄みたいになっていたアルスは喧嘩のような感じになっていたのを思い出す。
「別にいいよ。ボクも意地になってたし。落ち着いて考えてみれば黛の言うことも一理あるしね」
くるりと体ごと黛に向き直ったアルスはそう言って小さく笑った。その顔を見た黛ははて、と首を傾げる。
「なんか……吹っ切れた?」
「んー……まあ、そうかもね」
晴れやかな顔で笑って前を向いたアルスに、そっか、と黛はどこか嬉しそうに呟いた。
「………」
そうしてなんとなく、二人の間に沈黙が訪れる。けれどもアルスは敢えて何かを言うこともなく、じんわりと温かいその静けさに身を浸した。。
そのまましばらく歩いていると一人の村人と出くわした。
「おやおや、誰かと思えば子供たちの救世主じゃないか」
それはエクスが英雄であることを否定して、アルスを魔女呼ばわりしていたあの青年だった。アルスは顔を顰めて足を止める。
「……何か用?」
面倒臭そうに声を掛けたアルスに青年は苛ついたような顔を向ける。
「チッ……ンだよ、その生意気な態度」
舌打ちをしてブツブツと口の中で呟いた青年はアルスをジロジロと無遠慮に眺め回す。そしてハッと小馬鹿にするように笑うと、
「なんか大層な荷物だと思ったら、あれか。村長に頼まれて都の方へ行くんだったけか?」
「……そうだよ。だから邪魔すんなよ」
アルスがぶっきらぼうにそう言うと、青年はその澱んだ目を潰すように細めた。
「あいつといい、なんでよりによってこいつが……なんでこいつらばっかり……」
呪詛のようにブツブツと呟く青年に黛が無言でアルスの前に立つように一歩進み出る。それを見た青年は気持ち悪いものを見たかのような顔で舌打ちをした。
「なんだよお前、なにカッコつけてんの?」
「別にカッコつけてないけど、それより随分態度悪くない?お前が集会開くほど憂いていた問題を解決したのは他ならぬアルスなのに」
その言葉に青年は一瞬ひどく顔を歪ませたが、すぐに馬鹿にした顔になる。
「そんな怪しい話誰が信じるんだよ」
、どういう意味かと問うよりも先に青年はアルスに濁った視線を向けると、
「ていうか本当に医者が犯人だったのかね。もしかしたらその魔女が上手いこと自分のやってたことを擦り付けて、その上で口封じしたんじゃねえの?」
「おい、いい加減に……」
黛が一段と低い声でさらに一歩踏み出そうするのをアルスは後ろから服を引っ張って止める。この青年以外にも未だにアルスのことを疑っている村人が何人もいることはアルスだって知っている。だからといってそいつらをいちいち相手にしていてはキリがない。それはこいつ相手だって同じことだ。アルスはもう青年を無視して先に進もうとすると、そこで道の向こうからやってくる人影が見えた。それはあの子供の母親だった。
「ああ、なんだあんたか」
足音に振り返った青年は水を差されたとばかりにつまらなさそうな顔になると、
「今取り込み中なんだよ。何の用か知らないけど後にしてくれ」
そう言って母親を追いやるように片手を振った。
しかし母親は青年の方をちらりと一瞥しただけでその言葉を無視すると、アルスに向き直って深々と頭を下げた。
「あの、今回は本当にありがとうございました。そしてその……本当に今更ですけど、このあいだは本当にすみませんでした」
「え……あ、いや、その……」
礼だけならまだしも、まさか謝られるとは思っていなかったアルスはどう反応していいか分からずに目をぱちくりとさせる。アルスからしてみれば結局認めてくれたのは村長などの一部の人だけで、大体の村人は青年と同じに自分のことを疑っているものだと思っていたのだ。
深く下げた頭をあげようとしない母親に向かってアルスはワタワタと声をかける。
「えっと、もう分かったから……」
そう言われてようやっと顔を上げた母親はほっとしたように小さな息を一つ吐いた。そこに青年が苛立ったように割り込んできた。
「なんだよ、ついこないだはこの魔女のせいだって狂ったみたいに泣き叫んでだくせに」
母親は目を閉じて溜息をつくとぐるりと青年に向き直った。
「だから今謝罪していたんでしょう。そもそも自分の子供を助けてくれたんだから態度が変わるのは当たり前じゃないの」
「助けた?村の連中が言ってるぜ、医者は魔女に嵌められただけで黒幕は魔女なんじゃないかって」
「何を言ってるのよ、この子がが本当に犯人だったらあの子を返してくれるわけじゃない。返そうが返すまいがそうやって疑われるのには変わりないんだから。それに村の連中って言ったって一部の疑り深いひねくれ者だけでしょう」
傍で事の成り行きを見守っている黛どころか当のアルスまで差し置いて青年と母親が睨み合う。
「そもそもあなたこの子のことを怖がってだとか、村のことを考えてそんなことを言ってるわけじゃないくせに」
「……何が言いたいんだ」
「ただ単に妬ましいだけでしょう、この子やエクス君のことが。自分の気に入らない人が、認めていないのになにかすごいことをやってのけてるのが気に食わないんだわ。まるで幼い子供みたいに」
その言葉に青年の顔色が一気に変わった。
「はぁ?何適当な事言ってんだ。そんなのお前が勝手に言ってるだけだろ。それとも何か、お前は人の心が読めるのかよ?だとしたらお前も魔女じゃねえか」
それまでとは打って変わって早口で一気に捲し立てる青年を母親は呆れた目で見る。それが気にいあらなかったのか、青年はますます顔を歪める。
「それにこんな小さな村で英雄扱いされたからってそれが何になるんだよ。別に大した価値なんてないだろうが。ていうかそもそもこいつらはたまたま運が良かっただけでたいしてすごくもないだろ!」
青年の言葉を黙って聞いていた母親は静かに口を開いた。
「そうやって人を傷つけて馬鹿にするような人間が周りに認められるわけないでしょう。誰かを否定したところであなたが肯定されるわけじゃないんだから」
「っ!」
反射的に青年は言い返そうと口を開くがそれより早く母親がさらに球団を重ねる。
「あなた集会を開いてたそうだけど、村の皆が本当にあなたを支持して集まったと思ってるの?元々村の中に不安が広がっていて、たまたまそこにあなたが滑り込んだ。要するに誰でもよかったのよ、みんなは。あなたじゃいけない理由なんてこれっぽっちもなかった。『村の英雄』である二人とは違ってね」
そうして母親は止めの言葉を放った。
「当然よね。こんな薄っぺらいだけの空っぽな人間に誰もついていこうと思うわけないもの。実際、上手くいかなかったわけだし」
「な、ん……こ、の……!」
青年は顔を真っ赤にして口をパクパクとやるがそれに伴う言葉が出てこないようで、ただただ魚のように開け閉めするだけだ。代わりにその拳を握りこむと母親に猛然と殴りかかった。
「ストップ」
そこで黛がその振り上げた拳を掴んで止めた。
「そこでブチ切れるってことはそれが答えじゃないの?」
「……っ!」
黛の言葉に青年は顔をさらに赤くして睨みつけるが、何も言えずに乱暴に掴まれた腕を振りほどく。一方まったく怯むことなく堂々としていた母親はしっかりと青年を見据えると、
「この子は私のたった一人の子供を助けてくれた立派な魔法使いよ。今更、本当に今更だけどあなたたちが何を言おうがどんな疑いをかけようが必ずアルス・アルマルさんの味方をする。絶対に、ね」
力強い眼差しではっきりと言い切った。
「…………」
青年はもはや口を開くこともなく、三人をひどく睨みつけるとそのまま足早に立ち去ってしまった。
あとに残された三人はなんとなく顔を見合わせる。
「……その、すみませんでした。散々あんなことを言ったのに勝手に味方ヅラして。今更どの口が言うんだ、というか……」
再び母親がアルスに向き直って頭を下げてきた。アルスはそれに慌てて、
「いや、えっと、大丈夫です、別に。というか味方してくれてありがとうございました」
そう言うと、母親はふわりと微笑んで、
「いえ、こちらこそありがとうございます。それじゃあ、道中お気をつけて」
ぺこりとお辞儀をして軽やかに立ち去った。それを二人は黙って見送る。ややあって黛がゆっくりと口を開いた。
「なんていうか、どこまでいっても『魔法使い』というだけで偏見を持ったり時にはそれ以上の酷い奴だっているし、それは多分魔法使いである以上いなくなることはないんだろうけどさ。それだけじゃないよね」
「……うん」
「少なくともアルスの魔法使いとしての人助けがあの母親を変えて、それがあいつを言葉でぶちのめしたんだから。それに集会があった時もアルスの見方をした人が何人もいたらしいし。アルスがやってきたことは無駄なんかじゃないし、それが巡り巡ってあいつらの偏見を上回った結果だよ」
そう言うと黛はアルスの方へとその目を向けて、
「すごいじゃんアルス。アルスはこの村の悪意に魔法使いとして勝ったってことなんだから。大勝利じゃん」
「…………うん」
そう言われて短かく返事したアルスの声は、何故だか少しだけ湿っていた。
「おお、アルス」
村の入口では村長が待っていた。村長は小太りの腹を揺らして近づいて来ると荷物を背負ったアルスを上から下まで見て、うんと頷いた。
「準備は万端のようだな。そこまで遠くないとはいえ最近は何かと物騒なのだし、気をつけて行ってきなさい」
まあアルスなら心配いらないかもしれないが、と村長は笑って付け足した。
「ああ、あとうちのが弁当を用意したから道中にでも食べなさい」
そう言って村長は手にしていた包をアルスに手渡してきた。食料は当然アルスも用意していたが多くて困ることはない。お礼を言って受け取ると、黛に頼んで背負った荷物の中に入れてもらった。
「そういえばエクスの奴は見送りに来とらんのか?
黛が弁当をしまうのを見ていた村長ははたと辺りを見渡してエクスの姿が見当たらないのを尋ねた。
「どうせ寝てるかブラブラしてるか、どっちかじゃないですか」
ふん、と半眼になったアルスが鼻を鳴らす。まったく薄情な弟子だ。
「えー、っと……」
そんなアルスを見て黛が何かを言おうと口を開いたようだったが、少し考えて結局何も言わずに口を閉じてしまった。
「?……なんだよ?」
「いや、別に。何でもない」
そう言うと黛はわざとらしくそっぽを向いてしまった。
何やら怪しげな態度ではあるものの、まあいいかとアルスは前に向き直る。
「じゃあアルス。気をつけて」
「無理はしないようにな」
村の入口で立ち止まった二人にアルスはちょっとだけ振り返って、
「ん、行ってきます」
そう挨拶をしたアルスは都を目指して旅立った。
村を出て少ししてから。
アルスは街道に出るための道を歩いていた。道は整備が行き届いていないのか所々に半ば木のような雑草が生えており、おまけに凸凹してるところまであって歩きにくい。とはいえ日が暮れるまでに宿場町に着かなければいけない。人里の外の夜は危険だ。
そう考えてふんすと気合を入れて歩きにくい道を急ぐ。
そうして歩いていると、道の真ん中に痩せ細った犬が立っているのが見えた。どこかで見た気がするなとアルスが刺激しないようにゆっくり避けて行こうとすると、犬がアルスを睨みつけながら低く唸りだした。
「えっと……お前、もしかしてあの時の……?」
そこで以前に森の中でエクスが蹴り飛ばした犬だと気づいたアルスはおそるおそる声をかけた。犬はそれに答える代わりにバウと一声吠えるとアルスに向かって突進してきた。
「ちょっ!?なんでだよ、今日は何もしてないだろぉ!?」
あくまで『今日は』である。
「しかも蹴ったのはセンパイじゃん!」
石を投げたのはアルスだ。
「ボクに恨みなんかないだろうがよぉ!」
そんなわけはない。
慌てて駆け出したアルスだが、やはり犬と人ではスピードが違う。しかも今回はアルスは荷物を背負っているせいでなおさらスピードが落ちている。
アルスと犬の距離はみるみる縮まっていき、あわやというところで、
「ぅううおおおりゃぁああああ!」
いつぞやのように突然現れた金髪の青年が犬に向かって飛び蹴りを放った。
だが以前と同じだったのはそこまでで、前回と違ってその飛び蹴りを犬はするりと避ける。
「あっ!?」
目標を見失った青年は短かく叫ぶとそのままどしゃりと地面に落ちる。するとすかさず身を翻した犬が地面に倒れた青年に向かって襲いかかった。
「いった!?ちょ、いたたたたた、痛い、痛いって!」
下半身、より正確には尻の部分に噛み付かれた青年は痛みと驚きでのたうち回った。
「この、いいから離れろよ、おい!」
低く唸る犬は青年の尻から離れたものの、そのままズボンに噛み付いて離さない。
「……はぁ」
半ばズボンが脱げかかりながら犬と格闘する青年にアルスはやたら冷たい目になるとため息をつき、荷物の中から『火の杖』を取り出すとそれを犬に向かってかざした。
「きゃぅん!?」
いきなり吹き出した火に犬は驚いてきゃんと鳴くとそのままどこかへ脱兎の如く逃げていった。
「……」
「…………」
あとに残ったのはうっすら血を滲ませた半ケツ状態の青年と冷たい目をしたアルスだけだ。青年は黙って静かにズボンを履き直して身だしなみを整えると何事もなかったように、
「いやー、危ないところでしたね!師匠!」
「お前がな」
ジトリとその半眼をエクスへ向ける。何やら珍しく外套を着込み、大きめの荷物を背負ったエクスはいやいやと首を振る。
「そうはいっても俺が体を張って囮をこなしたからあの犬を追い払えたんですよ?感謝してくださいよ師匠」
「その結果ボクに助けらたんじゃねえか」
エクスの肩の辺りを『火の杖』でポカリとやってやると、
「いった、え……いきなり攻撃するとか頭おかしいわコイツ」
などとブツブツ言い出した。
アルスは溜息をついて一旦背負っていた荷物を下ろすと『火の杖』を仕舞い直した。
「それでこんなところでいったい何してんだよお前は」
「そりゃ師匠を追いかけてきたんですよ」
アルスははてと首を傾げる。気づかぬうちに忘れ物でもしてしまったのだろうか。
いつのまにか回収していた剣を背負い、その上から背負った荷物をよいしょと背負い直したエクスは、
「というわけで俺も連れてってください!」
「よし、帰れ」
アルスの即答にエクスは大げさなくらいわざとらしくショックを受けたような顔を作る。
「そんな!たった一人の愛弟子を見捨てる気ですか!?」
「誰が愛弟子だ!勝手にランクアップしてんじゃねえぞ!」
少し見ない間に悪い意味で予想外の成長を遂げていたらしい。
まったく嬉しくない成長(本人の思い込み)をした弟子をアルスはジロリと見やる。
「そもそもついてくるってお前、旅費はどうすんだよ。村長が一人分しか用意できなかったからボク一人で行くことになったんだろうが」
「それなら大丈夫です。カンパしてもらったんで」
「カンパァ?誰だよ、そんな物好きな奴は」
エクスは何故か大きく胸を張ると、
「黛さんとか村の人たちです。邪神を何とかするための冒険だって言ったら普通に皆快く出してくれたけど」
「ただの詐欺じゃねえか!」
アルスの大冒険(仮)はそれが原因か。
弟子の蛮行を聞いたアルスは頭痛をこらえるようにグリグリと眉間を揉みほぐす。
「本当に……こんなのが英雄なんて世も末だよ、まったく」
「いやいや、英雄だからこそですよ」
どういうことだよ、と胡乱な目を向けるアルスにエクスは威張るように、
「だって信頼は財産だって言うじゃん」
「どこに物理的な財産に替える英雄がいるんだよ!」
少なくともここにいるのは英雄ではないだろう。
どこか遠い目をしたアルスは雲一つない綺麗な空を見上げる。ああ、空が青い。
「あ、そうだ」
一方エクスは急に何かを思い出したような声を上げると、背負っていた荷物を下ろして何やらゴソゴソと探り始めた。
「はいこれ、師匠の分」
そう言うと荷物の中から袋を取り出してアルスに渡してきた。アルスは受け取ったそれをちらりと見ると、
「なにこれ?」
「村の人から師匠へのカンパです」
「ボクを共犯にしようとすんな!」
アルスは受け取ったそれをエクスに突き返そうとするがエクスは受け取ろうとしない。
「いや、違いますよ。それは冒険の話とは関係なく師匠に渡してくれって頼まれたやつだから」
意味深に笑うエクスにアルスは眉を寄せる。どういうことだと袋を開けてみれば中にはいくつかの保存食と別の袋に入ったお金、そしてなにやら手紙が入っていた。
なんだろうと手紙を取り出してみる。よく分からないが、自分に渡してくれと頼まれたのなら読んでも構わないだろう。そう判断して手紙を読んでみると中身は何人かの村人からの手紙だった。
「……これって」
込められていたのは謝罪と感謝。そして、ささやかながら旅路を応援する手紙だった。
「…………」
アルスはしばし黙った後にそれを丁寧に畳み、大事そうに懐にしまいこんだ。まるで取り零したものを拾いなおすことができたように。
その時ヒュウ、と一陣の風が吹いた。
「さて、と!」
なんとなく体が軽くなったアルスは気分を切り替えるように明るくそう言うと、背負っていた荷物を下ろしてズイとエクスの方に押しやった。
「ん」
「いや、『ん』って何ですか。なんかくれるの?」
「んなわけねえだろ。仕方ないから荷物持ちとして連れてってやるよ」
えー……とエクスは不満そうな声を漏らす。
「俺すでに自分の分背負ってんだけど」
「いいから、師匠命令だよ。というかセンパイのデマのせいで変な勘違いされたんだからな」
「いや職権乱用じゃん、それ。立場悪用して弟子苛めてんだけどこの人」
なおも不満そうな顔をしていたものの『師匠命令』と言われてエクスは渋々アルスの荷物を肩にかける。アルスはそれを見て満足そうに一つ頷くと、
「じゃ行こっか、エビセンパイ」
「はい!」
そうして魔法使いとその弟子は二人連れ立って、都を目指して旅立つのだった。
これはあくまで序章。物語の始まり、その前日譚のようなもの。
のちに真の英雄となる青年。その師であるとある魔法使いの少女の始まり。
今はまだ駆け出しの半人前なれど、いずれ世界にその名を轟かせる偉大な魔法使いの旅立ちはここから始まったのだ。
(了)